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番外編その一である!その後の事なんか気にならない?

DS片手にチョコチョコ書いてたら、何時の間にか出来上がったので投稿。取り敢えず第一弾。

急にキャラ増えてますんでご注意を。

……積みゲー消化しきるのは、まだ掛かりそう。

「1~2~3~4♪ 2~2~3~4♪」


 まだ日が昇って間も無い時刻。朝日を浴びながら体操をしている人物が居た。

 しなやかな肢体は瑞々しい肌を持ち、整った顔は美しく、その長い髪は現時点ではたった一人だけの白い色を持った女性……の様にしか見えないのに、実は男性。

 以前はスライムであり、現在は半水棲種の村で村長何ぞやってる人物――シノブである。


「3~2~3~4♪ 4~2~3~4♪」


 腕・肩・腰・足・首に至るまで、ゆっくりと入念に柔軟体操しているシノブの姿は、何時もとちょっと違っていた。

 袖無しのシャツとホットパンツは変わらないが、ジャケット・指出し長手袋・ニーソックスどころか靴すら身に付けていないので、シミ一つ無い綺麗な腕と素足を晒している。髪も後ろで一つに纏められている。


「ん~~~~。良しっ!――――しーちゃん……行きま~す!!」


 柔軟体操が終えると、シノブは小走りに走り出しそのまま綺麗なフォームで湖に飛び込んだ。

 一瞬の衝撃の後、身体全体を浮遊感に包まれると同時に目を開く。その目に映ったのは――多種多様な水生生物・植物が生息する、一種の幻想的な光景であった。

 シノブ達、半水棲種が常に管理をしている広大な湖――通称『蒼の器』。その水はとても澄んでいて、朝日が差し込む水中では約20メートル(ほど)下方の湖底の様子がハッキリと見渡せる。

 その澄んだ水中をゆっくりと泳ぎながら、シノブは湖底に生えている水生植物を一つ一つ確認していく。時折、小魚などの小さい水生生物に纏わり付かれながら。


(うん。順調に育ってるね――こっちはちょっとアレかな?――あ~もう、くすぐったいから離れて――この辺りは収穫時かな?)


 色々な形状・色をした水生植物を、時間を掛けて直接触りながら調べていくシノブ。半水棲種である彼は肺活量に優れているので、既に十分は経過しているが苦しい素振りは少しも見えない。

 そうしてシノブは、続いてある水生生物達の所にやって来る。湖底に貼り付いた、赤い円筒形のブヨブヨと柔らかい体を持った手のひら大の生物。上面部の中央に丸い口があり、その周囲から放射線状に多数の触手が並んでいる――イソギンチャク。それが約十体(ほど)、一箇所に固まって群生している。

 シノブはその内の一体のイソギンチャクの口の辺りに手をやって、()()()()がある事を確認する。その際、触手がシノブの手に触れるが、シノブはちょっとくすぐったいと感じるだけで、別段気にする事無く他のイソギンチャク達を同じ様に確認していく。


(異常無さそうだね。この湖の美しさはキミ達の手に掛かってるからね~。頼んだよ…………そろそろ、キツくなってきたかな)


 確認していく最中、良い加減息が続かなくなってきたシノブは手近にあった、赤茶色の枯れ木の様な植物の先端の部分を、パキッと少しだけ折って手にしたまま湖面まで上がって行く。


「――――プハッ!」


 勢い良く湖面から顔を出したシノブは大きく呼吸をすると、そのまま身体から力を抜いて湖面に大の字になってプカプカと浮かびながら、手にしていたモノを口の中に放り込む。


(ん~~♪ 甘~い♪)


 カリカリと口の中で(かじ)りながら、風が起こすさざ波に揺られるがまま、シノブは目を閉じる。瞼の裏からでも感じる夏の日差しと、風と水の音・口の中の甘味を五感で感じられる事に――生きているという実感に、シノブは口の端が上がる事を止められない。


