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驚天動地である!苦情、その他諸々は聞かない

あの……気がついたらお気に入り件数が倍以上になってるし、日間ランキングで50位以内に入ってるし……調べてみたら10日の夕方辺りからアクセス数がうなぎ登りなんですけど……いったい何があったんですか? 誰か知っていたら教えて下さい。


後……大変申し訳ないのですが、完結まで書き終えたので一気に投稿します。

ランキングに入り、さあこれから、と思っている皆様には大変申し訳ございませんが、これにてこの物語を一先ずの完結とさせて頂きます。完結の理由に関しては、最終話の後書きに書いてありますので、そちらを御覧下さい。

最後に一言。




やっちまった! でも後悔はしていない! 皆からの反響が怖い!

――とある村落にて。複数の男達が走り回っている。その表情は焦燥に満ちている。


「何処に居るのですかーーーーっ!!!!」

「居たか?!」

「イヤ! そっちは?!」

「こちらにも居ません!」

「ホント何処行っちまったんだ? あの人は……」

「……て言うか、あの人、何時から見てない?」

「……昨日の朝は居ましたよね?」

「それ以降は……それ以降は?」

「……俺、知らんぞ」

「……私もです。見ていません」

「……右に同じく」

「…………ちょっと待て。すると何か? ()()()見ていないのか?」

「――オイ! ちょっと!」

「何だ?!」

「これ……」

「何? 手紙?……『ちょっと出掛けてきます。お土産期待しててね♪』……」

「「「「「――何してんだアンタァーーーーッ!!!!」」」」」




   *   *   *


「――クシュッ!」


 その同時刻。遠く離れたとある場所でクシャミをした人物が居た。

 その人物は、思わず笑みを浮かべながら目的地に向けて進んでいた。




   *   *   *


 (ところ)変わってエルフの村。村長宅に複数の人物が集まり話し合っている。

 話し合ってる面々はアムリナ・トゥーガ・グレッコ・スォイルと人間以外の全種族が揃っている。それ以外にも、シノブとの関係が深いという共通点を持った者達である。

 但しここに居る者、皆揃って笑顔が無い。神妙な顔つきをしている。


「――で? 結局変わらんのか?」

「そうゆう事じゃの……」

「……ったくよぉ。ホント人間共は……」

「……認めないどころか、責任転嫁するなんてね……呆れて何も言えないよ……」

「全くじゃ……しかし、そろそろ限界じゃろう? 向こうもこちらも……」

「……まあのぅ。人間達もいい加減行動を起こしても可笑(おか)しくは無いし……何より、あの子達に関しては…………言わずともわかるじゃろ?」

「……正直、怖ぇぞ? 気持ちわからないでも無ぇんだが……」

「……ホントどうしようか?……常にギリギリな状態だから、いつ爆発しても不思議じゃ無いし……そうなったら間違い無く止められないし……」

「……どうしたものかの?」

「「「……ハァ~~…」」」


 雁首(がんくび)揃えて溜め息を吐く一同。そんな時、ドアがノックされ、セムイルが入ってくる。


「義母さん」

「何じゃ?」

「誰かが、この村に向かって来てるらしいよ?」

「――人間か?」

「フードを被ってるので人相がわからないみたいだけど……十中八九そうだと思う」

「……何人じゃ?」

「一人……らしいけど……」

「一人じゃと?……一体何用じゃ?」


 腑に落ちん、と頭を悩ますアムリナ。そんな彼女にトゥーガが話し掛ける。


「取り敢えず、会ってみたらどうじゃ? ここで考えていても、答えなど出ないじゃろう?」

「……それもそうじゃの」

「オレ達も行って良いか?」

「そうだね。僕等も、その人物が何をしに来たのか気になるしね」

「……良いじゃろう。皆で出迎えてやるとするか」


 と、皆連れ立って家を出で歩いて行く。但し、歩いて行くに連れて他のエルフ達や、トゥーガと共にこの村に来ていた獣人達が次々に付いて行き、村の外周――モンスターを寄せ付けない香りを放つサチャの木が生えている場所に着いた時は、4~50人という大所帯になっていた。


