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――ただいま。
霧華は玄関を潜ると、暗い平屋建ての冷たい廊下を踏む。築50年を超えるため、床も軋む。靴下越しにも危うさが感じられる。
なんとなく、周囲を窺いながら奇妙な気まずさを制する。
「えーっと……お邪魔しまーす。」
私は小声で辺りを見回し、人影がない事を確認すると、すりガラスの戸を開く。六畳ほどの部屋に炬燵がある。恐らく、この季節でもまだ冷え込むからだろう。
「おじーちゃん?」
疑問形で声をかける。最悪、外に徘徊している可能性もあるのだ。一度、老人ホームから帰って、それから介護の人がやってくる僅かな間、私は定期的に訪れている。理由はいろいろあるけど、高校から近いっていう、一番の大きな理由である。今は両親と一緒に別の家に住んでる。痴呆症になる前まで……おばあちゃんが生きてた頃はよく泊まっていた。けど、今は全体的におじいちゃんの家が寂しい雰囲気で何となく敬遠していた。
高校に通うようになってから、また顔を出すようになった。……なにより、小学校の時、よく泣いて帰ってきた私を慰めてくれたのはおじいちゃんとおばあちゃんだった。
携帯端末をつけて、時間を確認した。
午後五時
たぶん、もう帰ってきている頃だ。私は別の部屋を探すために廊下から、寝室に赴く。防虫剤の匂いと加齢臭が混ざった独特の流れが埃と共に鼻腔にきた。