表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/67

番外編その五である!……ちょっとハッチャケ過ぎてない?

3話連続投稿、第二弾。

やっぱり、思いついたネタをぶち込んだ話の様な話だったりする。

「〜〜♪〜♪〜〜〜♪」


 広大な湖のすぐ傍にある、半水棲種達が暮らす村の中。とある家の中で鼻歌交じりに手を動かしている者が居た。

 一見美少女、その(じつ)男の娘。彼を知る者全てが、一度は彼の性別に首を捻る事は間違い無しな容姿を持った白く長い髪の人物。本作主人公のシノブである。


「〜〜♪〜〜♪」


 実に機嫌良さそうに歌いながらも手は止まらない。何をしているかと言えば、()()の真っ最中である。

 現代日本からファンタジーな世界に転生したシノブには、当然携帯もスマホも無い。有る訳無い。となると、暇な時間が出来た時にどうするのか? と言う事になる。

 半水棲種としての、水生植物・生物の育生や、一応シノブは村長なのでそれ関係な仕事。後はライブなどが有るが……それ等を終えてしまえば、どうしても空いた時間と言うのは出来る。その時間をシノブは前世で良くやっていた趣味を再開する事に当てている。

……その空いた時間で村の外をほっつき歩かないでくれ、と多くの者達からの説得が有った事は言うまでもない。


「〜♪ 良しっ! 出来上がり〜♪」


 仕上がった完成品を前に、その出来を確認して顔を綻ばすシノブ。そして、その完成品を何時もの場所に仕舞う。


「ん〜〜。こうして見ると、結構な数になったね〜」


 これまでに自分が造った完成品達を見ながらシノブは呟く。そしてふと思えば、完成品の殆どが未だ使用されていない事に気づく。


「あ〜〜。造る方にばっか、気が向いちゃってたからね〜」


 頭をポリポリ掻きながらシノブは苦笑い。そして腕を組んで考え込む。


「う〜〜〜ん……折角造ったんだし、使わないと勿体無いよね……どれ使おうかな〜?」


 完成品の一つ一つを手に取り、シノブはそれ等を()()使おうかと考え始めた。、




   *   *   *


「だからっ! この有り余る探究心が、私を突き動かしてしまうのよっ! 仕方の無い事なのよっ! そう、呼吸するかの如く自然な事なのよっ! だから私は悪くないわっ!!」

「……毎回毎回、似た様なセリフ。いい加減、聞き飽きたわ」

「「「「「同感」」」」」


 とある深い森の中に存在するエルフの村にて、騒がしい場所があった。

 この村の村長であるアムリナ以下、大勢のエルフ達が輪になって囲むその中心には。ボサボサ髪に(くま)の出来た眼と不健康間違い無しな女性が簀巻きにされて転がされていた。

 簀巻きにされているのは女性はメディ。かつて、胸の大きくなる薬で一騒動起こした女性である……なお、彼女が簀巻きにされるのは、エルフ達に取って悲しい事に日常茶飯事になりつつある。彼女に対しての過去ログ調べたら凄い事になる事この上ない。


「こんにちは〜♪」


――と、皆の背後から聞こえる声。もはやこの村の皆に取っても聞き慣れた済んだ声。

 突然この声が聞こえても、もう皆は驚く事は無い。何故ならば、何時だってこの声の持ち主は突然だから。突然現れ、突然突拍子も無い事をし、突然消えて、そして突然スライムから半水棲種になって現れるのだから。

 その場の皆が揃って視線をそちらに向ければ――


「あれ? また簀巻きにされてるの? 今度は何をしたの?」

「「「「「…………」」」」」


……非常にコメントに困る者がそこに居た。


「? どうかしたの?」


……どうかしたのどころじゃ無い。

 そこに居たのはシノブである。声がしたのだから、本人が居るのは当たり前である……但し、()()が当たり前じゃ無かった。

 何時もの、上は袖無しシャツ・前開きジャケット・指出し長手袋に、下はホットパンツ・ニーソックスな格好では無かった。着ているのは袖無しのロングスカートな白のワンピース。肩から先が露出しているのは変わりないが何時もとは違う服装に、身に纏う雰囲気まで変わって見える。清純と言う言葉を表したかの様な姿に、頭に被っている麦わらっぽい帽子が更に引き立てていて、何故か皆の脳裏に夏の向日葵(ひまわり)っぽい畑が思い浮かぶ。

