山歩きである!……やっぱ普通じゃ無い
皆~。一狩りいってる~?
(何とかたどり着けた……もうこんなのコリゴリだよ……)
やっとの事、絶壁を登り終えて一息吐くシノブ。
絶壁の所々に足場を作り、落ちない様にと神経を尖らせながら登って来たので、精神的疲労が大きい。
……しかし、まだ問題は残っている。
(……所で、ここどこ? どっちに行ったら、ドワーフ達の街へたどり着けるの?)
……そう、誘拐された上に、空の旅で運ばれて来た為、自分の居場所・目的地の方角・距離・その他諸々が一切わからなくなってしまったのである。
自分が攫われた場所まで戻れればどうにか出来るのだが、現状それもままならない。
(山道に沿って行けば良いんだけど、それ自体見当たらないし……取り敢えず、ドワーフ達の街は山脈の西側にある筈だから、そっちに向かってみよ)
太陽の位置から大まかに方角を判断したシノブは、他に宛も無いので西へと進んで行く。
ちなみに、身体の色は『緑』から『銀』に戻している。また攫われたら堪らないので。
――――スライム移動中――――
(う~~ん。長閑なのは良いけど、一向にそれらしいモノは見当たらない……)
未だ所々に雪が残り大小様々な岩が転がっている山肌と、芽吹いたばかりの山の花々。それに集まる蝶々といった、実にほのぼのとした景色を見ながらシノブは進む。
既に1時間は進んでいるが、景色に大きな変化は見当たらない……ぶっちゃけ、気分はハイキング。
段差の激しい凸凹とした道程だが、疲労を感じない粘液状生物にとって段差など何の障害にもなりはしない。
(このままだと、どっかで一夜を明かす事になりそうだよ)
正直、目的地への距離どころか方向まで曖昧なのだから、最悪その可能性も考えておく必要が有る。
……その場合、どこで一夜を明かすかが重要になるが……
(普通のスライムだった頃の、切り株ハウスみたいなモノでも造ろうかな~)
……最も、ここには切り株何て物無いが……
(まあ、まだ日は高いから大丈夫だけど……おや?)
のんびりと進む中、シノブの視界の端でちょっと変わったモノを見つける。
(……何コレ? 植物?)
見つけたのは何と言うか、大きな『球体』だった。深い緑色のモジャモジャとした1メートル大の球体。それが岩と並んでドデンと鎮座している。
……ハッキリ言って、違和感バリバリである。
(何でこんなとこにあるのかな?……と言うか、コレ何なんだろ…………毬藻?)
一番近いモノを思い浮かべればソレになる……最も、大きさも生息地も全然違うが。
(……取り敢えず、調べて――あっ)
伸ばした身体でソレに触れた途端――ソレが動き出した。イヤ、転がりだした。
シノブからは影になって見えていなかったのだが、ソレの後ろ側は下り坂になっていた様で、自然の摂理に沿ってソレはどんどんスピードを上げて転がって行く。
(――ああああっ!)
……しかも、所々で岩にぶつかり、宛らピンボールの如く不規則に転がって行った……ぶつかる度に何かを撒き散らしながら……
(…………ボク。知~らない)
――――スライム再移動中――――
(行けども行けども、目的地は見えず……ん?)
マイペースに進むシノブは、何か動くモノを視界に捉える。
岩の上を、飛び石代わりにピョンピョン飛び跳ねて、動くモノが居たであろう場所近くの岩の上に乗って辺りを見回す。
……しかし、生き物らしき姿は見当たらない。
(アレ? 気の所為だった――って?! うわっ?!)
内心、首を傾げようとした瞬間。シノブが乗っていた岩が動いた……と言うか、持ち上がった。
下を見てみると、岩と地面の隙間から大きなハサミが出ている。
(……もしかして)
用心の為、離れた所へ飛び降りてから自分が乗っていた岩を振り返る。
持ち上がった岩と地面との隙間から僅かに見えるソレは――
(……やっぱり、蟹だよ。山の上なのに、珍しいね)
――体長50センチ程の大きな蟹であった。
背中の甲羅どころか、身体全体を覆う程の大きさの岩を背負ったその蟹が、隙間からコチラをジッと見ている。
(その岩、擬態のつもり? じゃあ、さっき動いたのもキミ?)
双方の視線が絡む中、蟹の方が身体を沈めて再び身を隠す。
……どうやら、エサ認定されなかったようである。そりゃ、スライムだし……
(……こんなのが他にも居るのかな?)
長閑な光景且つ雰囲気に忘れていたが、この山のモンスターは凶暴なものが多い。
そう聞いていた事を思い出すシノブ。下手すれば、今の蟹に気づかないままに襲われていたかもしれないのだから。
(村での生活が長かった所為かな? この世界に転生した当初の、危機感が薄れてるよね)
それも仕方無いのかもしれない。外敵が居らず心優しい者ばかりで(バカを除く)穏やかに当たり前の生活が送れるなど、一体何時以来ぶりなのか……
しかし、今は村の中では無い。野生の中なのだ。ドワーフ達の街にたどり着くまでは、決して気を抜かずに行こうと、気を引き締めるシノブであった。
(良しっ! 行こう!)
