四話 火の獣
茶髪の女性が持つ弓についた魔石から人の形をした緑色のモンスターが召喚され見えない風の刃が俺に向ってくるが、フレアが作り出した蒼炎の壁により風の刃を防いでくれた。
オレはタブレットを見て、女性の隣に召喚されたモンスターの情報を確認すると
「風の精霊」LV50
ランク☆5
属性(風)
装備「風精霊の剣」
「やっぱり精霊型のモンスターだったか…」
女性が召喚した精霊モンスターを見てつぶやいた。精霊系のモンスターは通常では手に入らないレアなモンスターで、ランクも高くて使えるスキルやアビリィティも豊富なためイベントや特別なクエストでないと仲間にできない。
「何なのその魔物は!? それに、ドラゴンまで!?」
弓を構える女性と戦闘態勢に入る風の精霊。オレは弓を構える女性にどう訳を話したらいいのか悩んでいると、傍にいるレッドドラゴンであるレッドとフレアが前に出ていつでも戦えるように構えた。
「ちょっと待て!! お前ら落ち着け!!」
レベル的にはこっちが有利なのだが、訳の分から無いまま戦うわけにはいかないし、しかも女性と風の精霊はオレの言葉を聞く様子もない。どうすればいいんだよ…
「やめなさい、リン」
オレが頭を悩ましていたら、森の中から誰かが出てきた。腰まで伸びた金髪に、蒼い鎧を着てオレより年上の感じの女性と、傍には風の精霊に似た水色の精霊を連れていた。
金髪の女性はリンと呼ばれた、風の精霊を召喚した女性に近づき何かを話している。その隙にオレは水色の精霊モンスターの情報を見る。
「水の精霊」LV50
ランク☆5
属性(水)
装備「水霊の杖」
「何をやっているのよ、あなたは?」
「クレアなんで止めるのよ!? あそこに姫様が!!」
姫様? 茶色髪の女性が指差したのは、ハクから降り戸惑っているアリルだった。一方で金髪の女性はため息を吐き出す。
「だから落ち着きなさい!! ...姫様、怪我はございませんか?」
「あ、はい。大丈夫…その、クレア…」
「それで、あそこにいる方は…」
金髪の女性の質問にアリルが身振りをしながら必死に答え、話しを聞き終えると金髪の女性はさらにもう一度ため息をつき。真剣な表情でオレの方を向いて口を開く。
「リンが勝手な事をしてごめんなさい。姫様を助けてくれた事、感謝するわ」
頭を下げ、彼女は腰に携えている細剣の柄にある青色の魔石に触れると水の精霊が姿を消す。どうやらモンスターを送還したようだ。
「私の名前はクレア。で、こっちはリンよ。申し訳ないけど、詳しい話が聞きたいからあなたも魔物をしまってくれるかしら? ほら、リンも精霊を戻しなさい」
どうやら戦わなくてよさそうだった。クレアに言われフレアとレッドを送還し、リンは渋々と言った感じで風の精霊を送還する。
お互いにモンスターを送還してから、傍にあった大岩を椅子変わりにして昨日の出来事とさっきのゴーレムとの戦闘の箏を話す。
「鳥の魔物とゴーレムに襲われて助けられたのですか…」
クレアは真剣にオレ達の話しを聞き、リンは未だにオレを警戒してずっとオレを睨む。
「…姫様」
クレアがそうつぶやき、アリルが背筋を正し傍にいたハクも威圧を放つクレアに怯える。
「もう少し、ご自身の立場をお考えくださいと、私を含め城の者はいつも、いつも言ってましたよね?」
「うっ、そ、それは…」
「それに、國の外まで。しかも、こんな魔物がでるところまで来られて、城やギルドでは今大騒ぎになっているところなのですよ? あなた、一人の勝手のためにどれだけの人が迷惑したと思っているのですか?」
口調が厳しくなるクレアの言葉に、アリルの目から涙が浮かぶ。このお説教の空気にリンは目を反らしてまるで耳を塞ぎたがっている様子で、なんだか見てられなくなり気が付けばオレは今にも泣き出しそうなアリルとクレアの間に立つ、
「あのさ、もうそこまででいいんじゃない?」
「リ、リョウさん?」
アリルを背にし、説教を途中で中断されたクレアが眉をひそめオレを見る。
「な、何を言っているの。あなたには姫様を助けてくれた事には感謝はしているけど、これは國に関わる問題で…」
「あんまりいろいろ言うと、後で面倒になるからさ。それに、ここにいたら、またモンスター…じゃなかった。魔物に襲われるかもしれないから、まずはここから離れようぜ?」
