混乱and困惑である!…あれ?主人公出番無くない?
最近2525動画でボーカロイド曲の良いのを見つけたら……ハマってしまった。
気がついたら、それを聞いている……小説書くのを忘れて……
意志薄弱な私を許して……
『ロストワンの号哭』イイ曲なんですよね~
(ハァ~……)
――カレリナは、小さな悩み事を持っていた。自分の娘――エルリナが、どうも村の外に行っているらしい事がわかったのである。
少し前に、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた日以来、エルリナが毎日家の外に出かける様になったのである。元々、エルリナは内向的な性格なので部屋で独りで過ごす事が多く、他の子供達と遊ぶ事が少ないので親として心配していた。しかし、今では笑顔で家を出て行き、やはり笑顔で帰って来る娘に微笑ましいものを感じていた……のだが……
(あの時の喜びを返して欲しいわね……)
……良く良く調べてみると、エルリナが他の子供達と遊んでいる姿を誰も見ていない、という事だった……と言うか、村の中での目撃情報自体が無いのである。
……つまり、娘は村の外に出ている事になる。しかし、そんな所で一人で何をしているのか? 数日前の笑顔は何だったのか? その辺りがわからないので、村で手の空いている若い男達に娘の監視を頼んでおいた。
――そして翌日。カレリナは頼んでおいた者達から呼び出されていた。
話しによると、事もあろうに娘は村の外どころか、モンスターを寄せ付けない香りを放つ『サチャの木』による境界線の外側にまで行っていたらしい。
そんな所へ一人で行っていたなんて、モンスターに襲われたらどうするのか? 怒りよりも心配の度合いの方が強く、説教の一つでも言わないと正直気が収まらない。
(本当にあの子ったら……でも、何をしに行っていたのかしら?)
その辺りもキッチリ含めて聞き出そうと、彼女は案内の元、娘のいる場所へ向かっている。
――――程なくして、たどり着いたのは良いが……
「……どういう事なのよ? この状況……」
思わず言葉に出してしまうが、答えは帰ってこない……むしろ、アッサリ答えが帰ってきた方が信じられないが……
取り敢えず、今現在の状況を確認する。
困惑した表情でいるエルフの男達――これはわかる。自分が監視を頼んだのだから。
無数の矢が突き刺さっている紅いスライム――これもわかる。彼等が退治したのだろう。
かなり離れた所で泡を吹いて倒れているスウィーツベアー――わからない。何か変な物でも食べたのだろうか?
少し離れた所で倒れている人間三人――良くわからない。何でこんな所で倒れているのか……と言うか、その変な髪型は何なのか?
そして、泣きながらスライムに刺さっている矢を引っこ抜いている我が娘――全くもって訳がわからない。
「何があったの? あのスライムは何なの? 何であの子は、あんな事をしてるの?」
見た感じ、スライムは刺さった矢の内の一本の所為で、『核』の三分の一程が抉り取られた形になっている。即死はしていない様だが、あれでは時間の問題だろう……ならば、娘が襲われる心配も無いだろうと、監視を頼んでおいた男の一人に尋ねる。
「イヤ、私達にも、何が何だか……?」
尋ねられた男も、困惑した顔で答える。
聞けば、走って行く娘の先にあの紅いスライムが居たので、娘を引き止めると同時に矢を射かけたらしい――しかし、その直後に娘が大声を上げて暴れ出した。何とか抑えようとしたが、強引に振り払われて……今に至る。
「……あの子が、そんな暴力的な事を?」
男の手に付いた歯型の跡を見せてもらい、とても信じられない思いで呟く。あの内向的でおとなしい子がそんな事をするなんて……
意外な事が続いて、頭の中が纏まらない。皆がどうすれば良いか迷っていると――
「――!!」
――エルリナが突然、自分の指を噛み切ってスライムの内に手を突っ込んだ。
「――!! 何してるの?! 危ないでしょう!」
慌てて駆け寄り、手を掴んで引っこ抜く――しかし、エルリナは渾身の力で手を振り解こうとする。
……この子のどこに、こんな力が有ったのか……少しでも気を抜けば、腕どころか身体ごと持って行かれそうになるのを、両手だけで無く足と腰まで使って踏ん張って押さえ込もうとする。
「――あなたはっ!――何をっ!――してるかっ!――わかってるの?!」
必死に娘の暴挙を止めようとするカレリナ。半ば叫ぶように、エルリナに話し掛ける。それに対して――
「……して!……はなして!」
――涙を流しながらも、とても力強い眼でこちらを見返してくる娘の、その眼差しに一瞬――ほんの一瞬だが確かに気圧される。
そんな、想像にもしなかった事にカレリナの思考が凍る。そして、その隙を付くかの様にエルリナが叫ぶ
「……じゃう!……このままじゃ、しんじゃう!……まえは、たすけてくれた……こんど、エル、たすける……エル、たべて、くれれば……きず、なおる、はず!……だから、はやく、しないと……しんじゃう、だから……!」
――言ってる事は殆ど理解出来無いが、その言葉に篭められた感情は十二分に伝わってくる。
……目の前に居るのは本当に我が娘なのだろうか……あのおとなしい子が、こんなにも感情を剥き出しにした事など、今まであっただろうか……
(……話をちゃんと聞きたい所だけど、今のこの子の状態じゃ、それは無理に近いし……何よりも、もうそんな時間が無い!)
