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触れ合いである!……心の傷は見えない

今回の話を書く際、頭ん中でキャラ達が勝手に動きましたので、そのまんま書いちゃいました。

後悔はしていない……遅刻はしたけど。

「どうかしたんですか?」


 最低限の物しかない、簡素な造りの部屋の中。

 ベッドの上で可愛く小首を傾げて尋ねる女の子。見た感じ、年齢は中学生ぐらい。ベッドのシーツの上に広がった青い長い髪。透き通る様な白い肌。力を込めたら折れてしまいそうな細い手足。そして――閉ざされたままの両目。


(この子。目が――イヤ。それ以前に……この子、ホントに龍族?)


 女の子を観察しながらシノブが疑問に思う。

 そう――この女の子からは他の龍族から感じた種族的な存在感が感じられない。むしろ、か弱いを通り越して触れたら消える程の儚さを感じる。


「ちょっと変わったお客さんが来たので、紹介しようと思ってね」

「……変わったお客様、ですか?」

「そう。元人間のスライムくんだ」

「……えっ?」


 整った眉が眉間に寄り、困惑した顔を見せる。言ってる事がわからないと言うよりも、わかった上で理解出来無い様だ……無理もない。

 そんな女の子を他所に、シノブはベッドの上に這い登ると、伸ばした身体で女の子の手をチョンチョンと突く。


「きゃっ?!」


 突然の感触に女の子が思わず手を胸元に引き寄せる。そして、恐る恐る手を今自分に触れたモノに向けて伸ばす。

 それをジッと見守るスォイルと、微動だにせず触れるのを待つシノブ。


「……これ、スライムですか?」


 シノブに触れた後、ゆっくりと身体全体を撫で回す女の子。疑問形なのは普通のスライムと違いドロドロでは無く、楕円形()つ弾力が有る為であろう。


「シルバースライムだよ」

「――?! これが、ですか?」


 スォイルの言葉に少し驚きながらも撫でるのを止めない。シノブはその手に、伸ばした身体で文字を書いて言葉を伝える。目が見えないのでは、何時もの光文字も見えないので必然的に仕方無い。


[はじめまして]

「――っ?! はい。はじめまして?」


 手に書かれた文字に驚きながらも返事を返す女の子。なんとも信じられない様子で固まっている。

 そんな女の子に構わず、さらに筆談を続けるシノブ。スォイルは面白そうに見守っている。


[ぼくはしのぶ。きがるにしーちゃんってよんで]

「……しーちゃん……ですか……」


 書かれた言葉に暫し呆然とする女の子。しかしすぐに――


「――っ! ぷっ、くくっ…~~っ!!」


――めっさ笑い出した。片手を口元に持ってきて必死に耐えているが、肩の震えが尋常じゃ無い。


(……いっその事。思いっきり笑ってくれた方が傷つかないんだけど……後、そこのお父さん。良くやったとばかりのそのサムズアップが、凄いムカつくんですけど?)


 無性に溶解液をぶっ掛けたい気持ちを抑えるシノブ。そんな事知らんとばかりに笑う父娘。




   *   *   *


「申し訳ありませんでした」


 数分後。漸く笑いの発作が収まった女の子が謝罪してくる。シノブは気にしないでと筆談で返す……スォイル、あんたは気にしろ。


「申し遅れましたが、私はユーフィと言います」

[ごていねいにどうも]


 スライム相手にしっかり頭を下げる女の子――ユーフィにシノブも頭を下げる……頭が無いので心の中で。


「元人間と伺いましたが?」

「(後は頼んだよ)」


 尋ねてくるユーフィとは別に、口だけ動かして部屋を出ていこうとするスォイル。


[そうだよ]“りょうかい”


 器用に筆談と光文字を同時にこなして両者と会話するシノブ。スォイルはそれを見て静かに部屋を出て行く。

 後に残った一人と一体は、お互いの事を話し合って時間が流れる。




   *   *   *


“ただいま”


――約2時間後。シノブが居間に戻って来る。スォイルとエフィは、お茶を飲みながらシノブを迎える。


「お帰り」

「ご苦労さま。ユーフィは?」

“しゃべりつかれてねちゃった”


 テーブルの上によじ登ったシノブにエフィがお茶を出す。感謝を述べてシノブはお茶を飲む……てか身体に掛けて取り込む。


“というか、おちゃ、あったんだ”

「それはあるよ。食べなくても生きていけるからって、食べちゃダメと言う訳では無いからね」

“たしかに”


 食事をしないなんて、人生の半分を損していると思うシノブであった。


“しつもんいい?”

