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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

弓姫奇譚 〜いいえ、私は農家になりたいのです〜

作者:緑子
ゴールデンウィーク突発的息抜き小説です。


は、ははは。
死亡フラグが立ったわ。



皆様は弓姫奇譚という名前のゲームをご存知だろうか?
最近では主人公の性別を選べるゲームも多いけどこのゲームでは女性固定。そして恋愛要素有りの女性の為のアクションゲームだ。
舞台は数百年後の地球、場所は日本で展開される。
数百前バイオテクノロジーで進化した化物、通称ハデスが突如暴走。次々仲間を生み世界を滅ぼし、僅かに生き残った人間達があちこちでコロニーを形成し細々と暮らしている時代。
人類はハデスに怯えつつもバイオテクノロジーの遺産を現代の技術と融合させハデスと戦うための道具、ニケと呼ばれる武器を作り出した。絶対このゲーム製作者は相当なギリシャ神話好きとみた。
それはともかく、ところがこの武器、扱える人が限られている。相性とでも言うのか他人が触ってもうんともすんとも言わないが持ち主が手に取れば輝くオーラを纏いハデスを滅ぼす武器となる。

そしてこの物語の主人公、真月蛍。(まつきほたる)
キメの細かい白い肌に桜色の唇、艶やかな黒髪を靡かせた美少女である。
彼女が様々な依頼や仲間の悩みを解決し(必ず戦闘が入るが)絆を深め合いラスボスを倒し、最高の相棒パートナーを見つける物語だ。

彼女の武器は白銀に輝く長い弓。
しかしこの弓という武器、見た目は絵になるんだけど兎に角扱いづらい。
普通は剣とかだと思うんだけど何故に弓?主人公は前衛で敵をバッサバッサと斬りまくるのが醍醐味でしょう。
矢による長距離攻撃と弓を剣の代わりにする接近攻撃が有るんだけど何せ弓。攻撃力は剣や槍とは比較にならない程しょぼい。
おかげで何度全滅し、涙を流しながらリセットボタンを押したことか。
しかし乙女達は負けなかった。乙女ゲームの10の甘い言葉より、アクションゲームの依頼達成した時の1の甘い言葉が萌えると、睡眠不足と右手の腱鞘炎に悩まされながら、「全て滅ぼし尽くしてやる!」「素材ハデスちゃ〜ん、いらっしゃ〜い」、など乙女にあるまじき言葉を発しながらプレイする人達が続出した人気のゲームだ。


さて、物語は蛍がハデス討伐部隊の中でも先鋭部隊、アテナの入隊試験から始まる。
このアテナは日本中から選抜されたエリート集団であり人々の憧れの部隊だ。
今夜集められた新人40人はラフェロの森に潜むハデスを討伐する課題が課せられている。


まぁ何故いろいろ喋っているかと言うと、私がこの物語の主人公なんだよねー。…ちょっとそこ引かない。私も実際引いている、あり得ないから。でも現実とは痛いんだよ。

何故こんな事になったかと言うと、きっかけは私の隣に立っている人物だ。試験期間中何と無く馬が合い、今ではお互い名前呼びをする程親しくなった相手だが会話をしていた時に、あれ?っと違和感を感じて思わず相手を二度見した。
知ってる、この人知ってる。
そして視線を下に向けると私の右手には、月光を弾き白銀に輝き身長程の長さの美しい曲線を描く大きな弓。
これを見た時にこう、ドバーッと前世の記憶が戻って来たのだ。

その記憶は実に曖昧で、例えば農業高校に通っていた事、一人っ子だった事、イチゴケーキが大好物だった事、そしてこのゲームが一番好きだった事などが一気に蘇って来た瞬間、フリーズした。


不味い。
今の私は何でもそつなくこなすエリートだった以前の私ではなく、前世のビビリヘタレが入り混じった別の存在になってしまっている。
恋愛要素有りで乙女ゲームぽいが弓姫奇譚は血飛沫あり、全滅ありのアクションゲーム。
女性の細腕でハデスとの戦いに駆り出され命のやり取りをしろと?グッチョングッチョンのホラーは大っ嫌いなのに見た目グロくておぞましい敵と対峙しろと?…………無理無理、絶対無理!