(スライムの身体は、アレはアレで良い所が有ったけどね……やっぱり、ヒトの身体の方が良いよね~)


 耳も痛覚も無い身体の為に触覚・聴覚がどこか曖昧。その上嗅覚、そして何よりも味覚の無い身体。皆が美味しそうに食事する姿を見て(うらや)む事も幾度と無く有った。だが、それももう過去の話。もう羨む必要は無い。



「――――ふぅ……」


 目を閉じたまま只々(ただただ)静かに、あるがままに湖面に漂うシノブ。このまま水に溶けて、自然と一体化してしまいそうになる様な錯覚を覚える中――


「…………ん?――うわわわわっ?!!」


――瞼の裏で感じていた日差しが無くなった事に疑問を感じる間も無く、突如、身体を何かに掴み上げられ――


「――あうっ?! 痛たたた……何なの? 何が起こったの?」


――次の瞬間には地面に投げ出され、(したた)かに打ち付けられた腰を(さす)りながら辺りを見回すと、すぐ傍に巨大な鳥が降り立った。


「フェズ?! もしかして今の?!……ちょっとちょっと、どうしたの?」


 今のはフェズの仕業かと尋ねようとしたシノブに対して、その大きな身体を前に屈ませて頭……というか顔を擦り付けてくるフェズ。何時もと様子が違くて、何か必死に顔を擦り付けてくる。

 ずぶ濡れな自分に対して、何時もより五割増しな力で擦り寄ってくるフェズの態度に、シノブはフェズの頭を撫でながら小首を傾げる。


「?……………………あっ?! もしかしてフェズ! さっきのボクを見て溺れてる……と言うか、気を失って浮かんでると勘違いしたんじゃない? だから、ボクを助けようとしたんでしょ」


 今のフェズの様子を見ると、当たらずとも遠からずな感じがする。シノブは手で撫でるのを止めて、身体全体で抱きつく様に頭を撫でてあげる。


(仕方が無い子だね……まあ、今回に関しては()()()の事を忘れたボクが悪いと言えるし……)


 スライムからヒトに成ったのはシノブにとってはたった()()。しかし、他の皆には()()()もの月日が流れている。

 このフェズにしても、姿が変わってるとはいえ20年ぶりに再会出来たと言う喜びがあり、同時にまた居なくなってしまう事を恐れている。先程の様な過激な行動を取ってしまうのも、仕方が無いと言えよう。


「はいはい。大丈夫だから。居なくなったりしないから。だから、落ち着いて。ね?……良し良し。良い子だね…………後は――」


 自分の言葉によって次第に落ち着いてきたフェズの様子を見て、シノブは安心した笑みを浮かべる。そして振り返り――


「――アッチの方をどうにかしないと……ハァ」


――突然、空から湖にダイブしてきたフェズの行動にちょっとした騒動が起きている自分の村を見て、シノブは思わず溜め息を吐いた。




   *   *   *


「はい。軽い打ち身だったから、これで大丈夫です」

「うん。ありがとう。テア」


 所変わってシノブの家の居間。あの後村に戻り、事情を説明して皆に落ち着いてもらった後、念の為に地面に打ち付けた腰の様子を診てもらっていた。

 腰に塗り薬を塗ってもらったシノブは相手に礼を言う。青い髪をボブカットにした緑の瞳の女性。この半水棲種の村で医者的ポジションについている女性で、名前はテア。


(う~~ん。やっぱりこの人、元グリーンスライムな気がする……)


 診てもらう為に脱いでいたシャツを着ながら、シノブはそんな事を思う。良く良く見てみれば、村の皆も元になったであろうスライムの種類がわかる者が少なくないのである。


「でも、災難だったわね。朝からいきなり」

(絶対、この人は元カクテルスライム。間違い無い)


 寝癖の残った青いセミロングの髪と茶色の瞳の女性が心配そうに言う……朝っぱらなのに息が酒臭い事が全てを台無しにしているこの女性はウィス。


「あはは~。愛されてるね~。しーちゃんは~。あの人達にもね~」

(……元シロップスライムと見た)


