新しい朝である!希望の朝かはわからない
今回はちょっと短め……キリのいい所で切ったらこうなった……
その分、次回は多めになりそう……
《――なら! ボクが――!――れば、文句――!!》
《――ょうぶ。みんな――、これは――》
《準備――。もう――終わら――》
《――きたんだ、――加減――よう》
《――んね。――を願って――》
* * *
(…………)
この世界に転生して、初めて夢を見た。懐かしい『前世』の夢。幸福で不幸だった頃の大切な思い出。
夢のおかげで、曖昧だった『前世』の記憶がハッキリした。何よりも――
(――ボクの名前……思い出した……)
……最も、このスライムの姿では、思い出しても意味が無い可能性が非常に高い……てか、必要有んの?
(まあ、せっかく思い出せたんだし……ところで、ボクはどうなったんだろ……?)
何があったのかは覚えてる。あの子が現れて、その後ろには大人達。
――引き止められるあの子。
――放たれる矢。
――視界が霞み、急激に落ちていく意識。
……その後の事は良く覚えていない……状況から察するに、あの矢が自分の『核』を破壊したのだろう。
(……となると、ボクはまた死んじゃった……って事で良いのかな? 何か、それっぽいし……)
何せ、目覚めた時から視界の全てが真っ暗なのだから、そう思ってもおかしくは無い。
例の『管理者』に会った時は真っ白な場所だったから、真っ暗な場所というのは類似点が有る。しかし、今回はソレっぽいのが居ない。
(この場合はどうすれば良いんだろ……う~~ん…………んん?)
どうしたものかと、視線をアッチコッチに動かしていた彼はある事に気づく。
まさか、と思い視線を真後ろ――180度後ろへ向ける。
(……初めて見る天井だね……て言うか、転生して初めて天井を見たよ……)
視界に映ったのは、普通に木で出来た天井……どうやら、今自分は器のような物の中に入れられているらしい。さっきは視線が底の方を向いていたので真っ暗だったようだ。平衡感覚が無いスライム故に気づけなかったと言える。
……と言う事は、自分は生きているようだ。しかし、疑問は残る。
(矢が刺さって死にかけたのは間違い無いんだけど、どうやって助かったんだろ?……考えてもわかんないし。今は、ここが何処だかを調べよう)
取り敢えず、器から外に出て部屋を見回してみる。
広さはだいたい畳八畳分ぐらい。ドアの反対側に少し大きめの窓があり、差し込んでいる日光から昼ぐらいと推測出来る。
窓に向かって右側にはベッドと、枕元に引き出し二つの小タンス。
窓に向かって左側には洋服タンスと小さな机。
そして、部屋の中央には今自分が乗っている丸テーブルと椅子二つ。
部屋自体はシンプルだが、置かれている家具は造りがシッカリしていて、腕の良い職人が作ったのが伺える。
机のサイズと小タンスの上に乗っている人形から、この部屋が子供部屋だとわかる。最も、今はこの部屋の主はいないようだが、彼にはそれが誰なのかわかる気がする。
(と言うか、ボクが知ってる子供って、あの子だけだし……)
間違いなく、あのエルフの女の子だろう。そして、この部屋があの子の部屋だとすると、自分は気を失ってる間に連れて来られた事になるが、何故そんな事をしたのだろう。仮にも『モンスター』である自分を退治せずに生かしておくのは何故か?
……それ以前に、子供部屋に『スライム』を放置しておくのは流石にどうかと思うが……せめて只の器じゃ無くて、鍵の掛かった箱の中にでも入れておくべきでは? 自分で言うのも何だが……
(う~~ん……結局、肝心な事は何もわからない……誰かヒントくれない?)
とは言っても、この部屋には誰もいないが――と、ドアが開いて、誰かが入ってくる。
(おや? あっ、やっぱり……)
入って来たのはあのエルフの女の子だった。女の子はコッチを見て目を見開くと、小走りに近付いて来て……ペタペタと触り出す。
「――!!」
(……イヤ、だからね? スライムにそんな気軽に触っちゃダメだよ……その眼は反則でしょ……?)
涙目になりながらも、嬉しそうな――本当に嬉しそうな笑顔でコチラを触る女の子に、何とも言えなくなる……まあ、口は無いけど……
取り敢えず、身体をフルフルと揺らしてコッチの無事をアピールして――
(――何か、身体に違和感を感じるんだけど?)
――不思議に思う。どこがどうとは言えないが、身体の動きがいつもと違う気がする。
彼が内心で首を傾げていると、女の子がベッドの方へ向かい、小タンスの引き出しから何かを取り出して戻って来た。
彼女が持ってきた物は手鏡であった。それをコチラに向ける。当然、映るのはスライムな自分の姿……
(…………ハァ~)
……心中にて重い溜め息をつく。これで三度目ともなれば慣れる。慣れてしまう……そんな自分がイヤだ……
『青』から『緑』――『緑』から『紅』――そして今度は――
(――よりにもよって『銀』は無いでしょっ! 『銀』はっ! どこかの高経験値スライムじゃ無いんだからっ!!)