「――来た」


 誰かの呟きに答えるかの如く、その人物は姿を現した。木々の隙間をゆっくりと歩いてくるその人物は、白いローブを着ていてフードを目深に被っているので、人相どころか性別すらわからない。

 身長も……男性にしてはやや小柄と言うか、女性にしてはやや身長が有ると言うか……どっちとも取れるので判別がつかない。

……まあ、こんな夏場にあんな格好してる時点で怪しさ爆発だが……


「……そこで止まれ」


 アムリナの言葉に相手が歩みを止める。距離は十メートル(ほど)。何かしても十分に反応出来る距離。

 相手はただ静かに立っているだけで、動きも声を発する事もせずにいる。


「「「「「…………」」」」」


……その静かさが逆に不気味である。何の目的で来たのかがまるでわからない。今現在の、人間達とそれ以外の種族との状況からすれば、たった一人で来る事など有り得ないのだから……


「――お主は何者じゃ? 何が目的でこの村を訪れた?」


 アムリナの問いに、相手は行動で示した。

 皆が思わず身構える中、相手は右手で左肩の辺りを握り締めると――思いっ切り右腕を振りかざし、着ていたローブを脱ぎ捨てた。

 そして現れたのは――


「――ふぅ……」


――一言で言えば『可憐』であった。

 (ほど)良い肉付きのしなやかな肢体。太っている訳でも無く、痩せている訳でも無い均整の取れた体型。瑞々(みずみず)しく健康的なハリのあるスベスベ肌。

 やはり、夏場にあんなローブを着ていた所為か。思わず息を漏らすその顔も非常に整っていた。

 大きく円らな蒼い瞳に長い眉毛。形の良い鼻梁。薄い桃色の小さな唇。だか何よりも目を引くのは、手入れの行き届いているであろう、腰まで届く長く細いサラサラの――()()()


「「「「「――――」」」」」


 見ている者達の。特に男性陣が思わず見とれてしまう。自然に頬が赤くなるのは仕方が無いのかもしれない。

 『彼女』の服装は――上は袖無しのシンプルなシャツと前開きのジャケット。指出し長手袋も身に着けているが、肩・腋・二の腕が露出しており、綺麗な肌が覗いている。丈もやや短いので、チラリと覗くおへそが皆の視線を誘う。

 下は、ホットパンツにニーソックスと言った組み合わせで、輝くふとももが眩しく光る。

 皆の視線を独り占めした『彼女』はニッコリ笑うと左手を腰に、右手を横ピースで額に持って行きパチンとウインクを決めて一言――











「しーちゃん参上!!」

「「「「「…………」」」」」

「しーちゃん参上!!」

「「「「「……………………」」」」」


――時間と言うか、星が静止した瞬間であった。

 その場の全員の思考がフリーズし、再起動するまでの間。リアクションの無い事に何かしら思ったのか、『彼女』は何処からともなく取り出した物を頭に付ける――()()カチューシャを。