 軽くウェーブが掛かった青いロングヘアーと黄色い瞳、おっとりポワポワの雰囲気をした間延びした喋り方の女性――ステラが笑いながらシノブに言う。

 あの人達とは、例の元メイジスライム五人組である。ついさっき心配しすぎる五人を五月蝿くて治療出来無いと、部屋から追い出し……蹴り出したばかりである。


「……ウザイだけ。死ねば良いのに……」

(……この辛口は、元スパイシースライムだからだと思う……)


 青いセミロング且つ長い前髪で目が覆われている女の子――キーマが辛辣な事をボソッと呟く。先程の追い出し……蹴り出しに無駄な労力を使った所為で、やや不機嫌である。


「口で騒ぐだけで五月蝿いだけなんだから、一々私達の手を煩わせないでほしいわよ」

(となると、残ったこの人は元アロマスライムかな?)


 ストレートな青いロングヘアーと緑の瞳を持った、この中では一番身嗜(みだし)みに気を使っているやや潔癖気味の女性――パームが溜め息を吐きながら言う。


「…………」

「良い加減離れてくれないかな? ユウちゃん」

(この子は……何だろ?)


 治療を終えてからずっと腰にしがみ付いている、青いショートヘアの子供にシノブが優しく話し掛ける。言われた子供の方は、イヤイヤとばかりに更に強くしがみ付く。


「……誰か手を貸してよ?」

「そうは言ってもね……アタシとしては子供の要求には素直に答えて上げるのが「言いながら、朝っぱらから酒呑んでんじゃないわよっ!!」――あっ?! ちょっと! 返しなさい!」


 何処からともなく取り出した酒瓶をラッパ飲みしようとしたウィスから、瞬時に間合いを詰めて酒瓶を引っ手繰るパーム。そのまま二人してギャアギャア口論を始める。


「……任せて。どんな手を使ってでも「は~い。ストップ~。何をしようとしてるのかな~? きーちゃんは~」――チッ」


 ユラリと近づこうとしたキーマを、何時の間にか背後に居たステラが羽交い締めにする。止められたキーマは舌打ちと共に、密かに手に持っていたナニかを隠す……皆の目に狂いが無ければ針以外の何物でもない……


「ハア~……ユウ。シノブが困っています。我儘言うと嫌われますよ?」

「…………」


 テアの言葉に渋々従って離れるユウ。そして、パパパッと服を身に付けるシノブ。すぐに何時ものシャツ・ジャケット・長手袋・ホットパンツ・ニーソックスの姿になる。

 相変わらずの肩・腋・二の腕・太ももが露出した服装であるが、今の夏の季節だと、この村ではそう珍しくない服装だったりする。現に今ここに居るシノブ以外の女性達も、ジャケットとスカートの代わりの長いパレオを脱げば『今すぐに泳げる格好』に早変わり出来る。流石に冬場は着込むが、今の季節ならば、半水棲種らしい服装とも言えよう。


「良しっ! じゃっ! 後ヨロシク~♪」


 言って窓から外に出ようとするシノブ。ご丁寧に光魔術で自分の姿を消してまで。

 他の皆は、そんなシノブの行動を見て――


「はい」

「行ってらっしゃい」

「気をつけてね~」

「お土産、期待する」

「後の事は任せなさい」

「…………」


――普通に対応していた。どうやら皆、シノブの事は結構わかっている様である。


「じゃあね、行ってきま~す」




   *   *   *


「風が気持ち良いね~」


 窓から抜け出した後。シノブはフェズの背に乗って空を飛んでいた。

 向かうは他の村々。つい先日、移住が完全に終わったと皆が態々(わざわざ)報告にやって来てくれた……ライブ見て、唖然としていたが……

 ならば、移住の発案者として一応は様子を見に行くべきだと、シノブはフェズに頼んで運んで貰っているのであった……なお出立の後、「だから気軽に村長が村の外へ出歩くな~~!!」と言う五人の叫びが半水棲種の村に木霊(こだま)したとか。


