超番外編である!本編とは全くもって関係無い! 上
モンハン発売記念!!
元々短編として書いていたけど、書いている内に主人公のキャラがかぶっている事に気がついたのでコッチ風に書き直して完成。
「久々の――――
――――しーちゃん参上!!」
と、シャキーンと横ピースでポーズを決める一人の人物。
蒼い瞳は大きく円らで長い眉毛に彩られ、鼻梁は形良く整い、小さな唇は健康的な桃色に色づいている。そして腰まで届く、長く細いサラサラな髪は、何物にも染まらぬを体現したかの様な純粋な白。
着ている服は、上は袖無しのシンプルなシャツと前開きのジャケット。指出し長手袋も身に着け、肩・腋・二の腕を露出し綺麗なシミ一つ無い肌が覗いている。やや短めの丈がチラリと覗くおへそを演出。
下は、ホットパンツにニーソックスと言った組み合わせで、輝くふとももが眩しく光る。
万人を魅了せし笑顔を振り撒く、何処からどう見ても容姿端麗・絶対無敵・完全無欠な『男の娘』――本作主人公のシノブである。
「……と、ポーズを決めたのは良いんだけどね。ここ……何処?」
笑顔が一転、困惑な表情へと変わる。彼が今居るのは一言で言えば……殺風景であった。
体育館ぐらいの広さを持った、天井も壁も床も全て石造りな大きい部屋。所々に石の柱が立つだけの殺風景な部屋で、強いて言えば壁や柱に照明器具的な部屋を照らす何かが有るだけ。こんな場所、自分の住んでいる村どころか他の村でも見た事が無い。
「え〜〜〜と?……」
取り敢えず、ここに至るまでの経緯を思い返すシノブ。
今日はしーちゃん的な朝に目覚め、しーちゃん的な昼を過ごし、しーちゃん的な夜を迎え、部屋に帰って来た所で……
「……足元が急に光ったと思ったら、ここ……だよね。これってやっぱり……アレ?」
今現在、自分の足元に描かれている何か知んない幾何学模様的な図形――恐らくは『魔法陣』を見て、シノブは小首を傾げる。これでも元現代日本人、ファンタジーな話しも見た事有るので、頭にテンプレな『異世界召喚』と言う単語が思い浮かぶ。
通常ならば信じられないであろうが……既に一度、異世界に転生している身であるが故にスンナリ受け入れられる。だが……
「……でも何で、誰も居ないの?」
……見渡す限り誰も居ない。召喚したであろう人物も何も居ない完全な無人である。
「ん〜〜〜。どうしよ?」
自分の白い髪を弄びながらシノブは呟く。見知らぬ場所に召喚されたのに、恐怖とか焦燥とかが一切見られないシノブ。
現代日本で中々に濃い生活を送り、死んだら異世界にスライムで転生し、もう一回死んで半水棲種に生まれ変わった経緯は伊達では無い。トータルで30年生きていないにも拘わらず濃ゆい人生を送ったが故に、彼はもはやこの程度では動じない精神を持っている……本人にとって幸か不幸かはわからないが。
「取り敢えず……………………ん?」
部屋の出口を探そうとした所で彼は気づく。現代日本で男の娘アイドルとして生きていた時の経験から、人の視線には敏感である。そんな彼だからこそ、今自分が誰かから見られている事がわかる。
(…………こっち?)