 そして一言――


「しーにゃん参上!!」

「「「「「………………………………」」」」」


――思考が十七分割される(ほど)の深いダメージを皆が負う中。唯一、声を出す者が居た。

 犬の獣人――ラダである。


「……お前」

「ん? 何?」

「…………まさかとは思うが(ゆえ)に、念の為に一応尋ねるが………………()()()か?」


 ラダの質問に『彼女』は満面の笑みで答える。


「せ~かい!」


 その言葉からキッカリ十秒後――


「「「「「――ええええええぇーーーーっ!!!!」」」」」


――凄まじい叫びが辺りに木霊した。


「は?! え?! ちょっ?! マジで?!」

「ホントか?! 本当になのか?! 誰か俺を殴ってくれ! これは夢じゃ無いことを教えてくれ!!」

「何故に人間に?! どうして?! どうやって?! 何があったーー?!」

「出会った時から貴女の事が好きでした!!」

「百パー嘘な事言ってんじゃ()ぇよ!! お前、スライムに恋してたのかよ?!」

「愛しています!! 私と結婚して下さい!!」

「女房を前に良く言ったわね、アンタ!! ちょっとコッチ来なさい!! アンタが正気に戻るまで、殴るのを、止めないっ!!」

「好きだ!! 俺の子供を産んで欲しいのは、アンタだけだーーっ!!」

「テメェの息子ならここに居るだろうがぁーーっ!! このクソ親父ィーーーーっ!!!!」


……実にカオスってる状況の中。シノブは更なる爆弾を投下する。


「――ねえ、皆?」

「「「「「何?」」」」」

「ボク…









『男』だよ」


その言葉から再びキッカリ十秒後――


「「「「「――はあああああぁーーーーっ?!!!!!」」」」」


――先程よりも凄まじい叫びが辺りに木霊した。


「のおおおおおぉーーーーっ!!!!」

「神は死んだ!!」

「ちょっ?! その顔で?! その姿で男?! 嘘よ詐欺よ! お詫びして訂正しなさい!!」

「はは……嘘よ。男のくせにそんな顔……これは夢よ……」

「たとえ世界がアナタを認めてもアタシは認めないわよっ!! そんな超美人顔が男?!」

「何なのよ?! その肌! その髪! どんな手入れをしてるのよ!! 教えて下さい! この通りですっ!!」


……更に深まるカオス具合の中。シノブは普通に腕組みして笑っていた。「ふっふっふ」と言わんばかりに。

――と。


「ーーっ!!」

「――おっと?!」


 突然、一人のエルフの女性がシノブに抱きついて来た。嗚咽の声から泣いている事がわかる。記憶の中よりも長くなった髪を撫でながらシノブは話し掛ける。


「久しぶり――エル。大きくなったね~」

「――当たり前じゃ」


 シノブの言葉に、漸く立ち直ったアムリナが答える。驚きと困惑と喜びが入り混じった、何とも複雑な表情でシノブに問い掛ける。


「いったい何があったのじゃ? 何をしていたのじゃ――この20年の間」

(……それだけ経ってるんだ。()()()()()()()()()なのに……)


 そう思いながら、シノブはここまでの経緯を思い返した。




   *   *   *


「やあ、久しぶり」


 これで訪れるのは二度目となる、前後上下左右全て白い、完全に真っ白な世界の中。宙に浮かぶ光球からの声に、シノブは思わず溜め息を吐きそうになった……それで気がついたが、姿が人間に――()()での姿に戻っている。


「……久しぶりだよ。管理者さん」


 力無い笑みを浮かべながら、シノブは目の前の光球――かつて自分を異世界に転生させた『世界の管理者』に挨拶する。

 管理者はそんなシノブに、やや気遣って話を続ける。


「……一応確認するけど、わかってる?」

「うん。間に合わなかったんでしょ?」

「その通り。惜しかったんだけどね。自爆に巻き込まれたよ」

「やっぱり」


 ハァ~、と今度こそ溜め息を吐いて項垂れるシノブ。しかし、ふと思いつくと管理者に尋ねる。


「所で……何で、ボクは()()ここに来てるの?……『ある程度の年月を生きた生物じゃないと、ここには来れない』って、言ってなかったっけ?」

「今回は例外だよ」

「例外?」

「まあ、君自身の所為と言うか……」

「? ボク、何かしたっけ?……心当たりが有りすぎるんだけど……」

「……そこは普通、無いって言おうよ……」


 呆れた様に言う管理者。シノブは気にしない。


「――それで、君がここに来たのは、君が『究極種』にまで進化しちゃったからだよ」

「……何で?」

「その前に問題。あの世界に居るヒト達は()()()進化したと思う?」

「えっ?……」


 思わぬ問いにやや困惑するも、シノブは考え始める。


(何から進化したって……人間なら猿からだけど……ヒト達って事は、エルフや獣人とかもって事?…………ん~~? 見当も付かないよ。進化って言ったって……………………ちょっと待って。()()?)


