闖入者である!そしてやっぱりバカは……じゃない?
いきなり名前持ちのキャラを増やしすぎたかな~と思う今日この頃。
覚えにくかったら申し訳ありません。
……ちなみに、私はバカは嫌いですが、愛すべきバカは大好きです。
「親子揃って、騒々しいの……お主らは」
「あ~……スマン、村長」
アムリナの呆れた声に、頭を掻いて謝罪する男――と、その後ろから、さらに別の男性が姿を現す。30代ぐらいの穏やかな雰囲気を纏った男性である。
「――急ぎ過ぎだアーバン! 頼むから、落ち着いて行動してくれ……」
「……スマン」
後から来た男性にも責められて、さらに小さくなる男。最初の勢いはどこへ行ったやら……
「……と言うか、いい加減手を離してやらんのか?」
「――あっ! ワリィワリィ、忘れてた」
「――ガッ!!」
アムリナの指摘で、男が右手で引っ掴んでいたヤルバンの首根っこを……何の躊躇も無くアッサリ離す男。
そして、後頭部を床に強打するヤルバン……悶絶している所を見ると、かなり痛そうである。
“だれなの?”
文字版を使ってアムリナに問いかけるシノブ。それを見て、アムリナが答える。
「後から来た方がセムイル……エルの父親じゃよ。ヤルバンを引き摺ってきた方がアーバン……ヤルバンの父親じゃ。二人共、所用で隣の村に行ってたんじゃが、帰って来たようじゃの」
(へ~……なんか納得)
親と子のイメージが結び付きやすいので、すご~く納得してしまうシノブである。
二人の視線の先では、未だに悶絶しているヤルバンに、イマイチ心が篭っていない謝罪をするアーバン。それを見て溜め息をつくセムイル。
「――遅くなったけど、ただいま義母さん……いきなり騒がしくしてゴメン」
「うむ、お帰り――で、いったい何なんじゃ? 凄い勢いで飛び込んで来おってが……どうゆう用件じゃ?」
「え~と……コトの発端は彼なんだけど……アーバン?」
「わかったぜ」
アムリナの疑問に、セムイルは床に蹲っているヤルバンを指して答えるが、途中でアーバンに引き継ぐ。
「いやぁ、我が家に帰って来てみればコイツが丸坊主になってるしよぉ……思わず、腹抱えて大爆笑しちまった。それで、話しを聞いてみれば村長の所に住み着いた『知能の有るスライム』の所為だって言うしよぉ……」
「……最初は僕らも信じられなかったんだけど、他の人達に聞いてそれが本当だとわかったら、アーバンが面白そうだって急に走って行っちゃって……」
「……オレを引き摺って来た意味、何も無いよな……」
二人の説明に続けてヤルバンが愚痴るが、無視してアーバンはシノブの方に近付いてくる。その後にセムイルも続く……ヤルバンも不満そうな顔で続く……
「――で、コイツがそのスライムか?」
“はじめまして”
「うおっ! マジで知能が有るのかっ!」
「スゴイな……初めて見るよ、こんなスライム」
文字版を指して言葉を伝えるスライムを、二人が驚きつつ興味深そうに見る。
「しかし、いくら知能が有るとはいえスライムだぜ? よく家ん中に住まわせる事を許可したな?」
「エルがスッカリ懐いてしまっておるんじゃよ。何せ、助けてもらったからの」
「――! それ……どういう事ですか」
「実はの――」
そうしてアムリナは語る。一連の出来事を――攫われそうになった所を助けられた事。その後コッソリとスライムと遊んでいた事等を――
「――という事があったんじゃ」
「……そんな事が……ありがとう。娘を助けてくれて」
“どういたしまして”
話しを聞いたセムイルがシノブに頭を下げる。スライムに対して紳士的な謝罪をする態度に好感を持ちつつ、シノブは文字版を使って返事を返す
「そうゆう訳でのぉ。今じゃ、四六時中ずっと一緒におるぞ」
「成程。それじゃ、この家に住まわせるしかない訳だ……無理に引き離しでもすりゃ、どうなる事やら……」
「確かに……ところで肝心のエルは?」
「遊び疲れて、部屋でお昼寝中じゃ」
「……あの子が、ですか?」
アムリナの返答にセムイルが驚きを浮かべる。
――あの内向的で、部屋で本を読むのが好きな子が、遊び疲れて昼寝する?
「それも、こやつのおかげじゃよ……子供達の間では人気者じゃぞ?」
「……そうですか」
他の子供達と遊ぶようになってくれた事への嬉しさと、それを成し遂げたのが親である自分では無い事への寂しさが入り混じり、複雑な気持ちになるセムイル。
「あ~~、ところでよ~」
「なんじゃ?」
「何で、コイツはこうなったんだ?」
アーバンが指差すのはヤルバン――のツルツルになった頭。つい先日までは普通に髪があったのだから、不思議に思うのは当然である。
「いや、単純にこやつがバカだったと「バカとは何ですか!!」……バカじゃったろう、これ以上無い程に」
そうしてアムリナは語る。一連の出来事を――吠えて、吠えて、吠えまくり、挙句の果てに自分から提案した賭けに負けて、丸坊主になった事を――
「「バカだ」」
「だああぁぁーーーー!!」
二人の率直な答えに喚き散らすヤルバン……丸坊主故に、頭に血管が浮かんでいるのが良くわかる。
「何度も言ってますが、コイツは所詮スライム! 知能が有ろうが、それは変わらない! コイツの頭ん中には、オレ達を喰う事しか無いに決まってる!! だから、今の内に村から追い出すべきだ! さもないと、皆を喰って大きくなり続けて、この森の全てを消化しちまう!!」
(……それどこのB級ホラー映画?)