「おい、蛍大丈夫か。顔色が悪いぞ」
「…聖」

絶望の未来しか見えない私の顔色が余程悪かったのか、サラリと額の髪をかき上げ熱を計るイケメン。指長いなー、無自覚に小っ恥ずかしい事をしてるのに、絵になるよなー。
このイケメン、鷹司聖たかつかさひじりは主人公と同期入隊の同僚で、そのオレンジがかったピョンピョン跳ねる赤毛と周囲を気遣い誰でも仲良くなれる明るさでネット上でワンコと呼ばれていた人物だ。
しかしこのワンコ、実は腹黒説がある。
物語では主人公を庇って背中に大きな傷跡が残るのだが事あるごとに、「これは俺の勲章だ」とか「お前を守った証だ」など、お前責めてる?責任取れとか言ってる?と此方が思うぐらいよく傷に関する台詞が出てくるのだ。
正直こいつにも関わりたくないけど其れなりに親しくしているのに今更無視するのもね〜。
どうするべきかと聖に気づかれないよう、こっそりとため息をついた。


確かこの後のイベントで主人公は類稀な戦闘センスと武器ニケとの融合能力を買われアテナに入隊するんだよね。
あ、そうだよ!このままスルーして試験に落ちればいいんじゃない?まぁ今の私じゃ絶対落ちるだろうけど、今日の私冴えてる!なーんだ心配して損した。 はははっ。………あれ?
入隊試験ってどんなものだったっけ?何か忘れているような気がしてならないんだけど。入隊試験と聖の背中の傷跡とラフェロの森……カチリと頭の中で音が聞こえた。


後にラフェロの惨劇と呼ばれるこのイベントは主人公の入隊試験中、突如低レベルのハデスが大量発生した上、変異型のヘラクレスが現れる。
あ、ヘラクレスてのはハデスの中でもパワー型に特化したぶっちゃけ化け物レベル。しかも動きも早い為にこいつがいるエリアではお守り(ハデス除け)を装備していたものだ。
そして変異型は更に倍々強くなったハデスだ。個体によっては特殊能力付き。
そんな超化け物相手を主人公と隊長とで何とか退けるんだけど、指導教官も含め生き残りは聖を入れても僅か五人。他は全て全滅という凄惨な出来事として歴史に刻まれる事となる。


思い出した、あ〜スッキリしたー、、……じゃないっ!……も、もうすぐ変異型が来る?来ちゃうの?怖いよママン!

「え、ちょっ?顔色良くなったと思ったら更に悪くなったぞ、大丈夫か?」
「おいそこ、何を喋っている」

聖が私の顔を覗き込んでいると、思いの外近くから声がかかった。

ーーレン様だ!


ああ、お麗しい。
前世の私の一番のお気に入りキャラ、幸谷蓮こうやれん
アテナの隊長で世界でもトップレベルの戦士であり、研究者の一面もあるストイックな美形様。
長く淡い金髪を黒のリボンで纏めついでに瞳も金。美形で強くてカリスマ性まである正に王道キャラ。因みにネットではチート様と呼ばれていた。
始めは、「お前の実力はこんなものか」とか「この程度の傷に泣き言を言うな」など優しくしてよー、こっちは花も恥じらう乙女なんだよー、と画面上に訴える日々が続くんだけど、一緒にミッションをクリアする内に「先程の攻撃は良かったぞ」「お前との仕事が一番充実している」などキャーキャー悶える日々に変わります。


「説明中に私語とは余裕だな」

ああ、その冷たい眼差しも素敵です、うっとり。
……じゃない!現実を見ろ私!このままじゃ首チョンパーだ。


「すみません!…でもこいつ、顔色が凄く悪くて」
「…確かに…」

何やらイケメン二人が話しているけど、こうしている間にも時間がこくこくと迫って来てるんだよ〜。どうする、どうする私。

ーーうん!
三十六計逃げるが勝ち、敵前逃亡だーっ!!
脚力をフルパワーにする為に軸足に力を入れた瞬間。

ーーズルッ。

あれ?


