エルーサーの森 後編
後編です
レイモンドの発言により、この場は何か危険な可能性があるとレイたちは感じた。
「モンスターがこの近くに居るかもってことか・・」
「誰だこの森安全だと言ったやつ」
「学園側だけど、こればっかりは神のみぞを知るっすからね」
「とにもかくにも、この場から離れたほうが良さそうだぞ」
話し合いをしている場合ではないし、今はここを離れたほうが得策だと皆が思った時であった。
「・・・ん?そこに誰かいるのか?」
ふと、なんとなく視線をレイは感じた。
デジャヴのような気もするけどなーんか視線っぽいのがあったような気がするんだよね。
念のために魔法を発動できるように構え、その視線の方向を俺は見た。
他の3人はハクロに前に立ってもらって守ってもらう。
「・・・・バレたのですか」
その視線がした方向から声がした。
見ると、木の陰から誰かが出てくる。
最初、何やら下の方にニョロっと木の根の様なものが出てきてトレントかと思ったが、それはそのモンスターの一部。
切り株の上に椅子を設置したようなものに腰を掛け、葉っぱで作ったかのような服を着た女性が現れた。
でも明らかに人間ではない雰囲気が漂っている。
褐色に近い肌を持ち、長い髪をしてその色は艶がある薄い緑色。ダークエルフかと一瞬思ったけど・・・あれ?そういえばこの世界にその種族いるのかな。
よく見たらアホ毛みたいな葉っぱがぴょこんと頭に生えているな。ピコピコしていてちょっとかわいい。でもその美しさはハクロが清楚なら、こちらはどことなく緩んだ艶めかしさがある。
でも、確実に目の前にいる相手はモンスターのようである。
「ま、まさか!!」
「知っているのかレイモンド!!」
レイモンドが何か知っているようであり、尋ねた。
「ああ、そのモンスターがいる地域は豊富な実りを得られ、伝説級の薬草もその周囲に生えさせることができるという薬草学を極めようとする者ならあってみたいともいえるモンスター・・『ドリアード』の上位種でもあり、極稀に出現するという、別名『豊穣の女神』として知られている『プリンセスドリアード』だ!!」
「・・・『クイーン』とかはいないのかそれ?」
そこがすごい気になるんだけど。そしてそのノリは何だよおい。
「レイ様、図鑑図鑑」
「あ。禁書庫のモンスター図鑑を借りていたんだった」
たまに見たいなと思って、図鑑を一冊借りていたんだよね。
空間収納の魔法を使用し、とりだしたら他3人になんか驚かれた目で見られた。
「うわぁ、その魔法ももう使用できているのかよ・・」
どこか呆れた声でザフォンが言ったけど、とりあえず図鑑を見てみるか。
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「プリンセスドリアード」
極稀にしか出会えないような植物型モンスター。ドリアードの上位種にあたり、このモンスターがいるだけで恵みの大地へと周囲が変化していく。
ただし、生まれるにはかなりの栄養分などが必要となるためその代償として森がまるまる一つ枯れてしまう場合があるため、豊作と飢餓の表裏一体の様な一面をも併せ持つ。
人のような外見をしているのは、ドリアードの男を惑わせて自身の養分にする繁殖期の行動の部分があるのだと推測されるが、データーが少ないために詳細は不明。
貴重な薬草の栽培や、実りの大地を生み出す能力があるので過去にはこのモンスターをめぐっての争い起きてしまったという悲劇もある。
頭のアホ毛の様な葉っぱは、周囲の環境を読み取り、自身の感情を示すモノでもある。
進化すると「クイーンドリアード」となるが、進化条件は未だに不明で、いつの間にかいたという記録がある。
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「も、森一つ枯れる可能性があったのかよ・・・・・」
先ほどの栄養分がないような地面・・・そこはおそらく彼女が生まれる際に栄養を吸い取られてやせたのであろう。
