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頼み事である!でもその前にする事ない?

人の心理とかを表現するのがホント難しい……上手く書けてるんだろうか?


序盤の料理の知識は、学生時代の調理実習からです……失敗ばかりだったけどね……

 季節は移り変わり、落葉樹から紅葉した葉が落ちて、太陽の出ている時間が短くなった(わび)しい季節――冬。

 そんな冬の寒さの厳しい朝。とあるエルフの村の中。とある家の、とある部屋の少女が寝ているベッドの中から出てくるモノ。それは――


(1~2~3~4♪ 2~2~3~4♪)


――当然の事ながら、我らが主人公、シルバースライムなシノブである。彼は、ここ最近は毎日エルと一緒のベッドで寝ている。しつこいようだが、彼はロリコンでは無い。

 事の発端は冬に入ったばかりのある朝。起きてみると彼の身体が固くなっていた――()()で。

 スライムは粘液状生物。寒さで凍ってもおかしくは無い。その対策として、エルが非常に非常~に()したのが、一緒に寝る事である。

 流石にシノブも自分の命に関わりかねない事なので、毎日一緒に寝る事を承諾している。

……ちなみに、この朝の体操も身体が固くなっていないかを確かめる役割が付与されている……本人的には死活問題である。


(――――良し!! エル~、朝だよ~)




   *   *   *


 朝食――川魚とキノコのスープ――の後、皆はダイニングルームに残ってまったりと過ごしていた。

 アムリナは、のんびりと茶を啜っている。身体が芯から温まる薬草茶、冬にオススメの一杯である。

 エルはパズルで遊んでいる。流石に子供と言えど冬の寒さの中、外で遊ぶのは厳しいものがある。現に家の中でもストールの様な厚手の布を羽織るのが標準装備になっている。

 遊んでいるのはシノブが教えたパズルである。枠の中に16マスの正方形。一つだけ取って、空いてる隙間にずらしていって元通りに直す簡単なパズル。作り方も簡単なので、こういうのが有るんだけど、と教えてみたら子供達が意外とハマってしまったのである。今は数字を順番に並べ直すタイプだが、描かれた絵を元通りに直すタイプも大人達の手で鋭意製作中である。

 セムイルはパズルに夢中の娘を優しくフォローしている。時折、『アチラを立てればコチラが立たず』な状況に陥ると、その(たび)にヒントを出している。

 そして、カレリナとシノブは……料理中である。勘違いしないで欲しいのは、スライムが包丁を握っている訳ではない。単に、前世のレシピを教えているだけで、実際に調理しているのはカレリナである。

 レシピの内容は『マーマレード』。冬になって森で採れるようになった果実が柑橘系に似ていた――色は水色――ので話してみた所、試してみようという事になり現在進行形で調理中である。

 この世界での果物の保存方法は干してのドライフルーツか、水属性の魔術で凍らしてのフローズンフルーツしか無いらしいので、実の所、皆揃って興味津々だったりする。皆がダイニングルームに残っているのもその所為である。


「――で、皮を細かく切って鍋の中で水に浸しておくのね? 果肉の方はどうするの?」

“こまかくしておいて、かわをにこんだあとにくわえるんだよ”

「どのくらい煮込んだ後で?」

“かわがやわらかくなったらいいよ。そのときにあまいじゅえきもくわえてさらににこむ”

「最終的には、どんな感じにすれば良いのかしら?」

“すこしどろっとしたかんじでいいよ。にこみすぎると、ひえたときにかたくなるから。あとは、おゆにつけておいたびんにいれるだけ”


 シノブの説明に従って調理していくカレリナ。順調に作業が進む中――


「邪魔するぜー」


――玄関の方から声が聞こえた。そして、足音が徐々に近づいて来て、誰かがダイニングルームに入ってくる。


「お早うさん。朝早くから失礼するぜ、村長」


 入って来たのはアーバンであった――腕に鳥を乗せて。

 以前襲われた黒いフクロウでは無い。体長30センチ程の青い羽毛に覆われ、カワセミに似た大きく湾曲した(くちばし)を持った鳥である。


「ふむ……()かの? ()かの?」

「いや……西()だ」

「西? 獣人から? こんな時間に珍しいのぉ……エル、スマンが()()を取ってきておくれ」

「……ん」


 アムリナの問いかけに答えるアーバン。その返答に若干の驚きを見せながらも、アムリナはエルに頼む。エルは頷くとダイニングルームを出て行く。


“ちょっといい?”

