現状把握である!現実はそんなに甘くない
続けて二話目。一応プロットはあるけど、ホント文にするのが難しい……
(………………んん?)
――眠りから覚める。どれくらい眠っていたのか、寝起きの頭ではよくわからず、目の前もぼやけて良く見えない。
(え~と? うぅん? あ~?)
頭がはっきりしないので、思考もまとまらない。そんな風にウンウン唸っていると、ようやく目がはっきりと見えるようになった。
まず目に付いたのは、緑。人の背丈を軽く超える木々。その木々の隙間を縫うように生える草花。一目見て森と分かる。それも人の手が入っていない純粋な森。
視線を横にずらすと森が続くが、ある程度ずらすと川が目に入る。幅は3~4メートル程の小さなもので、川の向こう側も森だらけ。そのまま視線をグルッと一回転しても、相変わらずの森、森、森である。
そうして、今自分は『森の中に流れる川の畔』に居ると分かる。
(ここドコ? 何でこんな所に?)
ようやく、頭の方もスッキリ、ハッキリ、しっかりとしてきたので、目が覚める前の事を思い出そうとして――思い出す。
――自分の死――白い世界――管理者を名乗る光球――異世界への転生――
そこまで思いだして、自分が今何処に居るのかも理解する。
(ここが異世界? なんか実感が湧かないよ)
なにせ、木や草花といった自然ばっかりなのだ。その植物もパッと見、普通に見えて異世界らしさがドコにも無い。とりあえず、それは今後に期待して、彼は自分がどれだけ前世を覚えているのかを調べる事にした。
――――数分後――――
(う~ん……微妙……)
正直そうとしか言えない。前後の脈絡無しの、虫食い状態が多いのである。
――ダレかと話しているけど、ダレなのか、いつ知り合ったのか思い出せない――
――ドコかに居るけど、ソコがドコなのか、どうやって行ったのか思い出せない――
――ナニかをしているけど、ナンの為に、ダレの為にしているのか思い出せない――
だが、特に思い出せないのが、『自分の名前』である。自分がどんな人物かは思い出せても、名前だけがどうやっても出てこない。
(…………でも、もうボクは転生しちゃったし……もう、昔の名前は必要無いよね。それに、大事な記憶はしっかりと残ってるし)
ソレが残っていてくれたなら名前が思い出せなくてもいいや、と彼はあっさり判断する。
(よし!!)
気合十分。取り敢えず、どっちに行けば森を出られるのかと、改めて周囲を見渡す。
しかし、見えるのはすぐ近くを流れる川と木々だけで他には――
(ん?)
――そこで、ふと疑問に思った。目が覚めた時、一番最初に目に入ったのは木々だった――
――起き上がっていないのに?
(あれ?)
こういう時は「知らない天井だ……」みたいに最初に空が目に入らないとオカシイ。仮に横に寝転がっていたとしても目に映る景色も横になっているはず。しかし、さっきから見ている景色は正常である。
(ちょっと待って……そういえば、さっき……ボクは何をした?)
彼は自分のした事を思い返す。
目覚めてすぐに周囲を見回した。視線をグルッと一回転して――
――360度。
(―――――――!!)
そもそも、どうして自分は一人で森に居る?
――転生……生まれ変わったのに? 親は?
(まさか……! 確認! 確認しないと!!)
すぐ近くを流れる川。そこまで行けば自分の姿を確認出来る、と彼は起き上がろうとして――
――出来なかった。と言うか、身体が思う様に動かせない。
(ああもう! 何でも良いからとにかく動いて!!)
感情の赴くまま、ガムシャラに身体を動かす。すると、ゆっくりとだが少しずつ川に近づいて行く……気分は手足を縛られたイモムシ状態である。
数分間掛けて、ようやく川にたどり着くと、彼は身を乗り出して川に映る自分の姿を確認する。
(………………………………)
そして、しばしの沈黙の後――――
(はああああああぁぁぁぁぁ??!!!!)