オレの提案にクレアは口を閉ざし考える素振りを見せる。そして、一度ため息をつきオレの背に隠れているアリルを見る。
「分かったわ。まずは城に行って姫様の無事を報告しましょう。姫様、話しの続きは城に戻ってからにします」
真剣な表情から、優しい笑を浮かべるクレアに、アリルも安心したように頷いた。まるで粗相をした妹を叱る姉のようで、どうやらクレアはアリルの事をまるで妹のように大切にしているらしい。
アリル達三人は今いる草原からここから離れた「ロスクリス王国」に行くと話しているがオレはどうしたらいいのか、と考えているとクレアから一緒についてきて欲しいと言われた。リンの方は反対しているが、どうやらアリルが襲われた時の事を報告したいとの事で、さらにアリル自身もオレに来て欲しいと言ってくる。
オレとしては、右も左も分からないこの世界で一人になるのは不安と言う事で、彼女達と共に行く事に決め、まずはここから近い村に行く事になったのだが、その前に
「つかさ、一つ聞いていい? アリルが姫様ってどういう事?」
オレの質問を聞き、目の前にいる三人がまるで信じられないと言ったような表情をしてオレを見るのであったーー
〇
「…なんだ、あいつの魔物は…」
リョウ達のいる草原から離れた丘で、黄色の髪の少年が目を細めリョウ達を見ていた。
少年は、フードの人物から渡されたゴーレムの壊れた召喚具をその場に捨て後ろにいる巨大な何かに向って話しかける。
「単なる暇つぶしだと思っていたが…あいつなら少しは楽しめそうだな?」
大きな翼を持った、レッドドラゴンに似た青いドラゴンは何も反応せず。少年は、移動するリョウ達の後ろ姿を眺めるのであったーー
〇
「ベッドだ…」
ベッドに横になり窓の外を見れば既に日が落ち暗くなろうとしていた。タブレットを覗けばそろそろ夕方の六時になろうとしている。ゴーレムに襲われた草原からアリル達と移動し目的地にあるロスクリス王国まではまだ距離があるとの事で今日はこの村で泊まる事になった。ちなみに、レッドドラゴンことレッドに乗って行こうと提案したら目立つからと却下された。
村につくまでオレは三人といろんな事を話した。まずは、目的地であるロスクリス王国にあるギルドにいく事。クレアとリンはギルドの人間だと言う事で報告する必要がありそして、もう一つは
「まさか、アリルが姫様だったとは…」
そう。今隣の部屋でクレア達といるアリルはロスクリスの姫様だったらしく、しかも時折ハクと共に城を抜け出してはどこかに行ってしまう癖があり、今回は遠くに行き過ぎたところをクロウ達に襲われてしまい森に落ちたところでオレに助けられた。
アリル曰く、あんなところにいても窮屈でしかも兄が怖い との事だった。オレは一人っ子だから兄妹の仲とかは余り知らんが…
一度大きくあくびをして、オレは机に置いてある布を持ち入浴場のある宿の庭まで足を運ぶ。
「って、湯じゃなくて水かよ…」
仕切りがある庭にはまだ誰もおらずオレ一人だけだった。ここには男女に分かれた湯浴み場があるのだが、浴槽はなく代わり冷たい水が溜まっている大樽がある。確か宿の主によると桶で水をすくい体にかけて体を綺麗にすると言っていた。このまま冷たい水をかぶれば風をひきそうなので、オレはタブレットからフレアを召喚した。
次にアイテムから大きめタライを取り出し、桶を使いタライに水を貯めていく。ちなみに、このタライは面白アイテムの一つでよくネットでネタになっているアイテムで一応モンスターに装備可能だが、ステータスは上がらないし使えない物だったのだが、イベントでいくつか手に入れてしまいアイテム欄の端に置いていたのを思い出した。
「まさか、こんな風に使う時が来るとは…」
水を貯めたタライを見て人生何があってもおかしくないな と思いながら、フレアにタライの水を温めてもらいすぐにお湯ができた。オレは脱衣所に戻り、衣類を脱いで布とタブレットだけを持ち湯浴み場に戻り、フレアが温めてくれたタライの湯を体にかける。
「気持い…」
久ぶりの風呂で心地よくなりつつ、濡らした布で体を拭き今度はフレアの体を拭いてあげると気持ちよさそうに目を細める。お湯の溜まったタライに半身浴で入る。と、ここで、ある事を思い出しタブレットを手にして、白うさぎことマロを召喚しマロを両手で支えながらタライ風呂に入れる。