……そして全員が、コイツは男だと言う現実に心の中で誰にともなく叫ぶ。何故だっ! と。


「……なんじゃ、その格好は?」

「似合ってるでしょ?」

「似合い過ぎじゃ……どこからそんな服を持ってきたんじゃ?」

「自作〜♪」

「「「「「お前が造ったのかっ?!!」」」」」


 アムリナの疑問に対したシノブの発言に皆の驚きの声が響き、言われた本人はフフン、とどこか得意気に胸を張る。


「何で、着ておるんじゃ?」

「折角造ったんだし、使わないと勿体無いじゃん?」

「だから、何で()()で着ておるんじゃ?」

「初めて造ったんで……サイズ、自分に合わせて造っちゃったんだよね」

「「「「「…………」」」」」


 それでも自分で着るのは何かオカシイだろ? 皆そう思ったが口には出さない。どうせ言っても意味が無い事は、みんな良〜く知っている。


「…………」

「? 何、エル?」


 と、何時の間にやらシノブとは一番付き合いが深いエルが、傍に立ってシノブをジッと見つめている。

 見つめ合う事数秒。シノブは可愛く小首を傾げて尋ねる。


「……もしかして、エルも着たいの? これ」

「ん」

「ん〜〜。なら、サイズ計らないとね」

「ん」

「何か要望有る? ここはこういう風にしてほしいとか」


 シノブの問いに即座に頷くエル。そしてアレコレ話しながら二人連れたってその場を離れていく。その姿は仲の良い()()にしか見えない。


「……どれだけ女子力高いんじゃ。あ奴」

「「「「「同感です」」」」」


 ポツリと呟いたアムリナの一言に、皆が即座に頷いた、

……なお、ドサクサに紛れて逃亡しようとしたメディはすぐに捕まり、その分、上乗せされたお仕置きを受けたと言う。




   *   *   *


「――ふうっ……」


 とある龍族が住む広大なる平原。その平原の一画に広がる多くの畑の一つで、作業が一段落したスォイルは満足気な息を吐いていた。汗が流れる額や頬に心地よい風が当たり、実に気持ちが良い。


「お〜い。一休みしようか」

「ん? そうだな」

「そうするか」

「あ〜〜、腰が痛い」

「こっちは膝にくる」


 スォイルの呼びかけに近くの畑で作業していた面々が賛同し、鍬や鎌を安全な場所に置いてから手頃な場所に集まり輪になって座る。


「しかし、やってみると中々に面白いね。これ」

「ああ。何と言うか、こちらが手を掛けた分だけ作物も答えてくれると言うか……」

「本当に眼が離せない。ふとした拍子に変化してるし」

「芽が成長したり、実が大きくなったりするのを見てるとね」

「収穫が待ち遠しくなる」


 皆揃って農作業やら何やらについて話し合う。その表情は疲れが見えても、それを上回る楽しさが見える。

 そんな中、土に汚れた手で流れる汗を手拭いで拭いていた一同に声が掛かる。


「お疲れ様〜♪」


 言葉と共に一同の中央に置かれるお盆。そこには冷えた水が注がれたカップが人数分置かれている。


「ああ、ありが――」


 皆が口々に礼を言いながらカップを口につける。そして持って来てくれた相手の方に顔を向けて―― 


「「「「「――ぶふぅーーーーっ?!!」」」」」


――揃って含んでいた水を盛大に吹き出した。お互いに吹き出した水をかぶりびしょ濡れになり、気管支に入ったのか盛大にむせる。


「? どうしたの?」


……どうしたのどころでは無い。

 そこに居たのはシノブである。何で居るのかは問題じゃ無い……問題なのは()()の方である。

 着ているのは緑に染められた和服。その上からフリル付きのエプロンを着ていて、何時もとは違う服装に、身に纏う雰囲気まで変わって見える。一歩後ろに引いたお淑やかな姿と、両手で胸の所に抱えたお盆も相まって、日本ならば茶店の看板娘と言う言葉がピッタリである。