「――ん? 見えてきたね」


 エルフ達が住処と定めた森。その森の奥、新たに拓かれた場所。エルフ達の新しい村の広場にフェズが降りる。続けてシノブも。

 そして、降りる前から待ち構えていた女性――背も髪も伸びて大人になったエルに抱きつかれる。


「~~っ!」

「おっと?! 危ないよエル?」


 普通ならばリア充爆発しろな光景なのだが、シノブの見た目がアレなので仲の良い女性2人としか見えない。

 シノブはエルと共に、出来たばかりの家々が並ぶ村の中を歩きながら、色々と話を聞く。


「――で、どんな感じ? 移住してみて……」

「ん。運んできた木も、ちゃんと植える事、出来た。皆、笑顔。特に、ここで見つけた、新しい薬草や、シノブ達の村で、栽培してる、水生植物。皆の、研究魂に、火、付いた」

「成る程ね~」


 流石は薬学に秀でたエルフ達と言うべきか。既にアレコレ始めているその行動力に、拍手を送りたいものである。


「なら、新しい薬が出来るのも、そう遠く無い……ん? アレは?」


 ふと目に付いたモノにシノブの足が止まる。大人の腰程の高さの鉄板でグルリと囲われたソレは、かつて自分も手を貸していた――


「――スライム育成所? コッチでも造ったんだ」

「ん」


 シノブの声にエルが頷く、近づいて見れば、そこには多くのスライム達がいる。

 過去の自分を思い出し、懐かしいな~と心の中で思っていたシノブに後ろから声が掛かる。


「失礼致シマス」

「ああ。ごめ…………はい?」


後 ろを振り返ってシノブは……凍り付いた。声を掛けてきた相手は、スライム時代に幾度と無く自分にアレコレ仕掛けてきたバカ……もといヤルバンであった。

……ただし、何か様子が違う。声が平坦だし……何より、目に光が無い。シノブを気にもせずに、淡々とスライム達の世話をしている。


「………………エル?」

「何?」

「……何があったの、彼?」

「お祖母ちゃん達、お仕置き、した」

「…………大丈夫なの?」

「ん。もう皆に、迷惑掛けない」

「………………」


 確かにそうなんだろうが……いったい何をしたのか…………あまりの変わり様に、シノブは恐る恐る声を掛ける。


「え~と……ヤルバン君?」

「ドウカナサイマシタカ?」

「どうかしてるのは君だよね?……あの~。スライムの世話をしている事に関して、何か思う事はないの?」

「ハッ。スライム様ハ至高ナ存在デス。オ世話ヲスル事ハトテモ光栄ナ事デス」

「…………ボクは君の思考が非常に心配だよ……」


 会話が終わると同時に再び世話に戻るヤルバンを見て、シノブは――


(――見なかった事にしよ……)


――忘れる事にした。綺麗サッパリ。跡形も無く。




   *   *   *


「う~~ん。住む場所が変わっても、変わらないね~。ここの皆は」

「そりゃそうだ。俺達がやる事は何時だって同じだ」

「で? ここに来てみてどうなの?」

「アッチじゃ掘れなかった鉱石が見つかってな。お陰で俺達の意欲は上がりっぱなしだ。久しぶりに面白ぇ仕事が出来るってな」


 続けてシノブがやって来たのはドワーフ達の村である。以前の様なすり鉢状では無い、山間に造られたばかりの村。既に幾つかの坑道が掘られ、そこかしこの鍛冶場からは威勢の良いトンカンという音が聞こえてくる。そして広場には当然の如く男性用・女性用・子供用の三つの()()

 他のドワーフ達からの、ホントにアレがあのスライムだったのか?! ホントに男か?! と言った視線を無視して、グレッコの言葉にウンウンと頷いていると子供達がシノブの元に集まり話し掛けてくる。


