表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/67

任務完了である!逃げ道は……無い!

暑さに負けじと書いていたら今までで一番の文字数になってる気が……


後、どうでもいいけど神父って呼称で、正しくは司祭なんだって。

 とある建物の地下にある、左右それぞれに牢屋が並ぶ通路。牢屋には一人か二人の人間の子供が入れられている中、一人だけ例外が居た。

 茶色い毛の猫の耳と尻尾を持った子供は、牢屋の片隅で膝を抱えて蹲っていた。


「…………」


 微動だにしない身体からは、生気と言うモノが消えている…イヤ、生きる希望そのものが消えている。

……少し村の外に出る。ただ、それだけの軽い気持ちだった。大人達の決めた事なんて大袈裟な事だと、自分は村の外に出ても大丈夫だと証明してみせると。

……しかし、気がつけばこの暗い牢獄の中。どれだけ喚いても、どれだけ泣いても、どれだけ後悔しても、どれだけ心の中で村の皆に謝罪しても、手遅れだった。

 絶望に支配された中、時折現れる男に、無理矢理口に食べ物をねじ込まれる……『商品』が死なない様に……そして為すがままに受け入れるユユ、

 今現在、ユユは膝を抱えて蹲っているか、時々牢屋の中にあるトイレ代わりの壺で用を足す事しかしない。最も用を足す行為も、意識してと言うより染み付いた習慣が身体を動かしていると言った方が正しい機械的なものだが……

 そこに居るのは、最早ただの人形と言える……………………が。


「…………?」


 頭に垂れてくる水滴の感触に、項垂れていた頭を力無く持ち上げて天井を見やる。

 そこには、銀色の楕円形の物体がへばり付いていて――


「…………っ?!」


 ソレが何なのか気づいて目を見開く。

 死んでいた眼に輝きが戻る。沈んでいた心が浮かび上がる。諦めていた希望が復活する。

 思わず立ち上がろうとする前に、ソレはユユの前に落ちてくる。そして虚空に描かれる光文字!






“しーにゃん。さんじょう!”

「…………」


……間違い無く、これはあのスライムだ。こんなスライム他に居ない。居て堪るか。

 それを実感すると、ユユは腕を振り上げてシノブを殴りつける。


「このっ! このっ! ううっ……ひっぐ……っ……っ」


――段々と殴るから叩くへと変わっていき、終いには縋り付いてしまう。

 半ば抱きついている状態でユユは必死に言葉を紡ぐ。


「……おそいん!……ぐすっ!……だよっ!……たすけに!……すんっ!……くるなら!……もっと!……はやく!……こい!……」

“ごめんね”

「ーーーーっっ!!ううぅぅぅ!!」


 せめてもの強がりか、声を出さずに泣くユユと、伸ばした身体で頭を撫でるシノブ。




――――スライム慰め中――――


「うーーっ!!」


 たっぷり十数分(ほど)泣き続けた後。我に返って、自分のしていた事が恥ずかしくなり……かと言って、八つ当たりする事も出来ず、真っ赤な顔でシノブを睨むユユ。

 幸いな事に、通路を挟んだ向かい側の牢屋は無人なので、一連の出来事を見た者はいない。シノブの事に気づいた者もいない……はず。


「――で? どうやってここからにげるんだよ?」


 何とか気を取り直したユユが小声で問い掛ける。強がってはいるが、一刻も早く村へ帰りたいのであろう……手が微かに震えている。

 シノブはその手に身体を重ねて、魔術で光文字を描く。


“しばらくまって”

「?! なんでだよっ!」

“いずれはじまる”

「? はじまるって…なにが?」


 予想外の答えに思わずキョトンとするユユ。シノブは内心でニヤリとしながら続きを描く。


“らすとぷろせす”




   *   *   *


「本日は皆様方、お越しいただき有難うございます」


 劇場の舞台の上。本来ならば役者達が動き回る場所に、今は『売り手側』の人間が今夜ここに集まった『客達』へ挨拶していた。

 本来ならば観客達が座る座席には、十人程の今回の客――貴族達――が座っている。


「え~~。今回の『商品』には掘り出し物として……獣人の子がいます」


 その言葉に、俄かに沸き立つ貴族達。早く始めろと、叫ぶ者までいる始末。

 その声に押される様に舞台袖に引っ込む売り手側の人間。後に残された貴族達は、まだかまだかとソワソワしながら待つ。

 (ほど)なくして、司会進行役の人間が戻って来る。


「では、まず最初は「大変だっ!!」――バカ野郎ッ!! 商談中だろうがっ!!」


 さっきまでの丁寧な言葉遣いはどこへ行ったのか……司会進行役の男が、突然観客席の後方にある大きなドアを、壊すんじゃないか? という勢いで開けて入って来た男に怒鳴る。