「何かしら?」


 シノブの問い掛けに、調理から目を離さずに答えるカレリナ。


“ひがしやきたって?”

「村の在る方向よ。私達エルフの、ね。でも西は別。『獣人族』の村落が在る方向よ」

(獣人…………見てみたいな~)


 新たなファンタジー要素に、密かに心を燃やすシノブであった。


“あのとりは?”

「あれは……もうちょっと待ってればわかるわ」


 と、話している間にエルが戻って来る。その手に持っているのは、つい先日までシノブもお世話になっていた文字版。

 その文字版をテーブルに広げると、アーバンが腕に乗せていた鳥をテーブルに乗せる。次の瞬間――


(おおおお?!)


――鳥が次から次へと、文字版の文字を(くちばし)で突っつき始めた。


「あの鳥はタイプバード。記憶力が良くてね、指で叩いた文字の順番を覚えていられるのよ……そして、送った先でああやって再現してくれるの……ただ、その分、飼うのに手間が掛かるけど……」


 説明を聞いてる間にも、タイプバードは文字を(くちばし)で突っつき続ける……既に突っついた文字の数が50を超えてる……この鳥スゲェ!


(ペースが落ちない……)


 その後、たっぷり100近い文字を突っついてタイプバードの作業が終わる……ドヤ顔に見えるのは気の所為だろうか……


「ご苦労さま」


 事を終えたタイプバードにセムイルが餌――マーマレード造りで余った果実――を与える。美味しそうについばむタイプバード。


「……ふむ。難儀な事になっとるようじゃの……」

「同感だぜ……」


 そして、伝えられた内容に渋い顔をするアムリナとアーバン。

 調理の方に意識を向けていたカレリナが二人に尋ねる。


「何かあったの?」

「ちょっとした騒動じゃの……その所為で、家畜達の多くが怪我を負ってしまったので、手持ちの薬だけでは足らんそうじゃ……」


 カレリナの問いに答えるアムリナ。それに続けてアーバンとセムイルも会話に加わる。


「でもよ……これは、ちょっとばかしキツくないか……」

「そうだね。難しいね……」

“何が?”


 二人の態度に疑問を持ち、問いかけるシノブ。


「どうも、結構な数の家畜が怪我してるみたいなんだよね。だから、必要な薬の数も多い……」

「だが、急ぎの用でもあるんだよな。かと言って多くの薬を運べば、それだけ輸送にかかる時間がなぁ……」

「時間を優先すれば数が……数を優先すれば時間が……アチラを立てればコチラが立たずじゃ。う~~む……」


 そして、三人揃って唸り出す――


「……………………」

「「?」」


――のも束の間。アムリナが顔を上げ、とある方へ視線を向ける。つられて二人も。

 視線の先には銀色のスライムが一体。


(……………………ていっ)


 三人の視線に耐えかねたのか、光属性の魔術で自分の周囲の光を操作して姿を消すシノブ。


「いや。今更、姿を消しても遅いんじゃが……」

“やっぱり?”


 アッサリ姿を現すシノブ。そんな彼にアムリナが、アッサリ風味な重大発言をする。


「シノブ……お主、獣人達の村に行ってもらえんか?」

(……やっぱり)


 そうきたか~、と半ば以上予想通りの言葉に平然とするシノブ。

 獣人達の村へ速く、多くの薬を届けないといけない。通常ならば難しい事なれど、ここに居る銀色のスライムならば解決する。

 転がっての移動スピードは中々に速いし、スライムだから疲労も無い。そして、食事さえ与えれば半永久的に治癒液を生み出す。要求は満たしている。満たしているが――


“もんだいが”

「何じゃ?」

“ぼくがいって、だいじょうぶなの? もんすたーだよ?”


――根本的な所で大問題である。いくらこの村の連中に好かれていようが、知能が有ろうが、前世は人間だろうがIamスライムである。向こうに行っても退治されるだけなのでは……


「その事なら大丈夫じゃ。むこうも、お主の事は知っておるからの」

(何故にWhy?!)

「以前から獣人達との連絡のやり取りで、お主の事を話しておったんじゃよ」

(……何時の間に……)


 シノブは知らない事だが、水面下で密かにアレコレやっていたアムリナ達である。現在、人間以外の種族全てに彼の事は伝えてあって、皆から興味をもたれており一目見たいと思われていたりする。


「――と言う訳で、行ってくれるかの?」

“こじんてきにはいってみたいけど”

「けど……何じゃ?」

“もうひとつもんだいが?”

