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超番外編である!本編とは全くもって関係無い! 下

コッチは『下』なので気をつけて。

『上』との二話同時投稿です。

「〜〜♪」

「ハイハイ、ホントすっかり甘えん坊になったね、アマリーは」


 時はちょっと流れて三ヶ月後……元の世界とこっちの世界の二重生活してるシノブ主観では、六ヶ月経っているが……

 魔王城の一室で完全に懐いたアマリーを膝の上に乗せて頭を撫でるシノブ(アマリーの要望にて猫耳装着しーにゃんVer)と、幸せそうな笑顔でスリスリ抱きついているアマリー。魔王城の皆は、アマリーのこんな笑顔を初めて見た上に、シノブが居ない時でも笑顔を良く見せる様になった事に涙を禁じ得ない。

 ちなみに、この三ヶ月シノブがこの世界で何をしていたかと言えば……


――しーちゃんライブで魔王城の皆を熱狂の渦に叩き込んだ……何をしているんだ。


――人気が人気を呼んで、他の地域でも出張ライブを開催した……本当に何をしているんだ。


――大人気のあまり遂に魔族領全土でのライブツアー開催が決定された……オマエ本当に何しとんねん?


――そんな訳で、こっちの世界でもシノブの事を知らぬ者はいなくなった……何故、男なんだと嘆く者も数知れず。


「――失礼致します……」

「? どうかしたの? 深刻な顔して」


 部屋に入ってきたザッシュさんの顔を見てシノブが尋ねる……見慣れたお陰で、鳥の顔なのにわかる様になったシノブである。


「…………人間達の国で異世界からの召喚が行われたそうです……」

「…………はい?」


 告げられた内容にアマリーを撫でる手が止まる。アマリーも眼を見開いてザッシュさんの方を見ている。両者の瞳に見つめられたザッシュさんは、酷く疲れた様子でソファーに座り、手に持っていた紙束……恐らくは報告書をチラリと横目で見ながら語る。


「言葉の通りです……人間達も異世界人を召喚したのです」

「……いや、でも確か、召喚には膨大な魔力とそれを制御する緻密で繊細なコントロールが必要だから、事実上無理なんじゃなかったの?」

「……かなり、強引(・・)な手段を使ったようです」


 そして紙束をペラリと捲って書かれている内容を伝えるザッシュさん。


「先ずは魔力に付いてですが……これは、別のモノで代用する術が存在しております。変換効率(・・・・)が酷く悪いですが……」

「別のモノ?」

「はい…………生命力。要するに命です」

「…………生贄?」

「はい。国中の収容中の犯罪者達の中でも、特に魔力を多く持った者を使った様です……使われた囚人で、生存者は一人も()りません」

「…………」


 のっけから心が冷めていくシノブ。確かに、犯罪者を生贄に使うのは理に適っている。それはわかるが……犯罪者の中で魔力を多く持った者、と一括りにして生贄にするのは納得出来無い。犯罪者にもクズが居れば仕方無く罪を犯した者も居るだろう。その事を一切考えない所業に、シノブの中でこの世界の人間達の株価がストップ安である。、


「術者達も……薬で自我を奪われていたそうです。身体への負担を気にせずに術を行使させる為に……ただ術を成功させる為だけに」

「…………トコトン、クズだね」


 何時もならば、太陽の光が差し込んだ海中の如く明るく澄んだ温かさを持った蒼い瞳も、今は永久氷壁の様な絶対零度並に冷たい瞳になっている。

 アマリーが怯え、ザッシュさんも若干逃げ腰になっている事を無視して、シノブは一番(かなめ)の部分を聞く。


「……それで、何の為に(・・・・)召喚なんてやらかしたの?」

「……察しておられるのでしょう? 私達魔族との戦争の為です」

「…………」


 シノブの瞳が、夜の海の如くハイライトの消えた暗い瞳へと変わる……アマリーの怯えが増し、ザッシュさんも若干距離を取っている。


「……でもさ? 召喚されたのが実際に戦争に参加しようとするの? 役に立つの?」

「そこは、召喚陣の描き方(・・・)次第です。現にシノブ様を喚んだ時もどんな者を喚ぶのか設定してありましたし、この世界からお戻りの際は身体の時間も巻き戻す効果も付与されましたでしょう?」

