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番外編その三である!テンプレとか言わない!

番外編第三弾。日常編。

本日は2話同時投稿。こっちは2話目なので気をつけて。


誰だって一度はこのネタを思いついた筈さ。わかってる、わかってるさ。仕方の無い事だってさ……

 窓が締め切られた薄暗い部屋の中。一人の女性が机に向かい黙々と作業を続けている。薄暗い所為で良くわからないが……長い緑の髪はツヤが無くボサボサ。緑の瞳もその下にすんごいクマが出来てる。頬も()けてるし肌に潤い無いしで、どう見ても不健康なのだが……その眼だけが異様にギラついている……子供が見たら間違い無く泣くであろうその女性は、その作業を終えた瞬間――


「――遂に出来たーーーーっ!! やはり私は天才よーーーーっ!!!! ハ~ハッハッハ!!――――ぐぅ……」


――座っていた椅子を跳ね飛ばし、天を仰いで歓声を上げて高笑いした直後に……倒れた。糸が途切れたかの如くアッサリと。そしてそのまま深い眠りについた。

 その数分後。部屋のドアが開いて男性が入って来る。


「失礼するぞ?……って、ま~たぶっ倒れてやがる。またロクに睡眠取らないで、ぶっ続けでやってやがったな? ったく、調合の腕は良いのにこれさえ無けりゃな~……まあ、ちゃんと薬さえ造ってくれてりゃ文句は言わないけどな。じゃあ持ってくぞ……ん? こいつもか?」


 ヤレヤレと言った表情で部屋の中に置いてある薬を持って行く男性。その際、机の上に置いてあった薬も一緒に持って行く。後には盛大にイビキをかく女性が残された……




   *   *   *


 季節は変わって冬。吐く息が白くなり朝起きて布団から出るのが非常に億劫(おっくう)な季節。半水棲種達が常に管理している広大な湖も、その湖面が厚い氷に覆われている。

 そんな氷上を――


「びゅーーん♪」


――軽やかに滑走している人物が居た。長く白い髪を(なび)かせた、どう見ても女にしか見えない美貌の……男性がリズム良く滑って、ふと止まる。

 今日も今日とて相変わらずなシノブである。まあ、今日は何時もと少し違う所がある。冬になったので袖無しだったシャツとジャケットが長袖に変わっている……が、下は変わらずのホットパンツ。但しニーソックスが長くなっておりオーバーニーソックスとなっているので絶対領域が狭まっているが……むしろ威力は増している。


「うん♪ 流石ドワーフ。良い仕事してるね~♪」


 止まって確認したのは自分が履いている()()()()()。この(たび)シノブの発案とドワーフ達の製作意欲によって見事に完成した代物である。

 エッジの部分でコンコンと凍った湖面を叩きながらシノブは周囲を見渡す。辺りには同じ様にスケートに興じている者がチラホラ。


「思ったよりも簡単ですね?」

「ん」


 意外にもアッサリ滑れるようになった龍族のユーフィと、一緒に上手に滑っているエルフのエルリナ。


「にゃあああああぁーーーーっ?!!」


……意外にも、滑れるが何故か止まれない猫の獣人ユユ。


「ちょっ? 退()けーーっ!」

「はっ?――ぐほぁ?!」

「へぶっ?! 何で私まで……」

「……何やって――げぼっ?!」

「あ、スマン?! 大丈夫か?!」


…………何故か互いにぶつかってばかりの、元メイジスライム五人衆。


「ハイ。これで大丈夫です。後は安静にしていなさい」

「はいそこ~。痛くてもガマンガマン~。男の子でしょ~?」


 湖面の外で、怪我人を治療しているテアと、その補佐をしているステラ。


「…………フィッシュ」


 湖面の氷に開けた穴の前に座って、黙々と魚を釣るキーマ。


「だ・か・ら! 真っ昼間っから! 酒を飲むなと! 言ってるでしょうが~~~~っ!!」

「な・に・言・ってんのよ! こう言う寒い日は! 身体の中から! 暖めるのが良いのよ~~~~っ!!」


 湖面の外で、互いに手を組んでグググッと力比べな状態で争ってるウィスとパーム。


「~~っ!」


 そして、覚束無(おぼつかな)い足取りながらも必死にシノブの元へと滑るユウ。

 後は色々な種族の人達も多数……ごく一部を除いて実に平和な光景である。


「ん~~? ちょっと様子見……」


 そんな一同を見渡した後、シノブは途中でユウと合流してからテア達の元へと向かい声を掛ける。


「手伝おっか?」

「ああ。イエ、大丈夫です。この程度の事で、態々(わざわざ)手を煩わせる事もありません」


 シノブの声に答えるテア。実の所、怪我人相手にシノブの治癒魔術が発揮される事は滅多に無かったりする。理由は、傷を治すのはあくまでその人自身の自然治癒力に任せよう、と言った事からである。エルフ達の薬と違ってシノブの治癒魔術は瞬時に傷を治してしまうので、長い目で見ればその人の為にはならないのではないかと言う考えからである。免疫力と言う言葉を知っているシノブからしても同意出来る考えであるし、それにどんな傷でも瞬時に治せる事から、皆の傷に対する危機感が薄れてしまう事も考えられるし……

