三話 ゴーレムと追跡者
目を開けるとオレは、暗い石造りの建物の中心に立っていた。
「どこだここ…夢?」
周りにはフレアとマロ。そしてアリルとハクもおらず不安になり辺りを見渡していると建物の壁が描かれていた。絵には女性らしき人物とその周りにいるドラゴンやら獣などと共に、何か黒く嫌な感じがする物に向って戦っているかのような絵があった。
壁画を見ていると何故か描かれている女性が気になってしまう。なんだろうオレはこれを知っているのか? でもどこで見た…? と考えていると、後ろから足音が聞こえ慌てて振り向くと、扉のない大きな入り口から誰かがきた。
「やっと会えた…」
そう言いながらオレに近づいてきたのは、黒いローブを着込み紫の長い髪をした男だった。その男はいきなりオレに近づき手を伸ばすが、後ろに下がり警戒すると男が立ち止まり悲しげな目でオレを見る。
「…そうか、まだその時ではないんだね…」
と、また意味の分から無い事をつぶやく。一体、何の事なのか聞こうとした時、突然俺の目の前が暗くなる。
「あと少しで約束の時…それまで、私はまた待とう…」
「ちょ、どういう、ことだよ…?」
薄れていく意識の中、男に手を伸ばすが、視界が完全に暗くなってしまい。重いまぶたを開くと青空が見えた。
「なんだったんだ…今の夢…」
変な夢を見てつぶやき。体を起こすとオレの隣りで寝ていたマロとフレアも同時に目を覚まし目が合う。訳の分から無い夢を見てため息をつくと、二匹がオレを心配して大丈夫か? と目で訴えてくる。
「大丈夫だ、ありがとう…ところで、アリルは…」
二匹と共に川の方に近づくと、川の水を飲んでいる白いドラゴンの後ろ姿が見え。声をかけるとハクがこっちに近づいてきた。
「おはようハク、アリルは?」
ハクはオレの質問に答え川の方を示しマロとフレアに挨拶なのか声をあげる。すっかり仲良くなったなと思っていると、川の方から音がし岩の影から、服を脱いだアリルが姿を表し目があってしまう。
「あ」
「え…あ…きゃぁぁぁ!!」
アリルが叫び、彼女の首にある宝石が埋め込まれた十字架が光出すと衝撃が生まれ大量の川の水がオレに襲いかかり全身が濡れてしまった。
オレの傍にいたフレア達は、先に危険を察知してか、マロを連れて三匹とも水がかからない位置まで退避していた。
「え? リョウさん…」
岩に隠れているアリルがオレを見て何かに驚いていた。アリルの目線は、服が濡れ透けてしまっているオレの体。特に胸を見て
「お、女の人…だったんですか!?」
「ま、まぁな…」
オレが曖昧な返事を返すと、天気のいい朝の森で、アリルの驚きの叫び声が響くのであったーー
「ご、ごめんなさい。てっきり男の人だと…」
「別にいいよ。よく勘違いされるから」
焚き火で服を乾かす中、服を着込んだアリルが何度も謝ってくる。
まぁ、普段から男っぽい服ばかり着ているからよく間違えられているし、オレも言ってなかったのも悪かったことを告げる、申し訳なさそうにしているアリルの顔を見て話題を変える。
「なぁ、ところでさっきの川の水が飛んできたのって… 」
「す、すみません…つい、召喚具の力を使ってしまって…」
アリルが言い白い宝石が入った十字架の首飾りを見せる。召喚具とは、仲間にしたモンスターを召喚するためのアイテムで、召喚者…プレイヤーは戦闘や冒険中にモンスターを召喚するだけでなく、所持しているモンスターの力を召喚具に魔力を使って発動する箏ができる。
例えば水中で長くいるために水属性モンスターの力を引き出して呼吸がきるようになったり、高い所を移動するため風属性のモンスターの力で浮いて移動するなどわざわざ召喚しなくてもいいのだが、プレイヤーの魔力量とモンスターとの親密度が高くないと使えない。
オレが男だと誤解して驚かしたせいでアリルが魔力を召喚具に流してしまい力が発動してしまったのだろう。
「その首飾りの魔石…白って事はハクは光属性か?」
オレの質問に首を縦に振って肯定するアリル。召喚具についている宝石は魔石と言い、魔石は自然の力の塊とされていて、例えば火山には赤い色で火属性の魔石が、水場には青色で水属性の各属性の魔石が地面や岩に埋まっていたりしている事がある。
