発見である!効果は……ヤバくない?
気がつけば30話。
これからもこの小説をよろしくお願いします。
しばらくは『思いついたネタ的小話』が続きます。
…なんか、思いついたら書いておかないと忘れるんですよね。
(ふ~~~~…)
森の中。枝の上で木漏れ日を浴びて日光浴をしているシルバースライム。絶賛リラックス中のシノブである。
獣人達の村から帰ってきて十日経つが……これが初めての一人行動である。
……帰ってきてからのエルの甘えん坊っぷりは半端じゃ無かった。トイレ以外は常に一緒……しかも『視界内に居ないとダメ』では無く『身体のどこかに触れてないとダメ』だったので、本当に四六時中抱きつかれるか、へばり付かれていた。
なお、カレリナ・セムイル・アムリナの三人は、そんなシノブとエルを微笑ましく見守っている。見守っているだけである。下手に手を出したらエルが怒る。
しかも、外に出れば他の子供達も加わる始末。居なかった時間を埋めるかの如く引っ張りだこであった。
(は~~~~…)
……まあ、多少は自業自得なので、あまんじて受けているが。
予定の滞在期間をオーバーするどころか王都に単独で潜入した挙句、大騒動を引き起こしてきたのだから。
……シノブが王都に向かった事をタイプバードからの連絡で知った時は、村を飛び出しそうになったエルを説得・宥めるのに半日掛かったらしい……ゴメンナサイ。
そんな訳でこの十日間、一人の時間など一切無かったのだが、流石に見かねたアムリナの『しつこすぎると嫌われるぞ』の一言によって、急遽一人の時間がもたらされたのである。
(あう~~~~……)
で、現在彼は地下トンネルを通り、村の外の森にて絶賛リラックス中である……心無しか、楕円形な身体が何時もよりもだれている。
ちなみに、エルと出会う前に居た所では無い。新しいナニかを見たい為に、森の中でも来た事が無い場所に来ている。
(うん。やっぱり人間、時には自由な時間を持たないと)
お前はスライムだろ! と、ツッこむ者はここには居ない――居るのはただ一匹のリスである。
彼の隣りで同じ様に木漏れ日を浴びて昼寝をしているリス。彼がまだグリーンスライムだった頃、似たようなリスに遭った事がある……最も、あの時のリスは大きな尻尾をクッション代わりにしていたが、こっちのリスの尻尾はトゲトゲである。どこぞのハリネズミの様なトゲが生えた尻尾を、鎧の様に身体に巻き付けている。
(じゃ~ね~。記念に一本貰っていくよ)
と、リスを起こさぬ様に静かに、枝から枝へと木を飛び移って行くシノブ。抜けていたトゲを一本貰って。
(なんか、アッと驚く様なモノないかな~)
辺りを見回しても、さっきのリス以外に見新しいモノは見つけられない。実っている果実とかも十分見慣れた物ばかりである。
(ホント、見慣れたモノ……ばかり…………んん?)
視界に捕らえたモノは確かに見慣れたモノである……ただし、前世の時にだが……
綺麗な赤い色が輝く三日月状の物体。それは――
(唐辛子っ?! 前世の皆、大変だっ! なんか知らないけど、ボクは今物凄く興奮してるよ!)
この世界に来て以来、色々なモノを見てきたが、ここまで地球にあったのと同じモノを見たのは初めてである。
興奮しながらも、それが実っている木の枝に飛び移り採ってみる。
(どっからどう見ても唐辛子ソックリ何だけど…………硬い)
伸ばした身体の先で摘み取ったソレを、試しに枝に押し付けてみても、フニャっと曲がらずにいる。このまま力を強めれば、ポキッと折れそうな雰囲気である。
(所で……これってホントに唐辛子なのかな?)