 急に思いついた突拍子も無い思い付きに、シノブは自分でも半信半疑なまま答える。


「……もしかして……()()()()()()()?」

「ファイナルアンサー?」

「……ファイナルアンサーで」

「正解」


 溜めも何も無く答えを告げる管理者。何故知っているかツッこみたい所は有るが、敢えてツッこまずにシノブは尋ねる。


「どういう事?」

「あの世界の人種は、『究極種』に至ったモンスターを()()()()生み出されてるんだよ。だから、あの世界の人種の数=究極種に至ったモンスターの数って事になるね」

「は~~……」

「そして、君が究極種に至った事で、君を元に新たな種族を生み出さなければ()()()()からだよ。それが、君がここに来た理由」

「……成る程」


 ん~~、と唸る事一分。シノブはシュタッと手を挙げて色々質問する。


「新たな種族って何になるの?」

「それは僕等にも実際やってみないとわからない。ヒトの姿をしているのは間違い無いけど」

「その新たな種族……ボクだけって事は無いよね?」

「それはそうだよ。少なくとも、そう簡単に絶滅しないぐらいの人数は生み出されるよ。君に近かった存在……眷属みたいなのとかも使ってね」

「そんなたくさんの人数が一度に現れたら、何か一騒動起こると思うけど?」

「それに関しても大丈夫。これを見て」


 言って、シノブの顔の前に画像が現れる。それは――


「――これが、あの世界の地図だよ。君が居たのはこの大陸」


 パッ、パッ、と地図の中央に位置する歪な正方形の形をした大陸が点滅する。


「――で、君がこれから生み出されるのはこっちの大陸」


 今度は、少し右下の方に位置する半月状の大陸が点滅する。


「この大陸。モンスターだけで他にヒトは住んでないから大丈夫だよ」

「いやいやいやいや!! そんな所にいきなり新しい種族を放り出すの?! 生活とかどうするのさ?!」


 至極(しごく)最もなシノブの問いに、管理者は普通に返す。


「あっ、それは大丈夫。向こうにいってみればわかるから」

「……ホントに?」

「ホントに」


 そう断言されてしまうと、シノブとしてもそれ以上追求し辛いので口を(つぐ)む。


「……そろそろ時間だけど、何か要望とかは有る?」

「要望?」

「少しくらいなら聞けるよ。本当に少しだけだけどね」

「ん~~?」


 悩む事数秒。シノブはアッサリ告げる。


「この姿で」

「はい?」

「だから、ヒトに成るなら()()姿()で」


 と、自分を――前世での自分の姿を指差して言うシノブ。管理者は、数秒の沈黙の後に答える。


「……良いけど……本当にその姿で良いの?」

「うん。慣れ親しんだ身体だし、この姿を見たいって言ってた子も居たしね」

「…………『詐欺だっ!!』って言われるよ?」

「ボクにとっては日常茶飯事」

「確信犯か……まあ、良いけど。それじゃ、いってらっしゃい。次の生に幸あらんことを」


 その言葉と共に、シノブの身体が徐々に薄くなっていく。同時に強い眠気が襲いかかってくる。

 目蓋が落ちてくる中、最後の気力で、シノブは別れを告げる。


「……じゃあね……次に来る時は……もっと……時間が経ってからに……するから……」


 その言葉を最後に、シノブの姿が白い世界から消える。後には輝く光球――管理者が残るだけ。


「う~~ん。彼、順調に育ってるね。このままいけば、もうすぐ僕等の仲間入りだね」


 シノブが消えた後。管理者はそんな呟きを残して、すぐに自身も消えたのであった。




   *   *   *


「――はっ?!」


 意識が覚醒した瞬間。シノブは思わず上半身を跳ね起こし辺りを見回す。

 どうやらここは、木で出来た家の中らしい。今、自分はその一室に居るようだ。大きめの窓からは日光が差し込み、今が朝だとわかる。

 部屋の造り自体はシンプルだった。綺麗に配置された洋服ダンス・机・丸テーブル・椅子。そして、今自分が寝ているベッド。


「ん~~」


 手をにぎにぎしながら身体の調子を確かめてみる。ちょっとダルさを感じるのは、寝起きの所為だろう。それ以外には異常は感じられない。

 服装は簡素なシャツとズボン……どう考えても、寝巻きであろう服装。

 取り敢えずベッドを降りて、置いてあった靴を履く。そのままドアを開け、廊下を歩く。何処が玄関なのかは、()()()()()()()


