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実験。実験。また実験である!ちと、やり過ぎてない?

忘れていたモノは、全てこの瞬間の為に!!

 幾許(いくばく)かの時が流れ季節は初夏。日差しも強まり気温も上がり始める日常。太陽に照らされた木々の葉が美しい緑を見せる森の中。そこに一際(ひときわ)異彩を放つ存在があった。


(誰か。どうにかして……)


 シルバースライム改め、ホワイトスライムになったシノブである。

……ただし、多くのグリーンスライムに(たか)られている。緑の中に白。さながら、メロンソーダに浮かぶバニラアイスの様に一際(ひときわ)目立っている彼は、されるがままにグリーンスライムの海に埋もれていた。

――何故にこうなっているかと言うと、一言で言えば実験終了したからである。

 以前より進行していた『グリーンスライムへの進化方法の解明』。それが遂に成し遂げられたのである。これによって、時間は掛かるがグリーンスライムという半永久的な回復薬を、永続的に生み出せる事に成功したのである。

……その弊害として、何故かグリーンスライムがシノブに懐くかの如く(たか)ってくるのだが……


「~~っ!!」

(あ~~。ありがとうエル)


 そこへやって来たエルフの女の子――エルが何とかグリーンスライムの中からシノブを掬い出す……もとい救い出す事に成功する。

 助け出されたシノブは、そのままエルと一緒に鉄板で囲われたスライム育成所から出る。途中まで追ってきたグリーンスライム達も、シノブ視界の外に消えると追うのを止める。


(やっぱり、迂闊に入るとエライ事になるね……)


 自分がさっきまで入っていた場所を見つめるシノブ。ちなみに、隣にも同じ物がもう一つあり、そちらは普通のスライムが入れられている。


(まあ、データは色々揃ったけどね)


 数ヶ月に及ぶ検証の結果。スライムにどれだけの量の薬草を、どのくらいの期間与えれば良いか、おおよその目安がわかったのである。

 シノブと皆の頑張りが実を結んだ結果であった。数日前にはそれを祝って宴が開かれた程である。


(う~~~~ん)


――しかし、ここ最近シノブは更に考えている。スライムの進化について。


(薬草食べたら治癒液生み出すグリーンスライムになる……以前、ボクが赤いスライムになった時は、直前に沢山のモンスターを消化吸収した。その結果、消化力が強くなった……やっぱり、スライムって消化したモノで進化の方向性が決まるのかな……ん?)


 長い事考えていたシノブは、自分を突っつく感触で我に返る。見れば、しゃがみ込んだエルがこちらを凝視している。どうしたの? とばかりに。


“なんでもないよ”


 そう言って、自分の上にエルを乗せるシノブ。そのまま、ご満悦なエルと共にその場を離れていく。


(う~~~~~~ん)


――頭の中では、まだ考えながら。




   *   *   *


「ん? 何じゃ?……育成所のスライムを数体使わせて欲しい? 何をする積りなんじゃ?……うん? ちょっとした実験?……まあ、皆に迷惑が掛からないのであれば構わんが……」


「よおっ! 久しぶりじゃねぇか……あん? 確かにそんなモン、幾らでも有るけどよ……別に、好きにして良いぜ。でも、何に使うんだよ?……実験?……大丈夫なんだろうな?」


「あら? どうしたのエル?……えっ? シノブ?……そう言えば、最近は良くアチコチに出かけてるみたいね……えっ? この前は甘い樹液を摂りに行ってたけど、昨日はあの辛いドンバの実を大量に持って帰って来てた?……ホントに、何してるのかしら?」




   *   *   *


 約一月後。本格的に夏へと差し掛かった快晴の日。エルフの村では実に珍しい各人を受け入れていた。


「――龍族の方がこの村に訪れるなど、一体何年ぶりだか……」

「確かにそうだね。私達は本当に閉鎖的な種族になってしまったからね」


 話しているのはアムリナとスォイルである。二人は村長宅の居間で茶を飲みながら話し合っている。

 スォイルがエルフの村を訪れた時は、龍族だと名乗った途端、皆が「え~~っ?!」となったのだが流石村長。伊達に年は取ってない。慌てず騒がずいつも通りの態度で自宅に招待したのである。