魔石は手に入れてもそのままでは使えず、鍛冶職人の手でさらに魔鉄と呼ばれる特殊な鉄で加工や装飾されて召喚具が作られるが、魔石の質が悪ければランクの低いモンスターしか仲間にできないし、逆に純度の高い石を手に入れれば高ランクのモンスターが手に入るのはゲームと同じようだ。
「そう言えば、白竜って珍しいモンスターだったな…」
「もん、すたー? 魔物の事ですか?」
オレのつぶやきに眉をひそめるアリル。どうやらこの世界ではゲームと違いモンスターの事は魔物と呼ぶようだ。
「はい、白竜はとても珍しいためよく魔物狩り達の標的にされやすいんです…そんな中騎士達が守ってくれた最後の卵から孵ったのがハクでした…」
ハクがアリルの傍により甘えてきて。アリルも優しい手つきでハクの顔をなでる。そしてオレのところの二匹のモンスターも近づきオレ達が話している間に朝食は済ませたようだった。
「さて、オレらも飯にするか」
「はい!!」
その後、オレ達は軽く朝食を済ませてから乾いた服を着て荷物をまとめ。オレはマロを送還してからフレアの背に乗り。アリルもハクの背に乗り森の中を進み、やがて昼時にはオレ達は森を抜けるのであったーー
〇
「ねぇ、クレア」
先ほどまでリョウ達がいた川のそばにて二人の女性が慎重に辺りを警戒していた。
クレアと呼ばれた腰に細剣を携え青い軽鎧を着込んだ少女が、腰まで伸ばした綺麗な金髪をなびかせ振り向く。
「どうしたの? リン」
「これを見て」
茶色髪で緑を基準とした軽鎧に背に弓矢をからう少女。リンが焚き火の跡を見ていた。
「足跡は人が二つ。そして、この大きな足跡は恐らく姫様のドラゴンの物…」
「じゃあ!! 姫様は誰かに誘拐されたの!? 急いで、ギルドと城に連絡を!!」
今にも走り出そうとするリンの肩を押さえるクレア。
「ちょっと待って、誘拐なら抵抗した跡があるはずでしょ? 足跡から見て、姫様は誰かと一緒にいたみたいね…この跡は…馬?」
「どうしよう…ここで姫様になにかあったら私達とギルドが…」
「だから、落ち着きなさいって…はぁ…姫様もいい加減にして欲しいわ…」
隣でブツブツとつぶやく相棒と、ここにはいない人物に向け愚痴をこぼし。クレアは大きなため息をつくのであったーー
〇
「へっきゅしゅ!!」
「風邪? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!!」
オレの背後に立つアリルが小さくくしゃみをした。その際「もしかして、兄様が…」と何かつぶやいていたが、聞こえなかった。
森を抜け、草原に出たオレ達は昼食のため休んだ後。オレはアリルに魔力の使い方について教えてもらっていた。
理由は、昼食中にオレが「魔力の使い方教えてくれないか?」と頼み、彼女は心よく引き受けてくれた。この世界はゲームとは違い死ねば帰る事ができない。もしものために魔力を使えるに越した事はない。
「でも、魔物を召喚できたのでしたら。魔力の使い方は分かっているのでは…? それに変った召喚具を使われてますね…?」
「そ、それは…」
魔力を使う以前に、こっちはボタン一つでなんでもできるからな…魔力を使った感じが全くない。アリルの質問にオレの住んでたところで使ってた物だと答えると、
「まさか、東の…い、いえなんでもありません!! はじめましょうか」
? 今、何か言いかけたようだったが。気を切り替えアリルの言葉に耳を傾ける。まずは、目を閉じ意思を手に持つ召喚具ことタブレットに集中する。始めは何も感じ無かったが、数秒してから、体の中にある水のような物がタブレットに流れる感じがし目を少し開けるとタブレットが光っていた。
「魔力が流れましたね。魔法具に魔力が流れたら最後に自分の魔物の姿を思い浮かべてください」
そう言われ、傍で見守ってくれているフレアを一瞬見て再び目を閉じ、頭の中でフレアとその身に纏う蒼炎が浮かぶ。そしてオレは、方手を彼方に向け、手から蒼炎が放射され青い火柱が立つのであったーー
ドォォォォォン!!
