とある場所へ向けて旅立ちである!……何で、こう予定通りに行かない?
もうすぐモンハンの最新作が出る。
……執筆速度。保てるか自信が無い。
ちなみに、自分は双剣オンリー。
(……どうしよう)
天気は快晴。太陽を遮る雲は一つも無い、文句の付け所も無い見事な小春日和。
そんな天気の下、シノブは何をしているかと言うと………
(地上があんなに遠い……)
……絶賛、空中旅行中だったりする。
(な~んで、こうなるかな~……)
ボヤいても、現状身動きの取れないシノブは、取り敢えず今までの経緯を思い出す事にした。
――――スライム回想中――――
春の日差しに新緑が美しく映える一日。そんな朝、とある家の屋根の上で蠢く物体――それは……
(1~2~3~4♪ 2~2~3~4♪)
……日課の体操をしているスライムな彼――シノブである……ここんとこ、この描写をしてなかったけど、彼は着実に皆勤賞を重ねている。
(よしっ! 今日も元気にスライムライフ、いってみよう~!)
――――スライムライフ中――――
「いきなりじゃが。暫くの間、村を離れてくれんか? シノブ」
“いきなりすぎない?”
午前中のアレコレ――治癒液の提供・子供達の遊び相手・スライムの変化に対する検証――を終えた後の昼食の席でアムリナからの突然の申し出に、シノブが内心で困惑しながら答える。
“なにがあったの?”
「あったと言うか……これからありそうと言うべきか……」
“なにが?”
「事の発端はお主じゃよ……例の、人間達の王都で起こした騒動じゃよ」
(あ~。アレね)
攫われたユユを助けに行った時に、その奴隷売買の組織をブッ潰した事だろう。と言うかそれ以外無い。
……ちなみに、シノブ自身はその一件、とっくに過去の事として忘れていた。今、アムリナから言われても、そんな事あったな~、ぐらいにしか感じていない……薄情? 悪人相手に何言ってんの?
「あの一件で裏で暗躍しておった者の事を探しておったのだが、ここ最近それが活発になったらしい。村を訪れる人間達が増えたそうじゃ。特に、何故か教会の連中が力を入れてるようじゃ。そう、獣人達から連絡があった」
“ぼくのことばれたの?”
「いや、それは無い……が、そもそも獣人達は肉体行動派じゃからの、隠し事に向いておらんのじゃ。トゥーガやラダならともかく、他の者達は態度や言葉の節々から何かを隠してる事が感付かれたらしい。それで、疑惑の目がエルフの方に向くのも時間の問題らしい」
“だいじょうぶなの?”
「向こうも馬鹿では無い。こちらが何を隠しているかもわかっていない状況で、手荒な真似はしないじゃろ。それに……儂らに喧嘩を売ってタダで済ませる訳無いじゃろう?」
と、アムリナが凄みのある笑みを浮かべる。
(あっ……大丈夫だね)
その笑みを見て、シノブは確信する。この人、敵に回したらダメだと。
「それで、念には念を入れてお主には暫くの間村を離れて、ある場所に行って欲しいんじゃ」
“どこ?”
「北西の山に住まう『ドワーフ』達の所じゃ」
(ドワーフ?! 居たんだ、この世界!)
エルフ・獣人に並ぶファンタジー世界の定番種族と会える事に心が沸き立つシノブ。
しかし、問題が有る。有るのだが……
“いちおうきくけど、ぼくがいってもだいじょうぶ?”
「大丈夫じゃ。むこうも、お主の事は知っておるからの」
(……やっぱり。獣人達の時と同じだよ)
あの時も、以前からの連絡のやり取りでシノブの事を知らせていた。ならば、今回も同じ事をしていたのだろう。
「ちと頑固……と言うか職人気質な連中じゃが、気の良い連中じゃよ……酒さえ与えておけばのぅ」
(……後半は聞かなかった事にしよう)
中々に空気が読めるスライムであった。
“じゃあもうひとつのほうは?”
「安心せい。既に説得済みじゃ。エルも納得しておる」
(ホント、準備良いねっ!)
前回、獣人達の村へ行く時も説得は大変だった。しかし、既に説得して尚且つ納得もさせているとは……それだけ状況が切羽詰まってると言う事だろうか?
「と言う訳で、この後の残りの時間は全てエルと過ごしてくれ」
“せっとくしたんじゃなかったの?!”
「まあ、何じゃ?……ソレはソレ。コレはコレと言うヤツじゃ」
(……結局そうなるのね。まあ、エルが成長している事は嬉しいけど……以前は泣いて駄々をこねたのに、エライ違いだよ)
* * *
一夜明けて、エルフの村の外にて。
皆が見送る中、シノブはドワーフの住む北西の山へと向けて旅立とうとしていた。
“じゅんびはばんたん。いってきます!”
