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卑怯である!マナー違反じゃ済まない

戦闘描写? スライムが? バカ言っちゃいけねえぜ、お客さん。

スライムはスライムなんだぜ。

 秋も深まるのを通り過ぎ、冬の気配が見える今日この頃、夜のとある家のとある部屋では……


「おおぅ……そこじゃ、そこ……もう少し強めで…………あ~いい感じじゃ……」

(だいぶコってますね~お客さん……な~んてね)


……マッサージされる初老のエルフと、マッサージする銀色のスライムがいた。

 ベッドにうつ伏せに寝るアムリナの背中の上で、器用に身体を蠢かせて肩・腰・背中・脚に至るまで入念にマッサージするシノブ。

……余談だが、このマッサージ意外と人気が有り、他の家に出張したりもしている……たかがスライム、されどスライム。中身が人だと侮れない……


「――あ~、もう十分じゃ、ありがとうのぉ」

(どういたしまして♪)


 身体を起こし、グッと背を伸ばすアムリナ。実に良い笑顔である。シノブも良い仕事したと、内心で満足気である。

――と、部屋のドアがノックされ、お風呂上がりのエルが顔を出す。


「……ん、あがった」

「おお、わかったぞ。それじゃ、風呂に入るとするかの……また頼むぞ、シノブ。それと、おやすみエル」

(わかったよ)

「ん、おやすみ」


 身体をフリフリ振って了承の合図を送るシノブと、その直後に彼の上に乗っかって軽く挨拶をするエル。

 その後、彼女を乗せたままシノブは部屋を出て、廊下を渡りエルの部屋へ向かう……若干、エルの密着度が強いが……


(全くもう。コレばっかりは仕方が無いって言ってるのに…)


 エルの密着度が強い理由……まあ、ぶっちゃけて言うと不機嫌なのである。理由は単純、一緒にお風呂に入れないからである。

 エルとしては一緒に入りたい。それだけ彼に懐いているし、家族からも一応、OKは出ている。

 シノブとしても別に構わない……断っておくが、彼はロリコンでは無い。ロリコンでは無い。ロリコンでは無い。大事な事なので3回言いました。単純にそういった事を含めて、子供の世話に関して()()で慣れているのである。

 彼にとってエルは庇護の対象であり、情欲の対象にはならない。なる訳無い。なっちゃならない。

 しかし、一緒にはお風呂に入れない――『入らない』ので無く『入れない』のである。

 理由は……彼がスライムだからの一言に尽きる。風呂に入れば当然、お湯を浴びる――しかし、スライムの身体が浴びたお湯を、水分を取り込んでしまうのである……()()()()

 結果、『巨大化』してしまうのでお風呂には入れない。その事にエルは理解しているが納得はしていない……まあ、子供だから感情を押さえ込むなんて無理に決まってるし……


(懐いてくれるのは良いんだけど……ちょ~とばかり依存度が強いのが、気に掛かっちゃうんだよね~)


 何せ、基本一緒に居るのだから……トイレと風呂を除いて。外で遊ぶようになったと言っても、彼が一緒だから遊んでいる感じなので、仮に彼が家から出なかったら彼女も家から出ないだろう……そこが心配なのである。自分以外の友達をちゃんと作って欲しいのだが……


(……まあ、すぐにどうにか出来るものでもないし……気長に行こ)


 そんな事を考えてる内に部屋へと到着。エルはシノブから降りてベッドに入る。


「ん……オヤスミ」

(はいはい、おやすみ)


 枕元で、器用に伸ばした身体で頭を撫でるシノブと満足気なエル。すぐに彼女は眠りに落ちる。

 それを見届けると彼は静かに窓を開け、外に出るとすぐ閉める……ここは2階なので、壁にへばり付いたまま……

 そして、壁を滑り降りると、人気の途絶えた村の中を外側へ向けて移動する。

 行く事数分、村から少し離れた所で『特訓』を開始する。




――――スライム特訓中――――


(…………今日もダメだった……)


 特訓する事一時間。彼は今日も成果の出ない事に内心で溜め息をつく。

 あれから一週間、彼は魔術の特訓を続けていたが、結果は(かんば)しくない。魔力らしきモノを自分の内側に感じ取れるのに、外側に出そうとすると相変わらず治癒液・溶解液が出てしまうのである。あと一つ何かを掴めれば……しかし、ソレが掴めない……そんなヤキモキした状態が続いている。