「それで、何用で訪れたのじゃ?」

「シノブ君にね。お礼と結果の報告に」

「……お礼と言うのは?」

「彼のお陰でね。娘の目が――」


 そうして、スォイルが話す。目の見えなかった娘。しかし、シノブが治癒の魔術に目覚めた事で治るかもしれない。そして、一月経って遂に目が見える様になった事。


「――そういう訳で、彼には改めてお礼を言いに来たんだよ」

「成る程。あやつらしい」


 微笑みながら茶を飲むアムリナ。どこに行ってもホント一騒動起こしてくる。


「それで、彼は?」

「居ることは居るんじゃが…あやつ、最近実験とか言って何かをしている様なんじゃが――ん?」


 と、居間にエルが入って来てアムリナの元に来る。


「どうかしたのか? エルや」

「ん……しのぶ、よんでる」

「……シノブが」

「ん。みせたいもの、ある。そう、いってた」


 エルの言葉に首を傾げるアムリナ。例の実験の結果であろうか?

 取り敢えず、呼ばれているのならと、シノブに会いに来たスォイルと共にエルの先導の元、家を出る。

 歩く事2~3分。家を出てすぐの、やや開けた場所でシノブは待っていた。


“あれ? なんでここにいるの?”


 スォイルの姿を見て、シノブは疑問を投げ掛ける。


「お礼を言いに来たんだよ。ユーフィの目が完全に見える様になったんでね」

“お~。おめでとう!!”


 いつもより一際(ひときわ)デカい光文字で内心の喜びを表すシノブ。これは何か祝いの品でも持って行かなければならないな~、と考えている所でアムリナが声を掛ける。


「スマンがシノブよ。見せたいモノとはどれじゃ?」


 この開けた場所にはシノブしか居ない。一体見せたいモノとは何の事であろうか?

 アムリナ・エル・スォイルが疑問に思ってる中。シノブは――


“めいさいかいじょ!!”


――今まで広範囲にかけていた光学迷彩を解除する。

 解除された後。そこには――









“ねんえきせんたい! すられんじゃーー!!”


――多くの、()()()()()のスライム達が勢揃いしていた。


「「「……………………」」」


……3人そろってポカンと口を開ける事しか出来無い。

 青や緑、赤はまだ良い……見た事がある。しかし、黄色に茶色。オマケに赤黒いモノに琥珀色のモノまで居る。正直、何じゃコリャ?! と言いたくなる。


「――ぷっ! くくっ! あ~はっはっはっは!!」


 腹を抱えて笑い出すスォイル。アムリナはヤレヤレと言いたげな顔。エルに至っては、目を輝かせてスライム達を突っついている。

 スォイルの笑い声を聞いて他のエルフ達も集まってくるが……皆、その異様な光景に固まってしまう。子供達は別だが。


「……シノブや。これが例の実験の成果か?」

“うん。そう。すごいでしょ~”

「……確かに凄い事は凄いんじゃが……一体「あ~~~~っ!!!!」……何じゃ? 騒々しい」


 アムリナ含めてその場の皆が視線を向けた場所には――


「テメェーーーーッ!!!!」


――ヤルバンが居た。それを見た皆の反応はわかり易い。手を顔に当てる者・肩を竦める者・溜め息を吐く者と、皆共通した思いを持っていた。

 曰く――「またか……」と。


「知らない内に、こんなに仲間を増やしやがって! ヤッパテメェ、この村の皆を喰う気だったんだな! グリーンスライムを増やしたのもその為か! スライム王国を創る気なんだな!!」

(…………)

「「「「「…………」」」」」


 ヤルバンの言葉に皆が白い目で見る。その想像力・発想力は見事なものだが、何故そこまで方向が捻じ曲がっているのか……


「そうはさせるかっ!! オレがテメェに天誅をーーーーっ!!!!」

“あっ?! だめ!!”


