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これにて終幕である!されど彼等の一生は終わりではない

注意。今回は3話同時に投稿しています。これは3話目です。

「ふむ。これで漸く最後かの」


 今まさに、龍の姿になっている龍族の者達によって空輸されて来たモノを見て、エルフの村長であるアムリナが呟く。

 あれから約一ヶ月。それだけの時間を掛けて、エルフ・獣人・ドワーフ・龍族の()()は終わりを無事迎えた。

 龍族の背に乗って先にやって来た者達が下見をし、ここだと思った場所に家を、村を造っていき、それに従って少しずつ移ってきた。

 経過は順調。特に龍族の力が大きかった。大掛かりな荷物を、特にエルフ達は貴重な()()()()を・獣人達は家畜達を運びたかったので、彼等・彼女等の協力は非常に有り難かった。

 今では皆、既に新天地での生活に慣れ、新たな薬草・生き物・鉱物に目を輝かせている。


「――ご苦労様じゃ。お陰で大いに助かったぞ」

「イヤイヤ。これぐらいの事ならば私達にとっては重労働でも無いからね」


 アムリナの言葉に、人の姿に変わったスォイルが返す。正直、良い汗かいたぐらいにしか彼は思っていない。

 そんな彼に、アムリナは再び話し掛ける。


「しかし、意外じゃったの……」

「私達龍族が、他の種族の近くに村を造った事にかい?」

「うむ。また何処かの山奥に隠遁するものとばかり思っていたからのぉ」


 そう。この大陸に移住してきた時。エルフ・獣人・ドワーフは勿論の事、龍族も普通の場所に村を造り始めたのであった。それを見た時は、他の種族が皆「えっ?!!」と声を上げる始末。それだけ予想外の出来事であった。

 そんな訳で、今現在それぞれの村の位置を言葉に表すと、シノブ達の半水棲種の村がある湖を中心に、北東の山岳地帯にドワーフの村が、北西の森林地帯にエルフの村が、南東の草原地帯に獣人の村が、そして南西の平原に龍族の村が存在する。空から見ればちょっと歪な正方形と言った所か。


「理由は三つだね。一つ目は、あそこが大地を流れる魔力の集結点だから。二つ目は、人間達がここには居ないから。三つ目は……シノブ君に言われたんだよ」

「何をじゃ?」

「『先の事を考えるのは良いけど、考えすぎるとハゲるよ?』って」

「……シノブらしいの」


 思わず苦笑いするアムリナ。スォイルも同じく。


「でもね。確かにそうかもしれないって思っちゃったんだよ。衰退を恐れ停滞していたけど……それは()()()の事であって()では無いって。なら、それを考えるのは、まだ早いんじゃないか……ってね」

「…………」

「それに、そうなったら他の種族に助けて貰おうとも思ってね。それなら、近くに居を構えた方が良いと思ってね」

「くっ! 龍族が他の種族に助けを求めると? くくくっ! 前代未聞じゃの?」

「実際、私の娘はスライムに助けて貰ったしね」

「そうじゃったの! くくっ!」


 笑いを(こら)えるアムリナと、どこか清々(すがすが)しい顔をするスォイル。そんな二人にエルが近づいて来る。


「ん……そろそろ、時間」

「ん? おお、そうじゃの」


 空の太陽を見上げ、約束の時間が近い事に気がつくアムリナ。同じ様に気がついたスォイルは、離れた所で手伝いをしているユーフィに声を掛ける。


「ユーフィ。そろそろ時間だよ!」

「あっ?! はい! お父様」


 言って、こちらにやって来るユーフィ。以前の儚さ・弱々しさなど存在せず、普通の元気な女性へと様変(さまが)わりしている。これもシノブ君のお陰だ、と内心で感謝を述べるスォイル。

 4人は連れ立って歩き出す。向かうはシノブ達の半水棲種の住まう村。この一ヶ月間、移住に掛かりきりで正式に挨拶をしていない。それ(ゆえ)に、今日それぞれの種族の代表者達が集まって訪れる事になっている。

 村に近づくにつれ、獣人族の村長であるトゥーガと、エルと同じ様にこの20年で大人の女性に成長したユユ。そしてドワーフのグレッコと合流する。グレッコは「何で俺が代表何だよっ?!」と言っていたが、お前が一番シノブと親しいと言う理由で押し付けられたのであった。

――(ほど)なくして彼等は半水棲種の村に到着する。

 巨大な湖に隣接して存在する木造の家々。普段ならば住人達が生活しているであろうそこには――()()見当たらなかった。


「……誰も居ねぇぞ?」

「アッチの方から声が聞こえるんじゃが…」


 グレッコの疑問にトゥーガが指差して答える。確かに、そちらから声が聞こえてくる。良く聞こえないが……怒声・罵声の(たぐい)では無いようだ。


「……行ってみるかの? ここに居ても仕方が無いしのぉ……」

「そうだね」


 アムリナの言葉に、一同歩き出す。徐々に近づくにつれて声も大きくなっていき、少しずつ聞き取れる様になっていくが……


「……これって、歓声ですよね?」

「ん」

「何やってんだよ。この村の連中」


 ユーフィ・エル・ユユが思わず顔を見合わせる。かなり大勢の人数で盛大に叫んでいるようだ。


「俺達の所みたいに、相撲とかやってんじゃねぇのか?」

「それは、ありそうだね」


 グレッコの言葉にスォイルが頷く。アレは元々シノブが発案者。ならば、この村で行っていてもおかしくない。

 そうして、漸く皆がたどり着いたその場所では――












「君に伝え~たい~~こ・と~が~♪」

「「「「「シ・ノ・ブ!! シ・ノ・ブ!!」」」」」

「「「「「…………」」」」」


――想定の範囲外過ぎる事が行われていた。

 湖のすぐ傍に造られた大きなステージの上。自らの光魔術で生み出した色取り取りの光球に照らされる中、軽やかに踊りながら歌っている白い髪の女性……イヤ、男性――シノブ。