……そして全員が、コイツは男だと言う現実に心の中で誰にともなく叫ぶ。この世は残酷だっ! と。


「……何、その格好は?」

「似合ってるでしょ?」

「似合い過ぎてるよ。誰が造ったのかな?」

「自分〜♪」

「「「「「お前が造ったのかっ?!!」」」」」


 スォイルの疑問に対したシノブの発言に皆の驚きの声が響き、言われた本人はエヘッ、とお茶目に笑う。


「何で、着てるの?」

「折角造ったんだし、使わないと勿体無いじゃん?」

「だから、何で()()で着てるのさ?」

「着てみたかったから」

「「「「「…………」」」」」


 そんな理由で着るなよっ! 皆そう思ったが口には出さない。どうせ言っても意味が無い事は、みんな実に良〜く知っている。


「…………」

「? あれ? ユーフィ」


 と、何時の間にやらシノブの後ろにスォイルの娘であるユーフィが立っていて、シノブをジッと見つめている。その眼はどこか不機嫌と言うか拗ねてると言うか、何とも複雑な表情である。


「だから、ズルいです」

「え〜〜? そう言われてもね」

「ズルいものはズルいです」

「何なら着る? ユーフィも――そこのお父さん、娘がこの格好したらどう思う?」

「最高だねっ!!」


 シノブの言葉に即答で返すスォイル。むしろ周囲の面々も同意している。それを見て、シノブはユーフィの手を取り半ば引き摺る様に連れて行く。


「多数決により賛成多数。可決〜♪」

「えっ? あの?」

「と言う訳で採寸〜♪」

「いやっ? あのっ?」

「お一人様ご案内〜♪」

「ちょっ? えええええっ?!」


 困惑のまま流されるように連れて行かれるユーフィと、ルンルンで連行するシノブ。何と言うか、仲の良い()性の友人同士としか見えない。


「……ホント女子力高いよね。彼」

「「「「「全くだ」」」」」


 ポツリと呟いたスォイルの一言に、皆が即座に頷いた、

……なお後日、本当に出来上がった和服を着せられたユーフィを見て、ちょっとばかし暴走したスォイルが宙を舞う事になるのは、些細な事……にされた。




   *   *   *


「今回は上出来だな」

「ああ。これ程の大物を獲れたのだからな」

「ふっふっふっ、村の連中、驚く事間違い無しだな」

「今夜は宴だな」


 見晴らしの良い草原を大勢の獣人達が連れ立って歩いている。話題は当然、皆が引いている即席の台車に乗った本日の狩りの成果である獲物。仕留めるのにかなりの苦労と皆にも少なくない手傷を負わされたが、それを補って余り有る成果といえよう。


「フフン♪」


 今回の狩りに参加していた猫の獣人であるユユも、皆に混じって靴に満足気な笑みを浮かべていた。

 そうこうしている内に、縦に突き刺さった丸太に囲われた自分達の村が見えてくる。皆が見張りの男に手を振って、自慢気に台車に乗っている獲物を指し示す。対する相手は見張り台から感嘆の声を上げて、皆に(ねぎら)いの声をかける。

 すぐに門が開かれ皆が台車を引いて入る。そして村の皆に知らせる為に声を張り上げようとして――


「お帰りなさいませ〜〜♪」

「「「「――――」」」」」


――全員が地面と激しくキスをした。


「? どうかなさいました?」


……どうかなさいましたでは無い。

 そこに居たのはシノブである。何で居るのかはもうこの際どうでも良い……どうでも良くないのは()()の方である。

 着ているのはフリル付きの白いエプロンと、広がったロングスカートが特徴の濃紺のワンピース……どっからどう見てもメイド服である。袖もしっかり長袖でありヘッドドレスまで着用。何時も着ている服の様な過度の露出は断じてない正統派メイド服。何時もとは違う服装に、身に纏う雰囲気どころか言葉使いまで違っている。前で両手を組み(かしこ)まった態度から、仕える者としての誇りが垣間見える。

