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万年樹

作者: 高天原

生きるという事、死ぬという事の根幹を大切に表現してみました。

それは、はるか昔からそこに立っていた。

とても高く。

とても大きく。

誰と話すこともなく。

何処に行くこともなく。

暑い日もあった。

寒い日もあった。

それでも静かにたっていた。

ある夜、とてもきれいなつばさを持った鳥がそのたくましい枝に身を寄せた。

珍しい鳥もいるものだと初めて見る鳥を眺めていた。

そうするとその鳥は話しかけてきた。

「やあ元気かい?」

鳥や動物たちが話すのは聞いていたが、

自分たちのような樹の言葉を話す生き物に出会ったのは初めてだった。

木々の会話は、近くにいる子供たちや遠くの兄弟たちにも風を使い、

ゆっくりと時間をかけて会話する。

時には何年もかけて話すときもある。

最近ではそんな会話もほとんど無くなってしまった。

直接話しかけられて驚いていると。その鳥は、

「最近は急に気候が変わったり、大雨や台風などもあって、大変でしょう。」

その質問に少し考えてからこう答えた。

「なに、長く生きているとよくあることさ。

すると鳥はこう聞いてきた。

「今までで一番大変だったことはなに?」

また少し考えてからこう答えた。

「そうさの、昔この近くまで火が襲ってきたことがあっての。兄弟や子供たちがたくさん焼かれてしまった。」

鳥はかなしそうに聞いていた。

「それでも土にかえり、また私たちの力となり、たくさんの子供を産むことができた。」

鳥は少し寂しそうに聞いてきた。

「どうしてそんなに辛いことがあったのに生き続けるの?」

また少し考えてこう答えた。

「なに、生きている者みな一緒じゃよ。虫たちは私の葉や幹を食べ、その虫たちを小さな鳥や動物たちが食べ、みな土にかえっていく。誰もそのことに怒ることも文句を言う事もない。再び命をつなげていくこと当たり前のことで、みんな大きな命の中の一部と知っているんじゃよ。」

その話を聞いて鳥はとても喜びました。

しかし最近はどんどん変わったことが起きていると不思議そうに木は話し始めました。

「昔は夜になると空一面に星がかがやいていたが、最近は太陽が沈まなくなったのか、遠くの方がいつまでも明るくて、星たちがかがやかなくなってきた。また、大きな声で唸りながら飛ぶ鳥が増え、今では夜も昼もさわがしいのう。」

鳥は少し考え込み、とても慎重に話し始めました。

「はるか昔、この世には昼の世界と夜の世界があり、別々の営みがありました。それでもお互いに影響を受けながら、様々な生き物が暮らしていました。」

木は不思議そうに耳を傾けていると、鳥はさらに続けて話しました。

「あなたのお父さんやおじさんたちは、その世界の両方を見守る役目をはたしていました。昼の世界が強くなると、その体を広げ影を作り夜の世界を守り。夜の世界が強くなると、その身を分け与え昼の世界を守ってきました。」

鳥の話はどこか懐かしく、脈々と受け継がれている昔話のように、静かにききいっていました。

「しかし最近では昼と夜の世界を自由に行き来し、空も海も全てを自分のものにしようという生き物がでてきました。その者たちは火と鉄を使い世界を壊し始めました。今ではあなたのお父さんが生まれるずっと前、この世界が出来たばかりの昼と夜が混ざり合った世界になろうとしています。」

鳥の話はとても恐ろしく、そんな生き物に会ったことのない木には、ひどく現実味のないどこか違う世界のことのように聞いていたが、いつまでも暗くならない夜や、空を飛び回るうるさい鳥などが、その生き物の仕業というのであれば、納得のいく話であった。

そうして鳥は最後にこう伝えました。

「あなたはその役目を充分に果たしました。あなたが生まれたときからずっとあなたを見守ってきました。もう間もなくこの島にも火と鉄を使った者達が押し寄せてきます。世界は終わりを迎えています。私たちはあなたを終わりのない幸せな世界へと連れに来ました。」

木は長い間考えてこう答えました。

「わたしの幸せは終わりのない世界にはないでしょう。終わりのないことがどうしても幸せだとおもえないのです。」

鳥は木が話すことにとても驚いていました。それでも木は静かに続けました。

「わたしはずっと一つの命が次の命へとつながっていくのを見てきました。わたしの命もいずれ尽き、そして次に何に生まれ変わるのだろうと想像するだけで、とてもワクワクするのです。

それがどんなに恐ろしい世界あっても、終わりの来ないことの方がよっぽど恐ろしいと思ってしまうのです。」

鳥はそれでも一生懸命これから起こるであろう悲劇を話しました。木は黙って聞いていましたが、鳥もこれ以上話すことがなくなったころ、静かに木は語りかけました。

「もし、どうしてもというのなら。もう少しだけ待ってください。間もなく夜が明けます。」

いつの間にか遠くの空が薄っすらと明るくなっていました。話に夢中になっていた鳥も、夜明けの静けさに息をのんでいました。

何処までも見渡せるその高くて大きい樹は、今まさに世界が生まれる瞬間を見ていた。

太陽の一筋の光がありとあらゆるもの全てに色をつけていく。何一つ同じ色のないそれでいて全てが同じく輝いて見えた。

空は青く、海は碧く、木々は産まれたての緑をこれでもかと主張し、花々は太陽に向かって一斉に咲き誇る。動物たちは寝ぼけ眼をこすりながら、少し遅れて顔を出す。つられて風たちがそれら全てに挨拶して回る。

いつもと変わらぬ景色が、

いつもと変わらぬ毎日が来ることに、

とても愛おしそうにつぶやいた。

「あぁ世界は何てうつくしいのだろう。」

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