幕間
笑い声が響く。
「姉様」
笑い声が響く。姉様はティーパーティーなどと称して、空のカップとソーサーを両手で持ち上げている。
「戻ってきてください」
指が持ち手から離れた。陶器が割れる。カップ。ソーサー。続く笑い声。姉様は何も持っていない手を動かして紅茶だか酒だかなんだか分からない、空想の中にいる姉様以外には分からない、そんなものを飲んだ。
「姉様」
なにをやっているんだ。なにをやっているんだ。
俺は。
「姉様」
笑い声と呼び声だけが部屋の中にある。そこに人はいない。肉体はあっても人はいない。人格はない。姉様にもう人格はない。姉様はもういない。俺は。
「姉様」
それでもこの肉塊を姉様と呼び続ける。もしかしたら、と淡い期待を抱いて。戻ってきてください。戻ってきてください。己の腕の中を見る。小さな赤ん坊がいる。どこの誰の血を引いたのか分からない不気味な赤ん坊。肉体だけ帰ってきた姉様が、身ごもっていた赤ん坊。取り戻した、助け出したはずの姉様が、腹に抱いていた赤ん坊。
「この子があなたの息子です」
むずがる赤子を差し出して、姉様の反応を待つ。
期待している。いままでと違う反応を、俺は。それでも、まだ。
姉様はぼんやりとした視線を己が息子に当てて。
「うぅ」
と言った。それは、それは言葉ではなかった。呼吸音、呻き、それですら、無かった。なにか、魂が零れ出すような。死に起因したなにかのような、もの。
続けて笑い声が響いた。なにをやっているんだ俺は。なにをなにを。なにを、期待して。
「はは……」
姉様が笑うので俺も笑う。
腕の中の赤ん坊は、いつのまにか大きな声で、泣いていた。
………………………………………
「この子は、どうなるの」
少年が言った。男は少年が覗き込むゆりかごに視線をやった。そこには、布に包まれた子供がいる。腕も足もない。芋虫のような少女。それを眺めて少年は言う。
「この子は、どうすれば、幸せになれるの」
なれない。男は思った。恐らく、少女も、少年も、男も、この世界で誰一人として幸せなれるものはいないだろう。それでも、男は言った。
「俺がなんとかする」
それは、決意を秘めた言葉だった。少年は男をぼんやりと見上げて、黙ってその顔を眺める。
「俺はなぁ」
男が口を開き。
「売られた喧嘩は片っ端から買う主義だッ」
はっきりと吠えた。少年はそれを聞いてしばし呆然としたあと、ゆりかごの中に再度、顔を向けた。
ぐっと口を引き結んで、力を蓄える。泣くには早いと、少年は小さな身体で、そう思った。
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そこに
そこにいるのは
答えろ
そこにいるのは誰だ?