表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/67

祝!人、発見である!会話は出来無い

不定期投稿でしたが、これからは月曜日を目安に投稿しようと思います。

……スライム故に会話出来無い主人公を人と絡ませるのが実にムズイ……

(1~2~3~4♪ 2~2~3~4♪)


 異世界にスライムとして生まれて一週間目の朝。彼は切り株ハウスの前で日課の体操をしていた……『ふしぎなおどり』では無い……たぶん。

 この一週間、日帰り出来る範囲で森の散策を続け、森の外に出る事も無く、人に出会う事も無い日々を過ごしている。どうやらこの森は思っていたよりも大きいのか、それとも単に自分の移動範囲が狭いのか、とにかくモンスターや虫達以外の生き物に出会わないし、森の出口も見つからない。


(まあ、慣れてはきたけどね)


 あちこち動き回っていたので、何度も森ネズミや角ウサギ、イモ虫に石吐き蛇、巨大蜘蛛、黒犬等々と出会っている。いい加減、そう何度も出会えば慣れもする。

 ただ、何故か皆、襲って来ないのである。イモ虫と森ネズミは兎も角、角ウサギは最初の出会い以降、角を撃つ事も無くすぐに逃げる。石吐き蛇は、石を吐き出さずにスルー。巨大蜘蛛は、木と木の間に張った巣から地面の獲物へバンジージャンプで捕らえに来るのに、自分には目もくれない。黒犬に至っては他のモンスター達を襲っているのにもかかわらず、自分に対しては吠えるだけで決して襲って来ない。

 ここまで来ると偶然では無く、皆、故意に襲って来ないのだと気付く。しかし、それは何故なのか、彼はずっと考え続けた結果、いくつかの推論を立てる。


(一つ目、攻撃手段の問題だよね)


 今まで出会ったモンスター達の攻撃手段は角・爪・牙に体当たりである。これは身体を使った攻撃と言える。普通ならば問題無い――しかし、『スライム』が相手だと話が変わる。『スライム』は身体の中に取り込んで溶かして食べるモンスターである。そんなモンスターに自分の身体の一部で攻撃するのは、例えるなら酸の中に手を突っ込む様なものである。実際には『スライム』の消化力はそんな強く無いので短時間なら平気なのだが、他のモンスター達にはそこまでの知能は無いのだろう。おそらく、『触れたら溶かされる』ぐらいの認識しか無い。


(二つ目、襲う理由なんだよね)


 モンスター達が他のモンスターを襲うのは、主に二つ。

 一つ目は自分達の身を守る為。しかし、これは簡単に防げる。モンスターに近づかなければ良いし、縄張りに入ったならすぐに逃げれば良い。一定の距離を保っていれば襲われ無い。

 二つ目は食べる為。生きる為には他の生き物を食べなければならないのは自然の摂理である。――しかし、スライムが相手だと話が180°ぐらい変わる。そもそも、食えるのか? 万が一、食べられるとしても美味いのか? という疑問が残る。スライムは見た感じ、青いドロドロした物体である……どう見ても美味そうに見え無いし、わざわざ食べようとは思わないだろう。この森の中には、他に食べられるモノはいっぱい有るのだから。


(つまり、スライムは手を出せば痛い目にあうし、得られるものも無い。そういう風に見られてるって事かな? まあ、それも今まで出会ったモンスター達に通用しても、この先もそうとは限らないよね)


 爪や牙で攻撃出来無いならそれ以外で行えば良い。一番良いのは『道具』である。使い捨て出来るのだから溶けても問題無い。

 次に、『魔法』である。忘れそうになるが、ここは『魔法』のある世界である。自分でリクエストしたのだから間違い無い。


(となると。ボクは人間か、それに準ずる二足歩行の生き物に遭遇しない様にする事……この森に生まれたのって、実は運が良い?)


 この1週間、人や亜人だけで無くファンタジー世界の定番モンスターとも言える、ゴブリンやオーク等の二足歩行のモンスターに一度も出会っていないのだから、襲われる心配が無い。


(結論。ボクはこのままこの森の中で過ごすのが安全。少なくとも、この近くにはボクを襲うモノはいないからね)


 代わりに、人に会う事も無いだろうが、彼はスライムに生まれた時点で、それは半分諦めている。


(仕方ないよね。それじゃ、今日は何処へ行こうかな?)


 切り株ハウスを離れて、途中で適当に草や花等を消化吸収しながら、思いついた方向へ彼は移動する。そして彼は予想外の物を見つける。


(あれって……間違い無い! 急がないと!)


 ソレを目にした彼は、自分が出せる最高スピードで向かう。そして、運良く他の生き物が居なかったおかげでソレを手に入れる事が出来た。


(やった! 初めて手に入れた! この果実!)


