八話 ギルドマスター
目の前のフィールド上に、マントを羽織って大きな鎧を着こんだ騎士のモンスターが召喚され、体から光が放たれていた。タブレットの情報よりも見ているだけで圧倒され足が震えていて昨日、城でバトルしたアデスのダークナイトよりも強いことは確かだった。
〇レイガーディアン LV70
ランク☆7
属性(光)
「装備」光の槍(光属性の攻撃力大アップ)
「さぁ、どうした? 私との戦いはやめておくか?」
「いいや、やるさ」
震える手でオレはサファイヤを召喚し、フィールドに翼を生やした蒼い瞳の天使が姿を表し光の騎士と対峙する。
〇サファイヤエンジェル LV100
ランク☆7
属性(光)
周りから天使だの、声がしたがそれらを無視し、オレはガーディアンと召喚主である女性を見る。そして、女性はオレ達を見て微笑み「いくぞ」と口にして杖を掲げた。
〇レイガーディアン Lv70
スキル「光輪」
(光属性による攻撃。数ターン敵の動きを封じる)
ガーディアンの頭上に光の円が出て、サファイヤに向って来た。サファイヤはその場から動かず、スキル「光の裁き」を発動し攻撃の光が光輪を破壊し、ガーディアンに向かう。
〇レイガーディアン Lv70
スキル「天の守り」
(天の守護により、ダメージを防ぐ)
ガーディアンは身にまとっていたマントで身を包みサファイヤの放った光の裁きを防ぐ。同じ光属性同士で、たとえ直撃してもお互いに大したダメージにはならない。どのカードを使いサファイヤの能力を上げ、レイガーディアンにダメージを与えるか考えていると先に相手が剣で攻撃しサファイヤが杖で防ぐ。
スキルで攻撃してもおそらく勝負が長引くと判断したのか、レイガーディアンは剣で攻撃を続け、防御と回避をするサファイヤにダメージを与えていく。
とんでもなく強いモンスターと、自分のモンスターが現実で目の前でぶつかっている。 今、俺の頭の中では どのカードを使う? 相手のスキルやアビリティは何なのかなど思考が走って手の震えが止まらない。
「これだ…これだ…」
正直言ってこのバトルは昨日のアデスとの戦い以上に楽しい!!
そして、まだ戦いは始まったばかりだ!!
「行くぞ!! サファイヤ!!」
「さぁ!! 来るいい!! 」
女性が叫び、オレはタブレットを操作し、サファイヤのスキルを発動させようと指を動かした時ーー
「「そこまでだ!!」
突然、誰かの声が響き。声のした方を向くと野次馬達の後ろから見覚えのある姿があった。
青い鎧を着込み、腰に魔石入りの細剣を携えた見覚えのある女性。昨日、湖で握手をしたクレアが真剣な眼差しをオレ達に向けて近づいてくる。
「ルィン、あなた一体何をしているの? ギルドマスターが本気になって、どれだけ騒ぎになっていると思っているの?」
「クレア、そう言うな。せっかくのところなんだ。邪魔を「書類は片付いたのですか?」それは、後に…」
クレアが睨み、女性はため息をつくと渋々杖を掲げガーディアンの姿が消えた。え、何? とオレが困っているとクレアがオレにサファイヤを送還するように言ってくる。
…どうやらバトルは中断らしく残念に思いながらオレも渋々とファイヤを送還すると、女性がクレアになおもく下がっていた。
「仕方ないだろ、そいつは昨日城でアデスの小僧と遊んでいた者だったからな」
「って、また昨日城に行ってたんですか、ちゃんと私とリンの報告書は見たのですか? だいたい、
ギルドマスターたるものが…」
「話はあとだ…さて昨日クレア達から聞いた報告ではさっきの二体の魔物だけでなくほかに珍しい魔物を
連れていると聞いたが?」
クレアからの小言から逃げるようにオレに話を振ってきて「よければ見せてくれ」と急に顔を近づけてくる。彼女からはさっきまでの威圧はなく、興味深々の目でオレ見ながら肩をがっしりとつかんでくる。
どうしたものかと、クレアに顔を向けるが「お願い」とだけ言い明後日の方向を見る。なんだか、クレアの様子を見ていると苦労してそうだなっと思いつつ、フレアとレッドを召喚した。
「おおぉ!! 火竜と一角獣か!! しかし、この火竜はよく育てられているな!! それと、この一角獣は水、いや火属性の魔物か!! しかも蒼炎とは…」
フィールドに召喚したオレのモンスター達を見て、興奮するルィン。さっきまでバトルをした時に見せた威圧とか見えない彼女を見て少し笑ってしまった。
「す、すごい…」
と、周りのフレアたちを見ている人間に交じっているリアが見えた。戦いのことですっかり忘れていたと思いながらリアに近づく。
「あ、あの…あのドラゴンたちも強いのですか?」
「ん? あぁ、強いよ。まぁ、他にもいるけどね」
最後のところだけ小さくつぶやく。今召喚している二体はオレの持つモンスター達の中で最強だが他にも切り札はあるが言う必要はないだろう。と、リアが目を輝かせてフレアたちを見ているのに気づき
触ってみるか? と聞くと、首を強く縦に振り一緒にフレアとレッドに近づく。