……ちなみに、こんな夜に特訓をしているのは隠している訳では無い。単に、この時間しか出来無いからである。

 理由は単純。前述したようにエルが『基本一緒に居る』からである……特訓中でも。そんな状況で治癒液ならともかく溶解液を出したら危ない事この上ない。ついでに家の中でやると家具だけで無く床板も溶ける。

 昼間、エルがお昼寝の最中にやろうと外に出れば、他の子供に捕まる。

 以上の理由から、夜にエルが寝た後で外で特訓しているのである。


(やっぱり、ボクの『属性』がわからない所為かな~)


 何と言っても銀色なスライム――何属性なのかサッパリわからない。

 自分の属性がわからない事で、常に『これで正しいのか?』と言う疑惑が付きまとい、魔術を使う時のイメージが確固たるモノになっていないのではないか? と言うのがアムリナの談である。


(あ~、何か良い手はないかな~…………ん?)


 アレコレ考えていると物音がしたので、そちらに視線を向けようとしたら――


(――お?)


――袋を被せられて――


(――おお?)


――そのまま袋に入れられ、持ち上げられ――


(――おおお?)


――激しく揺れる袋の中で揺さぶられ――


(――おおおお??)


――袋ごと振り回され――


(――おわーーーー!!)


――宙を飛ぶ浮遊感を感じるのも束の間――


(――――あぅ!!)


――地面に激突。1、2回バウンドして止まる。



(…………何事? とにかく外に出よ……)




 取り敢えず、自分を包んでいる袋を溶かして外に出る。出てみれば、そこは当然森の中――村の外である。

 袋を見てみると、口の部分に長~い縄が結ばれている。おそらく、この縄を持ってハンマー投げの要領でぶん投げたのだろう……


(マイッタなぁ……サチャの木の()()まで飛ばされたみたい……戻ろうにも戻れないや……)


 中々の馬鹿力で投げられたらしい。そして、こんな事をした人物には心当たりが有る……つーか、アイツしかいない。


(……ところで彼、いったい何がしたかったんだろ?)


 文字通り、村から放り出したのはわかるが、朝になれば自分がいない事はすぐにわかる。そうなれば……自慢ではないが村での彼への評価は高い。皆で探してくれるだろう。流石に村の外に居る事まではわからないだろうが、それも時間の問題である。何せ、森に薬草等を採りに行く人達に合流すれば良いだけなのだから……

 正直な所、詰めが甘いと言わざるを得ない……


(……イマイチ目的がわからないや――――ん?)


 再び、物音らしき音がしたのでそちらに視線を向け――


(――なっ?!)


――る間も無く、()()()()()()()()()


(何がっ?!――取り敢えずあそこにっ!)


 切り裂かれた身体を瞬時にくっつけて、手近な木の根元に身を隠す。そして視線をアッチコッチに彷徨わせるも、何も見つけられない。

 暗視能力が有るにも関わらず、視界に映るのは静かな夜の森だけ。生き物は一つも見当たらない。


(…………)


 気配を殺し、静かに佇みながら視線を動かすのは止めない。先の攻撃は間違い無く『切断』に属するもの……粘液状生物である自分にとっては痛くも痒くもない。すぐに元通りになるのだから……

……だが、先の攻撃は鋭すぎた。もう少し強ければ一刀両断されていてもおかしくはなかった。もう少しズレていたら自分の『核』を両断されていた。その事実に心がひどく冷静になる。

――この世界に生まれて、ある意味()()()と言えよう。スライムである自分を積極的に殺しに来るモノと対峙している現状は――


(……成程。コレがボクをここに放り投げた理由か……いわゆる、MPKってやつだね……)


 自分の手で殺さずに、他のモノの手で殺してもらう事で言い訳が出来る。

 村の中で殺そうとすれば、何時・誰に見られるかわかったもんじゃない。しかし、今回の件で言えば、犯人は夜に袋をぶん投げただけ……その袋に自分が入れられていた証拠が無ければ、いくらでも言い逃れが出来る。それが犯人の狙いなのだろう。

――以上の点をふまえると……


(……このモンスター、かなり危険って事だよね……ボクを()()に殺すと信じてるからこそ、ここに放り投げたんだね)


 考えながらも視線は忙しく動かしているが、相手の姿は見当たらない。この森で出会った事があるモンスターはトカゲ・蛇・蟻・クマ・蝉。しかし、このモンスターはどれでも無い。ならば、まずはこのモンスターがどんなモンスターかを知らなければ対策の仕様もない。

 ゆっくりと身体を上に伸ばし、治癒液を適当な方角に放つ――放物線を描いたソレは宙にあるうちに、飛んで来た何かに襲われる。


(――!! 鳥?! それも真っ黒な!!)