……そして倒れた全員が、現状に対して心の中で誰にともなく叫ぶ。何なんだっ! と。


「だーはっはっは!!」

「引っかかった! 見事に引っかかった!」

「見たかよ、あれ! 皆揃って綺麗にブッ倒れたぞっ!!」

「よ、横っ腹が痛ぇ〜!!」


……そしてそれを見ていた村の皆が腹を抱えて笑う。心底、楽しそうに。中には笑いすぎて過呼吸起こしてる者まで居た。


「何だ!、その格好はっ?!」

「見ての通りです。似合っていますか?」

「そんなの関係あるかーっ!! どっから持ってきたーーっ!!」

「自宅です♪」

「「「「「お前が造ったんかいっ?!!」」」」」


 一速く立ち直ったユユが激しく詰問し、対したシノブの返答に皆の驚きの声が響き、言われた本人はクスッ、と控えめに笑う。


「何で、着てるんだよっ?!」

「これから宴だと聞きましたので」

「だからっ! 何で着てるんだよっ?!!」

「この後の宴で、この格好で給仕やお酌をする予定ですので」

「「「「「ならば良しっ!!!!」」」」」


 その言葉に倒れていた者を含め、村中の男達が親指をグッと上げる……女性陣は微妙〜な眼を向けているが。


「――皆、バカばっかりだーーーーっ!!!!」


……そしてユユの叫びが村中に響き渡った。なお、その後の宴では、酔っ払ってシノブに絡んできた者が幾人も投げ飛ばされて、早々に気を失う事になる。




   *   *   *


「ひが〜し〜」

「おうっ!」

「に〜し〜」

「おっしゃ!」


 山岳地帯の山間に存在するドワーフ達の村。そこにある、もはやこの村の名物とも言える土俵で、今日も相撲が執り行われていた。

 土俵に上がったグレッコは凄まじいまでの集中力を見せていた。何せ今日勝てば、初の全勝優勝である。今ここで全力を尽くさねば何時尽くすのか。

 そしてそれは周囲で見守る観客達も同じ。皆が固唾を呑んで、勝負の行方を見届けようと真剣な眼で見つめている。


「両者見合って――」

「――――」

「――――」

「はっけよい――」

「――――っ!」

「――――ッ!」


 行司の声に、両者の足腰に力が篭る。後はタイミングと勝負度胸。勝利の美酒に酔うのは自分だと、己の全てを込めた全身全霊の立ち上がりを決めて――


「フレ〜! フレ〜!」

「「――っ?!!」」


――両者共にズコッとコケて、土俵上でもんどりうって倒れた。周囲で固唾を呑んでいた観客達も皆揃って。


「? あれっ?」


……あれっ、じゃ無いったら無い。

 声を掛けたのはシノブである……もはやコイツに言うべき事は無い。

 着ているのは袖無しで丈が短くおへそがチラリと覗くシャツと、太ももが顕なミニスカート。両手にポンポンを持ち髪型をツインテールにしたチアガール姿。何時もとは違い過ぎる服装に、もう何を言っていいかわからない。

……そして全員が、コイツは男だと言う現実に心の中で誰にともなく叫ぶ。神のバカヤロ〜!! と。


「……何なんだよ! その格好は?!」

「似合ってるでしょ?」

「似合い過ぎだ! 誰作だ?!」

「自分〜♪」

「「「「「お前が造ったのかよっ?!!」」」」」


 起き上がったグレッコの疑問に対したシノブの発言に皆の驚きの声が響き、言われた本人はアハハハ〜、と健康的に笑う。


「何で着てやがる?」

「グレッコの全勝優勝がかかってると聞いて、応援に来たんだけど……ただ応援するのも何だと思って?」

「普通に応援しやがれっ!! んな格好して恥ずかしく無ぇのかよっ?!!」

「え〜〜。だってさ、何時もの格好からジャケットと指出し長手袋を脱いで、ニーソックスを短くしてホットパンツの上からスカートを穿いてるだけだよ?」

「「「「「…………」」」」」


 言われてみれば普段とそう大差無い……が、それとこれとは別問題だ! 皆そう思ったが口には出さない。どうせ言っても意味が無い事は、みんな不本意ながら良〜く知っている。