自分の斜め後ろ側にある石の柱に向き直る。確かに視線はこっちから感じたので、暫くジッと見ていると――
「――?!」
(……あっ)
――柱の後ろから、チョコンと半分だけ顔が出る。しかし、シノブと視線が合うとすぐに引っ込んでしまう。一瞬の事だが、シノブの眼は確かに捉えていた。小さな女の子の顔を。
(まさか、この子がボクを召喚したの?……他に誰も見当たらないし、取り敢えずはこの子に聞くしかない、か……先ずは――)
シノブはその場にしゃがみ、女の子の目線に合わせて再び顔を出してくれるのを待つ。程なくして、今度は恐る恐る顔を出してくる。
「やっ、初めまして」
「――?!!」
ニッコリ笑って女の子に挨拶。女の子はまた引っ込んでしまうが、シノブはそのままで待つ。かつて日本で生きていた頃、施設で多くの子供達を相手していた時の経験が生きる。
(こういう時は自分から近付いちゃダメ。向こうの方から近付いてくれるのを待たないと)
そのまま待っていると、三度顔を出してくる女の子。シノブが笑顔で迎えると、今度は顔を引っ込めずにシノブと視線を合わせる。
「ボクはシノブ。君の名前は?」
「…………アマリー」
シノブの言葉に、小さい声だがシッカリと答えを返す女の子――アマリー。その彼女からどことなくウズウズとした雰囲気を感じたシノブは、両手を大きく広げる。
「ほら、おいで♪」
「?!〜〜〜〜……………………〜〜っ!!」
シノブの言葉にアマリーの身体が一瞬ビクつき視線が泳ぐ。一人で柱の影で葛藤を続けるも、シノブが「ん?」と小首を傾げたのを見ると意を決してシノブの元へ駆け寄って来る。
「おっと、良し良し♪」
「〜〜〜〜っ!!」
(昔のエルそっくりだね〜)
知り合いのエルフの女の子を思いながら、ギュッと抱きついたアマリーを抱えて立ち上がる。首にしがみついて離れないアマリーの頭を撫でていると、更に強くしがみついてくる。
――そうして暫くあやしていると、派手な足音が聞こえてきた。
「――んん?」
音が聞こえてくる方を見ると同時、大きな音と共にドアを開いて現れたのは――人の姿をした鳥だった。良い感じに仕立てられたスーツに身を包んだ鳥人間が驚愕の表情(かなりわかり難いけど、多分)でシノブ達を見ている。
「……取り敢えず、コッチには争う意思は無いんだけど……OK?」
アマリーを自分の身で守る様な体勢にしつつ、シノブは通じるかどうかわからないがそう言ってみた。
――――しーちゃん移動中――――
所変わって応接室。テーブルやソファー等の家具だけでなく、調度品の一つ一つまで見事な物が揃った部屋へと案内されたシノブは、フカフカのソファーに座りながら自分の膝の上に横座りしているアマリーの頭を撫でていた。、
目の前のテーブルには紅茶とお茶請けのお菓子。一口頂いてみたがどっちも実に良い味である。
思ったよりも紳士的な対応をされたシノブは向かい側に座っている、ここまで案内してくれた鳥人間――ザッシュさんと自己紹介に移り……
「……………………え? この子が魔王……様?」
……何か信じられない事実にフリーズしていた。そんなシノブに重々しく頷くザッシュさん。シノブが視線を下に降ろせば、シノブの胸にスリスリ甘えるアマリー……威厳もへったくれも無い。本当に魔王?
「……順を追って説明いたします。そうすれば、貴女様が何故この世界に召喚されたのかの説明にもなりますので……暫しお付き合い下さい」
「あっ、ハイ。どうぞ……」
「有難うございます」
既にシノブが別の世界の住人だという事を理解しているザッシュさんが一言断ってから話し始め、シノブもフリーズから立ち直って聞く姿勢をとる。
「先ずこの世界についてですが……一つの大きな大陸を二分する様に国が存在しております。一方が人間達の国、もう一方が私達魔族の国です」
「……魔族?」
「総称ですな。実際には私の様なガルーダと言った種族に、ゴブリン・オーガ・コボルト・ラミア・ハーピィ等と色々な種族がこの国には存在しております。それ等全てを引っ括めて人間達からは魔族と呼ばれております」
「へ〜〜」
あんなデカい翼があるのにどうやってそのスーツを着たのか? 何てどうでもいい事を考えながらシノブは話しを聞き続ける。
「そしてこの国の王は世襲制では無く、ある条件で選ばれます」
「ある条件?」
「最も強い『力』を持つ者です。王が亡くなる度に、ある特殊な魔道具を使って探し当てます」
「……『力』?」
再び視線がアマリーに落ちる……凡そ『力』とは無縁に見えるが……