「――うわぁ……」


 外に出たシノブは思わず声を漏らす。彼の目に映るのは、多くの木造りの小屋が立ち並ぶ村の風景と、村のすぐ隣に存在する広大な湖。朝日を受けて輝くその景色に自然と笑みがこぼれる。


「おはようさん」

「――うん。おはよう」


 自分と同じ様に外に出ていた隣家の住人に挨拶される。それに、()()()()に返事を返すシノブ。

 シノブは部屋に戻ると、ベッドに腰掛けて天を仰ぐ。


「……あの管理者が大丈夫って言ってた意味、わかったよ……全部、()()()()()()からなんだね」


――今のシノブは、全て知っている。

 この家の事・この村の事・自分達がどういう生活を送っていたのか・自分達がどういう種族か、その全てが頭の中にある。

 知識と経験が自分の中に存在している。

 恐らくこのまま外に出ても、自分は当たり前にこの村での日常を過ごす事が出来るであろう。


「……そして、この村の()()がそうなんだね……」


 この村の全てが、新たに誕生した種族への贈り物。

 そしてそれは、恐らくこの村の住人全てに与えられているだろう知識と経験も……恐らくは記憶すらも含まれる。

……この村は、()()()()()だと言うのに、住人達にはその自覚は無い。皆にとっては、今日はいつもの日々なのだろう。


「猿から人への空白の秘密を知った気がする……まあ、裸一貫で放り出されるより、遥かにマシだから良いか」


 アッサリ気持ちを切り替え、シノブはテーブルの上にあった鏡で自分の顔を確認する。そこには見慣れた顔が映っている。


「――良しっ!」


 確認したシノブは、洋服ダンスから服を取り出すと着替える。着心地を確かめた後、そのまま旅の支度も始める。


「会いに行かないとね」




   *   *   *


(その2日後に、見つからない様に上手く出てきて、海を渡ってきたんだよね)


 今頃、アッチでは一騒動起きているだろうな~、と自分事なのに他人事の様にシノブは考えていた。


「――ん? あれ?」


 ふと見ると、胸に縋り付いていたエルが眠っている。どうやら泣き疲れたらしい。成長しても変わってない所にシノブは微笑みを浮かべる。

……そして、その笑みに『アレは男だ! 男なんだ~!!』と苦悩する男性陣。


「ちょっといい?」

「ああ……コッチで引き受けるよ」


 シノブの声に、セムイルがエルを引き取る。若干シャツが湿ってしまったが、気にせずにシノブはアムリナの方に向き直る。


「改めまして……久しぶり~♪」


 無邪気な笑みを浮かべ、高く澄んだ中性的な声で話すシノブ……更に苦悩する男性陣……あっ、木に頭を打ち付けてる。

 そんな連中を止める事を断念して、アムリナは会話を続ける。


「本当じゃよ……再度確認するが、本当にシノブか?」

「そうだよ♪」

(にわ)かには信じ難いんじゃが……」

「ん~~。マーマレードの作り方にシャボントードの肉の熟成。相撲に花火……これでどう?」

「成る程。どれもお主のした事じゃの」


 シノブの言葉に深く頷くアムリナ。話しを聞いていた他の者達も納得……したくても出来無い。感情面で。


「――それで、何があったかと聞かれれば、死んじゃった。何をしていたかと聞かれれば、生まれ変わってた」

「……前半部分に関しては置いておくとして……生まれ変わっていたのならば、今までどうしておったんじゃ? その髪の色では、人間達の間で大騒動になっている筈じゃぞ? しかし、儂等はそんな事知らんぞ?」


 シノブの絹糸の如き白い髪を指差してアムリナが尋ねる。あの髪を持って生まれてきたならば、人間の――特に『教国』の連中が騒がずにはいない筈。しかし、そんな話は聞こえてこなかった。