気合いを入れて進み出すシノブ。そして――
(ありゃ?)
――すこし離れた所からこちらを見ているウサギと目が合った。
ウサギを見ると、最初の森で遭った角ウサギを思い出す。しかし、今目が合っているウサギはソレとは違う個体である。
体長は30センチ程と、角ウサギよりもやや小さく当然角も無い。白い毛並みの可愛らしいウサギ。
(あっ。な~んだ。こんなモンスターも居るんだ)
凶暴なモンスターが多いと言うが、例外も居るのだと安心してシノブが近づいた瞬間――
(――えっ?)
――ウサギが消えた。キレイサッパリ。跡形も無く。
(えっ? ええっ?! 何っ?! こっち?! イヤ、こっち?!)
ウサギが消えた事に驚く間も無く、周囲で響き続ける音にシノブが視線をアッチコッチに彷徨わせる。
そうして、漸く視界に捉えたのは――先程のウサギであった。ウサギが飛び跳ねているだけであった。
……ただし、そのスピードが尋常じゃ無い。速い、イヤ素速いと言うべきか……ピョンピョンでは無くビュンビュンと音を立てる程に。
辺りの地面や岩を蹴りながら縦横無尽に飛び回るウサギに、シノブは視界内に収め続けるので精一杯である。
(この世界にはマトモなウサギは居ないのっ?!)
シノブがウサギの速さに驚き、且つ愚痴っている最中、一際大きく地面を蹴る音と共にウサギの姿が再び消える。
(どこ?!――――上っ?!)
見上げた先には、どっかのベルトの風力で変身するヒーローばりのキックを極めようとするウサギの姿があった。
逃げる間も与えずに飛来したウサギは、見事にその飛び蹴りを命中させ――
(――効か~~~~んっ!!)
――どこぞの麦わら帽子を被った海賊ばりに、その身体の弾力で持って受け止め且つ跳ね返されていた。
(全く……こっちは争う気なんて無いのに――――あれっ?)
再びお互いに睨み合う事数秒。突如、ウサギが背を見せて逃げて行った。全力で。
思わずポカンとしていると物音がする。そしらを見ると、先程の蟹が隙間から出て来てやはり逃げて行く所だった。
(……まさか)
思わず空を見上げる――しかし、そこには青空が広がっているだけ。怪しいモノは影も形も無い。
……自分を攫ったあの鳥は居ない。
(違った……じゃあ何だろ? 他の何か凶暴なモンスターでも近づいているのかな?)
ならば一刻も早くこの場を立ち去ろうとした瞬間――地面が揺れた。
(~~っ?! 地震?!)
この世界での初めての地震。しかも、かなり大きい。普通の人ならば立っていられない程の大きい地震に、シノブも身動きが取れず――
(――ちょっ?!)
――地面を走る亀裂が、自分の身体の下に及ぶのから逃げる事が出来ず――
(――まっ?!)
――その亀裂――地割れに、周囲の土砂諸共落ちていった。
(コレは想定の範囲外だよーーーーっ!!!!)
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑and植物図鑑。
――――緑の丸い物体(シードパウダー)――――
緑色の巨大な球形の植物。大きさは手のひらサイズから、最大で人間大にまでなる。
一定期間、若しくは衝撃を受けると多量の細かい種子を撒き散らす。種子は風に乗って遠くまで散らばり、新たなシードパウダーになる。
種子は目に入ったり、吸い込んだりしたら体内で芽吹く事も有るので気を付けましょう。
実は、地道に動いてたりする。ゆっくり過ぎて気づく事が難しいが。
…作中でシノブがやった事は、広範囲に種子を撒き散らせたので、コイツラ的には『グッジョブ!』だったりする。
――――岩をかぶる蟹(ヘルムクラブ)――――
体長50センチ程の大きな蟹。
地面に穴を掘り、背中には岩を乗せる事で姿を隠し、獲物が近づくのを待つ。
ハサミの力は強く捕まると逃げられないが、足の力も強い為、勢い良く伸ばす事で背中に乗せた岩を放り上げる様に飛ばす事も出来る。
肉はちと堅めだが、煮ると良いダシが出る。
――――俊敏なウサギ(ホップラビット)――――
体長30センチ程の白い毛並みのウサギ。
とても脚力が強く、一飛びで軽く3~4メートルは跳べる。
以外に好戦的で、迂闊に近づくとジャンプキックを食らう。普通の人が食らうと骨にヒビが入る程の衝撃。良い角度でもらうと首の骨が折れます。ご注意を。
…一日一回、何かを蹴らないと落ち着かない性質。シノブが襲われた理由は『初めて見た生き物なので蹴ってみたかった』。ただそれだけ。




