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四人のアイドル

 外の世界にでたわたしを待っていたのは、様々な人間だった。多用な人種や社会を時代の変遷とともに経験していき、他人にイラだったり悲しさを感じた。


 やがてわたしにとっての他人とは、天気のような自然現象と同じになった。さっきまで晴れていた空が急に曇り雷雨をふらせるように、他人が見せる感情の変化はそういうものなんだと一歩引いて落ち着いて見るようになっていた。

 

 現在のわたしは、大勢の人間の前に立つ仕事をしている。

 こんなわたしをみたら『あいつ』は一体どんな顔をするか楽しみだ。



 

 きらびやかなステージに立ち、わたしたちは観客席からの歓声を受けていた。

 声援を受けながらステージからはけて、楽屋で休憩をとっていた。


「今日も観客の方々の盛り上がりすっごくよかったですぅ」


 ステージに一緒に立っていたひとりが、興奮が冷めないのかテンション高く話しかけてきた。その表情はまるで人間のように感情がこもったものだったが、彼女以下他の2人も人間ではない。

 わたしたち4人は老いず朽ちないアンドロイドのみで構成された永遠のアイドルユニットとして活動している。


「お客さんたちが喜んでる顔がみれてわたしもうれしいよ」


「先輩はライブ中、観客席をよくみてますからね。SNSでも、目が合ったっていう書き込みをよくみますよ」


 わたしは4人のなかで一番最初に作られた機体として、他の3人からは先輩とよばれている。


「実は、マスターがライブを見に来てくれてるじゃないかと思って、わたしも観客席みているんですよ。マスターに一度でいいからお目にかかりたいです」


「あ、それ、わたしもわたしも!! 先輩はマスターには会ったことあるのですか?」


「わたしも知らないんだ」


「そっかー、どんなひとなんだろ」


 あったことのない自らの創造主にむけて憧憬のまなざしを浮かべる3人の子たちをみながら、わたしはこの子達をだましていることに済まない気持ちになった。

 だれかの言うことを聞くだけの子には育ってほしくなかったので、3人には誰がマスターであるかということを秘密にしていた。


 そこに扉を開けてスーツ姿の初老の男性が入ってきた。この男はわたしたちのマネージャーであり、どっこいしょといいながら手に持ったダンボール箱を机においた。


「みなさん、お疲れ様です。今日も大盛況でしたよ。これアンケート用紙です」


 ダンボール箱には紙が大量に入っていた。


「わあ、すごい量ですね」


「アンケートを出すと限定グッズがもらえるときいて、たくさん出していただけたようですね」


 みんなは机を囲みながら驚いた顔をしながら大量のアンケート用紙を眺めていた。

 わたしは段ボール箱を抱え上げながらマネージャーにいった。


「それでは、内容はわたしがまとめますね」


「いつもすいません。そういう仕事はわたしがやるべきだというのに」


「いえいえ、わたしのワガママですよ。ファンの方々の声を直接目でみたいですからね」


「え、アンケート集計って先輩がやってたのですか!?」



「そうだね~、ファンレターとかも全部目をとおしてるらしいよ。わたしには無理そうだわ」


「ほへぇ、さすが先輩やることがちがうなぁ……」


「そろそろ、事務所にもどろうか」


「はーい」


 マネージャーの運転する車にのって事務所に戻り、他の子は充電用のカプセルにはいりスリープ状態に移行した。

 

