エルーサーの森 前編
今回は前編・後編の編成です
本日3話目
森林合宿当日、参加者の人数に合わせて馬車が用意され、参加者全員が馬車に乗り込む。
ここであらかじめくじ引きで班が決められ、60人いるので4人で人グループの計15グループが作られる。
そして、その4人で1台の馬車に乗ってエルーサーの森へと向かうのだけど、俺のグループの場合はハクロがその馬車の横を並走してついてきていた。
馬車で2時間ほどであるが、それでもハクロにとっては余裕のようである。
さてと、俺と一緒になったのは・・・・
まずザフォン。
こいつはまあいい。友達だし、結構知っている友人だからね。
次に来たのは・・・
「始めましてッス!俺っちゼンバンって名前の平民っす!!」
明るい印象を出し、元気な男子ゼンバン。
俺と同じで魔物使いの様で、その使い魔は「アクアスライム」のクアンだそうだ。
ひざの上に載ってプルプルしていてなんか可愛い。
スライムは弱いモンスターと思われがちだが、この世界だと強い者もいるし、しかも通常のスライムでも使い魔になってほしいという人はいる。
それはなぜかというと、スライム独特の弾力性を求める人が多いからである。
その弾力はクッションにも良し、枕にするのも良しと言った具合に多くの場面で役立ち、スライムの種類によっては1匹のスライムだけで文字通りの枕営業でもかなり稼げるそうなのだ。
スライム枕・・・この世界ではかなりの価値があるようであった。
そしてもう一人はこの合宿には真面目な目的で参加しているというレイモンド・フォン・チャンドラー。
「俺は貴族だが4男で当主が継げないからな。薬草学を重点的に学んで医療に関わる役職に就きたいと思っているんだ。今回行くエルーサーの森は珍しい薬草も多いらしく、それで学んでおこうかと思って参加したんだ」
今回参加した男子の大半よりも真面目な理由過ぎて、ちょっと俺たち全員顔が少しひきつったよ。
エルーサーの森に到着して馬車から降りると、森の香りが漂ってきた。
暴君の森とはまた違う香りであり、どことなく心を穏やかにさせるようなそんな感じである。
この合宿はテントを張るのでまずは合宿担当の先生から説明を聞き、それぞれの班でテントを組み立てようとしたのだけれども・・・・
「よっと、これで完成ですよ」
「ハクロがいたおかげでかなり楽にテントができたな」
「糸に関係するモノならかなり楽ですからね!」
ハクロがエッヘンと誇らしげに胸を張った。
その拍子にプルンと揺れたものに対して、周囲の男子の目線が集まったが気にしていない様子。
いや、気にしているのかすぐに腰を曲げて隠すかのようで手で覆ったな。
ちなみに、寝る際の布団代わりとしてゼンバンが自身のスライムを物凄く薄く広げて敷くらしい。
薄くてもそれなりにポヨンとした寝心地があるのだとか。
何それスライム超優秀じゃん。ハクロ以外に使い魔ができるとすれば、次はスライムが来てほしいかもしれない。
・・・まあ、ハクロの蜘蛛の部分の背中も硬そうに見えて実はかなり柔らかいんだよね。
それはそれで寝心地が良いというべきなのだろうか。
テント設営後は、暗くなるまで各自は自由に森の中を探索できるようである。
ただし、一応班にまとまってなのだが・・・
「いやっほぉぉぉぉぃ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!」
「これはこれでいいっすね!!」
「お、あんなところに薬草発見」
レイたちはそれぞれまとまって移動していた。
森の中と言うこともあり、ハクロが木の枝に次々に糸を飛ばしてぐるぐるっと蜘蛛の部分に俺たちは縛り付けられてターザンのように適当に移動中。
ツタではなく糸だけど、見た目が星からそこそこハラハラできるのだ。
ザフォンは楽しんでいるのかビビっているのかわかりにくい。
ゼンバンは素で楽しんでいる。
レイモンドは移動の最中に薬草を素早く見つけて、それぞれ楽しんでいる模様。
「よっとっとと」
ある程度進んだところで糸を切り離し、俺達は森の奥の方に着陸した。
