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とある者の物語である!……語る事はない

上げるかどうか迷っていたこの話。友人に頼まれて上げたけど、場合によっては後で消すかも。

飛ばしても本筋にはあんま関係無い様にしてあります。

「お疲れ様~」


 とある大きな建物の前。大きな門扉の正面に止まった車から、一人の男性が出て来る。


「態々、送ってもらってごめんね」

「何を言ってるのよ……」


 出て来た男性が穏やかな笑顔を浮かべたまま、車内の女性にお礼を言う。

 女性の方は苦笑いで答える。ホント仕方が無いと言った様子で。


「アナタ、自分が何者かわかってるでしょう? そんなアナタを、こんな夜中に一人で帰せる訳無いじゃない」

「ん~? ボクはボクだよ」

「……そうゆう所が人気に繋がってるんでしょうね……」


 ヤレヤレと軽く首を振る女性。そのまま、別れの挨拶をして車を発進させる。それに軽く手を振って見送る男性。

 車が見えなくなった所で門扉の方に振り返る男性。大人でも力を込めなければ開けられない大きい門扉と、それと同じくらいデカい施設を囲む外壁。その門柱に刻まれているのは、この施設の名前――『希望の里』――


「…………」


 男性はそれをチラリと一瞥する――()()の篭った視線で。先程の穏やかな笑顔など欠片も残って無い。

 男性は門扉の横にある、人一人(ひとひとり)が通れる関係者用のドアに鍵を差し込むと中に入って行く。肩から掛けている大きめのバッグを担ぎ直すと、そのまま施設内に向かう。

 既に施錠された大きな玄関の横にある関係者用のドアに、やはり鍵を差し込むと男性は施設内に入る。


「…………」


 建物内でも息の白い冬の夜。既に皆が寝静まった中、男性はリノリウム張りの廊下を心持ち足早に歩く。

 常に清掃の行き届いてる廊下に並ぶ、幾つもの部屋。遊戯室やら音楽室やら、その内部設備も整った、明らかに大量の金の掛かった建物内を歩き続ける。

――その表情はとても固い。


「…………」


 そのまま男性は建物内を通り抜けて、裏口から外へ出てしまう。そこにあるのは建物内で出たゴミの集積場。

 オートロックで閉まった裏口に気にも止めず、男性はゴミ集積場の陰に隠れる形で存在するもう一つのドアに足を進める。

――何故か、そのドアは鍵式では無く暗証番号。それも二重のロックが掛かっている。


「…………」


 男性が手慣れた様子で暗証番号を打ち込むと、ドアはアッサリ開く。その先には明かり一つ無い、真っ暗な階段が下へと続いていた。

 コートの内ポケットから取り出したペンライトを点けると、ゆっくりと男性は階段を降りて行く。

 折り返しながら、タップリ50段は降りた先には、上と違いシンプルなドアがあった。


「……ただいま」


 極々小さな声を掛けてドアを開ける男性。そこには男性にとっては見慣れた――普通の人なら唖然とした光景が広がっていた。

 約教室二つ分の広さの部屋。部屋の隅には塵や埃が積り、唯一トイレと水道しかない、どこの昭和時代だ、と言わんばかりの白電球が唯一の明かりである部屋には、20人程の子供達が居た。