 初日に見つけてから今日までずっと目をつけていた赤い果実。スライムな自分では決して手が届かない所に実っているそれを、ようやく手に入れた彼は、早速身体に取り込んで消化する。


(うん。やっぱり、草花よりも栄養が有るね)


 この身体に味覚が無いのを残念に思いながらも、彼は果実を消化吸収していく。スライムの消化力では一気に溶かせず、ゆっくりとしたものだが、身体に溶け込む栄養はそこら辺の草花よりもはるかに多い。

――ちなみに、彼はこの世界に生まれてから『生物』を食べたことは一度も無い。動きが遅いのもあるが、元『人間』(ゆえ)に生きたまま溶かすなんて事に忌避感を持ってしまうのである。まあ、死骸を食べるのは最終手段としては有りと思っているが……そもそも、ここは森の中。他に食べる物は有るのだし。質より量。栄養の少ない雑草等でも多く食べれば良いのである。


(今日は良い事が起こりそうだね♪)




――――スライム散策中――――


(~~♪、~♪、~~~♪――ん? 何の音?)


 いつもどうりに心の中で鼻歌を歌いながら、森を散策していると何かの音が聞こえてきた。また、黒犬や森ネズミかと思っていると、どうもおかしい。音というよりも――


(――これって、人の声?)


 この世界に生まれて初めて聞く人の声である。しかし、彼にとっては良い事とは思えない。先程、人間等とは関わらずに生きていこうと決めたばかりであるし、何より声が聞こえる場所は、彼がこの一週間何度も通っている場所なので切り株ハウスから近いのである。

 見つかればヤバイ事は解っているが、何の目的で来たのかぐらいは知っておかないと、このままこの森に住み続けるのも危うくなるので、彼は慎重に移動を開始する。


(この向こうに居るみたいだね。ここからは慎重に行かないと)


 茂みに隠れながらゆっくり進むと、少し開けた場所で一人の人間が動き回っていた。

 茶色の髪の男。まだ幼さが残る顔に小柄な体格、十代半ばぐらいの年齢に見えて、『少年』でも通用しそうである。長袖のシャツとズボンの上から簡素な革鎧を身に着けて、腰にショートソードと木の盾を下げている。一言で言えば『冒険者』となるのだろうか、そんな少年はさっきから両手をアッチコッチに伸ばしている。


(んん? 何をしてるんだろ? って、あー、アレを捕まえようとしてるんだ。難しいよ?)


 少年が捕まえようとしているモノ。それは彼も森を散策している時にまれに見かける半透明の蝶である。その蝶を必死に捕まえようとしているが、全然ダメである。それもその筈、前に見た時に良く観察したのだが、この蝶は生き物が近付くと半透明から透明に変わるのだから。

 少年はさっきから追いかけては、透明に変わった蝶を見失い、当てずっぽうに手を伸ばしてる間に、距離を取って半透明に戻った蝶に気付いて、また追いかけるを繰り返している。


「ああもう! ウザってぇなあ! コイツ!」


……ついにキレたのか、意地でも捕まえたるわ、と言わんばかりに少年の動きが速くなる。それは良いが――


(あっ)

「がっ!」


――足元を気にしていなかったので、地面に出ていた木の根に躓き、両手を伸ばしていたので受身を取れず、見事な五体投地を見せた。


(うわ~、イタそ~~)


 彼の心配を他所に、少年はゆらりと起き上がる……なんか背中に黒いオーラが見える。


「……上等だコラァ!! 捕まえるなんてメンドクセェ事はしねぇ!! ブッ殺して持って帰りゃいいんだろ!!」


 叫びながら腰のショートソードを引き抜いてブンブン振り回す…蝶はもうどっかに行ってしまって影も形も無いのに……そんな事気にせずそこらの草木に八つ当たりする。


(……無意味な自然破壊は止めてほしいんだけど……)


 すでに一週間過ごしているのでこの森に愛着もわく。少年の蛮行に怒りを覚えながらも、スライムな自分では下手なことは出来ずに歯がゆい思いをしていると、離れた場所から何かが出てくる。


(――?! 何もこんなタイミングで!)

「あぁ?! 丁度良い、テメエで憂さ晴らしだ!!」


 草むらから出て来たのはこの森で良く見るイモ虫だった。それに気付いた少年はゆっくりと近づいて行く。それに気付いたイモ虫も丸まって何時でも飛べるよう身構えるが、少年は躊躇無く歩みを進める。

――そして、ある距離まで近づいた所で、イモ虫が回転して少年に向けて飛ぶ。少年はサイドステップで避けて――


「そんな見え見えな攻撃当た――ぐぼえあっ!!」


――飛んでった先の木に当たり、跳ね返って来たイモ虫に背中を直撃され、またもや見事な五体投地を見せた。


(イモ虫君……グッジョブ!!)


