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物は試しである!結果が良いなら良くない?

この話で、思いつきネタ話しは終了。

次回からは物語を進める予定です。

(ハイハイ、次はキミ。割り込まないでね。ソコ、ちょっとどいて。押して来ないで。ボクを押しつぶす気?)


 季節は移ろい、新たに芽吹く植物達に冬とは違う暖かな日差しが降り注ぐ春。

 春は(あけぼの)、Yo!Yo!白くなりゆく「チョット待て!!」「……いきなり、何言ってんだ? ヤルバン」「イヤ。何か知んないけどツッこまないといけなかった気がして……」

……気を取り直して、獣人達の村の厩舎の中。多くの家畜達に囲まれながら治療中のシノブがいた。

 彼が何でここに居るか? と言うと再び家畜達の治療…………というのは建前で、ユユを筆頭とした獣人の子供達がまた会いたいと言ってきたので、やって来たのであった。

……代償として、エルと『3日間ずっと一緒コース』になったが……


(ハイ。終~了~)


 (たか)られていた家畜達から、何とか抜け出してそのまま厩舎の外に出る。治療自体は簡単であった。何せ建前上の事だから、かすり傷レベルの傷しかないのですぐ終わる。


(さて……)

「てりゃーーーー!!」


 と、物陰から襲いかかって来るユユ。相変わらずの事に、シノブはその場を動かずにいるので、そのまま命中――


「――えっ?」


――しないで、ユユの攻撃は、そのまますり抜けた。


「えっ? えっ?」


 驚いてるユユの目の前で、シノブの姿が掻き消える。それと同時に、少し離れた所にシノブが現れる。


(残像だ!……な~んてね)


 種を明かせば簡単な事。光魔術で自分の周囲の光を『屈折』させて、自分の居場所を間違えさせたのである。


“ざんねんでした”

「――あっ?! こらーー!! まてーー!!」


 逃げるシノブと追いかけるユユ。The日常である。

 やってる事は以前と変わらないが、目的は変わっている。『倒して皆に認めてもらう』から『倒して自分のモノにする』になっているが……戦績はユユの全敗に終わっている。




――――スライム行動中――――


(ふ~~。やれやれ、一息吐こう)


 逃げ回りつつ、時に反撃してユユ以下多くの子供達の手から逃れ、とある家の屋根の上で落ち着くシノブ。

 エルフよりも獣人の方が身体的能力が高いので、気を抜くと本当に倒されそうになるので侮れない。


(滞在予定は後5日。これは、後になる(ほど)ユユ達の攻撃は苛烈になると見ていいよね――――ん?)


 この先の迎撃プランを考えていると、村を覆う丸太の外壁の門が開いて、狩猟に行っていた面々が帰って来た……が。


(あれっ? ()()()?)


 何時もならば狩ってきた獲物を担いでいる筈が、皆が皆、行った時と変わらない姿で帰って来ている。

 内心で首を傾げていると、帰って来た者の中に見知った顔を見つけたので、近づいて光文字で聞いてみる。


“ちょっといい? らだ”

「む……シノブか。何だ?」

“てぶらだけど、どうしたの?”

「ああ。今回は狩猟に行ったのでは無い。()()()しにいったのだ」

“まびき? なにを?”

「ここから西に向かうと、湿地帯があるのだが……そこに『シャボントード』と言うモンスターが居る。強い訳でも凶暴な訳でも無いのだが、繁殖力が強いのだ。定期的に数を減らしておかないとエライ事になってしまう」

“たおしてきたのに、もちかえってこないの?”

「……使い道が無いのだ。何かの素材になる訳でも無いし、食料にすらならん」

“たべられないの?”

「……前に、狩ったばかりのモノを皆で調理した事があるのだが……とても食えたモノでは無かった。臭みが強い上に、煮ても焼いても、どうしても臭みが抜けなかったのだ」


 その時の事を思い出したのか、ラダの表情が歪む……余程の不味さだったのだろうか。


“それじゃ、しがいはおきっぱなし?”

「うむ。しかし、あそこには死骸を主食とするモンスターが存在するので問題無い」

(へ~~。そうなんだ………………ん?)