「? 何の事じゃ?」

“あれ”


 彼が伸ばした身体で指し示した先。そこには――


「ーーっ!!」

「「「あっ」」」


――なんか涙目でコッチに必死に訴えているエルが居た。




   *   *   *


 少しばかり時が経ったエルの部屋。重苦しい雰囲気の漂うその場所では――


“だから、いっしょにはいけないんだよ”

「やだっ!!」


――現在進行形で説得中のシノブと、ダダをこねまくりのエルが顔を突き合わせていた。

 部屋に居るのは一人と一体だけである。あの後すぐに、エルが彼を連れて部屋に閉じこもり徹底抗戦の構えを取ったのである。

 他の皆は、部屋に連れ込まれる前に視線で、エルの説得を頼んだと託してきた……信頼しているのか……面倒事を押し付けたんとちゃう?


「エル、いっしょに、いく!」

“だから、こんかいはむりだって”


 議論は平行線を辿っていた。まあ、感情剥き出しの子供に理論的な言葉で説得しても、通じないのはわかっているのだが……


(わかってた事だけど、どうしよ?)


 彼女の自分への依存度の高さはわかっていた。時々、セムイルが複雑な顔をしている程に……ガンバレ、パパさん!

 時間を掛けてどうにかしようとしていた所に今回の急用。本当に悩み所である。

 一緒に行くのは論外。少女とスライムの二人?旅……怪しい事この上無い……

 かと言って、他の人を連れて大勢で行くのなら自分が行く意味が無くなる。今回、自分が選ばれたのは()()辿り着けるという点も含まれているのだから、大勢ではスピードが落ちる。

……説得を諦めて行っちゃう……悪手である。自分を追い掛けて、村を密かに出て行くに決まってる。エルには前科が有るので間違い無い。ここでの説得を成功させねば、安心して獣人達の村へと行けない。


“ねえ?”

「……なに?」

“なんでいっしょにいきたいの?”

「はなれる、イヤッ!」


 シノブの問いに即答するエル。わかりきった答えに内心苦笑いのシノブ。


“なんでぼくとはなれるのがいやなの? あむりなさんたちやともだちだっているのに?”

「……いつも、いっしょ、いられない……みんな、あわせる、ときどき、つかれる……」


 訳すと、いくら家族と言ってもそれぞれやる事が有るので、常に一緒にいられる訳ではない。友達と言っても皆に合わせるのは時々疲れを感じる。といった所であろうか。

 確かにシノブは、治癒液の提供以外ではやる事なんて無い――て言うか出来無い。行動もエルに合わせてしている――そりゃ、中身は人間の大人だし。ある意味では、エルの依存度の高さはシノブの所為とも言える。


(でも、いい機会だよね。次に進むには……)


 大人へのステップその一だと、エルへの説得を再開する。


“えるはぼくといっしょにいたい。だからいっしょにいきたい”

「ん!」

“でもいっしょにはいけないのはわかるよね”

「…………ん。でも、いやっ!」

(やっぱり、わかってはいるんだね……感情が納得出来無いだけで……)


 なんだかんだで頭の良い子だからね~、と思いながら説得を続ける。


(こういう時の方法その一……押してダメなら引いてみる)

“わかったよえる。ぼくはいかない”

「……え?」

“あむりなさんたちにはそういってくるね”


 そうして部屋を出て行こうとして――


「――だめっ!」


――エルに止められる。身体ごとダイブしての、しがみつきハグ。かなりの力で抱きついているので、シノブの身体が少し歪んでいる。


“(良しっ!)なんでとめるの?”

「…………」

“そうすればえるといっしょにいられるんだよ?”

「…………こまってる」

“ん?”

「…………じゅうじん、こまってる」

“うん”

「…………しのぶ、いかないと、こまってる」

(成功!)


 何でもいいので相手の頭を冷やして、感情的思考から理知的な思考に変える。そうすれば元々頭の良い子なので、ちゃんと考える事が出来る。

 伸ばした身体でエルの頭を撫でながら説得を続ける。


“そうだね。こまってるね”

「……うん」

“だからぼくがいかないといけないよね”

「……うん」

“なら、えるはがまんできるよね”

「………………うん」

(良く出来ました)


 ヨシヨシと頭を撫でながら、内心で微笑むシノブである。


「でも、やくそく」

“ん?”