 そんな訳で、余程の重傷人か完治に長い時間が掛かる傷でも無い限り、シノブの出番は無かったりするのだ。

…………ホントの所を言えば、シノブ目当てにつまんない傷で態々(わざわざ)やって来るバカ共に対する牽制でもある。現に今来たシノブに治療待ちの連中が何か期待しているのが丸わかりである。


「ふ~~ん。じゃあ行くね」

「ハイ……あっ、ちょっと待って下さい。これを持って行って下さい」

「ん?」


 投げ渡されたのは小瓶。受け取ってからシノブは尋ねる。


「これは?」

「消毒薬ですよ。アッチの連中に持って行ってあげて下さい」


 テアが指差した先には元メイジスライム五人衆。まだぶつかり合ってる所為で所々(ところどころ)傷を負っている……ホント、何してんのお前等?


「あははは……了~解」


 言って、足にしがみ付いていたユウを優しく剥がしてから五人衆の元へ滑っていく――が。


「ちょっ?! 退()けーーーーっ!!!!」

「?!」


 滑り出したら止まれないユユが、斜め前から一直線にシノブ目掛けて突っ込んでくる。これは危ないと、シノブが急停止する――が。


「?!! 何でこっち来るのさーーーー?!!」

「知るかーーーーっ!!!!」

「「――あうっ?!!!」」



 ぶつからない様に急停止したシノブに向かって、ぶつからない様に何とか方向転換したユユが見事に衝突した。

 ユユは倒れながらもそのままの勢いで背中で滑っていき、シノブは軽く吹っ飛ばされて思いっ切り尻餅をついた。


「あ痛たた……はうっ?!」


 シノブにとって更に受難だったのは、持っていた小瓶が宙を舞った後自分の頭に落ちてきた事である。中身が降りかかり髪の毛どころかシャツまで染み込んでしまっている。


「あ~もう。着替えないと………………ん?」


 言ってからシノブは自分の身体に異変を感じた……何か胸の辺りがむず痒い。消毒液が染みてるのか? と思った途端――


「――え? 何? 何?! 何で何で?!!」


――着ていたシャツが()()()()。正確にはシャツの内側にあるモノが。慌ててシノブが襟元を引っ張って確認すると、そこには大きくなった自分の()が……


「…………」

「「「「「…………」」」」」


 襟元を引っ張った状態のまま呆然とするシノブと、そんなシノブの姿……主に胸を見て同じく呆然とする周囲の皆。

 そして――


「「「「「――はああああああぁぁーーーーっ?!!!!」」」」」


――大山鳴動しちゃいそうな叫びが辺りに木霊した。




   *   *   *


 場所は変わってシノブの自室。シノブ以下一同が揃っているので若干手狭になっているが、そこはまあ仕方が無い……ちなみに元メイジスライム五人衆は居ない。別用でとある場所へ行っている……と言うか半分追い出された。流石に男性はお呼びでない。


「「「「「…………」」」」」

「……え~と? 皆?」


 ベッドに腰掛けた状態で自分以外全員の視線を一身に浴びている状況に何か落ち着かないシノブ。普段は視線なんて慣れっこなシノブであるが、視線の集まる先が何故か大きくなってしまった自分の胸である事と、視線に込められているモノの所為で何時もよりも何と言うか……気圧される。


「……違和感、無さ過ぎ」

「「「「「うん/はい」」」」」


 ポツリと告げたキーマの一言に瞬時に頷く一同。その言葉に、どうリアクションを返せば良いのか悩むシノブ。

 取り敢えず気を取り直して、テアがシノブに尋ねる。


「それで、身体に異常は感じませんか?」

「ん~?……別に異常は感じないけど、強いて言えば……」

「言えば?」

「胸がキツイ」

「「「「「…………」」」」」


 と、自分のシャツを引っ張りながら言うシノブ。無理も無い。今着ているのは男性用のシャツなのだから、それで胸が大きくなれば……想像するのは容易い。

 シノブの言葉に何故か数人の視線がキツくなった様な気がするが、あえて無視して話を続けようとした所で部屋のドアがノックされる。


「は~い」


 一番ドアに近かったステラが代表してドアを開ける。そこに居たのは元メイジスライム五人衆。無事に目的のモノを携えて戻って来た様である。


「ご苦労様~。じゃ~ね~」

「「「「「えっ? イヤ、ちょっと待―ー」」」」」


 目的のモノを受け渡したした瞬間にドアを閉められる五人衆……かわいそうだが、やはりお呼びでない。

 そして皆の視線は、部屋の中央に投げ出された目的のモノ――


「――ん~~~!! んん~~~~!!」


――猿轡の上に足先から肩までロープでぐるぐる巻きにされた、ボサボサ髪の女性に集中した。何か知らないが異常にジタバタ暴れている彼女を尻目に、シノブがエルリナに尋ねる。


「で? この人が事の元凶なの? エル」

「ん。名前はメディ。薬造る、腕は良いけど、怪しい薬、造っては、皆に迷惑、掛けてる」

(……実に困った人の様だね……と言うか、ボクこの人知らないんだけど? こんな濃い人居たっけ?…………ボクの居ない20年の間に生まれたのかな?)