「「「「「ちょっと待て」」」」」
いざ行かん!……と思った所でアムリナを筆頭に見送りに来ていた皆に止められる。
何事かとシノブは動きを止めて聞く。
“なに? どうかした?”
「どうかしとるのはお主じゃ……何なんじゃ? その姿は?」
「「「「「ああ」」」」」
皆のツッコミに、そんなに変かな? と自分を省みるシノブ。
体内に取り込む形で所持している幾つかの魔属石。身体に乗せた、磨り潰したドンバの実を包んだ一口サイズの小袋。
……そして、身体中に突き刺してあるクウィルテイルの尻尾のトゲ。傍から見ると……何が何だかわからない!
“やまにはきょうぼうなもんすたーがいるからようじんのために”
「人の知能を持っておる上に、王都で一騒動起こす様なヤツに必要か?」
「その気になれば、金属でさえ簡単に溶かせる溶解液を、半永久的に生み出せるキミに必要かい?」
「光魔術で幻影・目眩ましどころか、姿も消せるアナタに必要かしら?」
「……しのぶは、つよい」
アムリナ・セムイル・カレリナ・エルの一家勢揃いの言葉に、シノブが押される。物理的にでは無く精神的に。
「「「「…………」」」」
“わかったよ”
無言の圧力に負け、魔属石以外の装備品を外すシノブ。更に魔術で、他のモンスターに襲われない様に銀から緑へと変装する。
そして、ちゃっかりとシノブの装備品を回収する皆の衆。
(それ、ボクのだけど……)
……気の所為か、回収では無く没収になってる気がする。集めるのに苦労したんだぞ! と内心で愚痴るシノブであった。
(と言うか、皆ボクがスライムだって事忘れてない?)
アレコレ色々出来ても、根本的にはスライムである以上、警戒するに越した事は無い。
なのに、な~んか皆の中の自分は過大評価されてる気がするシノブであった。
“じゃあ。きをとりなおして。いってきます”
「うむ。取り敢えずはあの山に向かうのじゃ。後は山道に沿って行けば良い。気をつけるんじゃぞ?」
「「「「「いってらっしゃい」」」」」
「……いって、らっしゃい」
皆の声を受けて、シノブは目的地へ向けて走り出す。やはり、あっと言う間にその姿が小さくなっていく。
――――スライム回想終了――――
(……で、2日経って、山のすぐ手前まで来た所で急に辺りが暗くなったと思ったら……今に至る……と)
回想と言う名の、半ば現実逃避から戻って来たシノブは、良い加減現実を見始める。
(……とは言っても、な~んにも出来無いんだけどね)
現状、自分はナニかの中に居る。隙間から見えるものは、空・雲・遠い地面である。
外から聞こえる羽ばたき音から、自分は巨大な鳥に捕まって、今はその握られた足の中に居るのだと推測できる。
……最も、それがわかっても何も出来無い。下手な事をすれば握られた足が開いて、そのままフリーフォール。
(と言う訳で、今は大人しくしてるしかないか……所で、何の為にボクを捕まえたんだろ?)
この世界にスライムとして生まれた直後からの考察・経験から、餌の為という線は無い。
……となると、今の自分の色である緑――グリーンスライムだから捕まったと考えるのが妥当と言えよう。
(……これからは緑だけで無く、違う色に変装するのも頭に入れておこう…………んん? うわっ?!)
考えている途中で、大きな揺れを感じた次の瞬間。シノブは突然、放り出された。
そのまま、すぐ下にあった地面に着地して、漸く解放されたシノブは辺りを確認する。
(ん~? 何だろ? どっかの崖の中腹にある横穴の中かな? 多分だけど……)
入口の外に僅かに見える空景色から、何となく予想は付く。もっと、外の景色をハッキリと見れば完全にわかるのだろうが、それは出来無い。
何故ならば、入口を塞ぐ形で、自分をここまで連れて来た犯人が陣取っているからである。
――ハッキリ言ってデカい。シノブがこの世界で観て来た中で、一番の大きさを持った巨大な鳥であった。
高さは5メートルに達する、黄土色の羽を持つ鷹に似たモンスター。しかし、最大の特徴はその額にある第三の目。その三つの目で、こちらをジッと見ている。
(あ~、ハイハイ。わかってるから)
視線を反対の、横穴の奥の方に向けるシノブ。この横穴、高さは目の前の巨大な鳥が入れる位大きいが、奥行は精々50メートル程しかないので、行き止まりまで直ぐそこだったりする。
そして、その行き止まりの所に居るのは――案の定、巨大な鳥の雛達だった。最も、雛といっても2メートルぐらいあるが……
正体不明の毛皮を敷布にした上に居る雛達。総勢4匹が、帰って来た親鳥に向けて囀っている。とても元気に。五月蝿い程に。
(……見た感じ、元気なんですけど……ボク、何の為に連れて来られて…………ん?)
