表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/67

追跡である!……ちょっと待ってくんない?

台風の影響で勤め先にあった木が2本倒れた……

皆さん、大丈夫でした?

(こちらスライム。目標に潜入……てか尾行中)


 山中を静かに、且つ光魔術による光学迷彩まで施して、姿を消して進む銀色の楕円形の物体――シノブである。

……別に、怪しい事をしている訳では無い。事の発端はグレッコ・エリン夫婦からの頼みであった。

 どうも、最近子供達が街の外に無断で出て行るらしいとの事。本当かどうか、もし本当なら原因は何かを掴んできて欲しいと頼まれたのである。

 最初は自分達でどうにかしようとしたらしいのだが、如何せんドワーフなんぞに尾行なんてモノ向いている筈も無く、失敗に終わったそうである。

 その点、シノブは違う。そもそも転がって移動する為、足音なんて立てないし、いざと言う時はどこかにへばり付いたり隙間に隠れたり出来る。その上、光魔術による光学迷彩まで使用出来る。極めつけに溶解液で溶かせば、証拠を残さぬ完全な……って違う! 説明がアサシンっぽくなってる!

……とにかく、相変わらずやる事の無いシノブが、姿を隠して子供達を見守る事、数十分。遂に子供達は動き出した。どっから手に入れたのか、鈎付き縄梯子なんぞ使って街の外へと出て行った……その後をシノブが追いかけている事に気づかずに。


(でも、どこに行こうとしてるんだろ? 目的は何かな?)


 足取りがシッカリしている事から、行き先はハッキリしているのだろう。

 それと気になっているのは、子供達が皆背負っている袋の事である。あの中身は一体何なのだろうか?


(……まあ、考えてもしょうがないか。尾行♪ 尾行♪)




――――スライムスニーキング中――――


(……ここ?)


 尾行する事、十数分。漸く目的地と思しき場所が見えてきた。大きい物は3~4メートル、小さい物は小石と言った大小様々な物が存在する岩場であった。

 子供達は大きな岩の隙間を縫う様に岩場の中へ入って行き、シノブも後に続く。


(こんな所で何してるんだろ? 鉱石でも見つけたのかな?)


 子供達は(いま)だ鍛冶場に入る事は許されていない……だとすれば、それに反発してコッソリ悪巧みをしていても可笑しくない。子供達の行動力は侮れない。


(…………はい?)


 そこでシノブは、この岩場には似つかわしくない物を見つける。

 一言で言えば植物で出来たカーテンである。蔓草(つるくさ)をネット状に編んだ物に大きい葉っぱを括り付けてある緑のカーテンが、大きい岩と岩の間にかかっている。

 子供達は何の躊躇も無くカーテンを(くぐ)って中に入って行く。


(……コレ。この子共達が作ったのかな? う~ん……)


 後に続いて中に入るのは簡単だが、中の様子がわからないのに入るのは少し怖い。子供達はこの中で何をしているのか?


(取り敢えず……横がダメなら上から~…………って、あれ?)


 岩にへばり付いて上に登るも、何と上側にも同じ緑のカーテンがかかっている。

 つまり、子供達が今居る空間は完全に外からは見えない様になっている。何故そこまで……?


(う~~ん。仕方無い、入ってみよ)


 一旦地面に降りてから、身体を平べったくして可能な限りカーテンを揺らさずに(くぐ)る。

 その中では……


「よ~し。よ~し」

「あいかわらず、すごいしょくよくだな~」

「ほんとだよ」

「いてっ! ゆびつつかれた!」

「きをつけろよ」


……何か()()()してるし。

 どうやら子供達が背負っていた袋の中身は()だったようである。

 まあ、傷ついた生物を助け、(かくま)い、餌を与えるのは良い。心優しい行為だし、大人達に隠していたのも情状酌量の余地が有ると言えよう。

……ただ、その生物が全長2メートルはある巨大な雛鳥で無ければだが……


(と言うか! アレ、以前ボクを攫ったモンスターと同じじゃん! 何でここに居るのさ!)


 僅かに額に見える第三の目から間違い無い。あの時の鳥のモンスターに違いないのだが……何故ここに?


(……子供達に聞いてみるしかないか)


 しかし、今は餌やりに夢中になっているので、暫くは待つしかない。

 シノブは光魔術による光学迷彩を解いて、その場で待つ事にした。




――――スライム待ちぼうけ中――――


「「「「「じゃあね~~~~!!」」」」」

(……漸く終わったよ)


 あれから約1時間程経って、やっと子供達は帰ろうとしていた。

 餌やりそのものは直ぐに終わったのだが……その後に子供達が雛鳥をモフりだしたので、今の時間に至る……少~し、羨ましいと思ったのは内緒であるシノブであった。

 帰ろうと振り向いた所で…子…供達が固まった。その視線の先には銀色のスライム……。


「「「「「――うわわわぁーーーーっ!!!!」」」」」

(……やっぱり、こうなったよ…)


 シノブを見るや恐慌状態に陥る子供達。やはり以前の事が後を引いているようだ。


「なんでここにいるんだよっ!!」

「わ~~! わ~~!」

「え~~ん! え~~ん!」

「こいつはたべさせないぞっ」


 うん、実にカオスってる。中にはいきなり泣き出す子までいる始末。最後の、オマエは何か勘違いしてるぞ。

 どうしたものかとシノブは頭を悩ますが、答えなど出る訳でもなく、取り敢えず話してみる事にした。


“べつになにもしないよ?”

