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番外編その二である!やっぱその後の事なんか気にならない?

番外編第二弾。『教国』編。

ちょっと話が強引かなって気がするけど、ご了承を。

――かつて、ある一人の女性が居た。

 その女性は片田舎に生まれ、普通に育った。それだけを聞けば、何て事はない平凡な人生であろう。ただし、その女性は一つだけ大きく違う所があった。その髪の色が()()()()事である。

 光魔術による治癒が使えたその女性は、成人すると同時に旅に出た。その治癒の魔術と慈愛の心で、各地で多くの者達を癒し助けていった。

 その旅は彼女が天寿を迎えるほんの少し前まで続き、最後は穏やかだったと言われている。

 そして彼女の死後、彼女の行為に感謝していた者達は徐々に彼女が最期を迎えた場所へと集まっていった。彼女を『聖女』様と呼び、(たてまつ)り、何時しか一つの国を形成するに至った。

 後に『教国』と呼ばれる国の始まりである――




   *   *   *


――そして現在。

 隣国に象徴たる王城があるように、『教国』にも象徴たる大聖堂が存在する。

 白を基調に造られた、地球ならば間違い無く世界遺産に認定されるであろう畏敬の念を抱かざるを得ない建物。その柱に、外壁に刻まれた彫刻や文様は見事な職人芸が伺える。

 その大きさも半端じゃない。天高く伸びた尖塔の先にある等身大の巨大な鐘も、地面から見上げてみれば指で摘める大きさに見える。そして間近で見ると壁や柱に細かなキズや汚れのシミも至る所に存在するが、(むし)ろそれこそがこの建物が永い年月を超えてきた事の証明となる。


――その大聖堂正面の広場。

 普段ならば皆の憩いの場となっているその場所には――普段ならば有り得ない数の人が(つど)っていた。皆が見つめる先には、急遽造られたであろう木造の舞台。その上に居るのは、この『教国』に3人存在する司教枢機卿の2人……もう一人は居ない。この場所に、では無く、()()()に。

 舞台上の2人の片方は、ゆっくりと周囲に(つど)った信者達を見渡すとその口を開いた。


「皆も既に知っているでしょうが、改めてお伝えします――つい先日。『聖女』様がその御姿を現しました」


 その言葉に広場に(つど)った皆からざわめきが起こるが、それに構わず話を続ける。


「……そして、20年前の事件の真実を告げて消えました。文字通りに、一切の痕跡も残さずに」


 ざわめきが段々と大きくなっていくのを聞きながら、彼は覚悟を決めて――決定的な一言を告げた。


「20年前の真実――我等『教国』の手の者が、『聖女』様を殺そうとした事実を」


――その一言を告げた瞬間。広場に集っていた人間全員が例外無く膝から崩れ落ちた……無理も無い。これまでは噂話の域を出ずハッキリと告げられなかった事実が、今ここで他でもない枢機卿自身から告げられたのである。ここに(つど)っている者は皆『教国』でも特に信仰心の深い者ばかり。そんな信者達にとって、信仰の対象である『聖女』様を手に掛けようとした事実は耐えられない。

 皆、口々に「お許し下さい『聖女』様!!」と、手を組み涙を流しながら何処に居るやも知れない『聖女』様に必死に謝罪の念を送っている。

 そんな皆を悲しい瞳で眺めながら、もう一人の枢機卿が話し始める。


「お前達の気持ちは痛い(ほど)にわかる。犯した罪の重さはとても償いきれるものでは無い。先に処刑した、もう一人の枢機卿の命だけでは――」


 その言葉に、涙で頬を濡らしながらも頷く一同。枢機卿2人はそれを見届けると、手に持っていた瓶の中身を――()を頭からかぶる。


「――よって、我等2人! その命でもって『聖女』様への償いとする!」

「『教国』が犯した過ちに比べれば、とても微々たるものでしょうが! 私達の命で少しでも償いましょう!」


 そして2人、手に持った松明に魔術で火をつける。後はそれを足元に落とせば、火に包まれるだけ……しかし、当然の事ながら周囲の信者達が待ったを掛ける。


「お待ち下さい! 枢機卿様がそのような事しなくても!」

「そうです! 『聖女様』への償いは、あの男の死で償っています!」

「御二人が居なくなったら私達――イエ、この『教国』はどうすれば良いのですか?!」

「後任の者は既に任命してあります! 彼等ならば、心配は要らないでしょう!」

「ああ! 後の事は新たな枢機卿達に任せられる!」

「だからと言って! 御二人の死を、はいそうですかと納得出来るものではありません!」

「そうです! どうしてもと言うのであれば、私達もお供させて下さい!」

「馬鹿を言うな!! お前達まで付き合う必要は無い!!」

「イイエ! 今回の一件は言わば『教国』()()()()が犯した罪です! ならば、私達も償う必要が有るはずです!」

「その通りです! 枢機卿様だけに背負わせる訳にはいきません!」

「そのお気持ちは嬉しいですが、貴方達まで――ぶっ?!」


 平行線を辿りながらお互いにヒートアップしていく中、何処からともなく水弾が飛んできて、枢機卿の持っている松明に命中して火が消える。


「「「「「――誰だ?!!」」」」」


 一瞬の空白の後。我に返った信者達が、枢機卿様に対してこんな無礼を働いた者は何処だ? と周囲を見回す。

 しかし、予想に反してすぐに怪しい者は見つかった。広場に(つど)った信者達、その集団からポツンと離れた所に一人だけで居る人物。白いローブにフードを目深に被ったその人物を見た瞬間――


