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黒の魔導士  作者: ヒカル
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エピローグ

ウォルトはわずかに残った塔のがれきを背もたれにして座り込み、もぐもぐとパンを食べていた。考えてみれば、おとといから何も食べていないので腹ペコだった。


塔が崩れそうになったあと、ウォルトは父、イーモン、ダスティにかわるがわる担がれ、急いで塔を降りきると、ルーニー様たちが信じて待っていてくれた。そして、間一髪地下通路に逃げ込むことができた。


ルーニー様たちは外の敵が塔のなかに入ってこないよう入り口に障壁を張っていたのだが、それも限界にきていたようだ。障壁をといた瞬間、敵がなだれ込んできた。外はもう黒の魔法の影響で地獄と化し、少しでも逃れようと建物のなかに逃げ込んできたのである。

ウォルトたちは敵を振り切り地下通路に逃げ込んだあと、ルーニー様が魔法で入り口を壊して敵の侵入を阻んだ。

しかし、まだ安全ではない。黒の魔法から身を守るためには、ウォルトたちはさらに地下深くへと進んでいかなければならなかった。


着いたさきでは生き残ったブルク城の全員が身を寄せ合っていた。そこにはまだ気絶しているリナを抱えたメアリおばさんもいた。おばさんと目が合ったが、とても申し訳なさそうな顔をしていた。ウォルトはぜんぜん気にしていなかったのだが。


そこは食料や備品を貯蔵してあったところで、地下数十メートルの深さにあった。本来なら地上で起こっていることなど、まったく影響がないはずだが、黒の魔法がピークの時には天井が崩れてくるんじゃないかと心配になるくらい振動した。


みな不安そうに天井を見上げて、パラパラと落ちてくるほこりをかぶりながら一言もしゃべらずに、じっと耐えていた。

どれくらいそうしていただろうか?あとになって考えると二、三時間のはずだか、そのときは何倍も長く感じられた。


ようやく音が止むと、ルーニー様が先頭に動き出し地上を目指した。地上への出口はがれきで埋まっていたが、魔法で慎重にどかしていき、外に出られた時には日は傾き、夕方になっていた。


地上に出た人々は絶句した。ブルク城は跡形もなく消えており、城の基礎部分がわずかに残っているだけだったからだ。敵の姿は一人も見当たらなかった。壊滅したのだ。


全員が生きていることに喜び、城を失うという不甲斐ない結果にうなだれたが、いつまでもそうしているわけにはいかず、ルーニー様が命令をだし地下から残っている食料が運び出された。そして、日が沈む前に野営の準備をしなければならなかった。今夜も冷えるだろう。


ウォルトも手伝いたかったが、さすがに指一本動かすのもつらい状態では何もできそうにないので、おとなしく座ってみんなの働きぶりを眺めていたのだった。そこに父親がパンを持ってきてくれたので、ありがたく受け取り、もぐもぐと食べているのだった。


ウォルトは手に持っていたパンを食べ終わると、手を伸ばし、もう一つ手に取った。今なら何個でも食べられそうだ。


夕陽を背に、女が一人こちらに歩いてきていた。シルエットでわかる、リナだ。

リナはウォルトの前までくると、立ち止まりウォルトを静かに見下ろした。リナはゆげが立ちのぼるカップを手に持っていた。スープだろうか?いいにおいがする。


「となり座っていい?」リナがいった。


ことわる理由がなかった。


「どうぞどうぞ、お座りください」


リナは隣に腰をおろすと、手に持っていたスープを渡してくれた。ウォルトは感心した、たまには気が利くじゃないか。


「傷は大丈夫か?」ウォルトがいった。

「あんたよりは軽症よ」

「それはよかった。おれは立ち上がることすらできない」

「それは性格の問題もあるんじゃないの?あんた面倒くさがりだから」

「そうかもなあ」


いまウォルトは反論する気力さえなかった。


「まさか、おじさんがついてきているなんて思わなかったわ」

「ああ。でもおかげで助かったよ」

「塔にいく直前に、おじさんを安心させてあげようとして話したのは、逆効果だったみたいね。いてもたってもいられなくなったみたい」

「心配性だからな」


そこでリナは目を伏せ、思いつめたように言った。


「母はあんたを見捨てたことを、とても後悔していたわ」

「やっぱりか。ぜんぜん気にしなくていいのに。あの判断は間違っていない」

「いいえ。あの判断は間違っていたわ。軍人として黒の魔導士の生存が最優先されるべきだったのよ」


真面目だなあ、とウォルトは思った。


「結果的に全部うまくいったんだから、いいんじゃないか」

「そういう問題じゃないわ」


リナは顔を伏せたまま難しい顔をして地面を見つめていた。しばらく何を言っても無駄だろうと思ったウォルトは、手に持っていたスープを口にはこんだ。


「うまい!」


ウォルトは思わず口にだした。絶妙な味付けがされたカボチャスープだった。


「そのスープは、あんたと一緒につかまってた食堂のおばちゃんがつくってくれたのよ」リナがいった。

「あのおばちゃん無事だったのか、よかった。助け出して正解だな、このカボチャスープは絶品だ」

「あんたカボチャスープが好きなの?」


リナがウォルトの手にあるスープをのぞきこみながら言った。


「好きだね。おれはスープのなかでは、カボチャスープが一番好きだ」

「ふーん、じゃあ村に戻ったらいくらでも作ってあげるわ」


ウォルトは思わず首をひねった。リナが言うこととは、とても思えなかったからだ。


「どうしたんだ、急に?めずらしい」

「なによ、せっかくあんたの要望をきいてあげてるのに。ていうか、ほかに食べたいものがあるなら言いなさい。今なら聞いてあげるから。どうせ一緒に住むことになるんだし」


リナの最後の言葉に、ウォルトは心底おどろいた。


「一緒に住むってどういうこと?」ウォルトはむせながらいった。


ウォルトのこの反応に、リナは困惑したようにいった。


「あんたまさか、おじさんから聞いてないの?」

「なにを?」

「結婚のことよ」


ウォルトは動揺をかくせなかった。思わず手に持っていたスープを落としそうになる。


「いや聞いていたけど、まさか本当のことだったとは・・・」


ウォルトは挙動不審になり、キョロキョロしたり、鼻をかいたり、身体を揺らしたりした。リナはそれを見て、目を細めながらいった。


「なによ、不満でもあるわけ?」

「いえ、べつにそういうわけでは・・・」

「どうせ私も母さんの跡を継いで、あんたの護衛をしなくちゃならないし、それなら一番近くにいたほうがいいじゃない」

「はい、ごもっともです」


そこでリナはいたずらっぽい目をウォルトに向けていった。


「あたしとの生活は覚悟しときなさい。ビシバシいくわよ。そのズボラな性格をたたきなおしてあげるわ」


ウォルトは夕陽で赤くそまった空を見上げ、リナに怒られ、ののしられ、尻に敷かれる自分の未来の姿を想像した。


うん、わるくない。


そこでウォルトは驚愕の事実に気が付いた。どうやら自分はドMだったらしい。




おわり








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