 だが、入って来た男はそれ以上の大声で叫ぶ。


「この建物、兵士達に包囲されてるぞっ!!」

「「「「「…………はっ?」」」」」


 司会進行役の男だけで無く、貴族達も揃って呆気に取られる。真っ先に立ち直った司会進行役の男が尋ねる。


「……どこが?」

「ここがっ!」

「……誰に?」

「兵士達にっ!」

「……何時?」

「今現在っ!」

「「「「「…………」」」」」


 ゆっくり尋ねる男と、ノータイムで答える男。対照的なやり取りを終えて数秒後。皆の反応は――


「「「「「――だ~~はっはっははははっ!!!!」」」」」


――腹を抱えての大爆笑だった。


「ぷっ! くくくっ! お前、何言ってんだ? ()()()は済んでんだぞ? そんな訳あるか? そもそもこんな夜中に、この劇場を包囲出来る(ほど)の数の兵士が起きてる訳無いだろ? 皆、寝ちまってるよ」

「いやっ! 嘘じゃない! 本当に――ガッ!!」


 皆の馬鹿にした声に、必死に説得しようとする男……しかし、その声は背後からの一撃で遮られる。

 昏倒した男を足蹴にして現れたのは――兵士。そのドアどころか、周囲全てのドアから出て来る兵士・兵士・兵士達。着ている鎧と兜の形状から、この王都の一般兵である事は間違い無い。


「「「「「…………」」」」」

「お邪魔するよ」


 一番最初に入って来て男をぶっ倒した兵士の告げる声に、一人の貴族が我に返って声を荒げる。


「貴様らっ! 一般兵風情が何しに来た! ここに居るのが誰だかわかっているのか?! 伯爵家の「犯罪者だろ?」……何?」

「だから、犯罪者共だろ? この王都に存在する犯罪者を捕らえるのが、俺達の役目だ……そうだろ? 皆」

「「「「「おうっ!」」」」」


 先頭の兵士の言葉に他の兵士全てが答える。何人かは既に、捕縛用のロープを手にしている。

 ここに至って、貴族達も何時もと違う雰囲気に気づく。何時もならば絶対に逆らえない筈の家柄・権力を、ここに居る兵士達は毛ほども気にしていない。


「え~~。今回の悪党共は中々に往生際が悪そうだ。抵抗する可能性は非常に高い……(ゆえ)に、捕らえるのが多少荒っぽくなっても仕方ないな」


 殆ど棒読み口調で白々しく告げる先頭の兵士……他の兵士達は、指をバキボキ鳴らしている。ニヤリという笑みを浮かべて……


「「「「「――っ!!」」」」」

「確保! 骨の1・2本ぐらいなら許容範囲内!」

「「「「「了解っ!! うおおぉぉぉっ!」」」」」


 貴族達が座席から腰を浮かべるよりも速く、兵士達は嬉々として捕縛に走り出した。




   *   *   *


「……何で俺が隊長なんてモンをやらされてんだよ……単なる一般兵の俺がよ……」

「お前が『発起人』だからに決まってんだろ? 隊長さんよ」

「「「ああ」」」


 劇場の外。メインエントランス入口の前の広場に待機している兵士達の中の一人が呟いた言葉に、別の兵士がツッコミ、周りの皆が頷く……ニヤニヤ笑いと共に。

 皆から隊長呼ばわりされた兵士は、軽く溜め息を吐いて今現在の自分を(かえり)みる……違法奴隷に関わっている貴族アンド組織を一網打尽にする為に集まった有志達をまとめる隊長役を、何時の間にかやるハメになっている自分を……


(どう考えても普通有り得ないだろ、これ……一般兵が貴族共に歯向かってるんだからな……全く、見事にノセラレちまったな……)




――事の発端は、5日前。

その日の夜。彼は平民街にある馴染みの酒場で散々呑んだ後、隊舎に覚束無(おぼつかな)い足取りで帰る所だった。

……彼がこうなるのは珍しくない。むしろ日常茶飯事?