「もういいか?」

“うん。ありがとう”

「気にするな」


 そう言って去って行くラダ。礼を言って見送ったシノブは、さっきふと思いついた事を再び考え始める。


(う~~~~ん。どうだろ?……試してみよ)


 思い立ったが吉日。シノブは村を覆う外壁を乗り越え、湿地帯へ向けて爆走する。




――――スライム爆走中――――


(到着~)


 突っ走る事、約30分。シノブは湿地帯へと辿り着いた。

 背の短い草花と苔。そして小規模な池……と言うか沼が乱立する湿地帯を前に、シノブは……一進一退を繰り返していた。


(ぬかるんだ地面の水分を、ボクの体が吸収しちゃうんだけど……長居は出来ないみたいだよ)


 水分であれば何でも吸収してしまうこの身体が、今は少し恨めしい。

 取り敢えず、なるべく草花の上を進むシノブ……草花が押しつぶされていくのは気にしない方向で。


(え~~と…………あっ、居たいた)


視線の先。体長50センチ程の大きなカエルが、沼地の中から1匹、2匹、3匹――


(……ん?)


――4匹、5匹、6匹、7匹、8匹、9匹――


(ちょっと?……ちょっと待って?!)


――10匹、11匹、12匹、13匹、14匹――


(いやいやいやいや!!)


――15、16、17、18、19――


(ちょっ?! ドンダケ~?!)


 驚いている間にも数は増え続け、30を超えたあたりで漸く止まる。一回り・二回り小さい個体も紛れているが、その数は圧巻と言える。


(繁殖力が強いって言ってたけど……これ程とは)


 そんなカエル――シャボントードは一斉に口を大きく開けると、口を覆っていた粘液を風船ガムの様に大きく膨らませた。

 大きく膨らんだソレは、シャボン玉の様にゆっくり宙を漂いながら進んで行く。30を越えるシャボン玉が一斉に漂よう様は、一種の幻想的にも見える……作ったのがカエルだという事を無視すれば。


(……あっ。だから()()()()トード。バブルじゃ無くて)


 どうでも良い事に気づいたシノブを他所に、お互いにぶつかり合って弾けたものも幾つか有るが、シャボン玉は離れた地面に着弾する。


(ん?)


 見ると、着弾した所には小さなトカゲの様な生き物が居るが、破裂したシャボン玉の粘液によって身動きが取れなくなっている。

 シャボントード達は、ピョコピョコと飛び跳ねてトカゲに近づくと、その内で一番小さい個体が、伸ばした舌で粘液ごとトカゲを捕まえてパクッと食べてしまう。

 そしてシャボントード達は、そのままピョコピョコと飛び跳ねて何処かへ行ってしまう。


(…………気を取り直して行こう)




――――スライム捜索中――――


(……で、コレが例の『死骸を主食とするモンスター』?)


 湿地帯を少し奥に入った所でシノブが見つけたのは……一言で言えば、デカいミミズであった。

 長さは4~5メートル程だが、身体の直径は成人男性の足元から胸ぐらいまである。バカデカい口は、その気になれば人でも丸呑み出来そうである。

……最も、今はその身体を横たえて眠っているが。


(まあ、今はコッチは置いといて。え~~と……あっ、あったあった)


目当てのモノを発見したシノブは、ソレを確保すると湿地帯から村への帰路に着く。


(さ~て。実験♪ 実験♪ その為に、準備♪ 準備♪)




   *   *   *


 時は流れて5日後。シノブの滞在期間、最終日。村を覆う外壁の門。その前には――


「は~~な~~せ~~!!」


……首根っこを引っ掴まれているユユと、見送りの獣人達が居た。


「門の近くに落とし穴を掘ろうとしていた奴を放せるか。バカモンが! 投網のほうがまだマシじゃ」


 トゥーガの声に頷く一同。その行動力は買うが、実際にやられては周囲は非常に困る。

――と、シノブがやって来る。ナニかを身体に乗せて。


「「「「「はい?」」」」」


 銀色の楕円形の身体の上に鎮座する、白地に薄ピンク色の物体。ソレを乗せたまま、器用にこちらへとやって来る。


“ど~も~。みおくりありがとう”

「……確認したいんじゃが……お主の持っているソレ……()かの?」

“そうだよ”


 一同揃って、やっぱりと言う顔になる。家畜業なんてやっている以上、肉なんて見慣れた物である。それは一目でわかる。わからないのは……


「何で、お主がそんな物持っておるんじゃ?」


……(まさ)にそこである。大人が両手で抱える大きさの肉を、何の為に持っているのか?

 食事用?――なら、今食えよ!

 お弁当代わり?――そこらの雑草ですら食えるスライムに必要か?

 お土産?――こんな物をワザワザ? 帰る途中で肉目当てのモンスターに襲われるぞ!

