幕間 セーフティ
一般家庭、と言えばいいのか。
俺の家はごくありきたりだった。小さな不満はあるが、生きていけないわけではない。大きな買い物はできないが、少しの贅沢ならできる。屋根がある。床がある。扉も、窓も、布団も、テレビも、エアコンも、冷蔵庫もある。不自由のない暮らし。
その程度の、生まれだった。
だから、この世界を知ったとき、彼女を知ったとき、俺は、同時に未知を知った。
己自信にも降りかかる理不尽。その、不幸を知ったのだ。
俺は身震いをした。人間の不幸が、そこに転がっている。
あたりまえの顔で。
当然であるかのように。
そんなことはないのに。
俺は得ていた。過去、別の世界で、俺の世界で。平凡であるからこその、幸せを、得ていた。これはなんだ。俺の目の前にいるのはなんだ。不幸。これが。そうなのか。驚いた。戦慄した。嫌悪した。けれど、だからこそ、俺は、それを。
愛した。
好きだ好きだ好きだお前の不幸が好きだ。お前のその影を含んだ顔が好きだ。お前の生きる意味。なんの意味もない。意味もないのに生きている。お前が好きだ。好きだ好きだ好きだ。くだらない命。間違った命。お前は生まれるべきではなかった。底辺。その言葉すらもお前には相応しくはない。お前に命など無用だ。不必要だ。どうしようもないほどに。お前は、お前は、お前は、そう、お前は。生きている意味がない。お前には、生きている意味がない。だから。だからこそ。
愛しい。
俺の、ただひとりの子。
お前をずっと、見ていたい。
………………………………………
城に二人の子供がたどり着いた。
片方は少年。片方は少女だった。
二人を出迎えた男は、しゃがみこみ、慈愛に満ちた目で子供たちの顔を眺める。
「ようこそ」
そして、少女に向かって言った。
「ここが、君の墓場であり、職場であり、そして」
「家である」
………………………………………
検索中。
該当が**件ありました。
**********
******
*******____停止。
再検索。
該当が1件ありました。
エルム・__。
補填開始。
補填完了。