――――声なき心の叫びを張り上げた。
異世界生活一日目。転生した彼が真っ先に知ったこと。それは自分の種族。
水面に映ったその姿。色は青。形は不定形のドロドロ。口無し、顔無し、手足無し。
人は『ソレ』をこう呼ぶ―――――
――――『スライム』
* * *
(管理者さん……異世界で自分の運に賭けると言いましたけど……賭けに負けちゃった……ハハ、前世の皆。ボク、スライムになっちゃったよ……)
落ち込んでしまうのも無理もないと言えよう。人以外の種族に生まれてしまう事も有ることを覚悟していたとはいえ、よりにも寄って『スライム』なのだから。
『スライム』――大抵のゲームでは最弱のザコキャラ扱いされるモンスターである。種族的にはかなり低い、て言うか最低の部類であろう。
(…………イヤイヤ! 前に居た世界とは違う人生を送れる! それが異世界転生の醍醐味! なら、スライムに転生したのもある意味幸運だよね!!)
……どう考えてもヤケクソにしか聞こえないが、この場にそれをツッコむ者も居らず。ハイテンションのまま彼は続ける。
(よし! まずは、この身体の事を確認しよう!)
これから長い付き合いになるんだ、と彼は改めて水面に映る自分を確認する。
(青いドロドロとした身体……そんな大きくないね…内側に有るのは核かな?)
パッと見て身長、て言うか高さは30センチ程。身体の直径も同じぐらいである。力を抜くとベタ~と広がり高さが20センチぐらいに落ちて、直径も広がる。
そんなドロドロな身体の内にピンポン玉ぐらいの大きさの球体が浮いている。試しに視線を横に動かすと、球体も横に回転する。視線を上に動かすと、球体も上に回転する
(これで見ているのは間違い無いみたいだね。じゃあ、もう一つ確認)
視線を横に動かし続ける。すると、止まる事無く一回転して元に戻る。今度は上に動かし続ける。やはり、止まる事無く真上・真後ろ・真下と一回転して元に戻る。ちなみに、視点はそのままで上下逆さにも出来たりした。
(どれだけやっても目が回らないし、視力も良いね。次は、身体の動かし方だね)
とりあえず、身体を揺すってみると、水面に映った自分の身体も揺れる。身体の右に重心をずらすと、潰れる様に右に少し移動する。重心を中心に戻すと身体も元通り。しかし、元いた場所から少し動いている。
(なるほど。こうすれば動けるんだ。さっきは無我夢中だったしね)
視線は水面に固定して、身体を横に移動させて動きを確認する。まるで、鏡の前で踊り、姿勢を確認するダンサーみたいである。
――――スライム練習中――――
(う~~ん。コツはつかめたかな? 綱引きの要領でやればいいんだね)
普通に動くよりも、身体を揺らしてその反動で動いた方が、より大きく移動出来る事が判明した……それでも、一度に10センチぐらいであるが……
(さてと、それじゃ今度は身体の形を変えられるかな? 実験、実験~♪)
不定形な身体なら、色々と形を変えることも出来るはず、と彼は試してみる。
――――スライム実験中――――
(……ダメじゃん……と言うか無理……フゥ)
とりあえず手の形を作ろうと、変形させる為に身体の一部に力を込めてみると、力を込めた部分が盛り上がってくる――が、それだけである。どんなに頑張っても、手の形を作れないどころか、山なりの形にしかならない。
(…………たぶん、根本的に粘度、と言うか強度が足りてないんだね)
形を作れても、その形を維持する事が出来無い。維持するにはこの体は柔らかすぎる。どこかの物語みたいに身体の一部を伸ばして、攻撃とか物を掴むとかは不可能なレベルである。
(結論。僕の攻撃方法は体当たりプラス、のしかかりだけ)
しかも、一度に10センチぐらいの移動スピードでは、どうやっても当たらない事間違い無しであろう……戦う事自体、間違いな気がするが……
(基本、見つからないようにしているのが一番かな…………って、ここ危ないよね! 隠れないと!)
さっきから彼が居るのは川の畔。見晴らしが良く、他の生き物が来ればすぐに見つかってしまう場所である。彼は慌てて近くの草むらへと隠れようとする。
数分掛けてようやく草むらの中に隠れる。幸運な事に他の生き物は現れなかったので、彼はそこで一息つく。
(あー、危なかった。そういえばこの身体、疲れたりしないみたいだ)
この1~2時間あれこれ動かし続けているのに別になんともない。まあ、そもそも筋肉なんて無いのだから疲労とは無縁なのだろう。気を取り直して、確認を続ける。
(さて、次は食事かな。スライムの食べ方って……やっぱりアレだよね)
ファンタジーな小説でお馴染みの描写。『身体に取り込んで消化』である。とりあえず、試してみようと手近な草をのしかかる様に身体の中に取り込む。
細長い形の草は取り込むと少しずつ消化されて、一分程経つと完全に消化される。そして消化すると同時に身体の中に何かが広がる様な感じがした。
(ん? ん? なんだろ今の感覚?)