「あ〜〜。つまり……」

自分達の(・・・・)手駒にす(・・・・)るのに都(・・・・)合良い者(・・・・)を呼び出(・・・・)す様に設(・・・・)定出来ま(・・・・)すし(・・)何かしら(・・・・)の力を付(・・・・)与する事(・・・・)も出来る(・・・・)という事です」

「…………で? 結局どんなのが召喚されたの?」

「…………」


 無言で渡された報告書を読むシノブ。ちなみに、この世界の文字はシノブが居た世界の文字とは違うが、シノブは何の苦も無く読むことが出来る。恐らく、一番最初の転生の時に『管理者』から貰った、『言語理解能力』が適用されているからだとシノブは思っている。

 詳細に調べ上げられた報告書を読み進めるにつれ、シノブはもう色んなモノを通り越して呆れるばかりであった。


(…………酷いね、コレ)


 報告書によると、召喚されたのは16・7ぐらいの男性。召喚された当初は慌てふためいていたが、周囲の皆からの「勇者様!」と言う持ち上げに乗せられ、魔族と戦う事を何の疑い(・・・・)も持たずに(・・・・・)アッサリ了承。

 しかも、一流以上の剣技の才能と人よりも遥かに優れた魔力を、召喚の際(・・・・)に付与さ(・・・・)れた後付(・・・・)けの力(・・・)だと知らされなかったので、自分の眠っていた才能だと信じて疑わない。

 挙げ句の果てには簡単に色仕掛けにハマり骨抜きにされ、飼い慣ら(・・・・)される(・・・)始末。しかも周囲の声と手に入れた力に(おご)り、城に仕える侍女や王都に住む女性に強引に手を出す外道っぷり。何よりも、国の上層部もそれを黙認している。いったいどれだけの女性が涙を飲んだ事か……

 正直、胸糞悪くなる内容ばかりの報告書なのだが、シノブの眼はある一点を捉えて離れない。その内容は――喚び出された者の容姿は黒髪・黒目。名前はタロウ・ヤマダ――典型的な日本人だとわかる内容。

 

(かつてのご同郷か……)


 報告書から顔を上げたシノブは、重い雰囲気なザッシュさんに尋ねる。


「それで、どうするの?」

「……戦いは避けられません。現に人間達は既に戦争の準備を始めております。勇者(屑)が自分の力を十全に扱える様になれば、すぐに攻めて来るでしょう」

「…………」

「ですので……シノブ様は元の世界に今すぐお還り下さい。これは私達の世界の問題です。貴方様まで巻き込むわけには参りません」

「…………」


 真剣な表情で告げるザッシュさん。ふと視線を下ろせば、膝の上のアマリーも眼で同じ事を告げている……本当はこのまま一緒に居て欲しいであろうに。涙を堪えて……

 そんな二人に見つめられたシノブは――より強い瞳で見返しながら言う。


「断る」

「「えっ?」」

「ボクに取っても、もうこの世界の事は他人事じゃ無いからね。このまま還ったんじゃ寝覚めが悪いし……」

「しかし、(こと)は戦争です。酷な事を言いますが、貴方一人加わっても戦局には……イヤ、士気は間違い無く上がるでしょうが、危険な事には変わりありません」


 言葉の途中で一旦考え込んだザッシュさんが、結局の所やはり否定する。アマリーも、一瞬シノブが残ってくれる事に眼を輝かせたが、やはり巻き込みたくないと首をフルフルと動かす。

