ドワーフの街である!でもそれはない
モ、モンハンが……バタッ
(お~~~~!!)
「どうだ。これが俺達の街だ」
隣りでグレッコがドヤ顔で言うのを横目に、シノブはその光景に感嘆の声を内心で挙げていた。
土砂撤去作業が終わり、坑道から出て来たシノブの目――核――に映ったのは、さながら映画の中のような光景だった。
そこは巨大な窪みの中であった。すり鉢状に段々と下へ掘り進められた巨大な穴。その壁面は段々畑の様に一定の高さ事に段差が作られ、それぞれ段差にはドワーフ達の家である石造りの住居、各々の鍛冶場、そして今自分が出て来たのと同じ坑道の入口が複数存在している。
唯一例外なのは、一番下の底の所だろう。そこだけは何も存在せず、広~い広場となっている。
(う~~ん。ホント、ドワーフ達の街って感じだね)
あちらこちらの鍛冶場から上がる湯気。鳴り響くトンカチの音と、砥石で削り・研ぐ音。
ある坑道からは鉱石を満載したトロッコがドワーフ達と共に出て来て、別の坑道ではツルハシ片手に入って行くドワーフ達の後ろ姿が見える。
……そして、所々から聞こえる喧騒……と言うか怒号・罵声、そして喧嘩の騒動とはやし立てる周囲の歓声。
“あれ、だいじょうぶなの?”
「あ~。気にすんな。俺達にとっちゃ日常茶飯事だ」
(……なら、良いけど)
ドワーフにそう言われては、返す言葉も無い。気にしない事にして、グレッコに連れられて案内される。
「危ねぇから、あんま近づくなよ」
(圧巻の一言だね)
やって来たのは一番手近に在った鍛冶場であった。
――遠くから見るのと、実際に近くで見るのとでは迫力が段違い。それがシノブの率直な答えであった。
職人達が一心不乱に、鬼気迫るとも言えるが如き表情を浮かべ作業をし続けるその姿。中途半端に立ち入る事は出来無い『巧』の世界。ハッキリ言って、自分は場違いにも程がある。
良く見ると、男だけで無く女性の姿も見える。なんら男に劣らぬ手際と力で作業をしている。
(……逞しいね)
このままここに居ても邪魔になるだけだろうと思い、グレッコと共に離れるシノブ。
そんな中、シノブは気になった事を聞いてみる。
“ちょっといい?”
「あっ? 何だ?」
“あそこでつくってるのって、このまちのものだけじゃなく、ほかのむらのものとかもあるよね?”
「そうだ」
“つくったものってどうやってはこんでるの?”
何せここは山の上の街。作った道具類等を他の種族の村に輸送するとなると、とても大変な筈なのだが……
「ああ。麓まで直通のトンネルが有るからな。それで一発だ」
(……そんなの有るなら、先に教えて欲しかったよ……)
ここまでの苦労は何だったんだ、と思わずにはいられないシノブであった。
しかし、そんなシノブの内心を察してか、グレッコが続ける。
「言っとくが、そのトンネルを知ってるのは俺達ドワーフだけだぜ。逆に辿れば、直接この街に攻め込む事も出来るんだからな」
“なっとく”
「まあ、いざと言う時は簡単な手順で完全封鎖出来るしな」
用意周到な事である……イヤ、当然の備えと言うべきか。
「とは言っても、ンな事ぁ起こらない様にトンネルはしっかりと隠して――何だ?」
(ん~~?)
ふと見ると、前方の方が騒がしい。何人かの声……と言うか怒号みたいなのも聞こえるが……どうにもこうにも、聞こえてくる声の感じが幼いものばかりなのは……
シノブ達が不審に思っていると、その騒ぎの方から何か小さなモノがやって来て、シノブの上に乗っかる。
(……何……? ネズミ?)
「あっ? コイツは!――って?! ヤベェ!!」
自分の上に乗っかっている、15センチ程の黒いネズミに興味が向くシノブと、そのネズミに険しい表情を見せたかと思うと、その場を離れるグレッコ。
そんな両名の前に現れたのは――
「かまえ~~!!」
「「「「「お~~!!」」」」」
――大勢のドワーフの子供達であった。
一人が掛けた号令の元、他の皆が持っていた武器を構える。Yの字の形状を持ったその武器――『パチンコ』を。
狙いは明らかにこのネズミであろう。だがしかし、そのネズミが今居るのは………
(――って?! ちょっと待って?!)
「うて~~!!」
「「「「「お~~!!」」」」」
……シノブの心の叫びも虚しく。放たれた弾は、一発も本来の標的に当たる事無く、その代わりにと言わんばかりに……全弾シノブに命中していた。捉え方によっては、見事な腕と言えなくも無い。
「にげたぞ。おえ~~!!」
「「「「「お~~!!」」」」」
そして、子供達は逃げた黒いネズミを追いかけて行く。
……嵐が去った後。そこに残されたのは全身を弾――白いナニかで彩られたシノブだった。
(……とり餅だね。コレ)
ネバ~と身体に張り付いている白いモノを見て、シノブは何か遣る瀬無いモノを感じる。
「……大丈夫か?」
“そうみえる?”