「どうだ? 気持いか?」
「きゅい」
タライ風呂に肩までつかり脱力しているマロを見て、頭やお腹などを撫でる。ふと、夜空を見上げると星が輝いてやっぱりここは日本じゃないんだな と思っていると脱衣場から声が聞こえある人物が入ってきて目が合う。
「あっ!?」
布と召喚具でもある弓を持ち顔を赤くしたリンが叫ぶ。その後ろからさらに見覚えのある人物が、二人も入ってきた。
「どうしたのリン…っ!! てっ、あなた!?」
「あ、リョウさん!!」
同じく、アリルと細剣を持ったクレアの二人が入ってオレを見るなり声を上げる。そして、リンがオレの体と、手の中にいるマロを注意深く見て「…お、女だったの? それに、その白いの…可愛い」とつぶやいているのが聞こえた。
てか、アリルはちゃんと説明してなかったのか? オレが女ってことは。
なんだか騒がしくなりそうだと思い、マロを抱いたままタライから出ようとするがいつの間にか近づいてきたリンに肩を強く掴まれてしまう。
「え? な、なに…?」
「か、かわいい…」
オレの腕の中にいるマロに向け手を伸ばし触ろうとするが、リンの手から逃れようとマロがジタバタと動きオレの腕から離れ物陰に隠れてしまった。
「あぁ…もふもふが、ふさふさが…」と、手を動かしながら涙目になるリンを見て、クレアがため息をつき、アリルが苦笑いをしていた。
「ごめんなさい、彼女昔から可愛い物を見ると、あぁなるのよ」
「あぁ、なるほど…」
クレアが説明してくれて納得していると。アリルが、オレが入っていたフレアが温めてくれたお湯入のタライに手を入れていた。
オレはまたタブレットから三人分のタライを取り出し、同じように水を貯めフレアに温めてもらい四人でタライ風呂に入る。てか、オレ何時こんなにタライ手に入れてたんだっけ?
「うぁ…あったかい…」
お湯につかり機持ち良さそうにする三人を見て、オレもタライに入り直しマロが再びオレと共に湯につかる。オレ達を見てリンががっくりと肩を落としているのが見えたが声はかけないでおこう。
「そういえば」
ん? クレアに声をかけられ顔を向ける。
「改めてお礼を言うわね。姫様を助けてくれて本当にありがとうリョウ」
そう言って深々と頭を下げるクレア。それを見て、オレは慌てて頭を上げるよう言い、どこかむずかゆくなる。だいたい、礼を言いたいのはオレほうで、昨日この世界にきたばかりのオレを信用してくれたクレアは頼りになるな と思い視線をそらしてしまう。
「最近、王国の領地内で不穏な動きがあるって聞いてたから。姫様を保護できた事、本当に感謝してるわ。ところで、リョウはどこから来たの? 姫様から、あなたはギルドには入ってないって…それに、東から来たって聞いたのだけど…」
「え? ひ、東って…まさか、未大陸から来たって事!?」
クレアの未大陸の単語を聞き、さっきまで落ち込んでいたリンが急に顔を上げオレを見る。え? これ、どういう事?
「あの、未大陸って何?」
と、オレが質問すると。また、昼間みたいな「お前、そんな事もしらないのかよ」って空気になり、思わず湯に浸かるマロと、傍にいてくれているフレアに助けてほしいと無駄だと分かっていても視線を送ってしまう。と、クレアが咳払いをし、オレを見て話し始める。
未大陸と言うのは、海を超えた東の大陸の事であり。そこでは、かつて魔物達の祖先である魔族と呼ばれる種族が住み危険とされている場所で、しかもその大陸にいるモンスターはどれも強く見たこともないモンスターが多数存在しており、ギルドや国からの特別な許可がある者しか行く事ができないとされているとの事。
確かにゲーム内のステージでは未大陸とかそういう秘境の地は確かにあるが、そういったところは上位プレイヤーがほとんどクリアしていて攻略やマップの情報だってネットで簡単に手に入る。オレもいくつかクリアしてきたけど魔族なんてモンスターは知らないぞ? これも、メールにあったゲームとは違うところって奴か…
そもそも、あのメールの主と言い一体誰が、何の目的でオレをこの世界に連れてきたのかが分から無い。もし、その魔族とかから世界を救いたいのであればオレ以上にレベルもランクも高いモンスターを育てた強い奴を連れて行けばいいのに。なんで、オレなんだ?
