5日目 こんなの知らない⑥
「俺の好きな人、珠莉なんだ」
彼に好きな人がいるというのは聞いていたけれど、相談を受けたことなどはなく、いつも一方的に私が話を聞いてもらっていただけに、彼の発言は私に言い様のない程の衝撃を与えた。
だが、それを聞いて点と点が繋がったようだった。珠莉に会いに毎日休憩時間に顔を出しに来ていたのが、友達ではなく想い人だったとするなら納得がいく。
「だから、協力しない?」
榎嶋くんが言葉を添えた。その言葉は勧誘を装ってはいたけれど、私に拒否権はないと告げていた。
「いいよ」
「じゃあ、お互い苗字呼びはやめない?」
理由を尋ねると
「苗字呼びってよそよそしくて嫌いなんだよね。まあ、“ハルカ”って名前も女っぽくて嫌いなんだけどね」
彼は笑ってそう言った。
少し考えた末に、“ルカ”と呼ぶことにした。
私は女子に敵視されたくなかったので、苗字からとって“ツバキ”と呼ばれることになった。てっきり“青さん”と呼ばれるかと思っていたので名前っぽくなって一安心。
それ以降は、作戦会議という名のノロケ合戦を二人で繰り広げた。いかに自分の好きな人が優れているのかを言い争った。今まで相談相手がいなかったため、相手をこんなに堂々と褒めることができる機会は滅多になかったので、自分がどれだけ相手のことを好きなのか改めて自覚させられた。