確かに見た目は唐辛子……しかし、中身はどうだかわからない。味覚の無いスライムでは、味見してもわからない。
(う~~~~ん)
取り敢えず何個かを採ると、辺りを見回して地面に降りる。
持って帰って聞いてみようと、移動する前に――
(あっ。久しぶりに見るね)
――モンスターが現れた。前に見たことのあるクマ――スウィーツベアーである。
何時ぞやに見たのとは違う個体であろうが、そいつはコッチを見ると――
(――あれっ?)
――一目散に逃げて行った。途中でコケそうになってる、ホント身も蓋もない逃げ方である。
(……コレの所為?)
スウィーツベアーはこの唐辛子(仮)を見て逃げ出した……あの甘い物好きなクマが……
(コレってやっぱり…………なら)
――――スライム道具集め中――――
(スライム3分クッキング~♪)
ツッコミどころ満載な事を内心で言いながら準備する。
まず、平べったい石の上に大きめな葉っぱを乗せる。更にその上に唐辛子(仮)乗せると、別の石でゴリゴリと磨り潰す。
程なくして粉末状へと変わったら葉っぱで包み、さっきリスから貰ったトゲで纏めて茶巾ずしの様にする。
(完成~♪ と、そろそろ帰らないと)
出来た茶巾ずし(仮)と、余った唐辛子(仮)を身体の上に乗せてシノブは移動する。
――――スライム帰還中――――
地下トンネルを通り、村へと戻って来た瞬間――
「あっ、躓いちまった」
……明らかに棒読みのセリフがした方を見るとヤルバンが、何処から集めた? とばかりの大量のナイフをこちらに向けて、ばらまいている所だった。
ナイフの幾つかはシノブへと飛んで行き――
「――へっ?」
――突如盛り上がって出来た土の壁に防がれた。後には、無傷なシノブと大量のナイフが地面に突き刺さっていた。
「……何で?」
“これだよ”
シノブが身体の内から湧き出る様に出したのは、魔術を記録する紫の石――魔属石。
「……どうして?」
“もらった”
スライムと言えど魔力が有るならば、この石も使える。ならば自衛用にと、火・水・風・土の簡単な魔術を記録した石を幾つか貰ったのである。
……単独で王都にカチ込む様な奴には、むしろ持たせておかないとアカン……それが皆の共通した意見だったりするが。
“はんげきあたっく”
と、例の茶巾ずし(仮)を投げつける。スライムの身体故に荒い造りだったソレは、ヤルバンの顔に当たると解けて中身を撒き散らした。、
「はっ?――ほげええええぇぇーーーーっ!!!!」
どっかのガキ大将のリサイタルの様な大声を上げて、ヤルバンが顔を抑えて転げ回る。
(…………ちょっと、やり過ぎたかな?)
尋常じゃ無い有様に、流石にシノブも内心で冷や汗を垂らす。別の魔属石を使って空中から水を出して、ヤルバンの顔にダイレクトにザバ~と当てる…………が。
「ぼええええぇぇ~~~~っ!!!!」
……効果無し。相変わらすの奇声を上げて転げ回っている。
「……騒がしいと思って来てみれば……どうゆう状況じゃ? これは……?」
騒ぎを聞いたアムリナが現れるが…流石に初見で状況が把握出来る筈無い。
――――スライム説明中――――
「……まあ、あのバカに関しては自業自得じゃな。それよりも……」
と、シノブが持って帰ってきた唐辛子(仮)を摘まみ上げて続ける。
「ドンバの実を磨り潰す……スライムであるお主だからこそ出来る事じゃのう」
“? できないの?”
「出来る事は出来るがの。磨り潰したドンバの実は、息を吐くだけでも宙に舞ってしまう。それが目や鼻に入ったら……のぅ」
(あっ、そっか。この世界、ゴーグルとかマスクとか無いんだ)
それじゃ~仕方無い、と納得するシノブ。未だに転げ回るヤルバンを見て、アムリナは続ける。
「生よりも磨り潰した方が効果は高いんじゃがのう。その度に命懸けになるのは……のぅ」
“ぼくがやろうか?”