良~く見ると、囀っている雛達の影に隠れる様に、もう1匹、雛が居る。しかも、グッタリと毛皮の上で寝そべっている。
(成る程。この子の為か~。チョット失礼……ハイ、纏わり付かない。纏わり付かない。突っつかない! 突っつかない!)
近づいた自分に向けて、あれこれリアクションをしてくる雛達を押し退け……るのは、体格差故に無理なので隙間を縫いながら、寝そべっている雛の下へたどり着く。
近くで見てみると、他の雛よりも少し痩せ細っている事がわかる。取り敢えず、その雛の身体を観察してみて――
(――あれ? 傷一つ無いや。と言う事は……)
――別に異常が無い事が判明した。しかし、コレは逆に厄介とも言える。
彼の治癒液は外傷に対しては高い効果を発揮するが、その反面、内傷に対しては意味をなさない。つまり、自分ではこの雛を治療出来無いのでは……
(う~~ん。せめて原因がわかれば、何かしら出来る事も有るかもしれないんだけど…………あれ?)
問題の雛が、寝そべっている所為で塵を吸い込んでしまい、大きくクシャミをする。
そして、その瞬間にシノブの瞳?があるモノを捉える。
(今のって……チョット失礼~)
暫しの逡巡の後。シノブは、寝そべっている雛の口をこじ開けて強引に口内に入る。その上、伸ばした身体を喉の奥へと突っ込んだ。
「――!!」
された雛の方は堪ったもんじゃない。慌てて起き上がり、首を勢い良く振って口内のシノブを吐き出す。
吐き出されたシノブは、そのまま近くの壁にベチャリと張り付く。唾液塗れになったその身体――未だ伸ばされているその先には、小さな欠片があった。
(……何とか取れたよ。多分、骨か何かだと思うけど……コレが喉に刺さってたんだね)
恐らく、以前に与えられた餌に付いていたコレが喉に刺さっていた所為で、痛くてそれ以降餌を飲み込めなかったのだろう。そう考えれば痩せ細っている事にも説明がつく。
(これで大丈夫だと思うけど――退避っ!)
一息吐く間も無く、元気になった雛に他の雛達と親鳥が群がってくる。
巻き込まれ無い様に、慌ててその場から逃げるシノブ。後一歩遅かったら……考えたくない。
(……これでボクはお役御免だね。お大事に~)
鳥達を尻目に、さっきまで親鳥が居座っていた横穴の入口まで移動して、外を見て――
(――はい?)
――絶句する。
自分の予想は当たっていた。今居るのは、どっかの崖の中腹にある横穴の中だった……正確には『どっかの崖』では無く『断崖絶壁』だったが。
右を見ても左を見ても上を見ても下を見ても、どこを見ようが90°、良くても85°の斜面しか見当たらない。
ここを出ていくには、この斜面を踏破しなければならない。
(…………イヤ、無理でしょ)
スライムなんだからこんな斜面……て言うか壁面、へばり付いて行けば良いだけ。
――そう考えたアンタは甘い! 甘すぎる! 極上のデザートに蜂蜜をブチまけるが如く甘い!!
『出来る』と『実際に行う』は全然違う。下を仰げば遥か彼方に地上が見えるこんな絶壁に挑める訳無い。て言うか無理。そこらの木を登るのとは比べるのも馬鹿馬鹿しい。
仮に行って、何かの拍子に剥落・崩落が起きれば、そのままどうにも出来ずにコードレスバンジージャンプ。
こんな高さから落ちたら、如何に粘液状生物と言えども、助かるわきゃねーだろっ!
(ど~しよ……う~~~~ん……あっ、そうだ)
取り出したるは土属性の魔属石。それを使って、距離的には斜め上方向に数十センチ程の場所に、壁面の一部を隆起させ小さな足場を作る。
(良し。せ~の……ていっ!)
内心での掛け声と共に壁面にへばり付き、可能な限り速いスピードで作った足場へ移動する。
足場が崩れない事を確認したら、再び足場を作り移動する。そんな風にジグザグに壁面を登って行くシノブ。
(心臓に悪いよ……そんなの無いけど)
到達まで後、十数メートル。先は長い。
頑張れシノブ! 負けるなシノブ! 諦めたらそこで(五月蝿いよっ!!)……ゴメンナサイ。
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑。
――――三つ目の巨大な鷲(スカイリッパー)――――
十分に成長すると全高5メートルに及ぶ、黄土色の巨大な鳥型の上位種モンスター。
山岳地帯を住処とし、巣を中心に広大な縄張りを持つが、空腹時、若しくは極端に巣に近づかない限り襲われる事は無い。
三つある目の内、左右の二つは動体視力に、真ん中の目は遠くを視るのに秀でていて、状況に応じて使い分けている。
風属性の魔術を使えるので、羽ばたき攻撃には要注意。威力を増幅されて、あっと言う間に吹き飛ばされます。
…実はこのモンスターの下位種は人間達の間で使役され、航空宅配便代わりになっている。




