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侵入である!ダンボールは必要無い

熱帯夜のバカ!


書く気より眠気が優っちゃうじゃん!

 獣人達の村から街道沿いに南へ。多少の休息を挟みながらも、許される最高速度で疾走する事、5日。途中にあった6つの村・街をスルーして、シノブは遂にたどり着いた。


(あれが王都か……)


 やや離れた所からでもその大きさは良くわかる。分厚く、バカ高い外壁に囲われた大きな都。外壁の周りには幅広い堀が掘られ、その堀に架かる跳ね橋には、頑丈な甲冑に身を包んだ兵士達が常に見張りに立ち、外壁の上でも兵士達が規則正しく巡回している。

 流石は王都。見事な警備である。


(あそこにユユが居る筈……)


 此処まで人目につかぬ様、光魔術で自分の姿を消して、街道から少し離れた所を沿ってやって来た。

 最初は、ユユを捕まえた連中を先回りして助けようとしたが、トゥーガ達に止められた。

――曰く、人間達は荷物を送るのに、ある鳥型モンスターを使役している。それなら子供一人ぐらいは簡単に送れる。薬で眠らせてしまえば、その鳥で街から街へとあっと言う間に送れる。

 如何に自分が猛スピードで転がって移動しても、空には敵わない。この世界の街道の整備はまだ未熟。街から街へと真っ直ぐに繋がってる訳では無い……どこかで蛇行してしまっている。そんな街道に沿ってしか進めない為、空には敵わない。

 だから、ユユは既にこの王都に連れ去られている筈である。


(もし、居なかったとしても、手掛かりは絶対に掴んでみせる)


 彼は冷静に燃えていた。矛盾している様だが、そうとしか言えない。『身体はホットに、心はクールに』と言うやつである。


(良しっ! レディ……ゴー!!)


 心の中で掛け声をして、まずは魔術で姿を消す。そして一気に加速――最高速に達しない程度に留める。王都に来る途中で気づいたのだが、魔術で姿を消している時に最高速度で移動していると、時折自分の姿が()()みたいに一瞬見えてしまうのだ。

 最高速一歩手前のスピードで外壁に突き進み――


(――ていやっ!)


――思いっきりジャンプ。綺麗な放物線を描き、堀を飛び越えて外壁にへばり付き、そのまま上まで登る。


(――到着)


 外壁の手摺りの上に登りきるシノブ。もし、この世界にギネスブックがあれば『史上初、王都の外壁を登りきったモンスター』と記されたであろう……姿見えてないから、誰も気づいて無いけど……

 目の前を素通りする見回りの兵士達を放っといて、王都の町並みを観察する。バカ高い外壁の上からは、王都の中心にある王城までハッキリ見える。白を基調とした荘厳な造り。どっかの夢と魔法の王国にありそうな見事なお城である。

 そして、その城から距離を置いた所にあるもう一つの壁。


(あれが、ラダさん達が言ってた、平民と貴族の居住区画を分ける内防壁か……)


 つまり、ユユが居るとすればあの壁の内側になる。彼は外壁から内側へそのままダイブ。手近な家の屋根の上に着地して、屋根沿いに飛び跳ねて移動する。


(真っ先に向かいたいけど……プロセスワン。まずは()()を探さないと……)


 屋根の上を飛び跳ねながら、街を観察する。

 野菜や果物を売っている店では店主と主婦が値段で言い争い、武器防具を売っている店では冒険者らしき男が買い換えようかと悩んでいて、道では走り回る子供達とそれを慌てて回避する巡回中の兵士。

 活気溢れる平和な街がそこにあった。


(こんな状況と、自分がこんな姿でなければね~)


 しみじみ思いながら、シノブは屋根の上を進む。




――――スライム捜索中――――


(結構、()()()ね~)


 平民街を、北へ南へ東へ西へと探し回ったシノブは、その結果に満足していた。目的のモノは数だけで無く質も良い事がわかったからである。


(それじゃ、プロセスツー。あの壁を越えよう)


 目指すは内防壁の向こう側『貴族街』。姿は消したまま、内防壁の様子を眺める。

 デカい門は今は開かれているが、そこを守る兵士も上で巡回する兵士も外壁よりも人数が多い。職務を怠る事無く堂々とした姿は実に絵になる。


(失礼しま~す)


……そんな兵士達をスルーして、堂々と門のど真ん中を通って貴族街に入るシノブ。もし、この世界にギネスブックがあれば以下略。

 貴族街の中は明らかに平民街と違っていた。比べるのも馬鹿馬鹿しいぐらいに大きな屋敷には無駄に広い庭が綺麗に手入れされており、店に並ぶ商品の値段は一桁・二桁違うのは当たり前。道に敷き詰められた石畳ですら規則正しく歪み無しの代物である。


(…………)


 その違いに思う所は色々あるが、今は目的の為に貴族街をアチコチ周るのが先だと、行動開始するシノブ。

 既に時刻は昼を回っている。残された時間を無駄にしない為にシノブは先を急ぐ。




――――スライム暗躍中――――


 日が完全に沈み、月と星が輝く夜。酒場の喧騒も止んだ真夜中の時刻に、貴族街の片隅で蠢く物体――


(――そろそろ良いかな?)