「ねえねえ。おねーちゃん」

「何?――後、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」


 笑顔で答えながらも律儀に訂正するシノブ。

 その顔で言っても説得力無い。会話を聞いていたグレッコと周囲の皆はそう思った


「あのすらいむつくったのって、おねーちゃんってほんとう?」

「ん? カクテルスライムの事? そうだよ――後、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」

「だったら、ぼくたちにもなにかつくってよ。おねーちゃん」

「ん? どういう事?――後、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」


 シノブはグレッコに尋ねる。問われたグレッコの方は頭の後ろをガシガシと掻きながら、少し気不味そうに告げる。


「あ~~。俺達は優勝景品としてカクテルスライムがあるだろ? でもガキ共の方にはなぁ……」

「シロップスライムは?」

「ソッチは女性陣の景品に取られちまった……」

「……納得」


 そりゃ仕方が無いな……シノブはそう思わざるを得なかった。そんなシノブに、子供達は寄り縋って頼む。


「なー。なー。なんかない? おねーちゃん」

「そうだね~――後、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」

「おとなたちばっかずるいよ。おねーちゃん」

「確かにそうだよね――後、お姉ちゃんじゃなくてお兄ちゃんだからね」

「ぼくたちもけいひんほしいよ。おにーちゃん」

「う~~ん――後、間違えなかったキミはご褒美にいい子いい子してあげよう」

「えへへへ♪」

「「「「「ずるい!!」」」」」


 嬉しそうに笑う子と、羨ましそうにする子供達。

 もう一体シロップスライムを連れて来れば良いのだろうが……自制を知らない子供に与えた場合、四六時中甘い液を舐めそうで怖い。シノブは一頻(ひとしき)り悩んだ後、子供達に提案する。


「――()()じゃ駄目?」

「「「「「えっ?」」」」」

「ボクが景品。一日一緒に居てあげるとかは?」

「「「「「――?!!」」」」」


――その瞬間、子供達の目がキュピーンと光った。更にシノブに身を寄せてアレコレ言ってくる。


「おんぶしてくれる?!」

「あたまなでなでしてくれる?!」

「だっこしてぎゅってしてくれる?!」

「ひざまくらしてくれる?!」

「いっしょにおひるねしてくれる?!」

「うん。良いよ♪」

「「「「「良ぉぉぉぉしっ!!!!」」」」」


 前世で孤児院の子供達にやってあげてた事ばかりなのでアッサリ了承するシノブ。そして、それを聞いて雄叫びをあげる子供達。そのまま土俵の方へと走り去っていく。


「――子供って元気だね~」

(((((イヤ、何か違うし……)))))


 シノブの言葉に、心の中で全く同じ事を呟く周囲の一同。

――この後、子供達の間で行われた相撲は皆凄まじい気迫で勝負に挑み、優勝者は村の中どころか周囲の山々にまで響く(ほど)の歓声を上げ、敗者は皆血の涙を流さんばかりに悔しがったとか……


……ちなみに、負けた子供達一人一人にもコッソリと『だっこしてギュッ』や『頭ナデナデ』といったアフターケアをしていたのは、シノブだけの秘密である。




   *   *   *


「ちょっと……イヤ、かなり意外……これは」

「そうだろうね。もし過去の私達が今の私達を見たら、驚くだろうからね。」


 続けてシノブが訪れたのは龍族達の村。だだっ広い平原の中に存在する、木と土壁を組み合わせて造られた新しい家々。そして、その周囲には広大な畑が広がっていた。

 今も龍族の人達がそこら中の畑で、クワを持って畑を耕してたり雑草を引っこ抜いてたり邪魔な石ころを退かしてたりと、皆キビキビと働いている。夏の日差しに汗を浮かべながら実に良い笑顔を浮かべて……例によってシノブの事をアレがあのスライムだったのか?! と見ているが……