「別に、『力』と称されるモノなら何でも良いのです。腕力であろうと知力であろうと……」
「じゃあ、この子は?」
「『魔力』です。この魔族領に於いて最も強い『魔力』を持っておられます」
「納得」
一応の納得はするシノブ。しかし疑問は尽きない。
「でも、こんな小さな子を魔王にするのって……」
「……仰られる事はわかります。しかしこれは昔から永く続いた慣例の様なものですので……それに魔王様はどちらかと言えば、象徴的な意味合いの方が強いのです。国の運営などは私の様な補佐の者が居ますので……」
実際、腕力や武力で選ばれた脳筋魔王の時は必須でしょう? と言われたシノブは頷く事しか出来無い。
「ちなみにこの子の種族って何?」
「マーメイドです。陸に上がると下半身を変えられるので、見た目からはわかり難いですが……」
「通りで……」
角とか翼とか一切無いので、一見人間にしか見えなかった疑問が解けて納得するシノブ。対して、わかり難いがザッシュさんの顔が歪む。何かとても言い難い事を言うかの様に。
「そういう訳で、アマリー様を魔王としてこの城に迎えたのですが……そこで予想外の大問題が発生致しまして……」
「予想外の大問題?」
「はい。アマリー様は……その…………とても怖がりなのです」
「ん? 怖がり?」
「はい。私が持つこの鋭い爪だとか……角や牙と言ったモノに怖がってしまって……」
「……………………うわぁ……」
一瞬のフリーズの後、何とも言えない表情になるシノブ。爪や角や牙なんて大半の魔族が持っているであろうモノが怖いと言うのは……
「……大変だったでしょ? アマリーも、ザッシュさんも、この城の人達も……」
「……御理解頂いて恐縮です」
シノブの本当に心の篭もった言葉に頭を下げるザッシュさん。そんな彼に、シノブはふと浮かんだ疑問を聞く。
「人間っぽい種族もあるんじゃないの? その人達は?」
「……ハーピィは脚の爪で駄目でした。ラミアは蛇の鱗が生理的に受け付けず、ヴァンパイアどもは夜行性の上に無駄にプライドが高くて論外……サキュバスやインキュバス達は……その……」
「うん。情操教育に良くないね」
次々に上げていった種族を語るに連れ、言葉から勢いが失せていくザッシュさん。恐らく当時の苦労を思い出してしまったのだろう。
「マーメイドは? この子自身の種族なら大丈夫でしょ? 幾ら何でも魚の鱗がダメって事は無いよね?」
「それは大丈夫なのですが…………出来無い理由が有りまして……」
「出来無い理由? マーメイド達をこの城に連れて来れないのに、理由が有るの?」
「はい。この大陸には人間達の国が有ると言いましたが……私達の国とは戦争状態にあります」
「……は?」
いきなり話しが物騒な方向に変わった事にちょっと呆気に取られるシノブ。視線で話の先を促し、ザッシュさんも続ける。
「私達から仕掛ける事は殆どありません。攻めて来た人間達を追い返すか、取られた領土を取り返すか、です」
「何で、人間達は戦争を?」
「……馬鹿馬鹿しい理由です。『この大陸の覇者は我ら人間だ!』と言った傲慢な考えに取り憑かれているのですよ」
「…………」
ス〜と視線が冷たいモノに変わるシノブ。この瞬間シノブの中で、この世界の人間達の株価が再下落である。
「そしてマーメイド達はこの国でも数少ない、海に住む種族ですので……海側の防衛の要とも言えます。ですので……」
「……そんな人達を連れて来るのは、防衛ラインに穴を開けるのと同じ……」
「はい。既にアマリー様と言う将来の強大な戦力を失っていますので、これ以上の負担は掛けたくないのです。本人達もアマリー様の事は心配ですが、どうにも出来無い状況でして……」
「アマリーをこの城じゃなくて、親元の所で過ごさせるのはダメ?」
「場合によっては最前線になるやもしれない海よりも、この城の方が安全なのです。だからご両親もアマリー様をこの城に住まわせているのです」
「成程ね……………………ん? んん?」
そこまで聞いた所でシノブは気づく。気づいてしまった。自分がこの世界に呼ばれたのは……
「……もしかして、ボクが召喚された理由って……」
「……はい。ご想像の通りだと思われます」
「……怖がりのアマリーが、決して怖がらない相手を呼び出したらボクだったって事?……」
「……それ以外の理由を思いつきません」
「「…………」」
両者の視線がアマリーに向く。当の本人は今までの話しを聞いていたのか、シノブに強くギュッと強く抱きついている。離れないし離さない、とばかりに。