邪な考えに天罰が下ったのか、滑った体はそのまま美形様二人を押し倒していました。
あ、あ、あー!真っ白な制服が泥まみれにー!?
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい態とじゃないんんです!態とじゃないか斬らないで下さい〜!!って、なんか背中が無茶苦茶熱くて痛いんですけど私、もう斬られたんですかー?酷いです。言い訳ぐらいさせてくれたっていいのに〜、えぐえぐ。(泣)

「おい、大丈夫か!」
「しっかりしろ蛍!
ちくしょう、何でハデスが大量発生してるんだよ」

へ?ハデスの大量発生?
あ、チート様が治癒の札を使ってくれたおかげで痛みが引いてきた。ビバ回復アイテム。
何とか体が動くようになって首を回し見えたもの。
あれはケルベロス?
動きは早いけど攻撃力はそんなに無いので初心者の経験値稼ぎのハデスだ。
次々に襲いかかるケルベロスを見事な太刀捌きで斬り伏せるチート様とワンコだけど、……もうイベントが始まってる?
でもこれって試験開始から暫らく立ってからじゃなかったっけ?
どうやら記憶のよりイベントは早まり聖の代わりに私が背中に傷を負わされた、と。
ゲーム内容が変わっているのかな?
でも蓮様が傍に居たよね。世界最強レベルのチート様がケルベロスの攻撃に気づかなかったなんてあるの?


その疑問に答えるかの様に、ようやく体を起こした私の目の前にそれは現れた。

ヘラクレス変異型。

身体は毛むくじゃらで筋肉が盛り上がり熱を発しているのか湯気の様なものが見える。
額には拳大のルビーが嵌まり、口は耳近くまで釣り上がり鋭い牙を見せヨダレがダラダラ垂れている。そして何より毛むくじゃらの筈の顔半分が戦闘で負傷したのか元からなのか、ベロンっと皮膚が爛れ骨が露出していた。

………………。

ヘラちゃんのお口にぶら下げているのは誰の足でせうか。ちょっとしたアクセサリー代わり?ははは、真っ赤な色でお洒落さんですねー。おやー?手にパチパチ光っているのは雷?綺麗ですけど、それどうするんですか?あ、やっぱりこっちに投げつけますか。でも人に物を投げてはいけませんよ〜。
は、ははは。…は。

ぷつん。



私の意識はブラックアウトした。








カーテンの隙間から入った日差しに目が覚めた私は消毒液の匂いがする救護室のベットの上でため息をついた。
訓練中、何度かお世話になったベッド。清潔だけど硬いのが玉に瑕。
おかげでギシギシして体が痛ーい。

あー、私どれくらい意識を失ってたのかな?意識がゆっくりブラックアウトする前にヘラクレスに攻撃を受け、咄嗟に銀波を握りしめた記憶が頭を掠めた。
ブラックアウトする意識の中で無意識に放った技、多分あれは反射鏡。
その名の通り相手から受けた攻撃を倍返しにして返す一発逆転の裏技とも言える奥義だ。

しかしこの技を使ったプレイヤーはほんの一握りじゃなかろうか。ネットに乗っていた攻略情報には、裏秘奥義の条件に体力値が10%以下の絶体絶命状態、満月の夜、そして初期装備の武器銀波、今持っている弓の名前だ。
武器は直ぐにカスタマイズ出来るので初期状態のままでいるプレイヤーは殆どいない上、まだ操作に慣れていないのに態々ギリギリまで体力値を減らすなどマイナス要素しかない裏秘奥義だからだ。


後のことは分からないけど、多分蓮様が止めを刺してくれたんだろうね。かっこいいよチート様♫

それにしても体が重い。よく無事だったよねー、これも日頃の行い。今回は偶然が偶然を重ねて何とか無事だったけど、無理。分かっていたけどこの仕事向いていない。
かと言って他にこれと言って人に自慢出来るような特技もなし。戦うことを抜きにすれば、残るのは訳の分からない前世の記憶とやらのみ。役に立ちそうなのはゲームの記憶と料理レシピと植物の栽培方法だ。
……そうだよ。私の中には農業高校で培った技術があるじゃないか!土壌の育成や野菜や果物の栽培方法など今では失われた、言わばロストテクノロジー。ふ、ふふふ。前世の記憶はこの為にあったんだね。ありがとう前世の私、そして宜しく農業ライフ!