確かめてみようと、彼は次々と色々なものを取り込んで消化してみる。丸い葉っぱの草。落ち葉。小枝。黄色い花。落ちていた1センチぐらいの小さな実等々……流石に、蟻っぽい虫――何故か角が付いてる――は取り込む気にはなれなかったけど……
(うん。葉っぱや枝よりも、花や実の方があの感覚が大きい。これってやっぱり『栄養』なのかな?)
もっとちゃんとした食べ物が有れば分かりやすいのだろうが、ここは森の中。そんな都合のいい物は有るはずがない。何かないかな~、と彼は視線をアッチコッチへ動かすと、ある物が目に留まる。
(ん? あれって、木の実。いや、果実かな?)
少し離れた所にある大きな木。6メートルぐらいの高さにある枝に、リンゴか桃の様な赤い実が実っている。それを見つけた彼はその木の根元まで移動する。そして、そのまま木にへばり付き登り始める。
(よし! やっぱり、この身体なら出来ると思った! このまま一気に行っちゃえーー!)
――――スライム行動中――――
(…………行けなかった……)
確かに、へばり付き登る事は出来た。しかし、登ってもズリ落ちてしまうのである。ここにきて、再び柔らかすぎる身体が問題になる。どんなに頑張っても、重力で垂れ下がる自分の身体を留める事が出来無い。結果、地上数センチを行ったり来たりするだけであった。
(諦めるしか無いか……それに、そろそろ寝る場所を見つけないと)
木々の隙間から見える空が赤く染まっている。どうやら、あれこれやっている内に日が暮れてきていたらしい。このまま夜を迎えるのは、危ないとしか思えないので、彼はどこか良い場所がないか、探し始める。
――――スライム探索中――――
しばらく、探し続けたが一向に見つからない。空の色は暗くなりつつあり、森の中は既に夜となっている。ただ、視界はハッキリとしていることから、どうやら『スライム』は暗視能力を持っているらしい。
(無いなー。まあ、僕の移動速度じゃ仕方ないしね)
ただでさえ、一度に10センチぐらいの移動速度なのに加え、森の中なので、大小様々な木を避けて進んでいる為、真っ直ぐ進めない。結果として、直線距離にしてみれば数メートル程しか進めてない。視線を後ろに向ければ、さっきの果実の木が見える距離である。
どうしようかな、と彼が視線をキョロキョロと動かしながら、さらに進んでいると、変わった物が目に付く。
(ん? あれは?)
気になったのでそちらへ向かう。近づいてみると、それは木『だった』モノであった。
大人四人が両手を広げてようやく囲める太さの大樹。しかし、高さ2メートル程から上が無く巨大な切り株といった感じである。かなりの時間が経っているらしく、表皮は触っただけで剥がれ落ちそうな程ボロボロであり、完全に朽ちてしまっている。
しばらく、それを眺めていた彼は、一つのアイデアを思いつく。
(うん! 試してみよう。 上手くいけば家が出来る。)
早速、根元までやって来ると、そのまま表皮にへばりつき溶かそうとしてみる。
(身体の中に取り込んで溶かすんじゃ無くて、身体が触れている部分を溶かす。~~~♪、~~♪、~~♪。)
鼻歌――当然そんな事出来無いので気分だけ――を歌いながら試してみると、少しずつ表皮が溶けていく。心の中で歓声をあげながら、彼は作業を続ける…中に巣や寝床を作った虫が居ないことを祈って……
――――スライム作業中――――
(完成! 切り株ハウス!!)
地面に面した所に楕円形の穴を開け、そこから中に入り内側――幸い虫は居なかった――を溶かして空洞を作る。広さはちょうど自分の身体より一回り大きいぐらい。ここなら他の生き物にも見つかり難いから安全だろう。完成に満足していると、眠気が襲ってくる。肉体的疲労では無く、精神的疲労故に。
(今日はここまでだね。前世の皆、オヤスミ~~)
元の世界の『家族』達を心に思いながら、彼は眠りにつく。
ご愛読有難うございました。