――明らかに着古しとわかる色褪せた粗末な服を着せられ――

――暖房なんて物、何一つ無い部屋の中で――

――カーペットも何も敷かれていない、冷たい石の床に直接寝転がり――

――毛布なんてとても呼べない薄い布に包まり――

――少しでも寒さを和らげようと、2~3人で寄せ合って眠る子供達――


「――――」

「……あっ。おねにいちゃんだ。みんな、おねにいちゃんがきてるよ」

「えっ?」「あっ。ほんとだ」「おねにいちゃんだ」「きてくれたんだ」「おねにいちゃん。だっこ~」

「……何度も言ってるけど、おねにいちゃんじゃなくて、おにいちゃんでしょ?」

「「「「「え~~?」」」」」

「……何故、不満?」

「「「「「だって、おにいちゃん。やさしいし。おねえちゃんみたいだし」」」」」

「……何故、ハモる?」

「おねにいちゃん。おみやげないの?」

「ハイハイ。順番順番」


 一人の声で、他の子供達も起き出して男性に群がる。冬の夜の寒さの所為で、皆寝付けずにいたのだろう。

 男性は、そんな子供達一人一人を穏やかな笑顔で対応し、子供達の体調も確認すると肩から掛けていた大きめのバッグから中身を取り出して子供達に配っていく。

 配られた物――使い捨てホッカイロを受け取った子供達は、笑顔で男性にお礼を言う。


「ありがと~」「あったか~い」「ぼくも、ぼくも」「ちょうだい」「おねにいちゃん」


 口々にお礼を言う子供達。男性は変わらずに穏やかな笑顔を浮かべている。

――ただし、子供達に見えない所でその手は強く握り締められている。リンゴなんざ軽く握り潰せる(ほど)、力強く。

 この程度の事に礼を言わないでくれ! この程度の事しか出来無い自分を許してくれ! そんな心の声を押し隠す為に、強く強く握り締められている。


「ほら、コレも使って良いよ」


 そう言って、自分が着ていた厚手のコートと上着・マフラーを、とりわけ幼い子供に使わせてあげる。特にコートは大きめの物だったので、子供3人が毛布の様に使っている。


「……ねえ。おねにいちゃん」

「ん? 何?」

「こんやは、いっしょにいてくれる?」

「……うん。大丈夫。朝まで一緒だよ。だから、安心してお休み」

「うん!」


 涙目で懇願してくる子供に、頭を撫でながら答える男性。子供はそれを聞いて心底嬉しそうに頷く。周囲の子供達も同様に。

 そして一人、また一人と眠りにつく子供達。寒さは若干和らいだにすぎないが、信頼出来る人が(そば)に居る安心感からか、皆眠りにつく。

――それを見計らったタイミングで、入口のドアが開く。


「――先、越されちまったか……」


 入って来たのはガッシリとした良い身体付きの若い男性。背負っていた大きなリュックを静かに部屋の中に置くと、先に来ていた男性に小さな声で話しかける。


「言いのかよ? 今をときめくアイドル様がこんな所で一夜を明かすなんて……体調管理がなってないって叱られるぞ?」

「将来有望のアスリート様の方が、体調管理には気をつけないといけないんじゃないの?」

「ハッ! ンなヤワな身体してねえよ。お前はどうなんだよ?」

「子供を守るのは大人の義務だよ? 大人なボクが子供より弱くてどうするのさ」


 軽い口調で話し合う二人。

――ただし、身体の陰に隠れる形で置かれている両者の右手は、(せわ)しなく動いている。ある知識を持った者がそれを見たなら、すぐに気づいただろう。

――その手の形、一つ一つがアルファベットに対応した『手話』である事に。