 そんな二人にシノブは――ポツリと呟く。


「――ボクに、一つ策がある……」

「「……えっ?」」


 アマリー・ザッシュさんの両名が驚きの声を上げる。そんな二人に、シノブは真剣な顔で続ける。


「でも、この策を実行するには皆の了承が要る。この魔族領全ての人が、この策に命を投げ出す程の覚悟をしてもらう事に」

「……その策と言うのは?」

「それは――――」


 ザッシュさんの問い掛けに、シノブが策の内容を語る。長い時間を掛けて懇切丁寧に語られたソレを聞いたザッシュさんは、最初大きく眼を見開き呆気に取られ、次に真剣に考え始めた。


「それは……いや、しかし……だが、それならば無駄な犠牲は……相手が……」


 程なくして顔を上げたザッシュさんが言う。


「各種族の代表者達と話し合ってみましょう。分の悪い賭けには見えませんし」

「ありがとう……後、紙とペン有る?」

「?……どうぞ」


 何処からともなくザッシュさんが取り出した紙とペンを受け取ったシノブが、サラサラっとある物(・・・)の絵を描いて見せる。


「もし、例の策を実行する事になったら、コレ(・・)も用意しておいて欲しいんだけど……」

「……わかりました。手配しておきましょう…………ですが、いったい誰がコレ(・・)を使うのですか?」

「当然。策を成すのに一番(かなめ)となる人物」

「…………ですよね」


 言って部屋を出て行くザッシュさん。それを見送ったシノブは、アマリーからの困惑した視線に苦笑いを返す。


「さっきも言ったけど、気に入った人達が困っているのを見過ごせる程、薄情じゃ無いよ? ボクは」

「〜〜〜〜!」

「自分から巻き込まれに行ったんだから、気にしなくても良いよ」

「〜〜っ! 〜〜っ!!」

「大丈夫だよ」


 アマリーの必死の視線による訴えを軽く受け流すシノブ……アマリーは気づいていない。シノブが内面ではフフフフと言った、トラウマレベルの黒い笑みを浮かべている事に。この人物が、敵となった者に容赦なんて一切しない事に。




――――しーちゃん及び魔族領準備中――――


――そして十数日後。剣を持つ者・槍を持つ者・弓を持つ者・杖を持つ者・馬に跨る者。万に届く武装した兵士達が一糸乱れぬ行軍を見せていた。

 そしてその軍隊の先頭には、他の兵士どころか将軍よりも絢爛豪華な鎧に身を包んだ黒髪・黒目の男が居た。現代日本より召喚された勇者(屑)のタロウ・ヤマダが……大将格が先頭を歩くの危なくないか? とツッこむ者は居ない……ちなみに、馬に乗ってないのは乗れなかったからである。


「――もうすぐ見えてきます。魔族どもの砦が」

「ああ!」


 と、傍らに寄り添った一人の美しい女性に笑顔で返すヤマダ。

 この集団の中でハッキリと異彩を放つ、一見ドレスの様でその(じつ)色々な防御が施された服を身に纏った、長い金髪をアップに纏めた女性――この国の王女様。表向きは(・・・・)勇者(屑)を心配して、実際には(・・・・)ヤマダの監視及び扇動役として付いてきている。


「見ていてくれよ! 邪悪な魔族など、この俺が一瞬で蹴散らしてやるから!」

「頼もしいですわ、流石は勇者様です」


 調子に乗って誇らしげに語る勇者(驕)に笑顔を見せる王女……あくまで表面的には。


(ふん! 本当に馬鹿は単純で扱いやすいですわ。そもそも、お前に与えた力は人が持つには強すぎるので、一年(・・)もすれば肉体が保たなくなって死ぬと言うのに……精々、それまで私達の為にその身を投げ出しなさい。下賎な者が私達高貴な者の為に働けるのだから本望でしょう?)


