モンスターと遭遇である!おまえら地味にスゴクない?
三話目投稿です。
しばらくは、のんびりライフな話しが続きます。いや、リアルにスライムを主人公にすると、自分的にはこういう話しになってしまって……
(ん~~?)
目覚めたら真っ暗だった。視線をキョロキョロと動かして自分が何処に居るのかを思い出す。
(あー、異世界生活……そしてスライム生活二日目の朝だね)
昨夜作った寝床である、切り株ハウスから外へ出る。木々の隙間から見える空は青、木漏れ日が射し込み森に朝が訪れている。
(うん! 今日も良い天気。とりあえず朝の体操。1~2~3~4♪ 2~2~3~4♪)
彼は前世での日課である体操を始める。傍から見ると前後上下左右に揺れる変なスライムである……と言うかスライムでそれをやる意味が有るのか?……ツッコむ者はこの場に居ない。
(終了~。じゃあ、朝ご飯にしよっと)
とりあえず、切り株ハウスの周囲に生えている草、花、キノコ――虫達は無視して(シャレじゃ無いよ! ホントだよ!)――を身体に取り込んで消化する。ちなみに、キノコが毒キノコでは無い事は、虫達がかじっているのを見て確認済みである。
(さてと。ご飯も食べたし、今日は周囲の確認かな?)
寝床を確保出来たけど、ここが本当に安全か確かめなくてはならない。そもそも、この森にはどんな生き物が居るのかも知らないし、色々と確認することは多い。
とりあえず、昨日見つけた果実の実っている木に向けて移動する。途中の木々の表皮を少し溶かして目印を付けながら。
(到着~。相変わらず美味しそうな実なんだけどね)
昨日と変わらず赤い実が実っているが、木に登れない彼は、一個ぐらい落ちてないかと辺りを見回すと――目が合った。
(あっ! 蛇だ!)
いつの間にか3メートルぐらい離れた所に一匹の蛇が居た。ウロコは緑色。太さは綱引きの綱ぐらいで、草むらに居るので長さは解らないが何よりも特徴的なのはエリマキトカゲの様なエリマキをしている事だろう。
異世界に生まれて、初めて虫以外の生き物に出会えた事への感動と、イキナリ会った事への動揺からじっと見つめてしまう。蛇も鎌首をもたげこちらを見ている。
見つめ合う事数秒間。突然の物音に両者の目――スライムは目が無いから核――がそちらに向くと、そこには手のひらに収まるぐらいの小さい生き物が居た。全身緑色の毛に覆われ小さい目と尻尾がついている。
(あれは? ネズミかな? 色が緑なのは森に住んでいるからかな?)
強いて言うなら森ネズミってとこかな~、と彼が考えていると蛇が森ネズミに向けて口を開く。そして何かを吐き出す――というか撃ち出した。
(えぇーーーーっ!)
予想外の事に思わず驚く彼をよそに、蛇は続けて二個撃ち出すが、森ネズミは素早く全弾避けて逃走する。蛇は撃ち出した物――ただの石ころ――を飲み込むと、森ネズミを追いかけて行った。後には呆然としたスライムが残された。
(……だいじょうぶかな……あのネズミ……)
そんな事を気にしながらも、彼は気を取り直して散策を続ける。
――――スライム散策中――――
(~~~♪、~~♪、~~♪)
心の中で鼻歌を歌いながら、彼は森の中を進んで行た。赤い果実の木から、切り株ハウスや川があるのとは違う方向へ向けて。当然、木に印を付けるのと草花を消化吸収しながら。
1時間程進むと、カサカサと音が聞こえたので、さっきの蛇の事を踏まえて慎重に進むと、大きなイモ虫が居た。
(うわっ、おっきいなぁ……)
大きさは中型犬ぐらいか、両手で抱えられる程で全身緑色である。こちらに気付かず地面の落ち葉を食べているが、一番気になるのは背中にあるトゲだろう。5センチ程のトゲが頭から尻尾に二列で均等に並んでいる。
(う~~~~~~~ん、どうしようかな? 行っちゃえ♪)
少し悩むがアッサリ決断。イモ虫へと進む。イモ虫もこちらに気付き食事を止めると、その場で丸まった。
(――? これって身を守ってるんだよね? スライム相手にわざわざ――)
――と、彼が考えていると、イモ虫が勢いよく回転し始める――逆に。
(ええぇーーーーーーっ!!)
彼が驚くのも無理はない。逆回転したイモ虫は走るのでは無く、飛んで行ったのだから。
綺麗な放物線を描いて…………なんて事は無く、そこらじゅうの木々にぶつかりながら草むらの彼方へと消えていった……
(…………ホントにだいじょうぶかな……あのイモ虫、飛んでった先で死んでないよね……)
かなりの勢いでぶつかりながら飛んで行ったイモ虫を、彼は心配せずにはいられなかった。
――――続・スライム散策中――――
(~~♪、~~~~♪、~~~♪、~~♪)
再び森の中を進む。とりあえず、イモ虫が飛んで行った方へ向かってみると、派手に折れ曲がった草花とへこんだ地面を見つけるが、イモ虫は居ない。どうやら生きている様である。なかなかタフである。
そのまま、辺りをキョロキョロしながらとにかく一直線に進んで行くと、色々なモノが見つかる。
木の上で何かをかじっているリスっぽい生き物――尻尾が身体の3倍の大きさ――や、木と木の間に巣を張る大きい蜘蛛――大人の上半身を覆える大きさ――に、鳥の巣らしき物――果物を入れるかごより大きい――等々。
それ以外にも半透明の蝶等、前世の世界では見なかった虫達に感動しながら進んでいると、彼はふと気付く。
(調子に乗って、進み過ぎちゃったかな? そろそろ戻らないと暗くなっちゃうね)
木々の隙間から見える空が少し赤くなっている事に気付いた彼は、自分が付けた目印を逆に辿って行こうとしたところで、物音が近付いてくる。
(ん? 今度は何かな?)