「……しかし、召喚陣まで使うとは、完全に予想外でした」
「? どういう事?」
ザッシュさんの呟きに反応して尋ねるシノブ。ザッシュさんは一つ息を吐いてから答える。
「確かに、この世界には召喚陣と言う技術はありましたが……使えない技術でした」
「……使えない? でも現にアマリーは……」
「ですので、予想外なのです。召喚陣を描く事は簡単に出来ますが、起動するには膨大な魔力とそれを制御しなければなりません。一人で必要な魔力を賄う事は普通では無理ですし、かと言って複数で行えば……制御はとても緻密で繊細なコントロールが必要な上、身体への負担も大きいですので、息が合うなんてレベルでも不可能です」
「あ〜〜……でもアマリーの魔力だとそれが可能だったし、制御も無事成し遂げちゃったんだ……スゴイね」
「……はい」
何となくアマリーの頭を撫でるシノブ。成功させたその努力は、素直に褒めてあげて然るべきものであろう。
「改めてお詫び致します。こちらの都合で一方的に召喚してしまい、本当に申し訳ありませんでした」
「あ、別に済んじゃった事に関しては、アレコレ言う気は無いんだけど……」
深々と頭を下げるザッシュさんに、軽く手を振って気にしていないと伝えるシノブ。召喚された事は気にしていない、気にするのは……
「結局さ。ボクは元の世界に還れるの?」
「それに関しては大丈夫です。あの召喚陣を調べました所、元の世界への帰還は可能になっておりました」
「……でも、こっちの世界に居る間、あっちの世界でも時間が経ってるんだし、皆が心配するんだけど?」
「いえ。お戻りの際は召喚した時間に戻す様になっておりますので、あちらでは一秒も経っていないでしょう」
「……それだと、ボクだけ年を取ってっちゃうんだけど?」
「いえ。お戻りの際は身体の時間も巻き戻す様になっておりますので、そうはなりません」
「……何か、至れり尽くせりだね」
「……それだけ、アマリー様が切実だったのでしょう。呼び出した相手に嫌われないようにと。嫌われたら元も子もありませんので……」
「「…………」」
アマリーを撫でる手が優しくなるシノブと、見つめる眼が生暖かくなるザッシュさん。当のアマリーは気持ち良く撫でられている。
「――所で、貴女様の種族は何でしょうか? 見た感じには人間に見えますが、召喚陣には人間以外を対象に喚ぶ様に設定されていましたが……」
「ん? ボクは『半水棲種』だよ?」
そう言ってシノブは自分の種族の説明をする。そしてそれを聞いていく内に、色々納得していくザッシュさん。
「成程。半水棲種ですか……非常に興味深いですな」
「この世界には居ないの?」
「そうですな。リザードマンと言う種族が一番近い種族と言った所ですか。最も、外見は完全に違いますが……とにかく、貴女様がこの世界に居る間の御身の安全は保証致します。ここに『誓約』致しましょう」
そう、ザッシュさんが告げた瞬間。何か力が働いた事を感じるシノブ。一瞬の事だけど確かに感じた。
「今のは?」
「この世界に於いて『誓約』を交わす事は、この世界の神と交わす事と同じです。もしも『誓約』を違えた場合、神より罰が下されます。かつて約束の反故が原因で、人間達の国で街一つが滅んだ事もあります」
「重くない?! そこまでしなくたって……」
「いえ。貴女様は美しすぎます。魔族の中には恥知らず等居ないと信じておりますが……万が一を考えますれば当然の事でしょう」
「…………あのさ……」
ここでシノブは、いい加減勘違いを直してあげようと動く。その後に何が起こるか承知の上で……と言うか、彼に取ってはお馴染みのやり取りになるのだが……
「さっきから、『貴女』じゃなくて『貴方』で良いんだよ?」
「………………はい?」
「だから、ボクは――『男』だよ?」
「……………………」
途端、フリーズするザッシュさん。その間に、アマリーの両手を自分の耳を塞ぐ様に持っていき、自分も耳を塞ぐ。そして――
「――――何ですと〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!!!」
――城全体を揺るがす程の大絶叫が響き、それを聞いて駆けつけた者達が事情を聞き、更なる大絶叫が響くと言った事が暫く続いた。
ちなみにアマリーは、最初に抱きついた時にシノブが男性だと気づいていたので驚かなかった。
ご愛読有難うございました。