想像力が豊かだな~、と呆れつつも感心してしまうシノブであった。
「――ともかく! コイツは村に置いとくべきじゃ無いんだっ!!」
「……そう言っとるのは、お主だけじゃがの……」
「そうなんですか?」
ヤルバンの叫びにアムリナがヤレヤレとばかりに呟き、セムイルがそ内容に少し疑問を持つ。
「ああ。さっきも言ったが子供達の間では人気者じゃし、大人達には治癒液の効果の高さがのぅ……わしらの薬と混ぜ合わせると、スゴイ事になっとるんじゃよ」
「そんなにですか?」
「うむ」
スライムな彼は詳しく知っていないが、実際スゴイ事になっている。
例えるなら、『ポーション』+『治癒液』=『エクスポーション』なのである……『ハイポーション』通り越してんじゃん!
「――という訳で、皆に認められてるのじゃがのぅ……」
「……もしかして彼。ずっどこんな感じで?」
「そうじゃ」
ため息と共に、深く深~く頷くアムリナ。
「……ホントにスマン……」
先程よりも、深く深く深~~く頭を下げるアーバン。全身から謝罪の念が出ている。
“きにしなくてもいいよ?”
文字版で言葉を告げる彼に、アーバンは、イヤ、と首を振りハッキリと告げる。
「子共のしでかした事は親が責任を取らないとな! 責任を持って俺が鍛え直す!」
“がんばって”
「オウ!」
「――って! 何アッサリコイツの存在認めてんだよオヤジィィィーーーっ!!」
自分の父親が、出会って数分で普通にスライムと会話している状況に叫び声を上げるヤルバン。当の父親は、ウルセェなと言いたげに不機嫌な目つきで息子に答える。
「別にいいじゃねぇか、誰にも迷惑掛けて無えんだし……むしろ、コイツのおかげでより良い薬を作れるようになったんだろ? 良い事ばかりじゃねぇか……」
「何言ってんだ! 薬学に精通しているオレ達エルフが、こんなモンスター如きの助けなんて要らねぇよ! 誇りはどこに行った?!」
「誇りじゃ腹は膨れんからの」
「誇りでは腹は膨れないよ」
「誇りで腹が膨れるか」
「オイコラ!! 大人共ォォォーーーー!!!!」
現実的な言葉でバッサリ切られたヤルバンがさらに吠える。しかも、この三人では話しても無駄だと悟ったのか、矛先をスライムに変える。
「テメェも人の好意に縋って何時までも居座ってんじゃねぇよ! この村から出て森に帰れ!」
「「「…………」」」
(…………)
ヤルバンの言葉に、逆に言葉を無くす三人と一体。
“どうやってかえればいいの?”
いち早く立ち直ったシノブが文字盤で質問する。それを見てヤルバンが、ハァ? とばかりに答える。
「どうやってって……普通に這いずって行きゃいいだろ」
“そのあとは?”
「その後も普通に森ん中を――あっ」
喋っている途中で何かに気づくヤルバン。それを見届けて、アムリナが話す。
「そうじゃよ……村の外には『サチャの木』がこの村を囲む様に植えられておる。そのおかげで外のモンスターが内に入って来れんが、内のモンスターが外に出る事も出来んのじゃ……お主、本当に気づいておらんかったのか?」
ヤレヤレと首を振りながら告げるアムリナ……他の皆も似たような雰囲気である。何せ、スライムでも気づいていた事に気づいていなかったのだから……中身は元人間だけど……
「――!! なら――」
再びヤルバンが声を張り上げようとした所で、部屋のドアが開く。
「……うるさい」
入って来たのはお昼寝中のはずのエルだった……途中で起こされたのか、目をグシグシと擦りながら恨みの篭った声を上げる。
「ああ、ゴメンねエル。それと、ただいま」
「……とうさま? おかえりなさい……」
「うん。ほら、もう少し寝ていても良いよ」
そう言って、エルを抱きかかえるセムイル。元々眠かったエルはすぐにまた眠ってしまう。セムイルは軽く目礼をして部屋へと連れて出て行く。
「んじゃ、俺達も失礼するぜ……」
そう言って、何時の間にか気絶させられてるヤルバンを引き摺って出て行くアーバン……来た時と違い、首根っこでは無く足首を掴んで引き摺っていく辺りに彼の怒りの深さが伺える……
「……勉強、続けるかの?」
“うん”
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑は……もうちょっと待って下さい。