 シノブはアムリナに軽く指を振って答える。


「ボクは人間じゃ無いよ」

「? では……」

「ボクは……ボク達は言うならば『半水棲種』だよ」

「「「「「『半水棲種』?」」」」」

「そう。子供でも10分、大人なら20分は軽く水に潜っていられる肺活量に優れた種族」

「「「「「…………」」」」」

「まあ、見た目は人間と変わらないんだけどね~♪ 寿命なんかは長いけど♪」


 言って、両手を広げてクルンと一回転するシノブ。それに合わせて広がる白い髪。たったそれだけの動作なのに、皆の視線を釘付けにして止まないし、ほのかに漂う香りに皆が思わずボ~、となる。


「そして、ボクの村は海の向こうの大陸にある湖のすぐ側にあって、そこで水生植物・生物を育てて生活してるんだ」

「「「「「…………」」」」」

「だから、『教国』の連中も知らない。あっちの大陸にはボク等以外の種族は居ないからね」


 だから向こうでは、この髪は珍しいの域を出ない。シノブはそう語る。


「なあ……」

「ん?」


 頭をガシガシと掻きながらグレッコがシノブに尋ねる。


「海の向こうって……どうやってここまで来たんだよ? 泳いで……とか言わねぇよな?」

「ちょっと、海のモンスター(友達)に送ってもらった♪」

「「「「「…………」」」」」


 なんかもう、何でも有りな気がしてきた一同。そして、グレッコが神妙な顔で尋ねる。


「…………(いま)だに納得出来()ぇから聞くが、オマエ本当に男か?」

「失礼な! どっからどう見ても男の()でしょっ!!」


 グレッコの問いに、憤慨しながらシノブが答える。両手を腰に当てた仁王立ちの姿勢で、ムン、と胸を張って。

……そして、チラリと覗いたおへそに男性陣が顔を赤くして目をそらす。


「字が違ぇし!! どっからどう見ても女だろうがっ!! 上の地の文に『彼女』って書かれてるじゃ無ぇか!!」

「さり気無くメタ発言しないでよ……あれはボクが書き足しておいたんだよ。『彼』の所に『女』って字を」

「さり気無くメタ発言()つ次元の壁を越えてんじゃ無ぇーー!!」

「聴こえな~い♪ 聴こえな~い♪」


 グレッコの叫びを、肩に掛かった髪を払いながら聞き流すシノブ……何でコイツの行動は、一々(いちいち)女性らしいんだか……


「まあまあ、落ち着いてよ。怒鳴った所で現実は変わらないんだしさ」

「……そうなんだが。そうなんだがよ……一言言わねぇと気がすまねぇんだよ……」

「それに関しては激しく同意」


 グレッコを宥めるスォイル。気を取り直した彼は、シノブに真剣な表情を向ける。


「シノブ君」

「何?」

「――君が死んだ理由は?」

「襲って来た男の自爆に巻き込まれたからだよ」


 至極アッサリと答えるシノブ。彼にしてみれば既に過去の出来事。あまり、どうこう思ってはいない。

……最も、告げられた方は違うが。


「……襲って来た男が何者かは?」

「『信仰は不滅なり』とか言ってたよ」

「――?! 『教国』か?」

「――後、もう一つわかってる事はあるよ」

「?! なんだい?」


 そこで、シノブは更に笑顔を深めて答える……ただし眼が笑ってない。なまじ整っている顔の為、半端無い迫力を(かも)し出している。


「――ボクを売った奴が居るって事」

「「「「「――?!!」」」」」


 皆が驚愕の表情を浮かべる中、シノブは流し目である人物を見据える。


「そうでしょ?――――ヤ・ル・バ・ン・君?」


 その場の全ての眼が、その人物に向けられる。向けられた本人は、顔を真っ赤にして怒鳴りつける。


「ふっ、巫山戯んなっ!! 何イチャモン付けてんだ!! オレがやったって証拠は有んのか!!」

「襲って来た男。ボクが光魔術を使える事知ってたんだよね」

「それならオレだけじゃ無ぇ!! 皆が怪しいじゃねぇかよ!!」

「その男。君の名前を口にしてたよ。律儀に自分の名前を教えるから、そうなるんだよ」

「ハッ!! バカ言ってんじゃ無ぇ!! ちゃんと紙にはオマエの事しか書いて――――ハッ?!」