 シノブどころか部屋に居る人全員が同じ目で、簀巻(すま)きにされてるメディを見つめている。見られている本人は活きの良いエビの如くジタバタ跳ね回っているが……


「多分、メディの造った、怪しい薬。他のに、紛れてた。それを、シノブ、被った」

「……取り敢えず、その猿轡取ってあげて……このままじゃ話にならないし」

「……はい」


 シノブの言葉に、不本意にも一番彼女に近かったテアが代表して猿轡を外す。そして外した途端、メディは一気に喋り始める。


「――ぷはっ! ちょっと!! 何なのよ!! 人をこんな所に連れて来て!! 私には、今か今かと誕生を待っている新しい薬を造ると言う使命が「うるさい」…………ハイ」


 簀巻(すま)きのまま唾を飛ばして喚き散らすメディを一瞬で黙らせる事に成功するキーマ……その包丁はどっから出した?


「ダメだよ~、きーちゃん。包丁は肉や魚を(さば)く物で、人を(さば)く物じゃ無いんだから~」


 おっとりキーマを(なだ)めるステラ……イヤ何か違う。(なだ)めないで止めろよ。


「話しを聞きたいのは私達で、アンタの御託は聞く気は無いわよ。で、アンタなの? あの薬を造ったのは?」

「薬って、どの薬?」

「胸が大きくなる薬よ」

「――?!!」


 パームの言葉にクマが出来てる目を見開くメディ。再びハイテンションで喋り始める。


「ええ、そうよ!! この大陸に移住してから見つけた新しい薬草と、半水棲種が育てている水生植物を調合した結果!! 見事に完成した珠玉の逸品よ!! こんな代物、天才である私にしか「うるさい」…………ハイ」

「ダメだよ~、きーちゃん。針は布を縫う為の物で、口を縫う為の物じゃ無いんだから~」


 再びメディを一瞬で黙らせる事に成功するキーマと、そのキーマを窘めるステラ……だから! その太っい針はどっから出した?! そして止めろよステラ! と言うかその場の全員!!


「まあ、そういった事はどうでも良いのよ。アタシ達が聞きたいのは、シノブの身体は元に戻るかって事よ」


 ウィスの言葉に、少し考えた後メディが答える。


「…………何時かは戻るはずよ。そもそも永久に効果が持続する薬なんて無いんだから。いずれ身体から薬の成分は排出されるわ。精々一週間(ほど)かしらね」

「良かった~」


 その答えにホッとするシノブ。流石に心配だったのだろう。無理も無いが……


「ところで……」

「ん? 何?」

「この人、どうするんですか?」


 ユーフィの言葉に全員の視線が再びメディに集中する。さてどうしたもんか、と皆が考えるよりも速くエルリナが手を上げる。


「エル?」

「ん。こっちで、責任持って、オシオキしておく」

「……どの程度?」

「ヤルバン、やったのと、同じ程度」

「ちょっと待ってーーーーっ!!!!」


 エルリナの言葉に被せる様に、メディの叫びが木霊する。イヤイヤとばかりに、簀巻(すま)きにされた身体をクネクネのたうち回らせながら必死に懇願する。


「お願いだから!! それだけは!! それだけは止めて!! 許してーーーーっ!!」

「……許しても良いと思う奴」

「「「「「…………」」」」」

「満場一致で否決されたわね」

「ちょっとーーーーっ!!!!」


 ポツリと呟いたユユの言葉に誰も手を上げない。それを見てパームが言った言葉に更に声を張り上げるメディ。

 しかし……


「じゃ、連れて行く」

「いやあああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


……簀巻きのままエルリナによって引き摺られていくメディ。そのまま部屋の外、家の外と悲鳴が遠ざかって行く。


「……何にしろ、元通りになるので良かったですね」

「うん。けどさ……」


 テアの言葉に頷くシノブ。しかし、懸念事項は残っている。

 それは――




   *   *   *


「――と言う訳で、今日のライブはこの姿のままで行いま~す」

「「「「「……WuOhooooooーーーー!!!!」」」」」


 胸が大きくなったままで、ステージ上で歌って踊るシノブ……そして弾む胸。その日のライブの盛り上がりが、過去最高になったのは言うまでもない……

――一週間後。元に戻ったシノブの胸を見て、多くの人が落胆の溜め息を吐いた事は、やっぱり言うまでもない。



……後日。オシオキをなんとか耐え忍んだメディの元に、『胸の大きくなる薬が欲しい!』よりも『完全な女体化薬を造れないか?』の問い合わせの方が遥かに多く来る事になるのは、この時点では誰も知らない事である。

ご愛読有難うございました。

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