「なんだい?」

“なんであのこ、いきるきりょくがないの?”

「……気づいたのかい?」


 シノブの言葉を淡々と受け止める二人。その様子から間違っていない事を確信するシノブ。


(あんな子は散々見てきたからね。()()で……)


 しみじみと過去に思いを馳せるシノブ。そして、二人が話し始める。


「知っての通り、あの娘は目が見えない――産まれつきにね」

“うん?”

「しかし、種族的に強い生命力を持つ龍族に於いて、産まれながらに身体的障害を持つ者は皆無……と言うか、()()()()()と言っても良い」

“でもかのじょは”

「そう。その有り得ない例外として産まれた……産まれてしまったんだよ」


 そう告げて深く俯くスォイル。その顔はとてつもなく苦汁に満ちた表情をしている。

 エフィも涙目になりながらその後に続いて話し出す。


「……その事があの娘の心に深い傷を負わせてしまってるの。自分は欠陥品だと、龍族の異端児だとそう思ってしまっているの」

“それってだれがいったの?”

「誰も言ってはいないわ。でも、あの娘はそう思っているの……そう、思い込んでしまっているの」

「……だから、あの娘はこの家どころか、あの部屋から出ようとしない……出られないんだ。外に出て、実際にそんな言葉を掛けられるんじゃないかと怖くて、ね。そんな事は無いのに……皆、心配しているのにね」

(……幽霊の正体見たり、ヤレ枯れ尾花、か)


 怖いと思うから怖くなる負の悪循環。ほんの少しでも勇気を出せれば解決出来るも、その勇気を出せるかは本人次第。でも、その勇気を出すのは本人には酷と言える。そして、周囲もそれがわかっていて手を出すに出せない。


(千日手状態だね。ひょっとして――)

“ぼくをつれてきたのはなんでもいいからへんかがほしかったから?”

「……そうだよ。他の種族が訪れないこの村にやって来た唯一と言えるお客さんだ。それによって、あの娘の心に少しでも変化が起きてくれる事を期待してるのさ……そんなモノに縋る程追い詰められてるのさ、私達は……龍族なんて言っても実際はこのザマさ」


 力無く笑うスォイル。そんな彼にエフィが涙ながらに叫ぶ。


「やっぱり私の所為よ!! 私がちゃんとした身体にあの娘を産んであげられなかったからっ!!」

「それは違うっ!!」

“それはちがうよ”

「「――?!」」


 何時もよりも比べ物にならない(ほど)の馬鹿デカい光文字を描くシノブ。二人はその光文字の大きさ……よりも、シノブ自身が醸し出す雰囲気に気圧される。


“うまれることじたいがひとつのきせきなんだよ。おやにおちどがあったのならともかく、ないのならしょうがいにかんしてはべつもんだいだよ。うまれてくるいのちにつみがないように、いのちをうむことにもつみはないんだよ”

「……そう思ってくれるのかい?」

“どううまれたかじゃなくて、どういきていくかだよ”

「「……ありがとう」」


 そう言って頭を下げる二人。龍族がスライムに――頂点の種族が最下層の種族に、誠心誠意頭を下げる光景。他の人が見たら「アリエネー!!!!」と叫ぶだろうが、頭を下げている二人は何も思わず。下げられている方は――


“すいません。いいかげんあたまをあげてください”

(と言うか、頭上げてくれないと、この文字も見えないんだよね……)


――めがっさ恐縮していた。偉そうにアレコレ言ってしまったさっきまでの自分をどうにかしたい。穴があったら入りたい……自分で作れるけど。


(ハァ~。でも、あの娘……)




   *   *   *


――夜。皆が寝静まった深夜。とある家の一室で動く人影があった。その人影は自分の指先――部分的に()()を解除した鋭い爪を一瞥した後、その鋭い爪を目標に勢い良く突き立て――




(ハイ。ストップ)


――ようとする前に止められた。ウニョ~ンと伸ばした身体によって――コッソリ潜んでいたシルバースライムのシノブによって。


「――何でっ?!」

[それはこっちのせりふだよゆーふぃ。なんで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の?]