「リョウさん?」
「ん!? あぁ、すまん…考えごとしてた…」
アリルの声で我に帰り、三人の異世界の女性達が何故か真剣な目でオレを見つめていた。
流石に、知らない内に異世界からきました と言っても信用してもらえるか怪しいし、どうにかごまかせないかと考えていると
ドォォン!!
「きゃぁぁぁ!!」
「逃げろ!! 魔物が襲って来たぞ!!」
な、なんだ!? 外から爆発と、悲鳴が聞こえオレ達は急いで服を着て宿の外に出ると、村のあちこちで火事が起こり、さらに村には森にいたフォレストウルフや猿のようなモンスターがあちこちで暴れ回り村人達は悲鳴をあげながら逃げ回っていた。
〇ビーモンキー LV30
ランク☆1
属性(土)
「魔物達が暴れている…リン、姫様を安全なところへ」
オレがマロを送還している間、リンが先にアリルを退避させる。クレアは、悲鳴やモンスターのうなり声がしているこの状況でも落ち着いた様子で辺りを見渡し、腰の細剣を取り出し、剣の柄に埋め込まれている魔石から、彼女の精霊モンスターが召喚された。
「とにかく、今は村人の避難が先よ。リョウ、あなたもお願いできる?」
「っ!? あ、はい」
呆然としていて思わず裏返った声で返事をし、クレアの言う通りに村人を村の外に避難するよう声をかける。そんな中、逃げ遅れてモンスターに襲われている人もおり、フォレストウルフに今にも噛み付かれそうになったところをフレアが攻撃し、襲われていた人を何とか助ける事ができた。
「立てるか? 早く村の外へ!!」
「あ、ありがとう…」
その後も、モンスターを見つけてはフレアがほとんど一撃で倒して粒子となって消えていき、燃え盛る家々の前を走り周り既に十体以上のモンスターを倒しているが数が減る気配がない。
「なんでこんなことに….」
「分から無いわ…けど、いきなり森にいた魔物が襲ってくるなんて、不自然過ぎる…」
水の精霊に指示をし、燃えている建物を次次と鎮火させていたクレアがオレの隣でつぶやいた。
「今はとにかく村人の避難を優先…!? っリョウ!?」
「クレアさん?」
クレアが叫び、後ろを振り向くと二体の猿に似たモンスター「ビーモンキー」がオレに爪をたて襲いかかってきて思わず足が動かず避ける事ができなかったが、フレアがすぐに蒼炎の息を吐きだし、もう一体のビーモンキーをクレアの水の精霊が水の弾を高速で発射し命中するとビーモンキーが倒れる。
「ご、ごめん…」
突然の不意打ちに動けなかった事にフレア達に謝る。
「無事で良かったわ…避難は大体すんだみたいだし、私達も逃げましょう」
「あ、あぁ…」
クレアに声をかけられ、オレも慌てて後を追うとしたが、突然、大きな獣の声が聞こえたと思えば地響きが起こり傍で燃えていた大木が倒れてオレとクレアが分断されてしまった。
「クレアさん!!」
「待ってて、今火を消すから…くっ!! 後ろから!!」
向こう側が見えないが、剣のぶつかる音が聞こえ恐らく向こうでモンスターに襲われているようだった。どうにかしてここから出ないと と思い、オレが後ろを振り向くと遠くの方にある公園らしき広場にて人影らしき物が見えた。
「まさか、まだ逃げ遅れた人が!?」
フレアと共に急いで広場に近づくと広場のあちこちで火の手が回る中、黄色い髪をしたオレと同じぐらいの少年が平然と立っており。少年は黙ってオレとフレアを見て
「へぇ、確かに見た事のない魔物だな…」
と言いながらオレ達を観察するかのように見る。こんな時に何を言ってるんだ? と思いながら、早くここから逃げるよう伝えるが少年はオレの言葉に返事をせず黒い外套から赤い魔石が埋め込まれたペンダントを取り出す。
「強そうでもないくせに、ゴーレムを倒されたのは予想外だったな」
「なっ!? どうしてそれを!? っ!!」
少年の言葉にオレが驚いていると、またどこかで地響きが起こり辺りを見渡していると気づけば少年の姿がなかった。だが、後ろに気配を感じて振り向くと巨大な何かがオレ達に向って歩いて来ているのが見えてタブレットを見る。
