二話 白竜と少女
リョウ達がいる森から離れたとある王国の城内にて。
「姫様!!」
「どこに居られるのですか!?」
城内を兵やメイド達が誰かを探し走り回っており一人だけ豪華な部屋にて窓の外を見つめる金髪の青年がため息をつく。
「全く、相変わらずあの妹は…」
青年が目を細め青空を見つめていると。ドアがノックされ短髪の大柄男性が礼をし部屋に入る。
「お呼びでしょうか、エランス様」
「あぁ、ラール。アリルの奴がハクと共にな…最近は、厄介な連中が動いている」
「早速、ギルドにも捜索の要請をしてまいります」
「頼む」
ラールは黙って頷き、部屋から出て行く。部屋に残った、この國の王であるエランス・エル・ロスクリスはため息をつき再び青空を見上げるのであったーー
「うおぉぉぉ!! ちょ、早い!! 待て!!」
フレアの背に必死に捕まり過ぎ去って行く森の景色を見る余裕もなく叫び声を上げていると、オレの声に答えてくれたのかフレアは減速していきやがて足を止めてくれた。
「ちょ、ちょと、休憩…」
フレアからゆっくりと降り、震える足腰で何とか地面に立つ。川が見え木々に捕まりながら川の方にゆっくりと近づき、川の水を一口飲む。
「美味しい…」
水は臭くもなく変な味もせず飲める事に安心しタブレットを取り出し操作するとオレの足元に、白い物体が出現した。さっき石の祭壇でフォレストウルフから助けた白うさぎだった。
タブレットをいじっている内に分かったのだが、ゲームでは召喚具と呼ばれるアイテムを使えばモンスターを仲間にする事ができるのだが、どうやらこのタブレット自体が召喚具兼アイテムボックスとなっていた。
「仲間にしたのはいいけど、おまえ家族とかはいなのか?」
と、オレが質問するが。当の白うさぎは首をかしげオレを見つめるだけだった。
「白うさぎ…そうだな。名前はマロでいいかな、マシュマロ見たいだし?」
名前を勝手に決めてしまったが。一応、確認すると短く返事を返してくれた。どうやら嫌がってないようだと安心し岩に座りタブレットを操作する。
アイテムを出せると言う事は食べ物とかは大丈夫だが、マップを見るとここから人里まで山を降りてからまだ走る必要があった。
マップを見たときに気づいたのだが、今いる大陸はゲームで見た事のなかった。これも、あのメールにあったゲームとは違った点と言う事なのか? と考えていると、突風が吹きコロコロとマロが転がってしまうが、フレアが足で受け止めてくれてくれる。
「な、なんだ!?」
慌てて空を見ると、白い翼を持った何かが。無数の鳥達に追いかけられ森の中に入っていき姿が見えなくなってしまう。
「も、もしかして落ちたのか? フレア!!」
目を回す白うさぎをタブレットに送還し、フレアの背にまたがり何かが落ちたところに走らせる。いくつもの大木や岩を避け進んで行くと、一本の巨木の下に何かがいるのが見えた。
「あれはドラゴン…それに、女の子?」
巨木を背に、体に傷を負った白いドラゴンと、その傍で無数のカラス達を追い払おうと細剣を振るう青い髪の少女がいた。
「フレア!! 頼む!!」
オレの叫びと共に、フレアの口から蒼炎がカラス達に向け吐き出され、カラス達が叫び逃げ出していき、そこでカラス達の足に銀色の爪がつけられているのに気づきタブレットを見てみた。
〇クロウ LV30
ランク☆2
属性(風)
装備」 毒の銀爪
「毒の爪!? 」
クロウの足にある毒効果を持った銀の爪を見てやばいと感じフレアが森の木々を焼かないようにクロウ達に向け蒼炎を吐きクロウ達はどこかに飛んで逃げて行った。
