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2話 入学試験 後編


「受験番号千五十四番、葛城風間です。よ、よろしくお願いします」

 試験管の前に立った風間は自分の名前と受験番号を言う。

「ハイハイよろしくゥ、カツラギ君ネ・・・なるほド」

 試験管の男は、スーツを着てシルクハット被るというとても学校職員と思えない姿であった。


「ワタシはダリー・ヘルン、ヨロシクお願いしまス。では早速試験を始めようと思いますガ・・・形式はご存知ですネ?」

「戦闘試験・・・ですよね」

 そう言った瞬間、風間の足元に何か違和感があることに気付く。

「手・・・!?」

 彼の足もとには大きな魔法陣が出現し、そこから無数の黒い手が出てきていたのだ。

 危険を察知した風間は魔法陣のある部分から咄嗟に離れる。

 突然発動された魔術に動揺する風間をダリーは余裕の表情で眺めていた。

「試験ハアナタが来た瞬間カラ始まってマス」

 ダリーはシルクハットをは外し、真上に投げる。投げられたシルクハットは棒状の物体に変化していき、杖となってダリーの右手に収まった。

 掴んだ杖を、指をさすかのように風間に向けると、彼はこういった。

「サア、あなたの本気を見せてくだサイ」

「本気っつっても・・・」


 正直なところ、風間には勝算があるとは思えなかった。言ってしまえば相手は魔術のプロだ。

試験としては勝てなくてもある一定の戦闘力さえあれば良いとされているが、それもまた難しい話である。野球やサッカーなどのスポーツにおいても、素人とプロで試合を行ったとしても、互角の戦いをできると思える人は到底いないだろう。それに近いような状況を風間は今味わっていた。

(勝つ必要は無い・・・けど、ボロ負けすることもできない・・・)

 風間に残された道は、ただダリーに立ち向かうことだけだ。それは彼も分かってはいるのだが、なかなか行動に移すことができなかった。


(それなら・・・俺はこの試験を”全力で楽しむ”・・・・!)

 そう自分に言い聞かせることで、彼は自分の置かれている状況を一変させようと考えた。

 持参していた小さな杖をポケットから取り出し、風間はそれはダリーの方に突き付け、呪文を唱えだした。

「我、炎と契約を交わし、力を得た者なり・・・」

 魔術の詠唱を始めた風間を見て、ダリーは打たれる前にこちらも魔術をぶつけようとした。魔術は基本、低ランクの術であれば詠唱をすることなく使うことができる。

 しかし、高ランクの魔術となれば話は別で、各術によって指定されている魔術式・・・所謂呪文を唱える必要がある。


 しかし、ダリーには一つ気がかりなことがあった。

 今まで実技試験を何度も行ってきたが、このように詠唱を有する高ランク魔術を使用する受験者はただの一人もいなかったのだ。というより、使用することができなかったと言った方が正しいだろう。

「今、炎の力を持ち、全てを焼き尽くせ」

 ダリーが魔術を仕掛ける前に詠唱を終えた風間の周りには三つの魔法陣が出来ていた。

 魔術を打ち消す式を唱えようとしていたが、そんなことをせずに彼の魔術を一度見てみたいと思ったダリーは、身構えて風間の魔術の発動に備えた。

「フレイムメテオ・・・!」

 魔術式を唱え終わった瞬間、風間の周りに生成された魔法陣より、炎を纏った小さな隕石が三つ放たれる。

(炎属性の魔術ですネ・・・!)

 さすがにこれを受けるはまずいと思ったダリーは、防御魔法でバリアに近い、光の壁を目の前に作り出して攻撃を防ぐことにした。

 一つ目の隕石は難なく防いだ。

 二つ目の隕石でバリアに少々ヒビが入る。

 そして、三つ目の隕石。

 それは当たった瞬間にバリアを完全に破壊し、ダリーに直撃した。

 攻撃をモロに受けたダリーは後ろに吹き飛ばれ壁に激突し、訓練所全体に大きな揺れをもたらした。

 試験を眺めていた他の受験者たちも、風間とダリーの試合に注目しており、驚きを隠せない状態であった。

(やばい、やりすぎたか・・・?)