熱風と衝撃で思わず後ろに転げ、アリルから「きゃぁぁ!!」と悲鳴が上がる。
やがて、火柱が止むと。草原の一部がまるで隕石が落ちたかのように焦げた大地と化してしまった。
「…」
無言で立ち上がり後ろを見ると、フレアとハクにより守られ地面に座り込むアリルがオレを見て
「な、なんなんですか!? 今のは~~~~~~!?」
と、本日二度目となる悲鳴をあげるのであったーー
「なんですか今の魔力は!? あんなの見た事ないですし!! そもそも、人に当たっていたら大変な事になってましたよ!!」
「えと、すまん…」
オレの起こした火柱のショックから立ち治ったアリルに早速説教をされるオレ。
なんで強い魔物を持っているのに魔力の使い方ができてないのか、そもそもオレがどこから来たのかと興奮しているせいか説教の内容がどんどんずれていた。
「しょうがないだろ!! オレだって、いきなりここに連れてこられたんだから!! …っ!!」
オレが叫んだ次の瞬間。突然大地が揺れ倒れそうになるアリルを支える。そして、フレアとハクが離れたところにある大岩をにらみ、さらに地響きが強くなり大岩が動きだした。
「って!? あれ、ゴーレムか!!」
人の形をした岩のモンスターが地面から完全に出て姿を現す。そして、何故かゴーレムがオレ達に向け大きな足を動かし向って来る。
「ちしょう!! まさか、さっきので怒ったのか?」
「そんな、そもそもゴーレムはこんなところに出ないのに…」
アリルの言う通り、ゴーレムはこんな辺境なところには普段はいないのだが、今はそんな事を言っている暇ではない。迫りくる巨体は手を伸ばし確実にオレ達を捕まえようとさらに速度を上げてきた
「アリル!! とにかく逃げるぞ!!」
呆然とするアリルに声をかけハクが背にアリルを背に乗せ、オレもフレアに乗りゴーレムから逃げる。ひとまず森の方へ と思った時。突如、地面から大きな壁が出現しフレアが慌てて止まる。
「何!? っ、これは?」
気がつけば、地面から生まれた大きな岩が壁となり岩のドームが形成されてオレ達を逃がさないように動いていた。
「これは…岩のフィールド…まさか、カードかよ!? 」
カードと言うのはプレイヤーが魔力を消費しモンスターを支援する道具でカードには、モンスターに力を与えるフォースカード。モンスターの体力や状態を回復し援護するサポートカード。そして、各属性のモンスターが戦いやすいフィールドを作るフィールドカードの三種類がある。
そして今、土属性のゴーレムを強化してしまう岩のフィールドカードが発動されてしまった。
〇ゴーレム LV50
ランク☆3
属性(土)ランク☆3
*(岩のフィールドにより、各能力上昇)
タブレットでゴーレムのステータスを見るとやはりフィールド効果により能力が上がっていた。
とにかく、こいつを倒さないとここから出られないらしい。
フレアにゴーレムを倒す事を告げ、上空にいるハクに乗るアリルに空いた天井から逃げるよう告げるが、アリルが首を横に振る。
「ダメです!! リョウさん達を置いて逃げたくないです!!」
「そんな事言ってる場合か!! っ!? くるぞ!!」
ゴーレムが動きを止め、足元にある岩を掴む。そして、手に掴んだ岩をオレ達に向け投げ、フレアが走りハクがさらに上昇して飛んできた岩を回避した。だが、岩のフィールドが作られたせいで、あちこちに岩があり。ゴーレムがオレとアリルに向け次次と岩を投げてくる。
〇ゴーレム LV50
「スキル」岩投げ(岩を相手に投げ、中ダメージを与える)
「こんなんくらって中ダメージで済むわけないだろう!! 」
後ろに激しく落ちた岩を見て、当たったら一撃で死ぬ と思い耳に心臓の音が聞こえフレアを掴む腕が強くなる。
ゴーレムが発動したスキルは、単なる岩を投げるだけだが実際に対峙したらこんなに怖いのか と唇を強くかみしめた。プレイヤーは画面から見たら、ただ自分のモンスターに石が当たった程度にしか思わないが、オレ達を守るために早く飛んで来る岩から回避してくれているフレア達を見て怒りのようなものが湧いてきた。
「痛いだけで、済むわけないよな…」