オレはフレアから降り傷ついて倒れている少女に近づく。少女の体中には無数の傷があり顔色も悪い。どうやら爪についてあった毒にやられたみたいだ。
「くそ!! どうすれば…そうだ!!」
タブレットを慌てて操作しアイテム欄から小さな石を取り出し少女の胸に押し当てると石は一瞬だけ光り消えたが、少女の体にあった傷が消え顔色もよくなっている。
〇アイテム「完治石」
(全ての状態異常と体力を全て治癒する)
モンスターの状態と体力を回復してくれる完治石がちゃんと人でも使えることに安堵して、意識を取り戻した少女に声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「う…あ、あなたは…!? そうだ、ハク!! ハクは!?」
少女が慌てて起き上がり、大木の傍で疼くまる白いドラゴンに近寄る。ドラゴンの方も顔に生気が感じられないほど息が弱弱しかった。
〇ホワイトドラゴン LV40
ランク☆5
属性(光)
状態「毒」
「やっぱり毒か…」
タブレットに表示された毒状態を見て舌打ちをし。タブレットから同じ完治石を取り出しドラゴンに近づくが
「ガァァァ!!」
「うぁ!!」
白いドラゴンが少女を守るように立ち上がり、オレに吠える。傍にいたフレアがオレの前に立ち、今にも戦いが起こりそうな嫌な感じがしたが、突然白いドラゴンが倒れてしまう。
「ハク!! ハク!! しっかりして!!」
「くそ!! 間に合え!!」
少女が力尽きて倒れたドラゴンに泣き叫んで近づきオレは持っていた完治石をドラゴンの額に当て石が消えた。間に合ったのか? とオレと少女が心配してドラゴンを見つめていると、ドラゴンがゆっくりと目を開いて起き上がり、何が起こったのか分から無い見たいと言うようにオレ達を見ている。
「ハクーー!!」
そして、元気になった事で少女が涙を流しながらドラゴンに抱きつくのであったーー
〇
「ちっ、邪魔が入ったか…」
松明で照らされた暗い部屋にて、水晶に映るリョウ達を見て舌打ちをするフードの人物がいた。
「あの小娘を手にすれば奴からアレも手に入ると踏んだのだが….」
「なら、どっちとも消せばいい。そのほうが早い」
フードの人物が後ろを振り向くと、いつの間にか部屋の入り口に黄色い瞳をした少年がおり、フードの人物を鋭い目で少年を睨む。
「勝手に入ってくるなと言っているだろうが」
「俺はあんたの手下でもなんでもない」
フードの人物が少年に何か言いたそうにしたが。口を一旦閉じ「まぁ、いい」とつぶやく。
「あの小娘は交渉の材料にすぎん。アレを解く鍵手に入れるためのな」
「鍵が手に入ればいいんだろ? 別に死体にしても問題はない」
「まぁ、待て。とにかく、まずは邪魔者を消す方が先だな…私の魔物を使え、必ず生きたまま捕らえるのだぞ?」
「あんたに言われるまでもない」
少年が水晶に映るリョウ達を睨み、静かに部屋を出て行く。そして残ったフードの人物が空いたままの扉を見て
「ガキが…」
〇
「本当にすみません、食事までいたただいて…」
太陽が傾き始める中、川の傍で捕まえた魚を焚き火で焼いている中。オレ前に座る青髪の少女――アリルが話す。傍では、オレが出した果実のアイテムを食べるフレアとマロ。さらに毒で苦しんでいたが今は元気になった白いドラゴンことハクもおりどうやら打ち解けているようだった。
「それにしても、あのカラス。いや、クロウか。なんであれに襲われてたんだ?」
「そ、それは…」
うつむいて無言になってしまうアリル。何か事情があるのか…オレはこれ以上の事を聞かず焚き火に刺していた焼き魚を取りアリルに渡して魚を食べるようと促したが、アリルは焼き魚を見て呆然としながらオレを見て
