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帰郷である!う~~ん変わってない

暑い……ただ、その一言に尽きる。

「「「「「カンパ~~~イ!!」」」」」


 日が落ちた刻限。獣人達の村の中央にある広場で宴が催されていた。

 皆が皆、手にジョッキや料理を持ち、飲めや歌えの真っ最中の中、唯一の例外が居た。


(…………味覚が欲しい)


 シルバースライムなシノブである。

 皆が手に持つ、上手に焼けてるこんがりなお肉だとか、湯気を立ててる美味しそうな料理だとか、泡が弾ける穀物酒だとか、果汁100パーセントな絞り汁だとか、串の先で丸焼けになっている大きな虫だとか色々有るが、スライムな彼にすれば栄養が高いかどうかしかわからない為、本当の意味で味気の無い食事となっている(イヤ! どっちにしろ最後のは要らないからね!)

 この宴、ユユが無事に戻って来た事と、人間達が(ようや)く自分達の非を認めた事によるものなので、シノブは主賓扱いなのだが……


(……気持ちは嬉しいんだけどね。ここまで主賓が楽しめない宴ってそうそう無いよね)


 伸ばした身体で器用に穀物酒の入ったジョッキを持ち上げて、自分の身体に浴びる様にして飲んでいるシノブ。

……当然、味なんてわからない……ぶっちゃけ、酒無駄にしてね?


「どうじゃ。飲っておるか?」


 ジョッキを片手に現れたのは、茶色い毛の狐の耳と尻尾、イケてる渋さの顎髭と衰え知らずの肉体を持った老人――村長のトゥーガである。

 皺が刻まれた顔も、今は赤ら顔となり、実に上機嫌で酔っている。


“やってるといえばやってるけど”

「そうか! 遠慮は要らんぞっ! 好きなだけ飲め!」


 と、持っているジョッキの中身をシノブに掛けるトゥーガ……どう考えても酔い過ぎだぞ、この爺さん……てか、だから酒無駄にしてね?


“ごきげんだね?”

「無論じゃっ!! ユユが無事に戻って来ただけでは無く、今までの人間共の非道な行いまで明るみになったんじゃっ!! これまでのらりくらりと逃れてきた分、積もり積もった悲しみと怒りを全て清算させてやるわっ!! 土下座の一つ二つ程度で許してもらおうなどと決して思わせんわ!!」


 ダ~ハッハッハ、と高らかに笑い声を響かせるトゥーガ……ああ、笑顔が黒い。

 周囲の者も笑顔で同意する始末。積年の恨みとやらはかなり深いようである。


(まあ、人間達の自業自得だし、償うべきものはしっかりと償ってもらわないとね)


 しみじみ思っていると、すぐ近くに気配を感じた。そちらを見ると、ラダがジョッキを片手にシノブの隣に腰を下ろす。


「感謝している」

“ん?”

「今回の事。ユユを無事に取り戻して来れれば十分だったのだが……我等の積年の恨みまで晴らしてくれたのだ。感謝してもしきれない。ありがとう」


 と、座りながら頭を深く下げるラダ。地に擦れる程に深く下げられた事から、感謝の念が大きい事は良くわかる……わかるのだが……


(……ボク、コッチなんだけど)


 自分に背を向けて頭を下げているラダに、内心で呟くシノブ……ダメだ、こいつも酔ってやがる。


「そもそも、我等と人間との諍いは――」

(……頼むから戻って来て。自分の世界に入らないで)


 シノブを見ずに語りだすラダ。と言うか、アンタ誰に語ってんの?

 内心で溜め息を吐いて、そっと距離を取るシノブ。


(酒は飲んでも飲まれるな……って言葉知らないのかな? 皆……)


 あっちゃこっちゃでバカ騒ぎしている獣人達を遠い目で眺めるシノブであった。




――余談ではあるが。


(ハイハイ、食べ終えた食器は片付けてね。火の不始末には気をつけてね。これ、誰が脱いだ服? そこっ! 寝るなら家に帰って! 今が冬だって忘れてない?! 凍死する気?! しらふな人は酔っ払い共を片付けるのを手伝っていって。誰かっ! いい加減ラダを黙らせて! この際、何をしても良いから! ああもう、トゥーガさん! 歳なんだからいい加減にしなさ~い!!)


 その後、あれこれ手を焼く苦労性のスライムがいたそうな……

……繰り返すが、彼はこの宴の主賓である。




   *   *   *


 一夜明けて、獣人達の村の門の前。シノブを見送りに皆が勢揃いしている……二日酔いで。


“むりしないでねてたら?”

「いや……そういう……訳には……いかん……」


 一言話す度に顔をしかめるトゥーガ……かなり酷い頭痛と見える。まあ、他の人も似たり寄ったりだが……


“それじゃしつれいするよ”

「うむ……本当に感謝しておる……本来ならば……手土産の一つ……どころでは無いのだが……」

“ぼく、すらいむだしね”

「その代わりに……我々、獣人族は……お主の……味方である事を……誓おう……」

“ありがとう”


 トゥーガの言葉に頷く一同。シノブも礼を返す。

 そして、いざ行こうと皆から少し離れて、最大速度で走り出そうと――


「てやっ」

(はい?)