   *   *   *


 数日後。とあるホテルで行われているパーティー会場。多くの財界人が参加しているその宴の中、司会進行の人がマイクで喋る。


「え~。ではここで孤児院『希望の里』の院長先生より、一言頂きたいと思います」


 言われて、恰幅の良い中年の男性が拍手の中、壇上に上がる。マイクを受け取り喋ろうと――


「失礼するよ」


――した所で、会場に数人の男達が乱入してくる。男達はそのままズカズカと、壇上のすぐ手前までやって来る。


「何だね君達は? ここをどこだと思っているんだ? さっさと出て行きたまえ」

「部外者である事は百も承知ですよ……我々はこういう者です」


 中年の男性――院長先生の言葉に、男達は揃って懐から同じ物を取り出す。

――()()()()を。


「?! 警察の人間が何をしにここへ?」

「そりゃ決まってるでしょう。悪人を逮捕しに来たんですよ」


 言いながら、更に(ふところ)から一枚の紙を取り出し広げる。

――()()()を。


「院長先生。アンタに逮捕状が出ている。容疑は横領・脱税・児童虐待・その他諸々だ」

「「「「「?!!」」」」」


 刑事の言葉に院長どころか会場中の人間が驚く。皆の注目を一身に集めた院長は激高して反論する。


「何を言ってるんだ君はっ!! 『希望の里』は数多くの人達に支えられた由緒ある施設だぞ!! 現に数多くの優秀な子供達が巣立っているではないかっ!!」


 (つば)を撒き散らさん勢いで捲し立てる院長。対して刑事の方は余裕の笑みで答える。


「選ばれた子供達()()でしょう?」

「……何だと?」

「容姿の整った子や、何かしらの才能の有る優秀な子――言うなれば、()()()()子供はちゃんと育てる。しかし、それ以外の子供は決して人目につかない地下室に監禁状態……おまけに服も食事もロクに与えていないので、いずれ衰弱死」

「――?!」

「しかも、選ばれた子供達にはシッカリ恩を植え付けておいてあるので、後々送られてくる寄付金・謝礼金の殆どを密かに自分達の(ふところ)に入れている」

「ーーっ?!」

「何よりも、院を出た子供達はこの裏事情を全く知らないから、表に漏れる事は無い」

「~~~~っ!!」


 淡々と話されるとんでもない内容に会場中の人間が凍りつく。唯一、院長だけは紅潮した顔で忌々し気に刑事達を睨んでいる。


「――証拠は?!」

「はい?」

「証拠は有るのかっ?! 無ければ「有りますよ」……何だと?!」


 ヒートアップしている院長に対して、刑事はとことん冷静に応対する。


「だからこその、逮捕状でしょうに――言い訳は署の方で聞きましょうか。連れて行け」

「「「はっ!」」」


 掛け声と共に一斉に動く刑事達。院長は両腕を固められるも、必死に抗いながら叫ぶ。


「放せっ!! 貴様ら、こんな事をしてタダで済むと「思ってますよ」……何ぃ?」

「院内の子供の()が合わない事を黙認してもらってる政府の人とか、秘密裏に遺体を処理してもらってるヤの付く人達とか、アンタが頼りにしている連中なら、今頃同じ様にしょっ引かれてるますよ」

「……何だとぉ?」


 信じられないとばかりに眼を見開く院長。抵抗も弱まり引きずられる様に会場の外に連れて行かれる。


「――何故だ? 何故バレたっ?! どうやってバレた?! どこからバレた?!」


 引きずられながら、突然喚き出す院長……それが自白だと気づいているのだろうか?