「やくそく、ぜったい、もどって、くる」

“うん。やくそく”


 そうして、頭を撫でていた身体をしがみついているエルの手に移動させ、指切りの形に持っていく。


「……なに、これ?」

“こうやってやくそくしたら、やぶるとはりをせんぼんのまないといけないんだよ”

「――っ!!」

“だからぜったいやぶっちゃだめ”

「ん!」


……スライムなら針を千本呑んでも平気なのでは?……指摘する者はこの場にいない……

指切りを終えて、アムリナ達に結果報告に行こうとして、ふと前から思っていた事を聞いてみようと、シノブはエルに尋ねる。


“ねえ”

「……ん?」

“なんで、えるはそとがこわいの?”


 子供とは基本的に『好奇心旺盛な生き物』である。だから、外へと出ようとするのが自然なのである。

 では、内向的で家の中に居る方が好きな子供は何なのかと言うと、『外に対して恐怖を持っている』のではないか? というのがシノブの考えである。

 『外への恐怖』が『外への興味』を上回っている所為で外に出ない。あくまでも、過去の経験からのシノブ個人の考えではあるが……

 もしこの考えが当たっていれば、エルは昔、何か怖い目にあった事が有るはずなのだが……


「……えっと――」




   *   *   *


「「「おかえり」」」


 暫くして戻って来たスライムをダイニングルームで迎える三人。アムリナが代表して尋ねる。


「結果はどうじゃ?」

“いちおうなっとくしてくれたよ”

「そうか。スマンの」

(…………)

「「「――?」」」


 何か反応の薄いシノブに、アムリナ達が揃って首を傾げる。


“えるふってちょうじゅだよね?”

「……うん? そうじゃの、寿命で言えば700~1000年ぐらいじゃが?」


 突然の脈絡無しの質問に律儀に答えるアムリナ。周囲の困惑に構わずシノブは質問を続ける。


“なら、としのさふうふってめずらしくない?”

「100歳ぐらいなら珍しくないわね」

「中には約200歳差の夫婦もいるしね」

“やるばんってなんさい?”

「あやつは、まだ50も生きてない若造じゃが?」

(……………………)

「「「――??」」」


 訳がわからない質問ばかりで、困惑を深める三人。何故かシノブも似たような感じであるが……


「のう……さっきから一体何なんじゃ?」

“えるがないこうてきになったりゆうをきいてみたんだけど”

「「「えっ!」」」


 エルが内向的になった理由? 生来の性格の所為じゃなくて?

 驚く三人を他所にシノブは続ける。


“なんか、そとにいくとやるばんにいつもあったんだって”

「「「…………」」」

“いくさきざきでまちかまえてたって”

「「「…………」」」

“じぶんをみるときのめがほかのひとをみるときとちがってこわくなったって”

「ちょっと出かけて来ます」


 言うなり早々に部屋を出ていくセムイル。あっと言う間にその背中がドアの向こうに消える。行き先は……聞くまでも無い。


「……そう言えば彼。エルには優しかったわね……エルだけには……」

「……あやつがお主を目の敵にした理由は……嫉妬じゃったんか……」

(……彼はロリコン……だったって事?)


……後に残されたのは何とも言えない雰囲気に陥った二人と一体であった。


“ぼくはえるのところにもどるね。むらをはなれるまでは、いっしょにいてあげるやくそくだから”

「「お願い(じゃ)」」


 目一杯甘やかしてあげようと心に誓うシノブ達であった。









「何なんですかっ、セムイルさん! いきなり! ちょっ! その笑顔怖いんですけど! 何その殺ス笑ミ! あっ! 待って! ちょっと待って! お願いだからっ! 誰か! 誰か助け――アアアアァァーーーー!!!!」

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑(まだチャージ中)


――――タイプバード――――


体長30センチ程の青い羽毛に覆われた鳥。カワセミに似た大きく湾曲した嘴が特徴。

知能と記憶力が高い為、文字版と組み合わせる事で伝書鳩的な事が可能になる。

ただし、知能が高いので世話を(おこた)ると、すぐにへそを曲げるので注意が必要。


…かつて、ちゃんと世話されてないタイプバードが相手先に向かっている途中で捕まり、美味しい餌を与えられたらアッサリ伝える内容をバラしたとか…

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