「「「「「はあ?」」」」」


――する前に、何かが覆いかぶさった。

 覆ったのは『投網』。外壁の上から投げられたソレは、見事にシノブに命中した。


(…………)

「「「「「…………」」」」」

「――うんしょっ。こいしょ。う~~ん。えいやっ。ふんっ」


 と、何処からともなく現れたユユが投網の端を持って、アレコレし始める。その場に居る他の全員は、ただ呆気に取られて見つめるだけである。

――数分後。そこには綺麗に捕獲されたシルバースライムが出来上がった。


「――よしっ!「くおらっ」――ふにゃっ!!」


 満成感――満足いく達成感の略――溢れるユユの後頭部を叩くトゥーガ。ただでさえ頭痛のする頭が、更に痛くなるのを感じながら問い掛ける。


「何をしとるんじゃ、お主は?」

「ううぅ――つかまえた!」

「はっ?」

「むらのそとで、つかまえた!」

「……そうじゃな」

「だから、コレぼくのものっ!」

(((((あっ……そういう事)))))


 ユユの言葉に他の獣人達が納得する。村では獲った獲物は獲った者の自由である。その理論でいくと、このスライムはユユの自由である。

……要は「行っちゃヤダ!!」と言う事なのだろう。素直じゃ無いな。


「……ユユよ」

「……はい」


 膝をついて、なるべくユユと目の高さを合わせて話すトゥーガ。ユユも素直に応じる。


「まず、お主はまだ村の外に出る事は許可されておらん。(ゆえ)に、お主には獲物に関しての事もまだ許されておらん」

「――?! でもっ!!」

「それにのぅ、あのスライムは獲物などでは無い。お主を助けてくれた恩人じゃ。お主は、そんな恩人を捕まえて自分のモノにしようとしておる……それは、恩を仇で返す行為じゃ」

「……でも」

「寂しくなるのはわかる。しかし、元々儂らはあの者をエルフ達から借り受けているにすぎん。じゃから、事が終わればすぐに返すのが道理じゃ。ただでさえ、予定よりも長くなっているのじゃからな。なに、二度と会えなくなる訳では無い。また会う機会は訪れるじゃろう」

「…………はい」

「うむ。それから最後に一つ言っておく」

「? なに?」

「捕らえた獲物からは、決して目を離してはならんのじゃ」

「え?……あ~~~~~!!」


 振り向いたユユの視線の先には、溶かされて穴が空いた投網と、既にかなり遠くへと行ってしまったシノブの姿があった。

 トゥーガがユユの気を引いている間に交わされた、アイコンタクトの結果である。


「こらーー!! もどってこーーい!!」

(ごめんね~~~~)


 ユユの怒号を尻目に逃げるシノブであった。




   *   *   *


(エルフよ! ボクは帰ってきた!)


 行く時と同じ時間を掛けて草原を駆けぬけ、森の中に入りかつて掘った地下トンネルを進み、シノブは遂に懐かしきエルフの村落へと帰ってきた。

 ただし、出迎える者は居ない。理由は単純。今は()だからである。


(う~~ん。変わってない)


 辺りを見渡せば、行く前とは変わらずの景色。

 皆が暮らす家々。子供達と遊んだ広場。そして、土の中に埋められ首から上だけが出ているヤルバン。


(…………変わってない!)


 些細な事は気にせず、その場から動き出そうとして――


(うわっ?!)


――何かに伸し掛かられた。そちらに視線を向けると……


「……おかえり」

“ただいま”


 エルが乗っかっていた。何時もの女の子座り的な乗り方では無く、へばり付く様に。満面の笑顔で。


“ぼくがかえってきたのよくわかったね?”

「ん……なんとなく?」

“そっか”


 そりゃしょうがない、とエルを乗せたまま移動するシノブ。エルの方は頬ずり……どころか身体全体でシノブの存在を実感している……パッと見、たれ○ンダ。

 (ほど)なくして、かつてお世話になっていた家にたどり着く。家の前には三人のエルフが居る。


「急に飛び出していくから、何かと思えば……」

「迎えに行ったのね」

「納得じゃ」


 ヤレヤレと言った顔で迎える三人。エルはそんな事は気にせずにへばり付いたままだが。


「話は聞いておるぞ。とんでもない事をやらかしおって」

“あっはっは~”


 アムリナの言葉に、誤魔化すように答えるシノブ。まあ、アムリナの方も実に愉快とばかりに笑っているが。


「取り敢えず、中に入りましょう」


 その言葉で家に入る一同。家に入った所で一言。


「「「おかえり」」」

“ただいま”

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑はお休みです。

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