――静かに身を潜めていたシノブが動き出す。人の気配が途絶えた街中を目的地へ向けて移動する。

 たどり着いたのは、明るい内に当たりを付けていた一軒の大きい屋敷。塀を乗り越えて無駄に広い庭に侵入する。向かう先は庭の端の方に存在する物置小屋。シノブは小屋の周囲に沿って移動する。


(……あった)


 見つけたのは小さな通風口。小屋の壁の根元――地面に接する場所にソレは存在した……つまり、この小屋には地下が存在する事になる。


(侵入)


 塞いでいる格子の部分を溶かして、身体を細く伸ばして通風口へと入る。こんな時はスライムな身体で良かったと思うシノブであった。

 入ってみても、すぐに何処かに出る訳では無かった。通風口内の長さは結構長い……普通ならこんな長さは要らない。設計ミスか……()()()()()()()()()()か……


(……ビンゴ)


 通り抜けた先にあったのは……一言で言えば牢屋だった。周囲全てを石壁に囲まれた明かり一つ無い真っ暗な部屋。唯一存在する、鉄格子のドアの向こうには階段がある。スライムの暗視能力で見える牢屋の中には一人の人間の男の子が倒れていた。


(…………)


 他の人の気配は無いのを確認すると、静かに男の子に近づく。

 男の子は寝ている……のでは無く、失神していると言った方が正しい……酷い有様であった。髪はボサボサ、着ているものは服と言うよりもボロ布に近い。荒い息遣いに衰弱した身体。肌には至る所に切り傷・青あざ・火傷痕・ミミズ腫れがあり、どの様に扱われているのか一目瞭然である。

 沸騰しかねない感情を理性で何とか押し込める。今はこの子に集中しなければ。


(…………)


 包み込む様に子供の身体に覆い被さり、全身に治癒液を塗り込む。

 5分程掛けて塗り込み続けた結果、切り傷・青あざ・ミミズ腫れ・火傷痕は殆ど治せた。心なしか息遣いも穏やかなものになっている。

 心からこんな時はスライムな身体で良かったと思うシノブであった。


(出口は……あそこか)


 まずは鉄格子をすり抜けて、錠前その物を溶かして牢屋のドアを開ける。

 続いて階段を登り、最上段にあるドアに着く。ドアには取っ手らしき物は一切無い……こちら側からは開けられない造りになっている。


(ふんっ!)


 ドアにへばり付いて、最上部からドアを()()()溶かしていき、数分でドアが完全に無くなる。

 そしてホウキ・チリトリ・ハシゴ・剪定バサミ等が置かれた場所に出る。見た感じ、物置小屋の中であろう。そのまま小屋のドアを、鍵の部分ごと溶かしてドアを少しだけ開ける。


(準備完了)


 大急ぎで牢屋に戻り、男の子を身体の上に乗せる。落とさない為と、もし目覚めて暴れた時の為に、男の子の身体を自分の体内に取り込んで固定する。

 そのまま牢屋を出て、落とさない様に気を付けて階段を這い登る。魔術で姿を消して小屋から出て、手近な塀を乗り越えて外に出る。周囲に人の気配が無いのを確認すると、溜まっていた息を吐き出す……スライムに口は無いが、まあ気分的に……

 豪勢な造りの屋敷なので、警備も厳重かと思っていたのだが拍子抜けする程何も無い。運が良かったのか、平和ボケでもしているのか……な~んか後者な気がする……


(……良しっ! ここからは『一輪車モード』で行こう……)


――説明しよう。『一輪車モード』とは、上にモノを乗せている部分をサドルに見立て、それより下の部分をタイヤに見立てる事で、上に乗せたモノを落とす事無く高速移動できる形状である――


(――出発!)