「「――?!! ま、まさか……?!」」


――枢機卿2人が驚きに目を見開いた。周囲の信者達が枢機卿の様子に疑問を浮かべる中、その人物はフードを取る。


「「「「「――なっ?!!」」」」」


 露わになる白い髪。陽の光を浴びてより一層映えるその長い髪を見た瞬間、皆が今目の前に居るのは誰であるかを悟る――『聖女』様である事を。

 何故ここに居るのか? 何時から居たのか? 皆が皆疑問に思う中、『聖女』はゆっくりと枢機卿が居る木造の舞台へと歩き出す。その動きに合わせて信者達が左右に分かれていくので、さながらモーゼの様である。


「――――」


 その場の誰もが、一言も発せぬまま『聖女』が舞台の上へと上がるのを見届ける。自分達の目前にまでやって来た『聖女』を見て、枢機卿2人は気圧された様に思わず一歩下がる。何故ならば、以前会った時は穏やかな笑みを浮かべていたのに対して、今目の前の『聖女』はその美しい顔をただ無表情に――そして、強い視線で枢機卿2人を見据えていた。


「――貴方達2人の忠誠心は見届けました。ですが――」


 静かに発せられた中性的な声。それと同時にゆっくりと振り上げられた右手。そして――


「――何処の世界に、人の命を捨て去る事を容認する宗教が有りますか?!!」

「「――ぶふぅ!!」」


――怒声と共に振り下ろされた右手が、枢機卿2人の頬を纏めてブッ叩いた。頭から被っていた油で濡れていたにも拘わらず、威力は少しも衰えずに2人の首が綺麗に90度回った。

 周囲の信者達が声無き驚きを上げる中、『聖女』は枢機卿に対して説教を続ける。


「死をもって償う?! 馬鹿も休み休み言いなさい!! 死のどこが償いだと言うのです! 誰が貴方達の死を望みましたか!」

「いや、それは……」

「死んで何になると言うのです! 誰が喜ぶのですか! そんな事は貴方達の自己満足に過ぎないのだと何故気づかないのですか!!」

「「…………」」

「償うのならば生きて償いなさい! その命を終える最期の時まで贖罪(しょくざい)の念を持ち続けて生き永らえなさい!! 死に逃げなど許しません!!」


 『聖女』の言葉に、そこに込められた想いに只々(ただただ)打ちのめされる枢機卿。2人揃い力無くその場に膝をつく。

 『聖女』はそんな二人に一瞥をくれると、背を向けて歩き出す。そのまま何の躊躇いも無く進み、広場からも出て行こうとする『聖女』に慌てて周囲の信者達が声を掛ける。


「お、お待ち下さい! 『聖女』様!!」

「どうかこの『教国』にお留まり下さい!!」

「『聖女』様! お願い致します!!」

「我々をお導き下さい!!」

「「「「「『聖女』様!」」」」」


 信者達の必死の懇願。地面に(ひざまず)き誠実に願うその姿に『聖女』は立ち止まると――


「――お断りします」


――一言で斬って捨てた。済まなそうな気持ちどころか一切の感情が篭められていない、淡々と告げた一言。その拒絶の言葉に信者達が固まる中――


「私は貴方達を――『教国』を許した覚えは有りませんよ?」


――無慈悲に真実を告げた。


「貴方達は()()()失敗しました。それを(くつがえ)す事はもう出来ません――ならば刻み込みなさい。()()失敗しないと。それが出来なければ、貴方達……いえ、この『教国』そのものが無意味になります」


 言いたい事だけを告げると、『聖女』はそのまま広場から――『教国』からも歩み去っていった。そして残された者達は皆、『聖女』に向けて謝罪の念を送り続けた。後を追う者は誰一人と居なかった。


――後日。一介の一信者となった元枢機卿が、直接各地を渡り歩きながらある一つの教えを広めた。


『永き時を経て再び『聖女』様は現れた。ならば何時かまた新たな『聖女』様は現れるであろう。我々が犯した罪は償えないが、次に生かす事は出来る。我々はこの事を決して忘れてはならない。未来において次の『聖女』様がこの『教国』を笑顔で訪れて頂く為に、我々はその罪を常に胸に抱いて待ち続けよう』




   *   *   *


「…………」


 そして、『教国』を出てからも淡々と歩き続けていた『聖女』様――シノブはと言うと、偶々(たまたま)目に付いた大きな木を――


「――っ!!」


――思い切り殴っていた。木の枝が揺れ葉っぱが落ちてきて、幹が多少拳の形に(へこ)(ほど)に強く。手の皮がズル剥けて血が流れ、ジンジンと痛むのも気にせずに殴ったままの姿勢で佇んでいた。良く良く見れば、握り締められた右手は爪が手のひらに喰い込む(ほど)強く握り締められている。


「……巫山戯るな」


 ポツリと零れた言葉には明確な怒気が含まれていた――そう、本気で怒っていた。

……実の所、今回シノブは()()()()()()()()()た。()移住が開始されたばかりのエルフや獣人達から『教国』で何やら動きがあると言われたので様子を見に来ただけであった――そう、()()()()()()。正直、何が起ころうとも我関せずを通そうと思っていた。

――それが出来無くなったのは、単純に許せなかった為。


「生きたくても生きられない命があるって言うのに、簡単に命を蔑ろにするな……」


 前世で幾度と無く見せられてきた子供達の死を思い出しながら、シノブは一人呟いた。





……その後。帰ってきたシノブの形相を見て何があったかは知らないが、彼を決して怒らせない様にしようと皆の間で暗黙の了承が結ばれたのは言うまでもない。

ご愛読有難うございました。

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