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午前4時。
グランドエンゲル製薬株式会社(GE)に関連した大学付属病院の敷地内は、昨夜から俄かに糠雨が降っている。駐車場に一台、黒塗りのバンが停車していた。フロントガラスには細かい雨粒が張り付く。
「こちら、運搬班。捜索班、音は大丈夫か?」
運転席でハンドルに両肘をかけながら、男は缶コーヒーを飲んでいる。
ザザッ、と砂嵐交じりに相手の声が聞こえる。「裏口通用門クリア。」「了解作戦を引き続き続行」「了解」と短い時間で男たちは交信をした。
男たちは静かな殺気を漲らせる。彼らの手に自動小銃がある。殺戮に象徴された武器である。人間の死を加算し続ける道具。つなぎの作業着に身を包んだ彼ら5人。目で合図を送りあい、中腰になった前方の1人が施錠されていない門を潜り裏手非常口に密着した。周囲を確認し、距離をとり銃口が火を噴く。靴でドアを蹴り飛ばす。冷たいタイルの廊下に切れかけた蛍光灯が点滅した。消毒液くさい。病院内でも旧病棟と呼ばれる場所であった。
「「人類全体の幸福と死を!」」
男たちは唱和した。5人は施設内で散開する。
――彼らの手首に〈人類絶滅会〉と印字された鉄プレートのタグが下がっている。
西暦20XX年。
日本列島で俄かに信仰を集める団体、「人類絶滅会」は発足し、政財会に大きな発言力を広げていた。一部の限界集落を買い取り、拠点とした。彼らの目的は警視庁も把握していない。都市伝説レベルの内容以外なにもかも不明とされている「人類絶滅会」は、武力を獲得する為、院内に突入させた。