鏡に映っていたのは綺麗な『銀色』のスライム。
半透明なので中の『核』が透けて見えるが、色だけで無く形状も変わっている。今までは粘液状のドロッとした身体だったのに、今は丸い楕円形に変わっている……何か、グミみたい……
大きさが直径20センチ程に縮んでいるが、後で食事を取れば大きくなれるから、その辺りはスルーで。
(ボクが気を失っている間に何があったんだろ? あ~~、喋れないってホントもどかしい)
目の前でコッチを見ている女の子に聞ければ手っ取り早いのだが、スライムにはそれが出来無い。精々、どこか心配そうに見ている彼女に対して、大丈夫だとアピール――身体を上にウニョ~ンと伸ばして軽く揺らすぐらいしか……
(……振れる?)
以前は、少しでも横に倒せば支えきれずに自重で倒れてしまったのに、今は普通に左右にフリフリと振れる。
(身体の形が変わっただけじゃ無く、強度も上がったんだ……)
ウンウンと一人で納得していると、女の子は何かを思い出したかの様にハッとすると、部屋を出て行った。
(……あ~、多分、ボクの事を知らせに行ったのかな? 今の内に、恒例の自己チェックをしておこう)
――――スライム確認中――――
(でっ、出来た……)
約20分後。立て掛けた手鏡の前には巨大な銀色の手が在った。身体の強度が上がったのなら、ドコまで身体の形を変えられるかを実験した結果、見事に成功した……○ドハンドかっ!!
(でも、これが限界……難しすぎる)
身体を元の楕円形に戻して、内心で溜め息をつく。大まかに変える事は簡単に出来るが、細かな部分がとても難しい。
最初は、人の形になろうとしたが難し過ぎて断念した……出来て精々、美術のデッサンに使う木人形みたいなノッペリした姿で、顔の輪郭等の微妙な凹凸を一つ一つ作るのに気が遠くなる……結局、簡単な形にしか変えられない。
ちなみに、溶解液と治癒液に関しては、部屋の中では実験出来無いので強くなったのかはわからない。
――と、そこで女の子が戻って来ると、手招きしてコッチを呼ぶ。
彼は手鏡を身体の上に乗せて、彼女の方へ移動する。女の子は手鏡を受け取って、腰のポーチに仕舞うと部屋の外へ歩き出す。彼もその後に続くように這いずって移動――しようとした所で、ふと思いつく。
(――今のボクの形なら……試してみよ)
這いずるのではなく、身体を前に転がしてみる――すると、コロコロと転がって進む事が出来た。しかも、中の『核』はそのままで視界がグルグルと回る事無くである。
(……これで、やっと人並みの速さで動けるよ……ここまで長かった~)
今までのスローな生活ともオサラバだと、調子に乗って廊下を動き回る彼。
そして、そんな彼を面白そうに見ている女の子。
(――オット、いけないいけない)
視線に気付いて、女の子の元へ戻る彼。それを待っていたかの様に女の子が歩き出し、彼もそれに続く。
廊下の途中にある階段を降りて、廊下の先の部屋に彼女に続いて入る。部屋は結構な広さで、一度に十人ぐらい座れる大きさの丸テーブルがあり、既に三人の男女が座っていた。
中央にローブを着た初老の女性。それを挟む様に、右側には長袖のシャツの上にストールを纏った、30代ぐらいの女性。
左側には半袖のシャツを着た、20代ぐらいの男性が座っている……寒くないのだろうか?
三人とも共通して緑色の髪と、耳が尖っている事からエルフだとわかる。
「――エルや、それがおまえの友達かい?」
「……ん」
初老の女性の問いに頷く女の子。それを聞いて初めてその子の名前を知る彼。
(エルって言うんだ……あの子、殆ど喋らないから今まで知らなかったよ)
女の子――エルは視線で彼に付いて来てと訴えると、30代ぐらいの女性の隣に座る。彼はテーブルの足を伝って上に登ると、エルのすぐ前の場所に鎮座する。
それを見ていた三人はそれぞれ違う反応を見せる。
――初老の女性は面白そうに……
――30代ぐらいの女性は驚いて……
――そして20代ぐらいの男性は目を見開いて固まっている……せめて、口は閉じよう……
(……で、喋れないボクはいったいどうしたら良いんだろ……?)
最悪な展開だけはイヤだな~と、ビミョ~に緊張感の無い彼であった。
ご愛読有難うございました。
諸事情により本日のモンスター図鑑はお休みです。