 裏で心底腐った事を考えている王女と、何も知らずに、輝かしい未来を疑わない勇者(贄)。そんな両者を先頭に、人間達の軍勢は遂に目的地の前に到着する。

 だだっ広い平原にポツリと存在する無骨な建物。高く堅牢な防壁に囲われた巨大な砦。魔族領の最前線にして最重要な拠点。その防壁に刻まれた多くの傷跡が、幾度となく重ねた戦いの歴史を物語っている。


「…………」


 建物自体が醸し出す存在感に威圧されたかの様に勇者(怯)が押し黙る。だが歩みは止めない。自分は勇者だと自分に言い聞かせながら……隣に要る王女にカッコ悪い所を見せたくないから。


「「「「「…………」」」」」


 相手から攻撃されても対処出来るギリギリの距離で人間達の軍勢が止まり、陣形を野戦用から城塞攻め用に入れ替える。てっきり、入れ替えの最中に何かしらのアクションを起こしてくるものと人間達は思っていたが、防壁の上に陣取っている多種類の魔族達は何もしてこない。その事に訝しみつつも、人間達は陣形を整え終わる。

 後はただ一言、号令を掛ければ始まる状況の中で――


「――人間達よっ!!」


――魔族側から声が上がった。

 何時ものスーツ姿では無く軽量さを優先した軽鎧に身を包んだザッシュさんが、軍勢全てに響き渡る大声量で語りかける。


「戦いの前に我等より提案がある!!」

「何だっ?!! 降伏するってか?!!」

「それも、条件によっては受け入れよう!!」

「「「「「――なっ?!!」」」」」


 勇者(驕)が冗談で言った言葉に返ってきた以外な返答に、勇者(驚)や王女どころか軍全体が驚きの声を上げる。その動揺が収まるよりも速く、ザッシュさんは続ける。


「我等は無益な殺生も無駄な犠牲も望まない!! 故に――この戦争の勝利、互いの代表者による一対一の勝負で決める事を提案する!!」

「「「「「――はっ?」」」」」

「もし我等側が勝ったのならば、これ以降永久に人間達が魔族領に侵攻する事も、足を踏み入れる事も禁止!!」

「「「「「――なっ?!!」」」」」

「もし人間側が勝てば――魔族領は全面降伏する!!」

「「「「「――っ?!!!!」」」」」


 次々と告げられる内容に人間達は只々驚くばかり。正直、予想外過ぎて広がる動揺を誰も止められない。


「――お、お待ちなさい!!」


 一足早く動揺から何とか立ち直った王女が声を上げる。


「全面降伏と言いましたが!! そんなモノ所詮口約束に「現魔王アマリー様を筆頭に、魔族領に住む者全てからの了承は得ている!!」……何ですって?!!」


 言葉の途中で返された言葉に、再度人間達の軍勢に驚愕が起こる。そして、チョコンとザッシュさんの横にアマリーが姿を現す。

 話しの流れからして現れたのが魔王だと察した人間達に、もう何度目かもわからない驚愕が起こる……勇者(欲)だけは、将来有望なアマリーに色欲な眼を向けていたが。

 一斉に向けられた視線の数に、今すぐ逃げ出したくなるアマリー。しかし、幼いながらも持ち合わせている責任感によって何とか踏みとどまる。こんな自分でも魔王と認めてくれている人や自分の両親、それに何時も優しく頭を撫でてくれる存在を胸に、アマリーは震える身体を叱咤(しった)して言葉を紡ぐ。


「現魔王、アマリーの、名に於いて……『誓約』、します……」


 小さく、たどたどしいながらもハッキリと告げられた言葉に、『誓約』まで持ち出した事に魔族の本気度がわかる。


(いったいどう言う事? 何を考えているの? 絶対に勝てる自信が有る? それとも何かの罠?…………どちらにせよ、こんな判断軽々しく出来るものでは無いわ。一旦退却するしか――)


 困惑しながらも何とか考えを纏めた王女が、兵達に退却を指示するよりも速く……


「――良いぜ! その『誓約』誓うぜ!!」

「――なっ?!!」


……勇者(驕)が誓ってしまった。止めようとしてももう遅い。既に力が働いた事を感じてしまった――『誓約』が成立してしまった。

 一人でに勝手に取った行動に、王女が胸ぐらを掴みかねない勢いで勇者(驕)に言い募る。


「どういうお積りですかっ!! どうして勝手な事を!!」

「落ち着けって。たった一回、しかも一人を倒せばそれで勝ちなんだろ? 良い事尽くめじゃんか……それに、この戦争をさっさと終わらせれば延期(・・)になった俺達の結婚式も出来るしな」

(――チッ!!)