 皆の困惑を他所に、シノブはその肉をこちらに放り投げて来た。


“ぷれぜんと”

「はっ? おっと――って! ()()っ!」


 受け取った獣人は、思わずその冷たさに声を上げてしまう。良く見ると、肉の表面に薄らと霜がついている。


“あじみしてみてくれない?”

「味見?……まあ、別に構わんが……コレ、何の肉じゃ?」

“たべてみてのおたのしみ”


 取り敢えず一人が、持っていたナイフで薄く肉を切り取る。全員分行き渡った所で皆が口に入れる。


「……うん? 結構イケるな。これ」

「ああ。ちょっと臭みが有るが、普通に美味い」

「少し凍っているからな。焼いたらもっと美味くなるんじゃね?」

「ああ。それは言えてる」

「…………シノブ」


 皆がいい感じの感想を述べる中。同じく味見していたラダが、めっさ眼光鋭く聞いてくる。


“なに?”

「……この肉……まさかとは思うが……」

“わかった?”

「……やはり、そうなのか? この肉……シャボントードか?」

「「「「「――は? はああああぁぁーーーーっ?!!!!」」」」」


 ラダの言葉に皆が驚愕する。中には口に含んでいた肉を、思いっきり吹き出してる者もいる。


「ちょっ! ちょっと待て! シャボントードって、臭みが強すぎてとても食えたものじゃ無い筈だろっ!」

「……だが、この臭み。弱まっているが、間違い無くシャボントードのものだ」

「……お主、一体何をしたんじゃ?」


 トゥーガの問いに、シノブは簡潔に答える。


“じゅくせい”


――前世の知識で、肉は落としてから数日時間を置いた方が旨みが増す事を知っていたシノブは、『狩ったばかりのモノを皆で調理した』と聞いた時にその事を思い出したのであった。

 で、湿地帯で放置されていたシャボントードの死骸を確保したシノブは、肉以外を溶かし――かなりグロかった――村に帰って来て、なるべく密閉性の高い空き箱を借りて、その中に肉と一緒に、自分の身体の中に収納している水属性の魔属石で作った氷を入れておいたのである。


(読んでて良かった。美味○んぼ! この世界、干し肉ばっかりだったからね~。『凍らせる』じゃ無くて『冷凍させる』やり方無いみたいだね)


 しみじみ思うシノブを他所に、獣人達はシノブから教えてもらった事に対して熱く語り合っている。


「あのシャボントードが、ここまで美味くなるなんて!」

「しかも、もっと時間をおけば更に旨みが増すらしいとは!」

「シャボントードに対する価値観がすっかり変わるぞ!」

「取り敢えず、試しに何匹か狩って来よう!」


 盛り上がっている皆を、一歩下がって見つめるシノブ。顔が無いのでわからないのだが、本人は正直「あの~」な感じである。と言うのも……


(……そこまで盛り上がってくれるのは嬉しいんだけど……正直、そこまで美味しいとは思ってなかったんだよね……精々、少し臭みが抜ける程度だとばかり……だって、ボク味見出来無いし)


……騙されるな獣人達。お前達は単に味見……と言うか毒見させられただけだ。美味かったのは、あくまで結果的にだ。一歩間違えば、とんでもない味がするモノを食べさせられていたのだぞ。

……気づく者は居ない。


“それじゃ、しつれいするね”

「――おおっ! 良い事を教えてくれて、有難い事じゃ! 本当にスマンの!」

「「「「「有難う!!」」」」」

(……いや、ホントゴメンナサイ)


 皆の満面の笑顔に見送られながら、何かいたたまれない気持ちで去るシノブであった。

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑。


――――シャボントード――――


体長50センチ程のカエル。

口から粘液をシャボン玉の様に膨らませて飛ばし、獲物を捕えてから食べる。

雑食で何でも食べる上に、冬眠する冬以外何時でも産卵する為に、繁殖力が非常に高い。

モンスターの中ではザコなのだが、身体を覆う粘液に水質を浄化する作用が有る為、環境の為に完全に根絶やしにする訳にもいかない、非常に困ったモンスター。


――――デカいミミズ(スカベンワーム)――――


長さは4~5メートル程、身体の直径は1メートル半程あるミミズ。

死骸を主食としていて、普段は休眠状態でいる。

嗅覚が非常に発達しているので、かなり遠くでも死骸の存在に気づく。

狩った獲物をコイツに横取りされる冒険者もしばしば。

なお、その際には間違っても攻撃してはならない。コイツの攻撃方法は『腹の中のモノを吐き出す』なので、汚物塗れにされる。大人しくその場を立ち去ろう。

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