オレがそうつぶやき。心配したフレアがオレの方を向く。そして目の前に落下してきた岩にフレアが慌ててブレーキをかけ直撃がまぬがれたが、オレはフレアから転落してしまい地面を転がる。
「いっ!!」
全身を地面に打ちつけ痛みに歯を食いしばって耐える。骨は折れておらず、傍にあった岩につかまり立ちあがり再びフレアに乗ろうとしたが、岩の雨がオレ達に向って振ってきてフレアの体から蒼炎が発生し広がる。
〇フレアユニコーン LV100
「スキル」 蒼炎の防壁
(敵の攻撃を一定時間防ぐ )
広がった蒼炎がオレとフレアを包んで岩の雨を防いでくれた。蒼炎に触れた岩が次次と音を立て蒸発するが、中にいるオレは全く熱さを感じず不思議だなと思っていたら、今度は体の痛みが和らいでいた。
〇フレアユニコーン LV100
「スキル」一角獣の癒し
(対象の体力を中回復する )
「フレア…」
オレはフレアにありがとうと言い首筋をなでる。
「ごめん…ゲームとかやっててお前らの痛みとかオレ、全く考えた事なかった…」
ゲームをしていた時は、ただモンスターを強くして勝つ事だけ考えていた。けど、この世界にきて目の前にいるフレア達は生きているんだ。オレ達と同じで食べ物だって食べるし痛みだって感じるはずだ。けれど、オレはモンスターと戦う力がない。
「正直オレにはモンスターと戦う力がない…だから、お前らに頼る事なるけど…いいか?」
フレアはオレと目を合わせたまま こくん と頷いてくれた。
オレは笑を浮かべまた「ありがとう」と告げた。するとアリルの悲鳴が聞こえ、見ればハクとアリルが逃げ場を失いドームの端に降りてしまいゴーレムが近づいていた。タブレットを操作し、オレは新たなモンスターを召喚する。
自分の中の魔力が減るのを感じていると目の前に巨大な何かが召喚された。体と翼が炎のように赤くゴーレム以上に大きなそのモンスターは赤いドラゴンだった。
〇レッドドラゴン LV100
ランク☆5
属性(火)
「装備」竜の守り
「いけ!! レットドラゴン!!」
オレの声を受け、レッドドラゴンが翼を広げ飛びゴーレムに突進しアリル達から引き離して遠くの地面に叩きつける。
ゴーレムは突然現れた敵に対し岩の拳で殴ろうとしたが、その前にレッドドラゴンの爪による攻撃で腕が切り裂かれさらに、レッドドラゴンの爪がどんどん体中の硬い岩を切りゴーレムにダメージが入る。
「散々な目に合わせやがって…いくぞ!!」
今までの事で怒りが湧き出ていたが、それでも頭の中が意外と冷静だった。何故かタブレットを操作せず、頭の中でレッドドラゴンのスキルが思い浮かび。次の瞬間、オレの魔力が減り。レッドドラゴンの口から火のブレスが吐き出された。
〇レッドドラゴン LV100
「スキル」 ファイヤーブレス
(敵全体に火族性のダメージを与える)
ガァァァ!!
レッドドラゴンの口から吐き出された大きな火炎がゴーレムの体を飲み込みゴーレムは体の火を消そうと地面を揺るがして転がるり、やがて体力が0になりゴーレムは動かなくなると、あたりを囲っていた岩のドームが消え、ゴーレムが粒子となって消えてレッドドラゴンに経験値として吸収されていく。
「終わった…のか?」
オレ達を囲っていた岩のフィールドから開放された事に気づき、大きく息を吐き出しその場に座り込む。だが、オレの上に大きな影が写り慌てて上を見るとレッドドラゴンがいきなり顔を近づけてきた。
「ちょ!! 待てぇ!! まさか、オレを食うのか!?」
食べられる と思っていたのだが。レッドドラゴンは、鼻先をオレにこすりつけるだけで何もしない。恐る恐る、鼻先をなでるとまるで機嫌が良くなったみたに目を細める。
「その、ありがとうな? もちろん、フレアも」
ずっとオレを守ってくれたフレアにも礼を言いなでた後、二匹は互いに目を合わせる。別に仲が悪いと言う雰囲気ではなく、まるで互いを労っている見たいだった。
「と、アリル達は…「姫様!!」 ん?」
突然。森の方から女性の声が聞こえ。気がつけば茶色髪の女性がアリルをかばうように立ちオレを睨み
「覚悟しなさい!!姫様をさらった犯人め!!」
と、女性が叫び弓を取り出し、弓ついている緑の魔石から何かが召喚されるのであったーー