「あ~~。クソ貴族共が……偉いのはパパで、テメエらは脛噛じってるだけのクセによ~。ホント、ムカつくぜ~」


 愚痴ってる内容は貴族に対しての事ばかり……くどい様だが、彼がこうなるのは珍しくない。

――騎士というモノに憧れ、故郷の町を出てこの王都にやって来た。故郷の町に居た頃に、元冒険者だったおっちゃんに剣の筋が良いと言われ、実際入隊してからも着実に腕を伸ばし、同期の中では一番の腕前になった。

……しかし、そこ止まりであった。どんだけ腕が上がろうが、モンスター討伐で功績を上げようが、王都の治安を守り国に忠義を尽くそうが、兵士止まりであった。

 剣を振るったことのない細い腕。鎧を着れない肥満な身体。そんな連中が騎士へと成れる……賄賂か貴族との繋がりを使って。

――技量と忠義を持つ者より、カネとコネを持つ者が騎士に成れる――

 そんな現実に失望し、行き場の無い(いきどお)りが自棄酒へと彼を走らせていた。


「――あ?」


 隊舎に帰る途中で、足に何かが当たる感触に立ち止まる彼。見ると足元に石が転がっていた。恐らくこれが足に当たったのだろう。


「――あぁっ?」


 また、石が足に当たる。飛んで来た方を見れば、そこには細い路地があるだけ。明かりの無い路地の中は真っ暗で、ナニがいるのかもわからない。

 だが、石は止む事無く飛んで来続ける……こっちへ来いと誘うかの様に。


「……上等だ。ケンカなら買うぜっ!」


 こちとら、酒に酔った程度でそこらのゴロツキ共に負ける程弱かねえんだ!

 (つい)でに、心の中に溜め込んでる怒りもぶつけてやると、嬉々として路地に入ろ――


「――ぶっ!!」


――うとして、顔面に何かがぶち当たる。真っ赤に腫れた鼻を無視して下を向くと、両手で持てるサイズの木片――木の板が落ちていた。

 そこらに放置されている木箱か樽から引っペがしてきたかの様なソレには、文字が刻み込まれていた。

――『貴族共を痛い目に遭わせてみないか?』と――


「…………くっ!」


 最初はポカンとしていた彼だが、徐々に理解するに従い内側から込み上げてくるものがあり、終いには笑ってしまう。

……冷静に考えれば、こんな物気にしない。馬鹿馬鹿しいと、立ち去るだろう……しかし、ここに居るのは酔っ払い。冷静な思考なんて出来無い。木片に刻まれている文字が刃物で刻まれたのとは違い、()()()()()事に気づきもしない。感情の赴くままに突っ走る。


「ああ。遭わせてやりたいぜ!」




――その後の事は……酒に酔った勢いとしか言い様がない。

 次に飛んで来た木片には、違法奴隷の売買――その場所と日程が刻まれていた。その後、やり取りを終えた彼は隊舎に戻るなり、自分と同じ様に貴族共にムカついてる連中に話をして、密かに仲間を増やし計画を練っていった。

……酒が抜けた翌日。冷静になってみれば色々と怪しい所がある。しかし、他の連中がその気になってしまっているので、今更止めろとも言えない……言い出したの自分だし……

 そもそも、自分にこの事を教えた相手の声も聞いてないし、姿も見ていない――が、


(信用は出来そうなんだよな……)


 それだけは確信出来る。何故かそれを確信している。


「お~~い」

「ん?」


 回想に没頭していたが、掛けられた声で気を取り直す。

 見ると、後ろ手に縛られた男達が、更に数珠繋ぎこちらに連行されてくる……男達の顔が妙~にボコボコなのは……


「(けしからん、もっとやれっ!!)それで全員か?」

「ああ、他の連中が劇場内をしらみ潰しに探してるが……悪党共はこれで全部だと思うぞ」


 内心の本音を押し隠して聞いた事に、連行して来た兵士が答える。

 と――


「おいっ! 貴様ぁっ!!」


――縛られてる内の一人が隊長(仮)に怒鳴る……眉とか頬とかが腫れ上がっていて、実にオモシロイ顔になっている。


「何だよ?」

「お前達がどうやってこの場所の事を知ったかはわからないが、幾らやったところで無駄な事だぞっ!」

「何で?」

「決まっているだろうがっ! ここにいるのは誰だと思っているんだ?! 一般兵如きが()に乗るな! 俺達の権力があれば今回の事など簡単に揉み消せるんだぞっ! 精々良い気になっていろ! 最後に地獄を見るのはお前達だっ!」