「うそだっ!!」


……見事に一言で斬って捨てられた。多少、心にダメージを負うも、めげずに続ける。


“たべたりしないって”

「しんじられるかっ! だったらなんでここにいるんだよ!」

(……まあ、言っても良いよね?)


 事の真相は既に突き止めているので、シノブは大人達が心配している事を告げる。

 それを聞いて、あちゃ~といった顔をする子供達。


「……ばれてたんだ」

“うん。そう”

「「「「「はぁ~~~~」」」」」


 揃って溜め息を吐く子供達。バレてないつもりだったのだらうが、大人達の眼は誤魔化せていない。


“それで、そのもんすたーはどうしたの?”

「えっと――」


――話を聞くと、3日前にコッソリ街の外に出ていた子供が空から落ちて来たこのモンスターを見つけたらしい。驚いたその子は慌てて街に戻り、他の子供達に知らせて、どうしようか相談した。そして出た結論が、ケガが治るまで面倒見ようとの事。

 最も、動けないモンスターの代わりに餌を集めないといけなくなった為、頻繁に街の外へ出なければならなくなってしまったらしい。


(それで、大人達が気づいたんだね。それに、街では多分飼えないだろうしね)


 何となく推測するシノブ。あの街にはこのモンスターを飼える()()が無い。家以外の場所は鍛冶場・作業場・倉庫でひしめき合っている。

 唯一の広場は、先日出来た土俵が有る。あれを退かす事は無理だろう。ドワーフ達の相撲への入れ込み具合は半端じゃないのだから。

……そもそも、このモンスター飼えるのか?


(まあ、怪我が治るまでだから大丈夫だと思うけど……)

“で、けがのぐあいは?”

「つばさがかたっぽ、おれてるみたい」

「なおせる?」

“ためしてみる”


 取り敢えずモンスターに近づいてみるシノブ。近づいて見ると、やっぱりあの時のモンスターの雛鳥である。

 しかし、何故ここに……と言うか巣の外に居るのか。落ちて来たと言う事は、まだちゃんと飛べないのであろう。それなのに巣から出るとは余程の事の筈。

 そんな事を考えながらシノブが更に近づこうとすると――


(……はい?――ふぎゃっ?!)


――雛鳥が伸し掛って来た。思いっきり。躊躇無く。相手の事を考えずに。

 大変なのはシノブであった。全長2メートルの雛鳥に対して、直径30センチ(ほど)のスライム。体格差は歴然。潰されかけたのを、すんでの所で逃れる。

……しかし、雛鳥は止まらない。シノブを追い続ける。オマエ、翼折れてるんだろ?


(何で?! 何でなの?!――あっ?! もしかしてこの雛鳥。本当に()()()の?!)


 良く良く見れば、あの時に自分が喉に刺さっていた骨を抜いて治療した雛鳥に似てなくもない。

 それに気づいたシノブは、内心で汗を垂らす。


(……まさか、()()()追っかけて来た? 懐かれた?? 嘘でしょ?!)


 しかし、今の雛鳥を見ると否定しきれない。執拗に追って来る。


(あ~、もう。取り敢えず、えいっ!)


 このままではマズイと、壁を使っての三角飛びで、何とか雛鳥の頭の上に乗っかるシノブ。そのまま身体を前後に動かす。まるで頭を撫でる様に。雛鳥の方も、それで満足したのか大人しくなる。


「……だいじょうぶ~?」


 雛鳥が暴走した瞬間に避難していた子供達が、恐る恐る声を掛けてくる。薄情者とは言ってはいけない。アレは大人だって逃げる。


“だいじょうぶだよ”

(でも、これは困った事になったね……どうしよ?)


 返事をしながらも、シノブは先の事を考えて内心で溜め息を吐いた。




   *   *   *


“――というわけで、しばらくまちにもどれません”


 街に戻ったシノブは一切合切、余すことなく説明していた。子供達が街の外に出ていた理由から、例のモンスターに懐かれている事まで全て。


「エライ事になったな……大丈夫なのか?」

“だいじょうぶ”

「……どうしてもか?」

“むり。あのこもついてきちゃうし、ほっとけない”

「…………」


 そう言われると返す言葉が無いグレッコであった。流石に全長2メートルのモンスターを、この街で飼うのは不可能であるのだから。

 一方シノブの方も、例の雛鳥がシノブから離れない事は確認済みである。

 今、シノブが街に戻れているのも、あの雛鳥が寝ている最中だからである。そうでなければ間違い無くついて来てしまっていただろう。


「しかしよぅ、オマエが居なくなったら……」

“なったら?”

「……誰が相撲の行司をっ!!――だーーっ! スマン! 冗談だ! 悪かった! だから溶解液を飛ばさないでくれっ!!」


 かなり本気で当てにいったシノブと、ドワーフとは思えぬ軽やか()つ必死な動きで溶解液を避けるグレッコ……やるねオッチャン。


“と~に~か~く。しばらくはもどれないからね”


 そう言って、シノブは街を後にする。


「気をつけろよーーっ!!――さて、ガキ共! 覚悟は良いか?! 勝手に街の外に出ていたんだ、ゲンコツの一発じゃ済まさねぇぞっ!!」

「「「「「ひえ~~~~っ!!!!」」」」」


……子供達の悲鳴を無視して。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑はお休みです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