「あの孤児院に居る()()達のおかげですよ」

「……例外だと?」

「ええ。真実を知った後、他の子供達を守る為に、敢えてアンタ達の傀儡になった子供達のおかげです」

「?! 馬鹿なっ?! 監視はシッカリしていたのだぞ?! 盗聴器まで付けておいたのに、どうやって?!」

「そりゃ、簡単な事でしょう――」


 何を言ってんだコイツ、とばかりに院長にあっさり告げる刑事。





「――優秀な子供達だからですよ」




   *   *   *


『ここで、臨時ニュースをお伝えします。先程『希望の里』の院長が警察に――』


 夕暮れ前。街頭テレビに流れる映像を見上げる通行人達。皆が口々に驚きの声を上げる中、たった一人だけ笑みを浮かべる男性が居た。

 あの地下室で子供達にホッカイロを与えていた男性である。()()()(ゆえ)にあれこれ変装している男性は、自販機に背中をあずけながらニュースの内容に満足する。


「裏でコソコソやってる事は、表に出せば良い…………ここまで長かったね」


 思わずポツリと溢れる呟き。声は小さくとも、そこに込められているモノは大きい。

 6年の時は長かった。真実を知った後、皆と共に自由を捨て走り続けた人生。否応無く生死を実感させられた濃密な人生。

――あの地下室に新たに入れられた子供達がいた。真実を知り新たに自分達の仲間に加わった者もいた。耐え切れず自殺しようとする子もいた。

――そして守りきれずに、この時を迎える前に亡くなってしまう子供達もいた。


「少しでも、皆が浮かばれてくれると良いんだけどね」


 静かに黙祷を捧げた後、手の中で弄んでいた物体――盗聴器を地面に捨てて踏み砕く。


「携帯に仕掛けるとか、ありきたり過ぎだよ」


 ゴミになったソレをフンと一瞥すると、一言呟いた。


「ミッションコンプリート」


 背中を自販機から離した丁度その時、(ふところ)の携帯が振動する。相手を確認するとすぐに出る。


「ハイ。こちらしーちゃ『大変だっ!!』~~っ?! 何?!」


 いきなりの大声量に思わず携帯を耳から遠ざける男性。反対側の耳に持っていき会話を続ける。


()()逃れた!!』

「……どういう事?」

『お前も知ってんだろ? あの孤児院のクソッタレ職員共。今日、いつもの場所で全員どんちゃん騒ぎをするって事』

「うん」

『その場所に警察が踏み込んだんだけどよ。丁度そのタイミングでトイレに行ってる奴が一人いて、異変を感じて窓から逃げ出したんだとよ!』

「?!」

『だから――』


 最後まで聞かずに切る男性。そのまま、心に感じるモノに従って走り出す。


(頼むから当たらないでよっ!!)




   *   *   *


「ハァ~、ハァ~、ハァ~」


 孤児院の地下室。突如現れた中年の男に、部屋の中に居た子供達が一箇所に集まって怯えている。

……おっさんの様子は明らかに普通では無かった。血走った眼に荒い息遣いと、尋常では無い。

 男は持っていたポリタンクの中身を盛大にぶちまける。ツンと鼻に来る刺激臭から、ぶちまけられたのが石油だと子供達にもわかった。


「お終いだ……もう、お終いだ……こうなったら、お前達も道連れだ」


 (ふところ)から取り出したのはジッポライター。子供達がヒッと恐怖に(おのの)く中、火を点け――


「――てやーーーーっ!!!!」


――る前に、飛び込んで来た男性に飛び蹴りをくらい、もんどりうって倒れた。

 子供達は突然の乱入者の顔を見て歓声を上げる。


「「「「「おねにーちゃん!!」」」」」

「ホント、予感って嫌なモノ(ほど)、良く当たるよね――皆! 外に出て!」

「えっ? でも……」

「もう、悪い奴らは、(みんな)捕まったよ。後はソイツだけ。だから外に出ても大丈夫だよ」

「「「「「――!!」」」」」


 男性の言葉を聞いて、一目散に階段へと駆けていく子供達。中には足取りが覚束無(おぼつかな)い子も居たが、他の子が手を貸して階段を登って行く。

 それを横目に見ながら、男性は蹴り飛ばしたおっさんから視線を外さない。そして、おっさんが起き上がり血走った眼で睨む。


「テメェーーーーーっ!! 全部テメェらの所為か!! 家畜の分際で飼い主様に逆らいやがってぇーーーーっ!!!!」

「……良く言うよ。ボク達の稼いだお金で、散々良い思いをしてきたくせに……見方を変えれば、飼われてたのはソッチじゃない?」

「――っざけんなーーーーっ!!!!」


 怒号と共に、どこからともなく取り出したのはナイフ……いや、包丁。恐怖を煽るつもりか、刃先をこれみよがしに見せつける。


「台所に立った事も無いのにそんな物持って上手く扱えるの? 指を切る前に捨てた方が良いよ?」

「ーーっ!! ブッ殺ーーーーすっ!!!!」


 逆に挑発されて、しかもそれにアッサリ乗るおっさん。男性はそれを見ながら心の中で冷静に考える。


(ロックの掛かったドアは開けっ放しにしてきたから、後は、皆が階段を登りきるまで時間を稼げば良い)


 正直コイツ程度なら、そんな事簡単だと身構えた瞬間――トイレのドアが開いた。


「「――?」」


 男性もおっさんも、思わずそちらを見やる。そこにはドアの隙間から、おっかなびっくり顔を出した女の子がいた。


(隠れてた?! イヤ、出るに出れなかったのか?!)