「龍族がここに村を造った時も驚いたけど……まさか、農業を始めるなんて……」

「ふふふ。皆で話し合ったのさ。栄えるにしろ滅びるにしろ、自然と共に生きようって。それなら文句の付けようも無いしね」


 シノブの言葉にスォイルが答える。彼の服装は以前のローブ姿では無く長ズボンに腕まくりしたシャツ、そして麦わら帽子に首に掛かったタオルと完全にファーマーとなっている。


「まだ一ヶ月しか経っていないけど、実際にやってみると面白い事がわかったからね。私達が手を加えると、それに正しく応えてくれる作物達の反応がね」

「あっ。それはわかる。ボク達も水生植物を育ててるからね」


 ウンウンと頷き合う2人。まだ周囲の畑には、芽が出たばかりの作物だらけだがこれからを期待するのは間違ってはいないだろう。


「――シノブさん!」

「ん? あっ、ユーフィ。久しぶり~♪」


 と、長いワンピースを着たユーフィが小走りにやって来る。以前の儚さ・弱々しさは消え健康的になった彼女は2人の元まで来ると、シノブの姿を頭からつま先まで見て溜め息を吐いた。


「……ズルいです」

「イヤ、何が? ユーフィも以前ボクのこの姿を見たいって言ってたよね?」

「それはそうですけど……ズルいものはズルいんです」

「だから何が?」


 やや拗ねて言うユーフィの言葉にシノブが困惑顔で返す。そんな2人のやり取りを、スォイルは面白そうに見てから告げる。


「いや、仕方無いんじゃないかな? 自分の気になってる相手が自分よりも綺麗――ブフォ!!」

「あっ! すいませんお父様。頬に虫が付いていたので思わず……」


 言葉の途中で吹っ飛ぶスォイル。そのまま錐もみ状態で畑に突っ込んでいって止まる。

 ユーフィはスォイルに謝る……が、手の形がパーで無くてグー・手の動きが見えなかった・目が笑ってないの三拍子。


「こんな所で立ち話もなんですから、家に来て下さい」

「…………イヤ、大丈夫なの? かなり良い勢いで「大丈夫です」……でも、いくら龍族とは言え「大丈夫です!」……ハイ」


 スォイルの事を心配するシノブの言葉を一言で押さえ込むユーフィ。そのまま強引に腕を取って歩いて行く。


「……今のはあなたが悪いわよ」

「……す、健やかに育ってくれて、何よりだ……ガクッ」


 妻であるエフィの呆れた声に、スォイルは頭を土に突っ込んだまま右手の親指をグッと上げると、力尽きた。




   *   *   *


「――ふぅ……」


 皆との狩りを終え己の村へと帰ってきたユユは漸く一息付いた。

 縦に突き刺さった丸太に囲われた出来たばかりの村。その中に建っているのも新しい家々と厩舎。しかし、住む場所は変われどもその逞しさは変わらぬ獣人達。移住した事によって出会った新たなモンスター達は、獣人達の狩猟民族としての本能を大いに刺激した。既に大人になっているユユも狩猟に参加しては、見事な成果を上げている。