考えている間にも音は近づいて来る。そして、茂みから一匹の生き物が出てくる。
(あれはっ!? ウサギ……でいいんだよね?)
出て来たのは茶色い毛並みのウサギだった。大きさはさっきのイモ虫と同じくらいで、額に長さ20センチ程の角が生えている。
辺りを見回していた角ウサギは、こちらを見つけると前傾姿勢になる。
(――っ! 突っ込んでくる気!?)
見かけによらず好戦的なのか、と彼が身構えると、角ウサギは身体に力を込め――角を発射した。
(えええぇーーーーーーーーっ!!!)
撃ち出された角は彼の身体に根元まで埋まる。幸い核には当たらなかったが驚きで心臓バクバクである……心臓無いけど……
そして、角ウサギは角を撃ち出すと同時に逃げていた。どうやら、最初から攻撃の為では無く、逃走の為の威嚇射撃だった様である。
(…………だいじょうぶだよね! ホントにだいじょうぶだよね!! ちゃんと生えてくるよね!! ミツバチみたいに一回きりじゃ無いよね!!!)
動物好きの彼にしてみれば、やっぱり心配せずにはいられないのであった。
――――スライム帰還中――――
(~♪、~~~♪、~~~♪、~~♪、~~~♪、~♪)
相も変わらず、心の中で鼻歌を歌いながら、彼は目印を辿って切り株ハウスへと戻って行く。なお、角ウサギの角はまだ身体の中にある。どうやら、スライムの消化力では溶かすのに時間が掛かるようなのでゆっくり溶かしている……なんか飴を舐めている気分である。
空は完全に赤く染まっているがこのペースなら十分間に合う距離である。だが、家路を行く彼はまた物音を捉える。しかも、さっきとは違い複数の音が素早く近付いてくる。
(何だろ? またウサギ? それとも、違う生き物?)
木々の隙間から飛び出してきたのは、ウサギでもイモ虫でも無く、黒い毛の犬だった。大型犬を一回り大きくしたサイズ。それが六匹も同時に現れ、こちらを見て唸り声を上げる。
(……まいったなぁ……この状況、詰んでるよね?)
スピードの差は歴然。数の差も歴然。異世界生活は二日目で終わりかな? と、どこか他人事の様に考えていると、上の方から音がした。見ると、森ネズミが枝の上を走っている。
黒犬達も森ネズミに気が付くと、その内の小柄な一頭が別の一頭の背中に乗る。そのまま、下の犬がジャンプした後に、上に乗った犬がジャンプする二段ジャンプを見せた。そして、見事に森ネズミを口に咥えて着地する。
(おおっ! お見事だよ!!)
自分が囲まれている事も忘れて感心する。そして、黒犬達が一斉に動き――そのまま彼を飛び越えて行ってしまう。そして足音は徐々に遠ざかって行き、後には彼1人が残された。
(………………コレって、助かったで良いんだよね?)
助かったにしては、なんか釈然としない彼であった。
――――続・スライム帰還中――――
(あーー、やっと帰って来れた。結構ギリギリだったね)
完全に森が暗くなる前に、彼は切り株ハウスへと戻ってきた。ちなみに、角ウサギの角はまだ溶けきっていない。半分近く残っている。
(ただいま~)
切り株ハウスの内に入ると彼は、今日見たモノや出会った生き物の事を思い出す。
(うん。今日は色々なモノが見れたね。異世界って事を実感できたよ。でもあの生き物……モンスターで良いのかな? とにかく、モンスターに関してはちょっと反省だね。危ない所も多かったし、次はもっと気を付けないと。とりあえず――)
と、あれこれ考えている内に、いつの間にか角ウサギの角が消化されていた。同時に眠気も覚えたので、彼は今日はここまでにして寝ることにした。
(それじゃ、前世の皆、オヤスミ~~)
元の世界の『家族』達を心に思いながら、彼は眠りにつく。
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑
――――森ネズミ(アロマラット)――――
体長10センチ程の緑の毛をはやしたネズミ。毛の色が緑なのは木の上よりも、草むら等の地面上で行動する事が多い為に保護色になっている。
体臭が森の木々と同じ為、嗅覚で見つけるのが非常に難しいので、他のモンスター達に見つかりにくい。また、芳香剤代わりにペットにする者も多い。
ぶっちゃけ、モンスター扱いしていいのか非常に困る生き物である。
――――石吐き蛇(スリングスネーク)――――
緑色のウロコで太さは綱引きの綱ぐらい。エリマキトカゲの様なエリマキをしている蛇。
石ころ等の固形物を飲み込んで、勢いよく吐き出し獲物に当て、弱らせて捕まえる。
エリマキは体温調節の為と、実はサブのピット器官がついていて、広げると感知能力が上がる。