「――ちょっといいかい?」


 真剣な空気が完膚なきまでに消え去った場所で、シノブにグレッコの妻であるエリンが声を掛けてくる。何事かと顔を向ければ、やや困惑気味な彼女が親指であちらの方を指し示している。その先に在るのは子供用の土俵。


「何か、向こうの賑わいが半端じゃ無いんだけどね……アンタ、何かやったのかい? また自分を優勝賞品にしたとか……」

「ん? イヤ、今回はボクを賞品にしてないよ? 流石に」

「なら……」

「代わりに優勝者には、ボクお手製の手袋・ニット帽・セーター・マフラーをあげるって言ったけど」

「「「「「どんだけ女子力高ぇんだよ、テメェはっ!!!!」」」」」


……そしてその場に居た全てのドワーフが間髪入れずにツッこんだ。




   *   *   *


「――遅くないか?」

「うむ、ザッシュ殿はどうされたのか?」

「…………」


 場所だけでなく世界も変わって、魔族領の魔王城。会議室のデカいテーブルに、魔族領の運営を司る重臣達が揃っていた。

 上座には、現魔王であるアマリーも着席している。本来ならば年齢的にまだ小さいアマリーが参加しても余り意味は無いのだが、魔王と言う立場故に名目上とでも言う形で参加している……最も、何とな〜く自分でも場違い的に感じているのか、やや縮こまっている。

 そして重臣達が先程から話題に上げているのは、この国のナンバー2たる鳥人間のザッシュである。何時もならば当然こういった会議には参加は必須なのだが、予定時間を大幅に過ぎているのに姿を一向に表さない。

 皆が困惑顔で話し合っている所にドアが開く音がして、漸く来たのかと皆が顔を向け――


「お待たせ致しました」

「「「「「…………」」」」」


――全員がテーブルにズゴッと額をぶつけた。アマリーに至っては椅子からずり落ちている、


「? どうしました?」


……どうしましたでは無い、無い、無〜い。

 そこに居たのはシノブである。ザッシュはどうした、と言う疑問は誰も浮かばなかった……そんな事どうでも良い程に()()の方に皆の眼が向いている。

 着ているのは上下共にビシッと着こなしたスーツ。黒を基調とした襟から爪先に至るまで見事な仕立ての執事服。更に何時もはストレートの白い髪を、三つ編みに編んで横に垂らしている上に、何時もとは違う服装に身に纏う雰囲気どころか言葉使いまで違っている。キリッとした顔と凛とした(たたず)まいに、忠義の士と言う言葉が皆の誤に浮かぶ。

……そして倒れた全員が、現状に対して心の中で誰にともなく叫ぶ。ザッシュはどうしたっ?! と。


「……何故にそんな格好を? ザッシュ殿は?」

「ザッシュ殿は体調が優れないとの事で、私が代わりに……服装については、会議と言う事なので合わせてみました」

「……いったい何処から?」

「私の家から」

「「「「「貴方が造ったのですかっ?!!」」」」」


 重臣の一人の質問に対したシノブの返答に皆の驚きの声が響き、言われた本人はフッ、と貴公子然に笑う。


「取り敢えず、会議の時間も過ぎていますので、始めましょう。ご安心を、内容についてはザッシュ殿から伺っておりますから」

「…………うむ」


 シノブの言葉に一人が頷いたのを契機に、漸く会議が始まる。そして――


「――と言う訳で、こちらの案件に関しましては順調に推移しております、続きまして――」

(((((い、意外にやるぞ、この者?!!)))))