〇フレイム・ミノタウロス LV50
ランク☆3
属性(火)
「装備」鉄の大斧
巨大な斧を手に持ち人間のように二足歩行でこっちに向ってくる牛のモンスターである
フレイム・ミノタウロスは、オレ達を見るなりいきなり大きく息を吸い込み始め。それがなんなのかすぐに気づき、オレは蒼炎の壁を作るフレアの後ろに隠れると、フレイム・ミノタウロスの口から火の息が吐き出された。
火の息が蒼炎の壁にぶつかり、辺りに飛び火が散る。目の前に起こる火のぶつかり合いが数秒続き、やがてフレイム・ミノタウロスの火の息が途切れたところでフレアの蒼炎の壁も消える。
フレイム・ミノタウロスとフレアはレベルの差はあるものの属性が同じのためあまり効率的なダメージが与えきれない。それに、今のオレの目的は戦闘ではなくクレアと合流する事が先決だと思い、逃げる事を選択した。
「クソ!! このままじゃ、オレらもやばいな…逃げるぞ!! フレア!!」
さっきのブレスのせいでさらに広場に火の手が回ってしまい、後ろにある唯一の逃げ道に後退しようとしたのだが。その道から、村の中にいたビーモンキーの集団がオレ達に向かってくる。
「フレア、気をつけろ!!」
迫るビーモンキー達を相手に蒼炎を吐きだし応戦するフレア。オレのすぐ近くには、斧を構え鼻息を荒くして興奮しているフレイム・ミノタウロスが突進してきて、オレはタブレットを取り出す。そして、フレイム・ミノタウロスがオレめがけ斧をふり下ろしたところで
ガギンッ!!
オレの目の前で、金属同士がぶつかる音がし。ミノタウロスの斧を、金色の杖で防ぐ蒼い瞳をした女性がいた。
〇サファイヤエンジェル LV100
ランク☆7
属性(光)
装備 「天使の杖」
綺麗な翼を生やし、金色の鎧を着込んだサファイヤエンジェルがその細い腕のどこにそんな力があるのか、ミノタウロスを押し返してしまった。オレは、サファイヤにミノタウロスを相手に大丈夫か? と聞くと、彼女はオレに向け笑を浮かべ言葉はしていないが大丈夫 と 安心させてくれるように頷いた。
押し返されたフレイム・ミノタウロスは、再び息を大きく吸い始めまた火の息を放とうとし一方でサファイヤは杖を掲げて光を産み出す。そして、その光から無数の光の球がフレイム・ミノタウロスに向け放たれた。
〇サファイヤエンジェル LV100
「スキル」光の裁き
(光属性の高ダメージを与える)
蒼い瞳を持つ天使が生み出した光が、容赦なくミノタウロスを襲いダメージを与えていく。そして、ついに体力がつきたのかフレイム・ミノタウロスが斧を落としその場に倒れ粒子となってサファイアに吸収されるのであった。
「終わった…そうだ、フレアは!?」
慌てて後ろを見ると、既にビーモンキ達の姿がなく。代わりにフレアの周りにかつてビーモンキー達だった粒子がフレアに吸収されていく。オレはフレアと、サファイヤの二体をねぎらい、急いでここから逃げようとするが
「こいつまでやられるとは思わなかったな」
上から声がして、見上げると青い翼を持った何かが飛んでおり。その背にはあの黄色髪の少年がオレを見下していた。少年は、持っていた。割れた赤い魔石が入ったペンダントをまるでゴミを捨てるかのように投げる。
「それに、その魔物も…中々強そうだな」
「っ!?」
ゾクッ!! 少年から殺気を感じ体がこわばり背中に嫌な汗が流れる。これは、辺りの熱気からではなく、あの少年から嫌な感じがしてオレの体が震えていた。
そして今気がつけば少年の乗る青い何かはオレのレッドドラゴンに似ていた。
「お前は一体…何なんだ?」
乾いた唇で少年に聞くが、彼はオレを見下したまま
「さぁな? お前に答える義理はない。だが…」
言葉を一度切り、そして悪意のある笑でオレを見ながら
「俺の楽しみが増えた、せいぜい簡単にくたばるなよ」
それだけ言い、青いドラゴンははるか彼方の方に飛んでいき。一方で、残されたオレはドラゴンの後ろ姿が見えなくなるまで立ち尽くすのであったーー