この子と、このスライムの間に何があったのかはわからないが、エルリナがこのスライムに対して強い感情を持っている事は確かである。
故に、このままこのスライムが死ねば――『エルフが殺した』事になる。
……それはこの子の心の中に『傷』となって残るだろう。ひいては、同族への嫌悪となり、最悪この森からいずれ出て行く事にもなりかねない……
(――それだけは、何としても阻止しないと!!)
娘を掴んでいた手を片方だけ離す。当然、自由度が増した分エルリナが暴れるが、片手だけで必死に抑えながら、空いた手で腰のポーチから一本の小瓶を取り出す。
小瓶の中身はエルフの『秘薬』。年に一本しか作れないレア中なレアの薬――その薬を瓶ごと、エルリナが再び手を突っ込むよりも先にスライムの中に突っ込む。
「……?――!!」
何をしたのかを、瓶を見て理解したエルリナは身体の力を抜いてその場にペタンと座る。
それに続いて、カレリナもその場にヘタリ込む。息を整えて、落ち着いてくると身体の痛みに意識が向き――両手両足と腰の筋肉に、結構な痛みが残っている事がわかる……この娘は、どれだけの馬鹿力を発揮していたのか……
(でも、これで『最悪な展開』は、何とか回避出来る筈……)
視線の先では、心配そうに見ている娘と何も変化が無いスライム。
……正直、秘薬を与えた所で助かるとは思っていない――重要なのは『助けようとした事』。その事実だけが何よりも必要だった。その事実が有れば『エルフが殺した』事に対して、本意では無かったと『言い訳』が出来る。
(秘薬を使ったのはイタイけど……娘の事を考えれば、仕方ないわね……)
後は娘とシッカリと話し合う必要があると、エルリナの方に視線を向けると、娘の様子が変わっている事に気づく――そして、その直後にスライムにも変化が出ている事に気づく。
「――なっ、何なの?!」
スライム自体に変化は出ていない……代わりに、スライムの身体から煙、と言うか湯気――水蒸気が立ち上り始めた。
初めて見る現象に、カレリナが思わず距離を取ろうとした――刹那、スライムに手を伸ばそうとしたエルリナを、しがみついて止める。
「――っ!!――!!」
「危ないから離れなさいっ!! お願いだから言う事を聞いてっ!! と言うか、あなた達いい加減手伝いなさーーい!!!」
「「「はっ、はい!」」」
膝立ちの体勢で娘を羽交い絞めで捕まえつつ、今更ながら、これまでずっとボケ~っとつっ立っていたウドの大木なエルフの男達を叱りつける。
男達はカレリナの叱責で慌てて動き出し、エルリナを強引に抱え上げてスライムから距離を取る・・・その際、かなりいいパンチやキックをもらっていたが……
「――ここなら、大丈夫ね……」
取り敢えず、20メートル程離れた場所まで移動し、エルリナを彼等に任せておく。
スライムに視線を向ければ、完全に水蒸気に包まれて姿が見えないので、どうなってしまったのかわからないが、おそらく死んでしまっているだろう……結局、あのスライムは何だったのか?
「――その辺りの事についても、シッカリ話を「カレリナさん! アレ!!」……何?――何??」
娘を問い詰めようとした時、戸惑った男の声に思わず指さしてる方を振り返り……眼を見開く。
風が吹いて、水蒸気が晴れた後には紅いスライムの姿は無く――代わりに『別のモノ』が鎮座していた。
「「「「…………」」」」
その場に居る大人達が無言で顔を見合わせる……「何? アレ?」と言いたげに……
「――!!」
「あっ! 待ちなさい!!」
その隙をついて、エルリナが拘束から抜け出して『アレ』に駆け寄るのを、カレリナは慌てて追いかける。
すぐに追いつくも、エルリナはすでに『ソレ』をペタペタと触っている。それを見て、一応『ソレ』が安全だとわかる……わかるが……
「……どうしましょうか?……『ソレ』……」
「……取り敢えず、触っても大丈夫みたいだし、持って帰りましょう……母さんなら『アレ』が何なのか、知ってるかもしれないわ……」
そうしないと、何時まで経っても娘がここから離れないだろう、という事で男達に『ソレ』を運んでもらい、自分は娘を抱え上げる。
「帰ったら、色々と聞かせてもらうわよ。エル」
「……ん。わかった、から……いっしょに……」
「ええ。持って帰るから、心配しないで」
その言葉に、満足そうな笑顔を見せる娘に、内心で溜め息をつくカレリナ。
僅か十数分間の出来事なのに、内容が濃すぎて困る。帰ったら、まずリラックス効果の有るハーブのお世話になろうと固く誓い、村に向けて歩き出――
「あの~……」
――そうとした所で、声をかけられ止まる。何なのかと、抱えてる娘と揃ってそちらに顔を向ける。
「アレは、どうしましょうか……?」
「あっ」
指を向けている先には、スッカリ忘れていた存在――倒れている、変な髪型の人間達がいた。
ご愛読有難うございました。
本日はモンスター図鑑では無く、植物図鑑
――――サチャの木――――
モンスターを寄せ付けない香りを放つ木。
本能に訴える程の強さなので、匂いを感じないモンスターにも通用する。
育てるのが難しく、常に世話が欠かせない。自然界では成木になるまでに枯れる事が殆ど。
エルフの森以外では、全く見られない。