 思わず口を(つぐ)むも、時既に遅し。周囲からの凍える視線の中――


「――がっ?!」


――何時の間にか後ろに居たアーバンに、顔を思いっ切り地面に叩き付けられる。そして、アーバンは一礼するとヤルバンを引き摺って去って行く。

 そして、逝ってらっしゃ~い、とにこやかに手を振るシノブ。


「……あのバカの処罰は後にするとして……やはり『教国』の手先じゃったか」


 忌々しげに呟くアムリナ。それに、コテンと軽く小首を傾げるシノブ……あ~もう、ホントにコイツは……可愛い!


「お主は知らなくて当たり前じゃがの。今、儂等は人間とは完全に断絶しておる」

「? 何で?」

「お主が殺されたからじゃ。当然儂等は人間共に謝罪を求めた……じゃが、人間共……特に『教国』の連中は逆に儂等を責めた。『襲撃者の遺体はバラバラで種族すら判別不能。被害者の遺体は存在せず。これはエルフ達からの一方的な言い掛かりである』……とな。殺されたのがスライムという事は儂等も言えんしの。話しは完全な平行線になった。そこで、儂等は別の手段に出た」

「別の手段?」

「人間達との交易を完全に取り止めたんじゃ」

「……えっ? ちょっと待って? それ、今までずっと?」

「そうじゃ」

「……20年間も?」

「そうじゃ」

「うわぁ……」


 エルフ・獣人・ドワーフの本気度を垣間見た瞬間であった。と言うか――


「――辛抱強いと言うべきなのかな?」

「正直、儂等にしても予想外じゃの。人間達がここまで意固地になるとはのぉ……」

「交易止めて大丈夫なの?」

「儂等からすれば別にのぉ。人間達からの物など、無くても普通に生活出来るしの。向こうは儂等からの薬・酒・素材・道具類と、色々手に入らなくなっとるようじゃがの」

「……良く、人間達が怒り出さないね」

「……そろそろ、何かをするかもしれんのじゃ。こちらに龍族が居るとしても、良い加減限界じゃろうからの」


 むしろ、良く20年も我慢したと言うべきなのかもしれない。あっちの連中は庶民の不満をどうやって押さえ込んでいるのやら。


「…………こっちもじゃがの」

「? こっちも?」

「エルやユユ達じゃよ……お主が殺されてから、人間共の所に復讐しようとしてのぉ……何度も止めたんじゃよ」

「…………」


 容易に想像できる。暴走するあの子達と、それを必死に止める大人達の攻防を。


「と言う訳で、あの子達への対応は任せたぞ?」

「……まあ、責任の一端はボクにあるしね……ハァ~」


 やや気が重くなるシノブ。それは一時置いておいて、アムリナに尋ねる。


「それで、これからどうするの? 人間達とは?」

「……このままでは争いは避けられんじゃろうの。ただし、勝っても何の益も無い争いじゃがの……」

「…………どっちも引く気は無いんだよね?」

「儂等は断じて無いの。それは向こうも同じじゃろうの」

「ならさ、()()()()()()()?」

「何?」

「移住だよ。移住。さっきも言ったけど、あっちの大陸にはボク等以外の種族は居ないからさ……」

「……それも手じゃの。しかし、そうするにしても、その間に人間共が何かしらしてきた場合は……」

「ん~~」


 指を口に当てて考え込むシノブ。可愛く首を傾げて……もはや何も言うまい。


「要は時間が稼げれば良いんだよね?」

「そうじゃが……」

「なら、ボクがどうにかしようか?」

「……どうやってじゃ」

「それはね。――――なら、どう?」

「それならば、確かにいけるの」

「でしょ」

「なら、すまんが頼むぞ」

「任せておいて」


 フフン、と得意げな笑みで答えるシノブであった。













「――所で、その頭のネコミミは取らんのか?」

「あっ、忘れてた。これで良い?」

「「「「「チッ!」」」」」

ご愛読有難うございました。

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