 内心で派手に舌打ちする王女様。かつて告げた()を引き合いに出されては強く言えない。


「それに俺の強さは知ってるだろ? どんな奴が相手でも負けないぜ!!」

(……………………)


 既に為された事はどうにも出来ぬと、頭を切り替える王女……確かに勇者(驕)の言う通りでもある。短い時間でも力を十全に扱える様にはなったし、どんな魔族が居てどう対処すれば良いのかも教え込んだ。唯一の弱点である色仕掛けに関する対処も既に仕込んである。勇者(驕)が着ている鎧にはサキュバス達が使う『魅了』を――『強制的に他者を惹き付ける力』を無効化する力を付与してあるので通じない。

 考えれば考える程、分の悪い賭けでは無い事に思い至った王女は、一人で前に出る勇者(驕)の背中を見送る……胸中に浮かんだ違和感を押し殺して。


「――で? 誰が相手何だ?!!」


 その言葉と同時に、砦の重厚な門がゆっくりと音を立てて開く。開いた門から歩み出て来たのは――全身甲冑に身を包んだ者であった。フェイスガードによって完全に顔が隠れた兜と全身を包む黒光りの鎧の所為で、どんな種族か全くわからない。

――しかし、それを見て王女は勝利を確信した。

 恐らくあの鎧は相当な仕込み(・・・)がしてあるのであろう。防御的なモノから何から色々なモノを付与してあるに違いない。中身がどんな種族かはわからないが、大きさから見ても人間と変わらぬサイズ。力で戦うのとは違うタイプと見える。ならば恐らく鎧の防御力を頼りにした戦いをするのであろう。

……だが、その目論見は破綻している。どんな仕込みかは知らないが、勇者(驕)の能力には通じない。コチラはそれ以上に勇者自身(・・)に仕込んであるのだから、防御力なんて言葉は無意味。敵の策は成し得ない。こちらの方が一枚上手だ。


「おりゃああああーーーーっ!!」


 内心でニヤリと笑う王女の視線の先では、剣を抜き払った勇者(猪)が勢い良く走り出している。両手で大上段に構えた馬鹿正直な構え。だが受ければ、その防いだ武器・防具ごと断ち切る渾身の反則的な一撃。


「…………」


……対する相手は、そんな勇者(猪)の突撃に進む動作も退く動作も見せず――突然、身につけていた鎧が分解(・・)した。


「「「「「なっ?!!」」」」」


 勇者(猪)含めその場の全ての人間達が驚愕する中、鎧の中身(・・)が現れ――









「「「「「……………………はっ??」」」」」


――その場の全ての人間達の思考を停止させた。走っていた勇者(猪)も徐々に勢いが落ち、手の届く範囲で立ち止まってしまう。

 現れたのは美しい女性(・・)であった。穏やかな笑みを浮かべ自然体で佇む女性(・・)。風にたなびく絹糸の如きサラサラな白いロングヘアー。宝石の如く深く澄んだ蒼い瞳。形の良い鼻梁。健康的な桃色に色づく小さな唇。未だかつて見た事の無い美しい女性(・・)がそこに居た。


「…………」


 そして他の人間達以上に固まってしまったのが勇者(惑)であった。元の世界でもこの世界でも、今までに見てきたどんな女性よりも美しい事もそうだが……それ以上に彼女が着(・・・・)ている服(・・・・)に眼が行ってしまう。