 それを見て、心の中で親指を上げる彼であった。




――――スライム隠密中――――


 あの後、イモ虫はさっさと逃げ、少年はフラフラしながら何処かへ歩いて行った。体当たりの影響で革鎧が結構ボロボロになっていたが、悪態をつく元気が有るなら大丈夫だろう。

 そして、彼はまだその場に留まっていた。少年の後について行けば、村や町に辿り着く事も考えたが、行っても意味が無いのと、移動スピードの差から諦めた。

 だが、留まった一番の理由は少年が落としていった袋であった。腰の後ろに着けていたのだが、落としたことに気づかずに行ってしまったのである。しばし待って少年が引き返して来ないのを確認して、彼は袋へ向かう。袋を開ける等、器用な事はこの身体では出来無いので袋を溶かして中身を出す。


(……草……だよね?)


 出て来たのはこの森で良く見る黄緑色の草である。土が付いてるので掘り出して間もないのだろう。それが袋いっぱいに押し込むように入っていた。試しに一つ取り込んで消化すると、他の草よりも遥かに多い栄養が身体に溶け込む。


(わざわざ集めてるし、栄養が多い……これって、薬草?)


 少なくとも毒草じゃ無いな~と思いながら、彼は残りも全部消化する。これからは見つけたら積極的に食べてみようと考えながらその場を後にして、再び茂みに入ると物音が近付いてくる。


(ん? あれ? 戻って来たんだ)


 さっきの少年が草むらを掻き分けて再び現れる、まだダメージが残っているのか、若干フラついたまま辺りを見回す。


「クソッ! どこいった?! ここで落としたはずなんだが……」


 そうして、四つん這いになって探し始める。探し物は間違いなくさっきの袋であろうが――


(――ごめんね。もう食べちゃった)


 心の中で謝罪しながら去ろうとして、ふと気付く。離れた場所にいつの間にか角ウサギが居た。ちょうど真後ろの為、少年は気付ずに四つん這いのまま探し続ける。角ウサギはそんな少年に向けて、いつもの前傾姿勢をとる――そう、四つん這いのまま後ろを向いている少年に向けて。


(………………)


 この後の惨劇を予想して、彼は速やかにその場を離れる。そして、数秒後――


「ぴゃみょおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

(……合掌)


――背後から聞こえる叫びに、心の中で小さく呟く彼であった。




――――スライム帰還中――――


 あれから、彼は森の中を適当に回って、暗くなる前に切り株ハウスへと戻ってきた……少年がどうなったかは、怖くて見に行けなかった。


(とりあえず、この場所にも人はやって来る事と、あの草は栄養が多いから、他の草よりもそっちを食べた方が良い事がわかったね。あとは、どのくらいの頻度で人がやって来るかを調べないと………)


 今日の散策は、得たものは多いと思いながら、彼は切り株ハウスの中に入る。


(それじゃ、前世の皆。ボクは頑張ってるからそっちも頑張ってね。オヤスミ~~)


 元の世界の『家族』達を心に思いながら、彼は眠りにつく。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑


――――イモ虫(リーフワーム)――――


全長40センチ程の両手で抱えられる大きさのイモ虫。全身緑色。落ち葉を主食として、その糞は植物にとって良い肥料となるため、益獣(えきじゅう)扱いされている。

敵が近づくと丸まり回転して飛んで/逃げていく。ただ、飛ぶ方向まで考えていないので、飛んでった先で何かにぶつかり、弱っている事が森の中では良く有る。

5センチ程のトゲが背中に、頭から尻尾に二列で均等に並んでいる。これは攻撃の為でなく、スパイクタイヤの様に上手く回転する為のものである。


――――角ウサギ(パイルラビット)――――


全長40センチ程の茶色い毛並みのウサギで、額に長さ20センチ程の角が生えている。

基本的には他のモンスターが近づくと逃げるが、逃げられそうにないと額の角を発射して、その隙に逃げる。

角自体はすぐに生えてくるが、元の大きさになるには7~8日かかる。


――――半透明の蝶(ブリンクバタフライ)――――


普段は半透明だが、生き物が一定の距離に近づくと透明に変わる。

その美しさから多くの人が観賞用に望むが、森の奥地等が生息地で見つける事が難しく、また捕まえる事も非常に難しい。

捕まえようとして、足を滑らせたり何かにぶつかったりと自滅する冒険者が後を絶たなかったりする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