ただ、どういうわけか奇跡的にもその部分だけの栄養で彼女が生まれることができたようである。
というか、ドリアードの方の説明が混じっているけどなんか怖くないか?繁殖期の行動って・・・・。
「そのプリンですドリアードがなぜ隠れていたんだ?」
「プリンセスですよレイ様」
・・・うん、わざとじゃないんだ本当に。
いやちょっと揺れたその姿が一瞬ね、思考に影響したんだよ。
「・・・・・いやなんとなく、不審者が出たら隠れるでしょ」
「思った以上に正論だった」
「どんな返答を求めていたんですか!!」
ハクロにツッコミを入れられたけど、いやもう何も考えていなかった。
「プリンセスドリアードにまさか出会えるとは・・・薬草学を学ぶ者としてはもうここで死んでもいい!!」
「レイモンド落ちつくっすよ!!」
「涙すごっ!!」
もう猛烈に涙をレイモンドが流していた。
何とかなだめたところで、敵意がないのか聞いてみたら・・・
「敵意はない。私としては、ただここにいただけのモンスターである」
「そっか、よかった・・・」
ここで敵意をむき出しにされて襲いかかられていたらそれはそれで不味いからね。
いやもうプリンセスドリアードも能力が高いわけだし、戦闘になりたくはなかった。
「・・・・・・・・」
でもなんかじーっと見てくるんだけど。
「・・・うん、決めた」
と、何か決めたようで近づいてきて・・・俺の目の前にまで来た。
「・・・使い魔にしてください」
「へい?」
木の椅子に座りながらお辞儀をして、プリンセスドリアードがそう言い放った。
・・・まさかの自分から使い魔にしてくださいというパターンが来たよ。
その言葉に、全員驚いた。
「はぁぁぁ!!」
「魔物使いずるいっす!!」
「でも、それはつまり学園でいつでも見られるわけで、薬草学の同好会にとってはいいことなのかもな・・」
それぞれ反応し・・・レイモンド、肯定的だね。
「というか、何でまたいきなり・・・」
いきなりモンスターからそういわれるとは俺も思っていなかったんだけど。
「なんとなくです」
「なんとなく!?」
まさかの適当な感じの理由だよ。
「えっと・・・うん、どう対応すればいいんだこれ」
いやまあ、使い魔が増えるのはいいけどまさかそんな理由で来るとは思わないんですが。
と、ハクロがすたすたと前に出てきてじっとプリンセスドリアードの顔を見た。
「なんとなくで使い魔になれると思いますか?」
何やら微妙に不機嫌そうな顔でそうハクロは言う。
ハクロの方はどうやら使い魔としてのプライド的なもので何かムカついたようである。
とはいってもな、ハクロお前もいつの間にかなっていた奴だっただろ。
そう心の中でツッコミを入れる中、プリンセスドリアードは平然としていた。
「魔物使いに仕えたい・・・それは本能的なものでもありますよ?」
キョトンとした顔で、そう言い放つ。
・・・ああこれもう何を言っても聞かない感じだ。
「いやもう・・・・本当に俺の使い魔になるの?いいの?」
「いいですよ」
あっさりとそうプリンセスドリアードは答える。
まあ、別に今さら増えてもいいけど・・・・・本当に心の底から思っているのかな?
ここで役に立つのが「名前付け」である。もしこれで拒否、もしくは付けた後でもこの手の甲に浮かんでいる文字に変化がなければ使い魔にはならない。
「・・・それじゃあ使い魔にするけど『カトレア』って名前にしようか?」
「『カトレア』・・・いいですね、それではこれからもどうぞよろしくお願いいたします」
そうつぶやくと、ハクロの時と同様にシュピンッツ!!と音がして、俺の左手の甲に文字が追加されていた。
「『使い魔2体目:カトレア』・・・」
カトレアの方を見ると、彼女の手の甲にもハクロと同じく『主:レイ・フォン・アルス』と文字が浮かび上がっていた。
・・・使い魔2体目、まさかの森でのゲット。あっさり過ぎて何か罠があるのか疑いたくなるんですが。
いいの?そんなあっさりでいいの?
カトレアが使い魔に新たに加わった!!
・・・適当そうに見えて、心の中で何を考えているのだろうか。