 人通り皆無の道を突っ走る。魔術で姿を消していても、最高速度で移動すれば自分の姿が一瞬見える時があるのだが、皆が寝静まったこんな夜中にそんな心配は不要だと躊躇(ちゅうちょ)無く突っ走る。

 内防壁の門は閉まっていたが、アッサリと防壁を登って越える。寝ずの番をする兵士に気づかれない様に注意して。


(目的地まで後少し……)


 向かうのは平民街で探しておいたモノ――『教会』

 日が出ている内に調べて回ったが、この王都に存在する教会は数も多く、そこに居る人達も良い人ばかりであった。間違っても生臭坊主なんて者は居ない。

 そして、孤児院が併設されている所も多くあった。シノブが向かっているのはその一つである。


(――到着)


 教会自体は既に閉まっているので、裏側にある居住区の方へ周る。裏口のドアの前で子供を降ろし、伸ばした身体でドアを何度も叩く。


「――どちら様?」


 中から声が聞こえると、すぐにその場を離れて魔術で姿を消す。

 (ほど)なくして、手に明かりを持った一人の女性がドアを開ける。女性は辺りをキョロキョロと見回し、足元に倒れている子供に気づく。


「!! どうしたの?! 大丈夫?!」


 そのまま子供を抱えて、慌てて中へと戻る女性。それを見届けるとシノブは再び貴族街へと向かう。


(夜はまだ終わってないからねっ!!)




――この後、4件の屋敷から4人の人間の子供を救助するシノブであった。

 なお、余談ではあるがこの夜、平民街で数人の酔っぱらいが『地面スレスレを高速で飛行する子供の幽霊』を見たとかで暫くの間、酒を控える様になったとか……




   *   *   *


「いったい、どういう事なんだ!! 説明しろっ!!」


 とある屋敷の部屋で、高そうな服に身を包んだ若い男がソファーに偉そうにふんぞり返ったまま怒鳴る。

 怒鳴られた方――執事服を着た初老の男性は頭を下げたまま答える。


「説明しろと言われましても……先に述べた事が全てでございます……」

「僕のオモチャが無くなって……しかも、どうやって逃げたのかわからないだとっ! ふざけるなっ!!」


 そう言われても執事の男性は言葉を返す事が出来無い。

 今朝方に物置小屋のドアが空いているのに使用人の一人が気づき、その後執事の男性が呼ばれたのだが、驚きよりも困惑が優った。

 何せ、小屋の鍵に牢屋の錠前どころか隠しドアその物が消えてしまっていたのだから……

 辺りには破片も残骸も無く、文字通り綺麗サッパリ消えてしまったのである。いったいどうやったらこんな事が出来るのか、皆目見当がつかない。


「……それで、僕のオモチャが何処に行ったのかは、わかったのか?」

「……平民街の教会で保護されているようです……」

「チッ! 取り戻すのは無理か……」


 苛立たしげに呟く男。床を叩くつま先の頻度で、怒りの度合いが良くわかる。


「まあいい! また新しいのを買えば良いんだからなっ!」

「……お坊っちゃま…もうこの様な事はお止め「喧しいっ!! 次の『販売日』は何時だっ!!」……7日後です。何時も通りに『劇場』で……」

「それまでは我慢か……次のは、逃げない様に足を……ブツブツ……」


 自分の思考に没頭した男に頭を下げて、音を立てずに執事は部屋を出て行く。

 廊下に出た所で執事は重い溜め息を吐く。


(自分がどれだけ危うい事をしているのか自覚は無いのか?……いや、そもそも捕らえられていた子供が牢屋から抜け出し、誰にも見つからずにあの壁を越えて平民街の教会にたどり着くなど不可能……明らかに()()()の仕業だ。少し考えれば……いや、実際に現場をみればそんな事すぐにわかると言うのに、まだ続ける気でいる……やはり、ご領地に居る旦那様に来ていただくしかない。それも早急に!)


 眉間に皺を寄せて深く考えていた執事は、足早に立ち去り――ふと振り返る。視界に映るのは自分が出て来たドアと廊下。ただそれだけ。


「……気の所為か?」


 気を取り直し、立ち去る執事。そしてだれも居なく――


(気づかれたかと思った……あの執事さん、侮れない)


――なっていない。魔術で姿を消しているシノブが天井にへばり付いていた……最も、先程までは部屋の中で会話を聞いていて、執事がドアから出て行く時に一緒に出て来たのだが。


(『7日後に何時も通りに劇場で』……か。プロセススリー、成功)


 今回の救助劇の目的。それは子供達の救出と、その後の貴族達の動きを見る為である。

 人間、モノが無くなれば、また新しいモノ手に入れようとする。(ゆえ)に、奴隷がいなくなれば、また新しい奴隷を手に入れようとする筈。

 それについて行けばユユの居場所に辿り着けると考えていたのだが……アッサリと会話からわかってしまった。


(劇場って……アレかな?)


 貴族街をアチコチ移動している時にそれらしい建物を見たが、おそらくソコだろう。

 廊下の窓を開け、外に出るシノブ。そのまま塀も乗り越えて出て行く。


(7日後か……)

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑はお休みです

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