「ーーっ!!」


 自分が掴んでいる腕に直接文字を書いて伝えるシノブと、予想もしていない登場に完全に動きが止まるユーフィ。掴まれた腕を振り解く事もせずに固まっている。


(ホント、予感って嫌なモノ程、当たるよね……今回は()()での経験も加わってるけど……)


 内心で非常に重い溜め息を吐くシノブ。ふと、ユーフィが力無く振り上げていた腕を下ろすので、シノブも掴んでいるのを離す。


「……どうして、気がついたんですか?」


 最初に会った時と同じく、ベッドの上で上半身を起こした姿勢のまま、ユーフィがシノブに尋ねる。

 正直にわからなかった。自分は何時も通りにしていたのに、何故気づかれたのか。


(だから、君みたいな子は散々見てきたんだよ。()()で……)

[きみはためこむたいぷみたいだからね]

「……()()()()?」

[このてのたいぷはじぶんのなかにためこんじゃう。そしていつか、ためこんだものがばくはつする]

「……爆発?」

[そのばあい、たいていはものにあたるんだけど、きみはちがうね。そんなことをしたら、りょうしんがさらにしんぱいする。きみにそんなことはできない]

「…………」

[でも、このへやからでれないきみが、ゆいいつあたれるものがある――ほかならぬ()()()()()]

「……………………」

[りゅうぞくはせいめいりょくがつよいからきずもすぐにふさがる。ながれでたちは、きみのみずぞくせいのまじゅつであらいながせる。だからうまくごまかせていた]

「…………そこまで、わかってしまっているんですか」

[なにより、きみは()()()()()()がきらい]

「っ?!」

[だからじぶんをきずつけるのにためらいがない]

「ーーーーっ!! そうです!! その通りです!!」


 突然叫び出すユーフィ。弱々しい雰囲気など微塵も感じられない、強い感情の篭った声で。この細い身体のどこに、こんな力強さがあったのかと思う程に。


「私は自分が嫌いです! 目が見えないからじゃない! ソレを言い訳に、何時までも外に出れない自分が大っ嫌いですっ!! 本当はわかっているんです! 皆、私の事を心配してくれている事はっ! でも怖いんです! 勇気が出ないんです! 出せないんですっ!! ~~っ!!」


 途中から、その閉じた瞳から涙を流しながら心情を吐露するユーフィ。シノブが膝の上に乗ると、思わず抱きしめる……イヤ、縋り付く。


「ううっ……私、私どうしたら良いんですか?……外に出なければいけないのに……どうしても出れないんです……私、どうすれば[べつに、でなくていいんじゃない?]…………えっ??」


 抱きしめている腕に書かれた文字の内容に、ユーフィが思わずマジマジと腕の中のスライムを見つめてしまう。


[だから、べつにいいんじゃない?]

「…………良いんですか?」

[とりかごのなかのとりってしあわせ? ふしあわせ?]

「??」


 いきなり話しが変わった事に困惑するユーフィ。それに構わずシノブは続ける。


[とりかごのなかのとりはじゆうがないかわりに、がいてきにおそわれないあんぜんがある。とりはしあわせ? ふしあわせ?]

「それは……」

[こたえはそのとりしだい。どっちをえらぶかは]

「…………」

[きみもそうじゃないの? どっちをえらぶかはきみしだい]

「…………選んで良いんですか?」

[べつにいいんじゃない?]


 正直。話しをすり替えているいるだけで、根本的な解決にはなっていないことはシノブは良~くわかっている。

――しかし、今はこうするしかない。先程の彼女の問い掛けには、肯定も否定も出来無い。した所で、結局は彼女の問題なのだから、他者の意見なんて彼女をより苦しめるだけなのだから……

 今は、話しのすり替えでも何でも良いから彼女を落ち着かせる事。そして、その上で――


[ぎゃくにしてみたら?]

「――えっ?」


――第三の提案をしてみる。


[きみがそとにでるんじゃなくて、ほかのひとをなかにまねきいれたら?]

「……あっ」


 何か、心にストンと落ちた気がする。

 外に出るのは他の人達と触れ合う為。でもそれは、外に出なくても出来る。こんな簡単な事、何で思いつかなかったのだろう?

 自然と、ユーフィは笑っていた。とても晴れ晴れとした表情で。


「出来るでしょうか? こんな臆病な私に……」

[わすれてない?]

「何をですか?」

[もう、ぼくがこのへやにはいってる]

「……あっ」


 思わずクスりと笑うユーフィ。


「……そうでした」

[そうだよ]


二人して笑い合う。が――


(あれっ?)


 シノブは身体に異変を感じた。身体の内側から何か熱いモノを感じる。と言うか、コレは――


(――コレ。ボクが以前『進化』した時のと同じ。何で急に――あっ)


 思い返せば、先程まで自分は泣いているユーフィの腕の中に居た。必然、涙が掛かっていた――()()()()()が。


(話しに、夢中になって……忘れてたよ……)


 異変を感じたユーフィの声に返す事も出来ずに、シノブの意識はブラックアウトした。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑はお休みです。

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