 白い長袖シャツに茶色い長袖の上着。黒いハイソックスと組み合わされる事で絶対領域を生み出す赤と橙のチェック柄のミニスカート――ブレザー服(・・・・・)


「…………」


……この瞬間に勝負は決まったと言っても間違い無い。

 勇者(惑)は、自分の奥底まで見通すかの様な蒼い瞳で見つめてくる女性(・・)の美しさと、この世界には有り得ないブレザー服のコンボで完全に凍ってしまっていた。確かに、『強制的に他者を惹き付ける力』は彼には通じないが――彼が勝手(・・・・)に見惚れ(・・・・)てしまう(・・・・)事に関してはどうにも出来無い。

 王女も他の兵士達も、予想外の――想像以上の美しい者が現れるとは思ってもおらず、ただ彫像の様に立ち竦むだけ。

――それが致命的な間隙。


「――えいっ♪」

「?! イヤッ? ちょっ、えっ?!」


 急に首に抱きつかれた勇者(困)が、その行為と髪からほのかに香る甘い香りに、引き離す事も出来ずに狼狽(うろた)えてしまう。

 そして――


「――バ〜カ♪」

「――かほっ?!!」


――ゴキョッ、と鳴り響いてはいけない音が勇者(愚)の首から鳴り響き、泡吹いて白眼剥いてその場に崩れ落ちる。


「「「「「……………………」」」」」


 誰も声を出さない沈黙の中、パンパンッと彼女が自分の身体を(はた)く音が響き――


「「「「「――ィィィィィイェヤアァァァァァーーーーッ」」」」」


――砦より上がる勝鬨(かちどき)を聞いて、漸く人間達は己の敗北を悟った。

 正直な所、人間達は誰もが夢見心地の様な感じである。思考に感情が追いつかない。目の前で起きた出来事を受け入れられない。いっそ夢なら覚めてくれと思う。

……しかしこれは現実。頼みの綱であった勇者(愚)は何も出来ずに倒れ、それを成し遂げた相手はと言えばどこからか取り出した(おうぎ)を広げて御満悦。ちなみに(おうぎ)には、わざわざこの世界の文字で一言――『人選ミス』と書かれている。


「〜〜っ!! 皆! 攻げ――っ?!!」


 扇に書かれた文字を見た王女様が感情の赴くまま全軍に攻撃の命令を飛ばすよりも速く、王女様の足元に彼女(・・)が投げた扇が刺さり、その扇の裏面に書かれていた文字が目に入る――『時、(すで)に遅し』。


「くっ!……」


 それを見て重要な事実に思い至る。もう『誓約』は成されてしまった。永久に人(・・・・)間達が魔(・・・・)族領に侵(・・・・)攻する事も(・・・・・)足を踏み(・・・・)入れる事(・・・・)も出来無い(・・・・・)


「……退却、なさい……」


 颯爽と砦に帰って行く、白い髪をたなびかせた彼女(・・)の後ろ姿を見送りながら、王女様は力無くそう告げる事しか出来なかった。


(…………)


 こんな結末どう伝えれば良いのか? 父である国王へどう報告すれば良いのか? 考えるだけで頭が痛い王女様に兵士の一人がおずおずと声を掛けてくる。


「……あの?」

「……なにかしら?」

アレ(・・)はどうしましょうか?」


 示した指の先には未だに倒れている勇者(芥)。それを見た王女様は一言。


「馬にでも引き摺っていきなさい」

「ハイ」


 兵士は即答した。何の躊躇も無く実行した。














――一方、勝利の興奮冷めやらない砦の広〜い中庭では……


「じゃあ、勝利を記念して――このまま、しーちゃんライブ……いってみよ〜〜〜〜!!」

「「「「「――YYYYYYYeahhhhhhーーーーッ」」」」」


……未だブレ(・・・・)ザー服姿(・・・・)のシノブが発した言葉に、勝鬨以上の歓声が上がっていた……ミニスカ(・・・・)ート姿(・・・)である事(ちゃんと下は何時ものホットパンツ着用)にツッこむ者は誰も居ない……むしろ推奨。