と、風間は心配しながらダリーが吹き飛んで言った先を見つめていたが、ピンピンとした様子で立ち上がり風間の元に向かっていった。


「葛城クン、と言いましたネ」

「は、はい!すいません!力加減できなくて・・・」

 思わず謝ってしまうが、試験として特に悪いことをしたということではなかった。しかし、自分の魔術で人に怪我をさせてしまったのではないかと考えると、気分は良くないものである。

「アナタは文句ナシの合格デス」

「不合格ですよね、こんなの・・・って、は?」

 突然の合格の通知に風間は驚愕した。それよりも、他の受験者たちの方が驚いた様子を見せていた。試験後に魔術に関して褒められるということはよくある話ではあるが、即座に合格を言い渡されるなんてことは、誰一人もいなかったのだ。


「え、いやそんな簡単に決めちゃっていいんですか!?」

 さすがの風間も動揺を隠すことができなかった。それに、その場で合格を言い渡されるというのも、他の受験者にとっても良いことではないだろう。突然のできごとではあるが、風間自信も何故か罪悪感を感じていたのだ。

「いいんデス、私はこう見えテモ、アフルアでは重要な立場の人間なのデ」

「いやいや、そういう問題じゃなくて・・・」

「い い ん デ ス 」

 風間はダリーの気迫に押され、結局流れに任せてしまう。

 なにか裏でもあったんじゃないかとも考えたが、まあそこまで考えても仕方ないかと思い、彼は自分の席に戻ることにした。

 

(無自覚系の天才デスネ・・・彼は、成長するノガ楽しみデス)

魔術に関する類まれな才能を彼から感じたダリーは、魔術学校に入るべき存在というのを改めて認識した。できない人を育てるより、できる人を更に伸ばす。ダリーにとってはそのような考えが一番に大切だと思っていたからだ。


「あ、あんた・・・その場で合格って・・・賄賂かなんかしたんじゃないの?」

 席に戻るなり、麻友は不機嫌そうな顔をしていた。

「んなことしてねーよ!俺だって何が何だかわかんねーもん」

「ホントかしら?」


「本当だよ!そこは流石に信じてくれよ!」

 本当に何もしていない風間にとっては、勝手に疑われるというのも迷惑な話である。合格を言い渡すにしても、何もあの場ですぐ言う必要は無かっただろと思っていた。

「まあ疑っても仕方いわよね・・・はあ、なんでこんな奴が簡単に合格しちゃうのよ・・・」

「知るか、てか次は亞咲の番じゃないのか?」

「あ・・・」

 そう言われてみれば、と風間に言われて気づく。

 直後に、麻友の名前と受験番号がアナウンスされ、遅れているので早く来るようにと言われる。

「・・・絶対合格するから、見てなさいよね」

 少し恥ずかしかったのか、顔を若干赤らめて、彼女はそう言った。


 一通りの試験が終わり、全員の受験者が終わるころには外は真っ暗になっていた。

 合格発表は一週間程後に、受験者の家に手紙として届けられることになっているのだが、風間にとってはそれも関係のない話であった。

(なんか既に合格決まってるってのも、なんだかつまんないな・・・)

 そう思いながら風間は帰路につくことにした。


 一方、校長室では、ダリーと校長で話をしていた。

 校長室は魔術書や書類が散らばっており、立っていられる場所の方が少なかった。周りは大きな本棚で囲まれており、これもまた魔術書などの書籍が多く見られた。

「というわけデ、葛城風間クンは合格ということデよろしいでしょうカ?」

「うむ、結構・・・私も彼の父をよく知っていてね、ちょうど気になっていたところだったんだよ」

 ボサボサ髪で無精ひげを生やした・・・とても校長とは思えないような姿の男、藤丸校長が頭を描きかながらそう言った。

「それに、ダリー君も気に入ってるようだからね。とはいえ、葛城君には高ランクの魔術を教えることは控えた方がいいかもしれないね、彼の実力では最悪なことが起きる可能性も否定はできない。それだけは注意をしてくれ」

「ハイ、わかりましタ」

 ダリーはそう言って、校長から背を向け、部屋から出た。

 廊下に設置してある松明が、ダリーが部屋を出た瞬間に火が付き、真っ暗であった廊下を一気に照らした。

「葛城風間・・・入学が楽しみデスネ」

ダリーは不気味な笑みを浮かべながら、夜の闇に消えた。

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