「………………お願いしても良いかの?」
“うん”
そして、連れ立って立ち去る一人と一体。後には、ヤルバン一人がただ残される。
――エルフの村は今日も何時も通り平和である。
* * *
「――という訳で、これが完成品じゃ」
「「「「「おおっ!」」」」」
数日後。エルフの村の広場にて、先日シノブが教えたマーマレードを踏まえた料理が完成したので、試食に集まってくれた連中に振舞われていた。
ドングリの様な木の実を磨り潰した粉。それに水を加えて良くこねて生地にして、焼き上げたものにマーマレードをトッピングしたものである。
見た感じ、実に美味しそうなソレに皆の手が伸び――
「ただし、その内の一つには、生地にドンバの実を磨り潰したものが練り込んである」
「「「「「…………」」」」」
――る寸前に告げられた事に、皆の手が止まる。ギギィという擬音が聞こえそうな程、ゆっくりと皆の顔がアムリナへと向く。
「ちなみに、これもシノブのアイデアじゃ」
本当は前世からの知識なのだが、カモフラージュの為あえてアイデアとしている。
……最も「テメエ! 何トンデモナイ事思いついてんだっ!!」と言う言葉を込めた視線をシノブへと向ける皆には、そんなカモフラージュしなくても気づかなかっただろうが。
「さあっ。誰でもいいぞ。ハズレは一つだけじゃ。そうそう当たらんぞ」
(ロシアンルーレット。誰がハズレを引くかな~)
煽るアムリナと見守るシノブ。他の皆は、視線で「お前いけっ!」「イヤ! お前がいけっ!」と牽制しつつ誰もその手が伸びない。
――と
「おっ! 美味そうだなコレ! 一個貰うぜ!!」
「「「「「――?!」」」」」
突如現れたバカ……もといヤルバンが皆を尻目に一つ手に取ってかぶりつく。
そして……
「――おおっ! 美味いじゃんか! コレ」
「「「「「――チッ」」」」」
美味しそうに食べるヤルバン。派手に舌打ちする一同。しかし、ヤルバンは皆の態度に気づかず食べ続け――
「もう一個貰うぜっ!」
「「「「「――あっ」」」」」
――再び、手に取ってかぶりつく。
そして……
「――ぶるぅあああぁぁぁ!!!!」
どこぞの、V字な紳士な叫び声を上げて、水を求めて走って行く……あっ、転んだ。顔を地面に打ち付けた。
「……期待を裏切らない奴じゃの」
(うん)
「「「「「ああ」」」」」
一回目で運を使い切ったのか、勝利の女神は二度も微笑まなかったのかはわからないが、おかげで安心して食べれる皆であった。
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター・植物図鑑。
――――尻尾に刺の生えたリス(クウィルテイル)――――
ジェントルテイルの上位種。体長20センチ程の茶色いリス。
大きな尻尾はハリネズミの様にトゲだらけで、ムチの様に振るったり、身体に巻き付けて鎧の様に守ったりする。
トゲの先には『返し』が付いているので抜き難いが、トゲ自体は力を込めるとすぐ抜けるので、尻尾がトゲもろとも何かに突き刺さって身動きが……と言う事にはならない。
このトゲ、革製品を縫う時などに使う太い針の代わりになるので、以外に需要が有る。
――――ドンバの実――――
見た目はまんま唐辛子な実。但しポキッと折れる程の硬さがある。
辛さは比べ物にならない程強い。間違って生で食べたら即気絶して、数日間は味がわからなくなる。
通常は、お茶みたいに煮出して成分を抽出する。
短時間の煮出しだと、身体の内側からホカホカ。少し長めだと、眠気覚ましに最適。長時間だと、尋問・拷問に使えばどんな相手でも吐きます――と使い道が多い。
磨り潰した方が効果は高いが作業が命懸けの為、行う者はいない。
(一時期、犯罪者奴隷に行わせたが、暴動一歩手前まで行くほど嫌がられたので断念した歴史有り)