――シノブの見事な司会進行に、重臣達が内心で眼を見開くのであった。




   *   *   *


「「「「「…………」」」」」


 その日、半水棲種達の村では朝からある種の緊張感が張り詰めていた。皆が皆、何かを待ちわびる様な、期待する様な空気が蔓延し、挙動もややソワソワしている。仕事も手につかず、些細なミスが目立ち、僅かな段差に躓く者も居る。


「皆、オハヨ〜♪」

「「「「「――――っ?!!」」」」」


 そこへ聞こえる中性的な声。それが聞こえた瞬間、スイッチが切り替わったかの様に、皆の顔がグリンッと勢い良くそちらへ向いて――


「ん? どうしたの?」

「「「「「――異議有りィィィィィィーーーーッ!!!!」」」」」


――全員が一人に向けてビッと指差し、魂の雄叫びを上げた。


「え? え? 何? 何なの?」


……困惑するのも仕方が無い。

 そこに居たのはシノブである。声がしたのだから、本人が居るのは当たり前である。

 服装も、何時もの上は袖無しシャツ・前開きジャケット・指出し長手袋に、下はホットパンツ・ニーソックスな格好で――そう、()()()()服装で。


「ふざけんな、チクショ〜〜っ!!」

「何でだよっ!! どうしてだよっ!!」

「この展開は有り得ない! 認めないっ!!」

「ダメだ却下だやり直しだっ!!」

「これが贔屓ってやつかっ?!! 格差社会なのかっ?!!」

「…………」


 何か知らんがいきなりのカオス状態に二の句が継げないシノブ。打ちひしがれて漢泣きまでしている者まで居るので、質問したくても何か気後れしてしまい出来無い。

 そんなシノブに助けとなったのは、静かに歩み寄ってきたテアである。


「……何でボク、皆から詰問されてるの?」

「え〜とですね。それはここ数日の貴方の行動がでしてね」


 理由を聞いたシノブが、返された言葉に少し首を捻る。そんなシノブに、わかりやすい様に更に言葉を重ねるテア。


「他の種族の村落に、色々な服装をして訪れたでしょう?」

「うん」

「だから皆も、何かしらの服装で現れると思って待ち望んでいたのに……」

「……何時もの服装で現れたから、不満爆発しちゃったと……」

「そう! そうよ!!」


 と、いきなり酒瓶片手に話しに加わったのはウィス。興奮しているのか、既に呑んでいるのか判断出来ぬ赤い顔でシノブに詰め寄ってくる。


「どんな服装で現れるか賭けてたのに、それはないでしょう?!! もう呑まなきゃやってられないわよっ!!」

「だから! 何でもかんでも理由を付けて! 真っ昼間っから酒を飲むなと! 言ってるでしょうがっ!!」

「あっ?! ちょっと! 返しなさい!!」


 横合いから突然現れウィスの酒瓶をふんだくったパーム。そのまま二人、もつれ合ってキャットファイトに移行する。周りの者達は誰も止めない。悲しい事に、日常茶飯事だから。


「ぶ〜、ぶ〜」

「ぶ〜♪ ぶ〜♪」

「何で普段の格好何ですか? ここは何か別の格好で登場するのが流れじゃないんですか?」


 無表情ながらもハッキリと不満を顕わにするキーマと、明らかに便乗してるだけのステラ。更にテアからの言葉に、流石にシノブも一言ぐらい言いたくなってきた。


「……なんか理不尽に感じるんだけど」

「私は貴方の容姿に理不尽を感じてるわよ」

「…………」

「「「「「ああっ!!」」」」」


 シノブと、何時の間にやら定位置と化したシノブの腰にしがみついているユウ以外の面々が、テアのツッコミに深く頷く。

……この後。皆の不満解消の為に『しーちゃん七変化ライブ』が開催される事になり、更に後日に、シノブの元に色々な所から服の作成注文が舞い込む事になるのであった。


「完全手作業だから時間掛かるよ?」

「「「「「構いません」」」」」

「良いけど……(ミシン欲しいな〜。ドワーフ達、作ってくれないかな?)」

ご愛読有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