 皆が意表を突かれて動くのが一歩遅れた中。シノブの光文字も無視して、ヤルバンが徒手空拳のままシノブに向かって走り出し――


「――へぶるわっしゅ!!」


――火弾・水弾・石弾・真空波・葉っぱカッターの集中砲火をくらって吹っ飛ばされる……ピクピクしてるから生きてはいるだろう。しぶとい。


「「「「「…………」」」」」


 その場に居る皆が視線でお互いに問い掛ける。


――今、()()魔術を使った?――


 しかし、皆が皆、首や手を振って自分でない事をアピールする。皆で無ければ一体誰が?


“あ~あ。だからいったのに”


 皆が困惑している中。シノブが描いた光文字を見てアムリナが聞く。


「シノブや。お主、今誰が魔術を使ったのかわかるのか?」

“うん。このこたちだよ”


 そう描いてシノブが指し示すのは――周囲のスライム達であった。


「「「「「……ハァ?!」」」」」


 只のスライムがどうやって? 不思議に思う中、アムリナがある事に気づく。

 青や緑だからと普通のスライム・グリーンスライムと思っていたが……良く良く見ると、色がより深く澄んでいないか? 粘度も強くなってないか?


「――()()()()()()()だね」


 突然、発せられた声に皆の注目が集まる。いつの間にか笑いの発作が収まっていたスォイルが、面白そうにスライム達を眺めている。


「……やはり、そうじゃったか。話しには聞いておったが、ワシも見るのは初めてじゃ……」


 アムリナ感慨深げに呟く。それを聞いて周囲の皆が問い掛ける。


「村長。メイジスライムって?」

「その名の通り、魔術を扱えるスライムの総称じゃ」

「?! じゃあ、コイツ等は――」

「朱いのがフレアスライム。蒼いのがアクアスライム。翠色がプラントスライム。黄色いのがエアロスライム。褐色がガイアスライムだね。勢揃いしてるのを見るのは私も初めてだよ……ただ、その二つは?」

「そっちのはワシが見た事あるの。赤黒いのがスパイシースライム。琥珀色のがシロップスライムじゃの」

「ああ、成る程。コレが……」


 スォイルとアムリナの説明で全てのスライムが判明する。周囲の皆は、うわ~とばかりに目を見開いているが……

 そんな中、シノブが得意げに描く。


“すごいでしょ?”

「凄すぎじゃ。一体どうやったんじゃ?」

“まぞくせきをあたえてみた”

「……何じゃと? どれだけじゃ?」

“たくさん”

「そんな多くの魔族石をどこから?」

“どわーふたちのところ。ちいさすぎて、かちがないあまりものをもらった”

「……ただのスライム達じゃ、消化力は弱いから魔族石を溶かせぬ筈じゃが?」

“ちゃんとすりつぶしてからあたえた”

「……マメじゃな」


 呆れた様に呟くアムリナ。続いてスォイルがスパイシースライムとシロップスライムを指差して聞く。


「こっちの二つは何を与えたんだい?」

“から~いどんぱのみと、あま~いじゅえき”

「……成る程」

「――あの……」


 一人が割り込んで声を掛ける。スパイシースライムとシロップスライム指差して聞く。


「そっちのは何となくわかるんですけど……こっちの二つは、どういうスライム何ですか?」

「ああ。スパイシースライムは治癒液の代わりに、とても辛い液を生み出す。シロップスライムは、逆にとても甘い液を生み出すスライムだよ」

「「「「「――甘いっ!!」」」」」


 その言葉に皆の目がギランと光る、思わずシロップスライムに近づこうとして――


“はい。すと~っぷ”


――シノブのデッカイ光文字に遮られる。


“そんなぎらぎらしためでちかづいたら、()()のにのまいになるよ?”


 そうして指し示したのは、未だにピクピク痙攣しているヤルバン。その指摘に皆の動きが止まる。しかし、その内の一人が問い掛ける。


「――じゃあ、何でそいつ等は平気なんだよ?」


 そいつ等と言うのは、さっきから色取り取りのスライム達に群がっている子供達。皆、思い思いのスライムに触れているが、別に何もされてない。


“このこたち、ちのうがあるよ? だから、てきかみかたかのはんべつぐらいできるよ?”