始めは不安でなかなか触れられなかったが、一度触れてみてフレアたちが嫌がるそぶりも見せずに黙っていたため、リアの顔に笑みが見えた。
「もうそのへんでいいでしょウィン!! 」
と、クレアがウィンの首根っこを引っ張りギルドの建物に入ってくる。オレもクレアにリアと共についてくるよう言われ、触りたがっている周りの視線を無視しリアに一声かけて二体を送還しリアと共に後をついていく。
建物の中に入ると、ゲームでもあったエレベーターに乗り最上階まで登り、ウィン達と共に大きな机がある執務室らしい部屋に入る。
「さて、改めてだが….私が、ここ「アルター」のギルドマスター ウィンだ先ほどの戦いなかなか楽しめたぞ、なんなら近いうちに…「マスター!!」」
クレアが大声で話しを遮り、ウィンを黙らせる。クレアの声に驚いたのかアーリがオレの腕にしがみつく。
「えと、大変そうだな」
「えぇ、そうね…仕事せず強い召喚士を見つけるとすぐに戦おうとする誰かさんのせいでね」
隣にいるウィンをにらむクレア。ウィンは知らぬ顔で視線をそらしオレとリアは苦笑いを浮かべる。けど、さっきのバトルは本当に楽しかったし、もし続けていたらオレが負けてたかもだな。と考えていると
あぁ、再戦したい と口に出そうになる。
と、部屋に受付で見た女性が入りクレアが何かを受け取りオレの前に立つ。
「それじゃ、いろいろばたばたしたけど…今日からあなたは私たちの仲間よ」
クレアから渡された一枚の固い紙で作られたカードを見て、ゲーム中で何度か見たことのあるギルド証だと気づく。
「ギルド証があればいつでもロスクリスだけでなく他の国でもクエストを受けれるし、身分証にもなっているから入国もできる。ギルドランクは最大で7までで自分のランクによって受けれるクエストが限られるけど、今のあなたのランクは…」
「あ、星が5…」
隣でカードを見ているアーリがつぶやき、☆の数が5あった。え? なんで5? 普通はじめから入ったなら1とかじゃないの? と疑問に思っているとウィンが答える。
「そりゃそうだ。姫を助けただけでなく魔物に襲撃された村を救い、しかもアデスの小僧を叩きのめした、さらにギルドマスターである私と互角…当然だろ?」
そういえば、推薦状を出していたなと今更思いだす。さらにクレアから「まぁ、本当は推薦状だけで4だったんだけど、ウィンが無理やりね?」と、苦笑いされながら言われた。
ギルドマスターの権限か知らないけどランクって簡単に上げていいものか? それとさっきから隣にいるアーリが「す、すごい…」とつぶやいて何故か目を輝かせてオレを見上げて気まずい。
「と、以上で登録やらは終わりで、さっそく戦いのつづきを…「まだ仕事があります」 ちっ」
ウィンが再戦を告げるが、クレアに遮られ舌打ちが聞こえた。なんだろ、この人唯我独尊ってか、自由気ままだなっと感じつつ、クレアの話を聞く。
「リョウはもう少し私といてそれと、あなた…リアって言ったわね? さっきのごたごたでギルド登録済んでないでしょ? 受付にはすでに伝えているからギルド証をもらってきなさい、それと魔物はもっているかしら?」
クレアの質問にリアが少し間を空けてから答える。魔石はもっているのだが、まだ魔物は手に入れていないとのことだった。一応、モンスターはギルドで支給されるのだがリアはできれば自分の魔石で捕まえたいとのことで、あとからオレと一緒に捕まえに行こうと話がまとまる。
「あの、リョウさん!! またあとで、よろしくお願いします!!」
一礼し部屋から出ていくリア。どんなモンスターにするか、楽しみでどうせなら装備とかアイテムを何かあげようかと考えていると、クレアが部屋の奥から小さく綺麗な水晶をオレに渡してきた。
「えと、これは?」
「魔力を測定するのに使われる水晶よ。それに魔力を込めるだけでいいから」
あぁ、確かこれってネットの小説とかである魔力を図るイベントか~~でも、オレ転生とかしてないし、魔力はゲームで育てたプレイヤーのステータスで確か一万だ。オレより強いプレイヤーの魔力は二万から四万ぐらいあるし、ウィンだって強いから別に大丈夫だろと思い、魔力を込めると水晶の中に大きな光が灯る。
「..思ったとうり、結構魔力があるのね」
「そうか? オレ以上に強いやつだっているよ、あとは何すればいい?」
「いいえ、特にないわ。後、リアのことをよろしくね」
水晶の光を見て特に変わった様子のない二人を見て「わかった」と返事をして、オレは部屋を出たーー
〇
部屋を出たリョウを見て、先ほどから黙っていたウィンが水晶を眺める。
「さて、これだけ魔力があるならあれだけの魔物を従わせている理由は分かったが…」
「ウィン、待ってリョウは…」
クレアが何かを言おうとするが、ウィンが「落ち着け」と短く言い、水晶を手にとる。すると水晶の裏側の光が一部黒くなっていた。
「何、お前が信頼したんだ。それに私も奴を気に入っているし、このことはお前と私だけにしておく」
「そう…」
水晶の中にある光の黒い魔力を見て、二人は息をのんだーー