 そして、ステージの前で綺麗に整列しながら、片手をリズムに合わせて天に突き上げる大勢の者達。男性と女性引っ括めてここに居る事から考えると、この村の住人全員が今ここに居るのだろう。

 ここに来るまで誰にも会わなかった理由はわかった。わかったのだが……理解するのが非常に困難だ。


――十数分後。


「皆~~!! 今日はここまで~! アリガトね~~♪」

「「「「「イェ~~~~!!」」」」」


 シノブの声を聞いて一層激しい歓声を上げた後、皆が三々五々に散っていく。


「イヤ~~。今日も最高だった」

「ヤッパ、これが無いとな」

「良~し。午後からの作業も気合入れていくぞ」

「あ~もう! しーちゃん最高!」

「「「「「…………」」」」」


 皆が散っていく中、その場に残る者達が居た。未だ呆然としているアムリナ達である。シノブはそんな彼等に気がつくと、ステージを降りてやって来る。


「やっ! 久しぶり~♪ 移住は無事に終わったの?」

「「「「「…………」」」」」


 シノブの声に皆は答えない。答えられない。まだダメージは残っている。

 暫くして、漸くアムリナが声を発する。


「……何をしていたんじゃ?」

「ライブ」

「「「「「…………」」」」」


 アッサリ答えるシノブ。言葉自体は初めて聞くが意味はわかる。さっきの歌と踊りの事であろう。と言うか、それ以外考えられない。

 非常に気にはなるがそっちの事は一旦置いておいて、アムリナがシノブに尋ねる。


「それで、この村の村長に会いたいんじゃが、どこに居るんじゃ?」

「目の前」

「「「「「…………はっ?」」」」」

()()()()()

「「「「「…………はいっ?」」」」」


 思わず耳を疑う皆。人柄とか能力とか以前に、こんな若い者が村長?


「少し前に流行病が蔓延してね……ボク等よりも年上の者が皆亡くなったんだよ。だから、仕方無くボクが村長をやってるんだよ(そういう()()なんだよ)」


 心の声は出さずにシノブは告げる。この村と言うか、この種族自体が最近に誕生したモノだなんて、言っても信じられないだろう。その為に、こんな風に(いびつ)な所が存在する。


(ホント、仕方が無いよね……)


 シノブが内心で嘆息していると、近づいて来る五つの気配を感じる。振り向けば、それぞれ赤・青・黄・緑・茶の髪を持つ五人の男性が居る。


「シノブ様」

「あ~~。ハイハイ。わかってるから、先行って準備しておいて」

「「「「「ハッ!」」」」」


 綺麗に一礼して去って行く五人。その五人を見送りながら、シノブは内心で思う。


(ホント、どうにかならないかな~。あの、()()()()()()()()()。ボクに一番近かった存在の所為か、ボクに対する忠誠心が半端無いんだよね……お陰で村を抜け出した時も二日掛かったし、ちょっと堅苦しいんだよね)


 どうしたものかと悩むシノブ。そんなシノブにグレッコが尋ねる。


「……よぉ」

「ん? 何?」

「……本当に、本当~に今更だがよ。お前いったい何なんだよ?」

「ボク? ボクは……ふふっ!」


 思わず溢れる小悪魔的笑み。何時かと同じく、左手を腰に右手を横ピースで額に持って行きパチンとウインクを決めて一言――











「吾輩は、歌って踊れる男の娘アイドル、しーちゃんである!……な~んてね♪」

「……巫山戯んな~~っ!!」

「ぷっ! くくくく! あ~はっはっはっ!!」

「お、お父様。笑っては……ぷっ、~~っ!!」

「……ホント、何がどうなろうとも、こやつは変わらんのぅ」

「……同感じゃ」

「ん。シノブはシノブ」

「スライムだった時の方が……イヤ、ドッチもドッチだな。コイツの場合……」


 シノブの言葉に続く怒号・嘆息・笑い声。

――彼の日常は、今日も平和である。それは恐らく今後とも続くであろう。

ご愛読有難うございました。

これにて、この物語を一先ずの完結とさせて頂きます。

打ち切りエンドみたいな終わり方ですが、最初から終わるタイミングは決めていました。理由は、感想欄の返答で自分が良く書いていましたが、『この物語の主人公はスライム』だという事です。故に、主人公がスライムでなくなったら終わらせようと考えていました。プロットもここまでしか書いていません。

『主人公がスライム故の物語』ですので、人になってしまってはこの先『ありきたりな物語』になってしまいそうなので、ここで終わりにさせて頂きました。

なお、次回作云々に関しては、後日、活動報告にて連絡しようかと思います。


最後に、この小説を読んで下さった皆様に深く感謝致します。

まさか最初の長編小説でランキング入りを果たせるとは思ってもいませんでした。

この経験と喜びをバネに、一層の精進をして次回作に繋げようと思います。

長くなりましたが、この一年間有難うございました。

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