「……ハァッ?! そうなのかよ?」

「その通りじゃよ。メイジスライム達は魔術が扱える所為か、知能を持ってるんじゃよ……動物並じゃがの」


 その言葉で皆が察する。このスライム達に手を出すのは、野生動物に手を出すのと同じ事だと。下手に手を出せば噛まれると。


“おひろめ。しゅうりょう~。ちょっとしつれいするよ”

「……構わんが」

“ぜんた~い。せいれ~つ。しゅっぱつしんこ~う”


 そうしてシノブが立ち去る――スライムを引き連れて。

 白を先頭に朱・蒼・翠・黄・茶・赤黒・琥珀色が並んで一列縦隊で進んで行くのは、ハッキリ言って異様としか言えない。

 皆はそれを呆然と見送る…………イヤ、ちょっと待て。最後の二つ。お前達はメイジスライムじゃ無いから知能も無い筈だろ? 何で、ちゃんと一列縦隊で付いて行ってるんだよ?


「……取り敢えずじゃが……シロップスライムの進化条件に関しては、しっかり聞く必要があるの?」

「「「「「はい!!」」」」」


 やはり、甘い物は正義であった。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑。(フィーバー中)


――――フレアスライム――――


スライムの上位種であるメイジスライムの一種。ルビーの如く深く澄んだ朱い色の身体を持つ。

治癒液を生み出せない代わりに火属性の魔術を使えるメイジスライムの一種。

スライム、もしくはスライムの亜種が『火属性に関する物』を『一定量消化吸収』する事で進化する。

動物レベルだが知能も存在するので、下手に襲いかかると火だるまにされる。



――――アクアスライム――――


スライムの上位種であるメイジスライムの一種。サファイアの如く深く澄んだ蒼い色の身体を持つ。

治癒液を生み出せない代わりに水属性の魔術を使えるメイジスライムの一種。

スライム、もしくはスライムの亜種が『水属性に関する物』を『一定量消化吸収』する事で進化する。

動物レベルだが知能も存在するので、下手に襲いかかると氷漬けにされる。



――――プラントスライム――――


スライムの上位種であるメイジスライムの一種。エメラルドの如く深く澄んだ翠色の身体を持つ。

治癒液を生み出せない代わりに木属性の魔術を使えるメイジスライムの一種。

スライム、もしくはスライムの亜種が『木属性に関する物』を『一定量消化吸収』する事で進化する。

動物レベルだが知能も存在するので、下手に襲いかかると植物でグルグル巻きにされる。



――――エアロスライム――――


スライムの上位種であるメイジスライムの一種。トパーズの如く深く澄んだ黄色の身体を持つ。

治癒液を生み出せない代わりに風属性の魔術を使えるメイジスライムの一種。

スライム、もしくはスライムの亜種が『風属性に関する物』を『一定量消化吸収』する事で進化する。

動物レベルだが知能も存在するので、下手に襲いかかると八つ裂きにされる。



――――ガイアスライム――――


スライムの上位種であるメイジスライムの一種。コーヒーの如く深い褐色の身体を持つ。

治癒液を生み出せない代わりに土属性の魔術を使えるメイジスライムの一種。

スライム、もしくはスライムの亜種が『土属性に関する物』を『一定量消化吸収』する事で進化する。

動物レベルだが知能も存在するので、下手に襲いかかると石の杭で串刺しにされる。



――――スパイシースライム――――


スライムの亜種。赤黒い色の身体を持つ。

噂に名高い程辛い『ドンバの実』を『一定量消化吸収』する事で変化する。

治癒液の代わりに、とても辛い液体を生み出す事が出来る。目に入ったら失明します。取り扱いにご注意を。



――――シロップスライム――――


スライムの亜種。琥珀色の身体を持つ。

『甘い食物』を『一定量消化吸収』する事で変化する。

治癒液の代わりに、とても甘い液体を生み出す事が出来る。

一度舐めると、後引く美味しさで夢中になるが…高カロリーなので太ります。食べ過ぎにご注意を。

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