 視界に捉えたのは頭から尾の先まで真っ黒な鳥らしきモンスターだった。音も立てずに現れたソレは、そのままのスピードで木々の隙間を通り抜け何処かへ消える。


(速いっ! この暗い夜の森をあんなスピードで飛び回れるなんて!)


 自分が見れたのは翼と爪が有る事だけ……その二つから鳥らしいと判断出来たに過ぎない。実際、どんな鳥かと聞かれても答える事が出来無い。今が夜だとか、相手が真っ黒だとかを差し引いても速すぎる。

 それに加えて羽ばたく音も風切り音もしなかった……詰まるところ――


(――逃げの一手しか無い……けどそれも難しい……ハァ)


 撃退は論外――溶解液を飛ばしてもあのスピードじゃ当てるのはまず無理。身体の表面に、溶解液を汗のように滲ませておいても、あのスピードじゃやっぱり意味無し。むこうの爪が溶ける前にこっちが引き裂かれる。

……かと言って、逃げようにもあっちの方が速いし、どこから襲って来るのか見当が付かない。そもそも、どこへ逃げれば良いのか……村へは入れないし、このモンスターの縄張りがどこまでなのかもわからない。


(このまま、ここでジッとして朝を待つ……のは流石に無理っぽい。なら――行くしかないよねっ!)


 どこまで行ったら良いのかわからないのなら、わかる所までどこまででも行ってやる!

 決意した彼は自分の出せる最高スピードで走り出す。それは、もはや転がると言うよりも、バイクのタイヤの様にホイルスピンを起こしかねない程の『疾走』であった。

 しかも、可能な限り蛇行を繰り返し木々の間を走り抜ける。相手に狙いをつけ(にく)くする為に。


(――――おっと!!)


 すぐ後ろを何かが通り過ぎた気配にヒヤヒヤしながらも動きは止めない。むしろ、躱せた事に心の中で喝采を上げる。むこうはこちらを捉えきれてない。このまま行けば――


(――っ?!!)


 胸中に湧いたイヤな感じに従い、強引に方向転換する――一瞬の後に自分が居た場所を、進もうとしていた方向から来たモンスターが通りすぎる。

 さらに続けて襲って来るのを高速蛇行で躱すが――


(――襲いかかって来る方向が似かよってる……誘導されてる? ボクを縄張りの外に出さないつもりだ……この鳥、頭が良い)


 ある方向に行こうとすると、必ずそちらに行かせない様に襲って来る事からわかるが、それがわかってもどうしようもない。


(強行突破するしか無いのかな――って?! えええぇぇ!!)


 心の中で大絶叫して急停止する。それもその筈、行く手前方を大きな倒木で完全に塞がれていたのだから……だがそれは――


(――っ!! 来る!!)


――相手からすれば絶好の機会。

 視線を後ろに向ければ、既にそこには眼前に迫る黒い鳥の姿が――


(――――)


 視界に映る全てがゆっくりと動く只中。彼は数瞬後の引き裂かれた自分の姿を幻想して――


(――――っ)


――感情が沸き立った。

 自分が死ぬのは良い。ソレは良い。しかし、自分が死ねばあの子が悲しむ。それはダメだ。それでは変わらない。

――()()繰り返すのか?――


(――却下ーーー!!!!)


 感情の赴くままに相手に飛び付き、そのままへばりつく。黒い鳥は彼がそんな行動に出るなど予想していなかったのか、彼がへばりつくのを躱す事も出来ず、増えた重量と狂ったバランスをどうする事も出来ずに――そのまま地面に激突して1、2回バウンドして止まる。


(…………思わず飛びついちゃったけど……結果オーライ?)


 取り敢えず、へばりつくのを止めて離れる。黒い鳥は動かない……ピクピクしている所を見ると、生きてはいるらしい。

 より詳しく調べてみたいが、如何せん、明かりが無いので難しい。


(明かりが欲しいよ……こう、パァッと――)


――そう思っていたら、ホントに明かりが灯った。


(……あれ?)

ご愛読有難うございました。


本日のモンスター図鑑。


――――黒いフクロウ(ラピッドオウル)――――


体長1メートル程のフクロウ。夜行性。

全身を黒い羽毛で覆われている上に爪まで黒い。飛行速度も速いので、夜では姿を捉える事が非常に困難で、大抵の者は気づく事無く鋭い爪で引き裂かれる。

昼間は寝ているが、夜になると縄張りに入った者を確実に仕留める優れたハンターと化す。

ただし、子育て期間中は子供の餌確保のため、昼夜問わず縄張りに入った者を襲うので注意が必要。

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