   *   *   *


「〜〜♪」

「ハイハイ、ホント頭撫でられるの好きだね、アマリーは」


 時はちょっと流れて一週間後。何時もの様にアマリーを膝の上に乗せて頭を撫でるシノブ(アマリーの強い要望にて犬耳装着しーわんVer)と、幸せそうな笑顔でスリスリ抱きついているアマリー。ホント、変わらない光景である。


「――失礼致します」

「? どうかしたの? 嬉しそうな顔して」


 部屋に入ってきたザッシュさんの顔を見てシノブが尋ねる……ホント見慣れたお陰で、鳥の顔なのにわかる様になったシノブである。


「ふふふふふ。遂に準備が整いました」

「あっ……やっちゃうんだ。人間達の国への侵攻(・・)

「ええ。今まで散々好き勝手攻めて来てたのですから、賠償金代わりに領土を少しばかり(・・・・・)貰っても構わないでしょう?」

(……ま、自業自得だよね。これまでの鬱憤を晴らす良い機会だし)


 実にイイ笑顔を浮かべるザッシュさんを見て、シノブはボク知らな〜い、とばかりに目を逸らす。

 人間達はわかっているのだろうか? 今まで(・・・)魔族側から侵攻した事が無いからといって、これからも(・・・・・)無いとは限らない事に。


(そうなったら大変だよね〜。取られた領土は魔族領になるし……そうなったら、そこに侵攻出来(・・・・)無い(・・)、つまり取り返せ(・・・・)ない(・・)って事だもんね〜)


 一方的なワンサイドゲーム。魔族達は無益な殺生は好まないから死者は出ないだろうけど、住む場所を失った難民は出るだろう。

 人間達、ご愁傷様。形だけの祈りをしたシノブは、気にしている事を聞いてみる。


「でも、気をつけてよ? 侵攻出来無いと言っても、ボクなら超遠距離攻撃で領地の外から攻撃するか、人じゃない魔法生物的なモノで攻め込むかするよ?」

「ご安心を。既に対策済みです」

「攻め込む時は大丈夫なの? 向こうも迎え撃つ準備とかしてるんじゃ……」

「それは大丈夫です。例の勇者(笑)のお陰で」

「? アレのお陰?」

「はい。あの勇者(笑)。責任取って処刑される所を強引に逃亡。しかも逃げ回りながらアッチコッチで好き勝手やっているそうで、国中の眼がそっちに向いています」

「……わ〜お」


 あの勇者(笑)。そろそろ疫病神と呼ばれる様になりそうだな〜、と遠い目で考えるシノブ。本当に人選ミスである。


「所で、『魔族領全土しーちゃんライブツアー』はどうなったの?」

「……スタートを何処にするかで揉めております。皆、自分の所で一番最初にやって欲しいと……」

「……あ〜〜、クジで決めちゃおうか?」

「後、ブレザー服……ですか。あの衣装も着て欲しい、と……」

「…………いっその事、他にも衣装造ってもらって、七変化とかやろうかな」


 話しを切り替えたシノブの頭には、もはや人間達の事など無い。アマリーとこの魔族領が――自分の親しい者達が平和ならばそれで良い。あっちの事など気にする意味が無い。それよりもライブツアーの方が重要だと。


……余談だが、『魔族領全土しーちゃんライブツアー』は、七変化(何時もの・しーにゃん・しーわん・ブレザー服・メイド服・改造巫女服・ゴシックドレス)のお陰で大盛況で終わった……とだけ言っておこう。
















――――オマケ。元の世界にて――――


「ねえ、エル? そんなくっついてると動き難いんだけど?」

「…………」

「ユユも、何時までくっついてるのさ?」

「…………」

「ユーフィも、いい加減離れてよ?」

「…………」

「何なの? 皆してどうしちゃったのさ?」

(((…………誰かに獲られそうな気がする……)))

ご愛読有難うございました。

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