「森の中ってやっぱいいですね!!」
「ハクロすごいキラキラしているな」
「おぅふ・・・面白いけど、ちょっと酔ったかもしれん・・・」
「大丈夫っすか?結構楽しかったんっすけどね」
「この辺に来ると薬草も珍しいものがあるな・・・」
奥の方にまで進んできたけど、迷子にはならないだろう。
なぜなら、木の枝を見れば糸の後があるし、いざとなれば木のてっぺんまでハクロに登ってもらって確認してもらえばいいからね。
ちなみに、この森の奥まで来た理由としては他の班の男子たちが何やら誘おうとする目線で見ていたけど、なんか面白くなかったから勢いに乗って来ただけでもある。
「しかし、この森は森でなんかこう、あふれるような感じがありますね」
「あふれるような?」
「ええ、なんかモンスターにとっても心地よいような雰囲気なんですよ」
すぅっと深呼吸をするかのようにをハクロは深く息を吸い込む。
モンスターであるハクロには何か感じるのだろうか?ゼンバンの使い魔であるクアンもスライムのその体を震わせて似たような感じになっている。
「まあ、結構居心地がいいということはなんとなくわかるかな」
穏やかと言うか、澄んだ感覚がある。
ザフォンたちも納得できるようでうなずいていた。
「・・・・ん?」
と、レイモンドが地面を見ていて何かに気が付いたのか首を傾げた。
「どうしたんだレイモンド?」
「いや、このあたりの地面がおかしいなと思ってな」
レイモンドが指さした先にあるのはどう見てもただの地面ですが・・・・・。
「あっちの方の物と比べると、栄養が著しく少ない感じがするんだ」
別の方に指さした方角を見て、やや納得した。
生えている植物だが、向こう側は普通にピーンと新鮮なように見えて、おかしい方は・・・植物が少し枯れている。
「何かがここで急激に成長したせいなのかもしれないな」
「何かって?」
「・・・植物型モンスターの可能性があるんだよ」
薬草に関して詳しいレイモンド曰く、薬草の中には植物型モンスターから採取できるものがあるので一応学んでいるらしい。
で、その植物型モンスターって大抵はおとなしいものが多いんだけれども・・・
「まずいものだと『トレント』、『ウッドウルフ』、『ポイズンウェール』とかがいるんだよな」
「凶暴性があり、なおかつ人を襲うタイプか」
「その通り」
その系統のモンスターは遠くの方に種子を飛ばし、そこで発芽して増殖していくようだ。
「そして、その系統のモンスターは急激に成長し、そのため栄養が無くなる土地があるのだとか・・・・」
その言葉を聞き、俺達は黙り込んだ。
目の前にその土地があるということは・・・・・その可能性がある。
「一応楽観的にかつ幸運なタイプだと『ドリアード』、『ウッドゴーレム』というのもいるが・・・・その可能性は0.1%以下だ」
レイモンドのその言葉で一旦空気は持ち直したように見えたが、すぐに落ち込んだ。
どう考えても、そんな幸運に巡り合える可能性がなさすぎる。
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その様子を隠れて見ている者がいた。
もともとその場にいたのだが、ふと何かの気配を感じて彼女は隠れたのである。
・・・その場にいる自身とは違う者たちを見てなんとなく隠れてみたはいいものの、何か深刻な雰囲気になっているように見て取れた。
どういえばいいのだろうかと、まだ生まれて数日ほどしかないが、そのモンスターはとりあえず観察を決め込むことにしたのであっ・・・
「・・・ん?そこに誰かいるのか」
「!?」
ふとその場にいた者たちの一人が、彼女に気が付いた。
気配は消して同化しているつもりだったのだが、何やらバレたらしい。
このまま知らぬ存ぜぬを決め込むこともできたかもしれないが、いざとなっても大丈夫そうに見えたので腹をくくって彼らの目の前に彼女は姿を現すことにしたのであった・・・・。
のんびりとした感じに書こうかと思ったけど、何かが違うような気がする。