 男性が驚く中、おっさんの方は女の子に向けて動く。人質とする為……イヤ、形振(なりふ)り構わず殺す為。

 ワンテンポ遅れて男性も動く。しかし、そのワンテンポが致命的な遅れ。3人の位置関係は丁度、正三角形に近い。この短い距離では、先に動いた者に後に動いた者が追いつく事は出来無い。


「~~っ!!」


――だが、それが(くつがえ)される。他ならぬ女の子自身が男性の方に向けて駆け出した為。

 縮まる二人の距離。男性は女の子を自分自身の身体で守るべく抱きしめて――


「――がっ!!」


――直後に背中に走る痛みと熱い感覚。思わず力が抜けそうになる身体に歯を食いしばり――


「――な、めるなぁーーーーっ!!!!」

「ぐほぁっ!!!!」


――振り向き(ざま)、渾身の力を込めた裏拳を叩き込んだ。綺麗に横っ面にもらったおっさんは、グルンと半回転して倒れる。

 それを見届けてから腕の中の女の子を見やる。


「大丈夫?」

「う、うん。でも、おねにーちゃんのほうが……」

「ボクは良いから行って!」

「えっ?……で、でも「良いから行って! 生きて! 皆と一緒に!」~~っ! わかったよ」


 涙目になりながらも階段に向けて駆けていく女の子。振り返らずに一心不乱に駆けていくその姿を見て安心する男性。

 そこに――


「――ウラァッ!!」

「ぶっ!!」


――何時の間にか起き上がっていたおっさんの蹴りが炸裂する。

 おっさんは倒れた男性の、背中に突き刺さったままの包丁を引き抜くと、次いで右足の太腿に突き刺す。


「ーーっ!!」

「テメェはここで大人しくしてろ!! あのガキ共を殺したら次はテメェだっ!!」


 血に濡れた包丁片手に男性を見下ろすおっさん。満足に身動き取れない事を確認すると、子供達の後を追うべく階段に向かう。

 その背に――

「……ねえ」

「アァン?!」


――地下室から出る一歩手前な所で掛けられる声。思わず反応して振り返ると――


「――忘れ物だよ」


――宙に浮かぶ()()()が目に付いた。つい先程まで自分が持っていて、蹴り飛ばされた時にどこかに行ってしまっていた、ジッポライター。

 ()()()()()()()放り投げられたソレは、重力と言う自然の摂理に沿って放物線を描いて地面へ落ちていく――石油の撒かれた地面へ。


「~~~~っ!!!!」


 包丁を投げ捨てライターを掴もうとするおっさん。

 だが、時既に遅し。ライターは地面に触れ――


「――づああああぁぁーーーーっ!!!!」


――瞬く間に炎に包まれるおっさん。叫びながら階段を登って行くが、すぐに足を踏み外し転げ落ちてくる。


(……ざまあみろ)


 苦しみながらのたうち回るおっさんを見てほくそ笑む男性。

……しかし、その笑みもすぐに諦観に変わる。炎はすぐにこの地下室中に広がるだろう。

 背中と右足を刺された自分は動けないし、何より血を流し過ぎたのか意識が朦朧としてきた。もう瞼を開けておくのも難しくなっている。

……つまり、自分はもう助からない。


(……全て終わったら、皆で祝杯を上げる。その約束、守れそうに、ない、や……)


 冷たくなっていく身体と、自分に迫る炎の熱さの相反する温度を感じながら、一つの悔いを残し男性は目を閉じる。


――十数分後。やって来た警察に保護された子供達の証言で、警察が地下室に続く階段に入ろうとした所、炎に気づき消防が呼ばれる。

 消化後。地下室から二つの遺体が発見され、一つが件の男性と判定される。

……その事実を告げられ、涙を流さぬ者はいなかった。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑はお休みです。

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