 フハハハ、と笑いながら強気に告げる貴族様。他の皆も腫れ上がった顔でわかり難いが、似たようなニヤニヤ顔――自分の絶対的優位を確信している顔。


「あ~。確かにそうなるだろうな…………普通は」

「「「はぁ?」」」

「ただな。『裏でコソコソやってる事は、表に出せば良い』そうだ」

「「「はぁぁ?」」」


 理解出来ない隊長(仮)の言葉に疑問の声を上げる貴族共。

 そして、隊長(仮)が後ろを振り向く。皆がそっちに視線を向けると、丁度通りから劇場の敷地内へと入ってくる集団が目に入る。かなりの大人数だが、手に持っているカンテラ(火属性の魔術の魔属石入り)の明かりでは心許ないので、何の集団だかわからない。

 大方、お仲間の一般兵だろうと貴族共は思っていたが――


「「「なっ?!」」」


――その集団。白いローブに身を包みメイスやクォータースタッフで武装した集団の先頭を歩く人物を見て絶句した。


「しゅっ、主教様っ!!」


 先頭を歩く好々爺とした人物。この王都に住む者なら一度は見た事の有る、王都内の全ての教会を統括する権限を持つ存在がいた。


「……主教様自らがお越し頂くとは思っていませんでした……」

「いえいえ、今回の事は教会としても見過ごす事は出来ません。多くの人を救える事もそうですが……何より、この国に隠れていた罪に正しい裁きを与える事が出来るのですから」


 隊長(仮)の言葉に、穏やかな笑みで答える主教。

 しかし、縛られている貴族共には未だ信じられず、声を荒げる。


「なっ、何で主教様がここに居るんだよ!」

「俺達が頼んだからだが……」

「だからっ! 何で一般兵如きの頼みで主教様が来るんだよ! 有り得ないだろっ!」

「確かに普通なら俺達、一般兵の声なんて主教様の耳には入らないよな……普通ならな」


 隊長(仮)の言葉の意味が理解出来無い貴族共。そんな連中に、穏やかな笑みを絶やさずに主教が話す。


「数日前に、違法奴隷と思しき子供が数人、王都内の複数の教会で保護されましてね。私達教会の中で違法奴隷に関する意識が高まっていたのですよ……そんな時でしたので、彼等からの話が私の所まで届いたのですよ」