「あの、これどうやって食べればいいのでしょうか?」
「え? どうやって…こう、普通にかぶりつけばいいんだよ」
アリルに見せるように、手にした焼き魚にかぶりつく。アリルもオレの真似をして最初は小さくかじり、大きく目を開いてオレを見る。
「美味しい…」
「だろ? 他にも果物とかあるから食べていいぞ」
赤い果実の他にも青や黄色の果物を出し味は一応味見したところどれもちゃんとした味だったため安心してアリルに渡す。もっとも、本当ならゲームだとモンスターに使う物なんだけど、まぁこの世界だと完治石もモンスターだけじゃなく人間にも使える事も分かったし、いいか。
「あのリョウさんは、ギルドの方なのですか?」
「え、ギルド? 」
ギルドとは、ゲーム内でプレイヤーが様々なモンスターの討伐や採取のクエストを受け、クリアすると金であるEやアイテムを手に入れる事ができる場所だが、この世界のギルドがゲームと同じなのか分から無いなと思いつつオレは首を横に振り答える。
「そうですか…見た事のない魔物を連れていたのでてっきり、私を連れ戻しに来たのかと…」
? アリルの最後の方の言葉がよく聞き取れなかったが。魔物と言うのは恐らくフレアの事か。何か暗い感じがするアリルに大丈夫か尋ねようとしたが、突然背中を何かにつつかれて慌てて振り向くと
「って、うおぉ!? おまえか!?」
ハクが硬い口と頬をオレに何度もしつこくこすりつけてきて、危うく岩から落ちそうになる。なんだ? 何がしたんだこいつは?
「ふふふっ、ハクったら。まだ食べ足りないのかしら?」
笑を浮かべオレにじゃれつくハクを見るアリル。さっき果物やら魚を多めに渡したはずだが と思いつつ、焚き火の傍に刺していや焼き魚を上げると一口で食べてしまい、可愛げのある目で再びオレを見つめる。
「珍しい…ハクは私と一部の人以外には懐かないのに…どうやらリョウさんの事が気に入ったみたいですね」
「いやいや!! オレの分まで食べようとすんな!!」
アリアが何かをつぶやくが、ハクがオレの食べかけの魚まで食べようとし押さえるが、ドラゴン相手にオレの腕力では抑えきれるはずもなく食べかけの魚が食べられてしまい、結局また果実を取り出すが今度はオレのフレアとマロがねだってきた。どうやらこの二匹は魚よりも果実の方が良かったかもしれない。
「ほら、ちゃんと渡すから落ち着け…って、そうだ。アリルこれからどうやって家に帰るんだ?」
「え? それは…どうしよう、兄様に怒られる…」
「? 兄様?」
身を震わせるアリル。そんなに兄貴が怖いのか? まぁ、オレは一人だからよくはわからんが…けど、この世界についてオレは何も知らないからなぁ、だったら
「なぁ、一緒に家まで行ってやろうか?」
「え? でも…」
「実はオレ、遠くから来てここら辺の道とかよく分かんなくてさ。まぁ、そっちが嫌なら無理にしなくていいよ」
こんな正体も分から無い人間と一緒に行こうと言われ、考えるように黙るアリル。流石に無理かな と思っていたら
「分かりました、私でよければお教えします」
と、予想外な返事が帰っていきた。
「本当にいいのか?」
「はい、私とハクを助けてくれた命の恩人ですし。このくらいはさせてくだい」
笑を浮かべオレを見るアリル。まだ会って少しだけのオレをここまで信用してくれた事が嬉しくオレも笑顔になっていた。そしてオレ達は互に手を出し強く握手をしたーー
「おやすみなさい、リョウさん」
タブレットから出した、布団替わりの布を渡しハクと共に離れたところで寝るアリル。オレも布をかぶり「おやすみ」と短く返してマロとフレアの傍で横になりオレは目を閉じるのであったーー