 わたしは夕日の差し込む事務所のなかで、持ち帰ったアンケートを見ながらパソコンに集計内容を打ち込んでいった。

 集計が完了し、アンケート用紙を丁寧にもとの段ボール箱にもどした。


「はぁ、今回もなかったかぁ」


 暗い部屋にともるディプレイの光を眺めながらため息をはいた。

 アイドル活動を始めて10年近くがたったが、いまだに探し物はみつからなかった。


「お疲れ様です。コーヒーどうぞ」


「ん、ありがとう」


 マネージャーが手に持ったマグカップのうち一つを渡してきた。


「きみも付き合いがいいね。もうこんな時間だから帰っていたと思っていたよ」


「いえいえ、私はあなたの助手ですからね」


 マネージャーは分厚い眼鏡をクイッとあげながら笑いかけてきた。


「それに、あなたとの付き合いももう20年以上になりますから、いまさらですよ」


「そうだったな」


 わたしたちは静かにコーヒーをすすった。


 心地よい無言が続き、その中で昔のことが頭をよぎった。

 アイドルをする前はわたしとマネージャー……いや、助手はアンドロイドに関する研究を行っていた。


「くそっ、また失敗か」


 『あの人』をよみがえらせるために、そっくりなアンドロイドを作り出そうとしたが、結局は失敗に終わった。

 うまくいかずへこたれているわたしをみて、助手が唐突にいいだした。


「アイドルをしましょう」


「は? 突然なにをいいだすんだ」


「お探しの人を見つけるためにあなた自身が目立って人の目に触れるようにすれば、きづいたむこうさんがやってくるはずです」


「おまえ……」


 助手にははっきりと自分の目的を話したことはなく、ただの研究仲間であったはずだった。だが、察しのいいこいつはだいたいの事情を理解しているようだった。


「しかしだな、わたしがアイドルなんて柄じゃないだろ」


「そこは、この子たちにカバーしてもらいましょう」


 助手はこれまでに作成した3体の子たちをみながらいった。どの子たちも秀麗な面立ちをした10代の少女をモデルにしたものであり、アイドルとして十分以上に通用しそうだった。


「いや、しかしだな……」


「いいから、いいから、時間は有限なんですよ」


 助手はマネージャーとなり方々を駆けずり回り、流される形でこれまでに作り出した3体の子たちと一緒にアイドル活動をやることになっていた。


 初めてのステージがやってきて、わたしの髪色に合わせたのか緑色を基色としたフリフリの衣装を着させられ、他の子たちもトレードマークとなる色に合わせた衣装を着ていた。

 

(なぜ、わたしがこんなことを……。あの子たちにまかせればよいではないか)


 そんな派手な衣装を着させられて、愚痴を心中でつぶやいていると助手が語ってきた。


「みなさん、お客さんなかなかの入りですよ。前評判も上々ですし、きっとこのステージはうまくいきますよ」


 3人の子たちはこの日のために調整したとはいえ、どこか不安そうな表情を浮かべていた。助手が横目でわたしを見て、わたしも何か言えと目で合図してきた。


「ほら、あんたたち、もしかしたらマスターが見にきてくれてるかもしれないんだから、いいところ見せようか」


 わたしの言葉をきくと、3人の子達は顔を見合わせたあとうなずき合って、やる気に満ちた顔になった。

 同時にわたしもステージに向けてやる気がでてきた。

 そんなわたしたちを見ながら助手は満足気な笑みを浮かべていて、ひとを上手くのせるやり口はどこか『あの人』に似ていた。

 

 ぼんやりと考えていた思考をもどして、隣の机の前に座る助手に目を向けた。

 以前は黒かった髪には、ところどころ白髪が交じっていた。


「君もふけたなぁ」


「ひどいですね。心はいつまでも若いままですよ。でないと、あなたについていけませんからね」


 助手や周囲のひとが年をとっていくが、わたしは置いていかれるように少女の体のままであった。

 近いうちに、こいつとも別れがくると思うと無性にやるせない気持ちになった。


「また、君とも別れがくるのか……」


「大丈夫です」


 助手は安心させるようにニッコリと笑いかけてきた。


「忘れられないぐらい私のことを記憶に刻み付けてみせますよ」


「そうか……、そうか……」


 わたしは言葉少なくうなずいた。

 あの日、わたしに返事をしてきたときのあいつの気持ちがわかった気がした。


ここまで読んでいただきありがとうございました。これで、この話は完結です。

永遠を生きる緑髪のアイドルの物語、モデルになったものはお察しの通りだとおもいます^^

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