 主教の言葉に何人かの貴族共がビクッと反応する。恐らくは、その保護された奴隷の元所有者だろう。


「俺達、一般兵をどうにかする権力は有っても、()()()どうにかする権力はお前らにも無いよな?」

「この事は、既にタイプバードで本国の方々に知らせてあります。近い内に私よりも上位の方が来られるでしょう」

(つい)でに言うと、明日にはもう平民街でもこの事は広まる……イヤ、広める手はずになってるんで。王都中に広まるのは時間の問題だ」


 それを聞いて貴族共の顔色が真っ青に変わる。

 この事が広まれば他の貴族達は、自分達は関係無いとアッサリ手の平を返すだろう……助けは期待出来無い。平民達に至っては、下手すりゃ暴動を起こしかねない。

 そもそも教会……イヤ、教国そのものに既に知られている現状。隠し通すなど出来無い。

 自分達の権力が何の意味も為さない事を、漸く実感出来た貴族共は今までに感じた事の無い『恐怖』を初めてその身で味わう事になった。


「お~い……って! 主教様?! 失礼しましたっ!」


 裏口側から走って来た兵士が、目の前の人物に気づき、慌てて直立不動の体勢で敬礼する。

 そんな兵士に、笑みを絶やさぬまま主教は話す。


「気にしないで下さい……それで、どうしたのですか?」

「はいっ! 劇場の地下にあった牢で、子供十数人を保護しました。それと……」

「ん? 何かあったのか?」

「……獣人の子も一人、保護しました」

「「――!!」」


 報告の内容に、流石に主教の顔から笑みが消える。隊長(仮)も、貴族共の後ろで縛られている連中――奴隷売買を行っていた連中に怒鳴る。


「お前らっ! 他種族にまで手を出してたのか!!」

「何と、罪深い事を……」


 隊長(仮)と主教の二人だけで無く、主教の後ろに控えている集団――『僧兵』達からの敵意も増す。その視線たるや……射殺せそうである。


「その子達は、私達でお預かり致しましょう……頼みましたよ」

「「「はい」」」

「どうぞ、こちらです……と、その前にコレを渡すのを忘れてた」


 隊長(仮)に持っていたモノを渡すと、その兵士は主教の命を受けた僧兵の一部を連れて劇場の中へ入る。

 隊長(仮)は受け取ったモノ――紙束を一枚一枚めくって中身を確かめる。


「や~っぱ、あったんだな」

「なっ、何だよ?! それ?!」


 顔面蒼白な貴族共の一人が恐る恐る尋ねる。それに、隊長(仮)は事も無げに答える。


「売買記録だよ。今までの、お前達との……な」

「な、何でそんな物が有るんだよっ!」

「そりゃ、有るに決まってんだろ。仮にも商売してるんだし……万が一、お前達に裏切られそうになった時の『保険』にもなるしな」


 その言葉に、縛られている貴族共全員が奴隷売買を行っていた連中を睨みつける。無意味な事を……


「それじゃ、最後の仕上げと行きますか」


 隊長(仮)の言葉に、貴族共はこれ以上何があるんだ? と戦々恐々とする。

 気がつけば周囲に、劇場内に居た兵士全てが集結していた。


「全員。手分けして、この売買記録に載っている人間を捕縛に向かうぞ!」

「「「おう!!」」」

「あなた達も彼等と共に行って下さい。そして、奴隷を見つけたならば保護して下さい」

「「「はい!」」」


 そして、兵士・僧兵が共に夜の王都に消えていく。後に残されたのは隊長(仮)と主教とその護衛。縛られた連中。


「ところで……」

「なんでしょう?」

「今回の事……貴方が全て考えて?」


 主教の問いに、苦笑いしながら腰に付いている袋からある物を取り出す隊長(仮)。

 取り出したのは、あの夜に受け取った木片全て。それを見て、主教も納得行ったように頷く。


「これを渡した方は?」

「わかりません。声も姿も……でも、信用は出来そうでしたので……」

「確かに」

「それでは俺……私も失礼します。この連中を連れて行かないと……」

「ええ。お気を付けて」

「はい――オラッ! 立て、お前らっ!!」


 隊長(仮)に引っ張られ連行されていく連中。皆口々に主教に「お慈悲を!」などと叫んでいるが、主教は黙って連行されていくのを見届けるのみ。


「どこのどなたかは知りませんが。感謝致します」


 虚空に向けて感謝を告げて、頭を下げる主教。その手に持っている木片の一枚にはこう刻まれていた。

――『子供を守るのは大人の義務だよ』と――




   *   *   *


(いや~。上手くいって良かった~)


 劇場の屋根の上で、事の成り行きを見ていたシノブは内心ご満悦であった。何せ、予想以上に事が上手くいったのだから。

――正直な所。ユユ一人だけを助けるのは簡単に出来た。しかし、トゥーガの言っていた『数年おきに度々(たびたび)起こる』という言葉から、何時かまた同じ事が起きるのを見過ごせず、『除草は根っこから』の考えに至ったのである。

 ()()での経験から計画自体はすぐ思いついたが、スライムな自分には実行出来無いので、代わりに実行してくれそうな人物を探してみたら、以外にアッサリ見つかった。

 貴族に不満を持ち、適度に正義感を持つ兵士。その人物に情報と計画の概要を渡せば、後は勝手にやってくれるだろうと思っていたが……


(……まさか、ここまで大事にするとは思ってもみなかったよ)


 実を言うと、シノブは情報を渡してからは、ずっとユユの傍に居たのである。ユユに姿を見せた後、計画の事を話し暫くの間捕まっていてもらっていたのである。無気力の芝居付きで。そして、シノブは姿を消したままユユを見守っていたのであった。

――そんな訳で、まさか教会の人達まで巻き込んでいるなど、ついさっきまでシノブも知らなかったのである。


(まあ、結果オーライだから良いけどね。最後に地獄を見るのは何時だって悪人だよ)


 奴隷売買の組織が明るみに出た事によって、これ以上の犠牲者は出なくなった。しかも、この流れで他の奴隷売買の組織にも捜査の手が伸びるかもしれないし、新たに組織を造るのも難しくなる。

 何より『獣人が攫われていた』と言う事実を突きつける事が出来た。

 これで、今まで泣き寝入りしていた獣人達が人間達を糾弾出来る……自分達が今までに味わった悲しみをぶつける事が出来る。

 そして、人間達に贖罪の義務が生じる。


(これで、亡くなった子供達が少しでも浮かばれてくれればいいんだけど……)


 一人静かに月夜に黙祷を捧げるシノブ。


(後は、村まで送られるユユを見守りながら、コッソリついて行けば良いか)


 今まさに眼下で、僧兵に保護されながら教会へと連れてもらっているユユと子供達を見下ろして、シノブは一言内心で呟く。


(ミッションコンプリート♪)

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑は……それどころじゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