「成る程、私の天職は農家だったのか」


呟いた私の耳にぷっ、と噴出する音が聞こえた。
慌てて振り向くといつから部屋にいたのか聖と蓮様が扉の前で吹き出していた。

「へ?」

い、一体いつからそこに?
私の顔が余程マヌケ顔に見えたのか、聖は体をくの字に曲げて爆笑し、蓮様は明後日の方を向きながら手を口に当て肩を震わせている。
貴方たち、イケメンだからと言って何でも許されると思うなよ。…大概許されるけどさぁ。けっ。
憮然とした私の表情に気付いた聖が目尻の涙をぬぐいながら近づき謝ってくる。


「はは、悪い悪い。でもさっきまで俺たち結構悲壮感漂ってたんだぜ?医者の話じゃ傷跡が残るって話だったし。
なのに起きてすぐ本人は天職は農家、なんて言うんだからなぁ」
「そうだな、しかしあの言葉で肩の力が抜けたのも事実だ。……真月隊員、ありがとう。お前のおかげで助かった」

……居た堪れない。感謝と好意の眼差しが痛い。
自分だけ逃げ出すつもりでした、なんて死んでも言えない。
罪悪感で何かがザクザク抉られている私に、聖が私の背中を壊れ物を触るようにそっと手で触れた。


「ゴメン蛍、女の子なのにここに傷を残しちまった。俺、責任とるから」
「すまない、上司として情けない限りだが安心しろ、死ぬまで面倒を見てやる」
「お断りします」

何の死亡フラグやねん。

「え〜?俺って将来有望株よ」
「隊長職は稼ぎもいい。お前の一人や二人ぐらい一生養える」
「私は気にしていませんし傷物になったから結婚してって何処の性悪女ですか。
第一ハデス相手に無傷なんて稀な事ですし、その理論で言えば女性隊員達は全員結婚していることになります」

きっぱりお断りしておく。
テレビで見た昼ドラで、妹さんの旦那に貴方に傷物にされたから(腕にちょっぴりの傷跡)責任とってと迫る性悪姉がいたよなー。私にあれと同類となれと?嫌だわー。
第一お付き合いなんかした日には一生ハデスと関わり合いになるんだよ?イケメンより自分が一番可愛いのです。
「かっこいいなー」「流石は私が見込んだことだけはある」、とか聞こえるけど気にしなーい。イケメンは画面越しで堪能するものだもん。
それよりも自由がほしい。目指せ世界一の農家!

流石に私前世の記憶が〜、何て言えば痛い子扱いされるので、寝ている時に土を耕し野菜を育てる夢を見てそれに憧れたので除隊届けを出させて下さい、と必死にアピールしてみたのだけれども蓮様の一言で計画があっさり頓挫した。


「お前の様な優秀な隊員を上が手放すと思うか?ああ、忘れているようだから言っておくが脱走者は死刑だからな」

おおうっ!

忘れてた。
このゲーム、脱走者は問答無用で死刑だったよ。
つまり何か問題でも起こしてクビにらならない限りずっとこのまま?


「わ、私の農業ライフが…」
「だーかーらー、それはただの夢の話。蛍の天職はハデスと戦う事なんだって。俺と一緒に入隊したんだから今更辞めるなんて言わないでくれよな」

聖はそれに、と続けながら私の髪を優しい手つきで梳きながら真剣な眼差しで言った。

「お前は命の恩人だ。『俺はお前の傍で盾となり剣となり全ての敵からお前を護るから』」

へ?この台詞って。
そして蓮様もパニクる私の手を取り口元まで持ってくると、甘い眼差しで微笑む。

「お前は私直属になったんだ。『俺はお前を逃がすつもりはない、覚悟するんだな』」


あれ?ちょっと違うけど、これって終盤に絆を深めるイベントで言われる台詞ではあーりませんか。

あるぅえぇぇ?




ママン、私の農業ライフはもう少し先になりそうです。




恋愛ジャンルを書いていない事に気付き書いてみましたが、これが精一杯でした。
( ̄Д ̄)ノ

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