 自分のショートヘアや猫耳に残った汗を手で振り払いながら、ユユはゆっくりと村の中を歩いて行き――


「…………「ボクしーちゃん! 今あなたの後ろに居るの!」――にゃあああああぁっ?!!!!」


――突然の後ろからの声に、文字通り飛び上がる様に驚いた。

 慌てて後ろを振り返れば、そこにはしてやったり顔のシノブが居た。ユユは顔を真っ赤にしてシノブにくってかかる。


「何すんだよ! いきなり!」

「ふっふっふっ。ユユにはスライムの時に色々とやられたからね。ちょっとしたお返しだよ。姿を隠して待ってた甲斐があったよ」

「巫山戯んな~~っ!!」


 シノブの言葉に叫ぶユユ。シノブはそんなユユの言葉に頭を振って悲しそうに言う。


「ダメだよ、ユユ。女の子なんだから、ちゃんと女らしい言葉遣いでないと……」

「お前が言うなっ!! 男なんだから、ちゃんと男らしい格好しろっ!!」

「そう言われてもね……ボクが男っぽい格好しても似合わないよ? なんか無理矢理男装してるみたいで……」


 しみじみ呟くシノブ。その辺りは前世でも色々あった事なので、呟いた言葉は重い。


「だからって、その格好はないだろ! 違う格好をしろ! 違う格好を!」

「違う格好ね~……」


 軽く小首を傾げたシノブは、何処からともなく二つのアイテムを取り出す。片方は以前にも見た猫耳が付いたカチューシャ。もう片方は猫の尻尾が付いたベルト。

 その二つを身に付けたシノブは右手は軽く握ってこめかみの辺りへ、左手も軽く握って頬の辺りに持っていき、ウインクと共におどけて一言――











「しーにゃん参上――にゃん♪」

「「「「「――ぐはぁっ!!!!」」」」」


――その言葉と仕草に吐血してブッ倒れる……と言うか萌え死ぬ、周囲で話を聞いていた一同。倒れなかった者達も手で口……と言うか、鼻を押さえて膝を付いている。

 シノブはそんな皆を見てフフッと笑う。


「まだまだにゃね」

「何がだーーーーっ!!」


 (かぶ)せる様に大声を上げるユユ。吐血・鼻血こそしていないが、その顔はより一層真っ赤に染まっている。


「ユユ。五月蝿いにゃ」

「何なんだ! その語尾はっ!!」

「この姿の時はデフォルトにゃ」

「だったら、今すぐ外せーーーーっ!!!!」

「にゃ~~……」


 ユユの叫びに、え~? と言った雰囲気で返すシノブ。周りをグルッと見渡すと、そのまま皆に聞こえる様に大きな声で言う。


「このままの姿で良いと思う人、手を上げるにゃ!」

「「「「「――ハイッ!!」」」」」


 シノブの言葉に手を上げる皆の衆。萌え死にしていた者達も地に倒れたまま、シッカリと手だけは挙げている。その自らの欲望への愚直なまでの想いに、シノブは彼等に『真の(おとこ)』の姿を見た。


「多数決の結果、これを付けておいて欲しいときまったにゃ」

「皆バカばっかだ~~~~っ!!!!」


 喉が張り裂けんばかりの雄叫びを上げるユユ。もはや言葉では埒が明かないと、物理的手段に出る。


「外せ!! 今すぐ外せっ!!「でもこれでユユとお揃いにゃ」――えっ?「今、ちょっと嬉しいと思ったにゃ?」ーーーーっ!! だあああああぁーーーーっ!!!!」


 シノブの言葉に、これ以上無理な(ほど)顔を赤くしたユユがブンブン手を振り回す。そんなユユの猛攻を軽やかにバックステップで躱し続けるシノブ。

……今日も、どの村も平和……ではある。






「ちゃんちゃん♪――じゃなかった。にゃんにゃん♪」

「えいっ! 取ったぞ!」

「――あっ。返してよ」

「誰が返すか!没収だ!!」

「いいも~ん。後、()()()有るし」

「2個じゃ無くて2種類ってどういう意味だ~~~~っ!!!!」

ご愛読有難うございました。


本日のモンスターand植物図鑑


――――グルコーラル――――


赤茶色の枯れ木の様な姿をした、珊瑚に似た植物。

光合成によって造られた糖分を多量にその内に含んでいる為、食べると甘い。カリカリした食感の為、しーちゃん曰く『あっさり風味のかりんとう』



――――アクアアネモネ――――


手のひら程の大きさのイソギンチャク。

周囲の水と一緒に、プランクトン等を吸い込んで食べる。触手は攻撃の為では無く、生えている細かい毛でプランクトン等をくっつける為のもの。

プランクトンと共に水中の細かいゴミも一緒に食べるので、水質浄化もしてくれるモンスター。シノブ達はこのモンスターを湖の至る所に均等に配置する事で、湖を常に綺麗な状態に保っている。

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