「いやまあ。オマエ、スライムだし……大丈夫そうに見えるぞ」
(その通りだよ。Damm it!)
フン、とばかりに溶解液を身体中から出してとり餅を溶かすシノブ。瞬時にとり餅を溶かす様を見て、グレッコは感心した様に言う。
「話しには聞いてたが、凄いなオマエ。ただのスライムよか溶かすの強いのな」
“だてにぎんいろじゃないよ。ところでさっきのねずみはなんなの?”
「ああ。クランチラットだ。放っとくと、そこら中の物を齧りやがるんで、見つけたらすぐ捕まえないとヤベェんだ」
“なんでこどもたちが?”
「そりゃぁ、アイツ等はまだ鍛冶場に入るのは早ぇからだ。だからまだまだ雑用なんだよ」
(納得)
まあ確かに、あんな子供が鍛冶場で何か作ってたら目を疑うだろう。それを考えるならば、さっきの様な仕事は子供向けと言える。
“ねずみとりはだめなの?”
「あっ? なんだそりゃ?」
“こういうの”
伸ばした身体を使って、地面に大まかな図を描く。パッチン式と籠閉じ込め式の二種類を。
「――こいつは良いな! 良し! 早速――」
(あっ?! ちょっと?!)
説明を聞くなり走り出すグレッコ。あまりの素早さに置いていかれるシノブ。
ヤレヤレと内心で溜め息を吐いていると、何かが自分の上に乗っかる。
(ん?――って?! まさか?!)
「うて~~!!」
「「「「「お~~!!」」」」」
上に乗ったモノ――クランチラットに気付いた瞬間。掛け声と共に再び、とり餅弾が飛来し……そして、再び全弾シノブに命中した。
逃げるクランチラットと追いかける子供達……後に残される、全身とり餅だらけのシノブ。
(…………)
「よお。すまねぇな――って?! うおっ?!」
戻って来たグレッコがシノブの惨状を見て、思わず声を上げる。
そんなグレッコにシノブは尋ねる。
“きれていい?”
「……ガキ共がやった事だ。大目に見てやってくれ」
“つぎはないよ”
「……すまねぇ」
頭を下げてから歩き出すグレッコ。シノブも後に続く。
“どこにいくの?”
「オレの家だ。オマエを泊める場所が必要だろ?」
“いいの?”
「女房とガキが一人居るが大丈夫だ。元々、オマエを泊める事なんかこの街の皆、気にしてなかったからな。だったらオレの家で良いだろ」
“おせわになります”
「気にすんな」
ダベリながら歩く事数分。グレッコが前方に立ち並ぶ石造りの家の一件を指差す。
「アレがオレの家だ」
(お邪魔しま~す)
と、両者がグレッコの家に入ろうとした直前。後方から聞こえてきた音に振り返る。
そこには――
「――げっ?!」
(――またぁ?!)
――逃げるクランチラットと追いかける子供達。不本意ながら何度も見た光景。
「まっ! 待てっ!! オマエら!!――」
(……二度あることは……フゥ)
思わず叫び声を上げるグレッコと、達観……と言うか諦観しているシノブ。そして……
「うて~~!!」
「「「「「お~~!!」」」」」
……掛け声と共に放たれるとり餅弾。そして全弾命中するシノブ……とグレッコ。
子供達が去った後、シノブは尋ねる。
“きれていい?”
「……オレが許す。ヤレ」
“かんしゃ”
……その後。ドワーフの街に子供達の悲鳴が木霊した。
(超低空膝カックンアタック!!)
「あうっ?!」
(スライムボディ~プレス!!)
「のわ~~!!」
(キャッチ・アンド・スライムスピン!!)
「うわわわわーーーーっ?!」
(スライム腕拉ぎ逆十字~~!!)
「ギブッ! ギブッ! ギブッ!――――だれか~! ほんとにこいつ、ことばつうじてんのっ!!」
(スライム電気あんま!!)
「あうううううっ!!」
(むぁてぇーー!!)
「「「「「ごめんなさ~~いっ!!」」」」」
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑。
――――クランチラット――――
山に住み着く、体長15センチ程の黒い毛のネズミ。
とにかく歯が硬い上に伸びるのも早いので、木や石よりも鉱石や金属を齧るのが好きなモンスター。
ドワーフの街では、コイツの所為で出来上がった品が、某猫型ロボットの耳のようにされる被害が多いので、『見つけたら即駆除』と嫌われている。
…その歯は金属も削れるので、実は良い素材になったりする。




