交流and交遊である!種族は関係無い
十話以上書いているのに、やっと、キャラの名前が出る……
ちなみに、名前が有るキャラはレギュラー。
それ以外は、彼/彼女等の三人称で統一しようと思います。
べ、別に、キャラ名を考えるのが面倒じゃ無いんだからねっ!
(まだかな~)
曇り空の為、日が昇ったにもかかわらず未だ薄暗い森の木の上で、彼は今日も待っていた。
――エルフの女の子に出会ってから既に十日経つ。その間、彼女は毎日彼の元を訪れている。とは言っても、大した事はしていない……一緒に日向ぼっこしたり、彼女の行動に対して彼がリアクションを取ったりして、日が暮れ始めると彼女は帰る。
そんな変わらない日常を過ごしながら、彼は今日も待っている。
(ま~だかな~――――おや?)
ふと、物音が聞こえてくる事に気づく。しかし、彼女がやってくる方では無い。逆方向からコッチへ――森の奥へと向かってくる。
(……まさかとは思うけど……)
案の定、茂みを掻き分けて現れたのは、何時かの3人組である。二人は頭に、一人は右手に包帯を巻いているから間違い無い。どうやら、あの後クマから逃げ延びたようである……内心で舌打ちをしつつ、彼はこの三人組が再びここまでやって来た事に苛立ちを隠せない。
(……また、『攫い』に来たんだ……)
そこまでして金が欲しいかと、心が冷めてくる――心中に浮かぶ選択肢は三つ。天誅。制裁。断罪。
何よりも、このまま彼等が進んだら、ここへ来る筈の彼女と鉢合わせになる。それだけは何としても阻止しなければと、彼は身体を上に伸ばして、遠距離攻撃の体勢になる……しかし、そこで迷う。
(前回は夜だったから良かったけど、今は朝。しかも、ボクの事を彼等は知ってる……初撃は成功しても、それでオシマイになりそうだよ……)
向こうは前回の事で警戒しているに違い無い。そんな状況で攻撃すれば、自分の居場所がバレてしまうだろう。そうなればアッという間に殺られてしまう。
……そもそも、いくら『進化』したとしても『スライム』が戦いを挑む事自体、間違っていると言えるのだから……
(それなら、弱者は弱者なりの戦術でいかせてもらうよ――)
目標変更――狙うのは三人組では無く隣の木。その木に留まっているモンスター――体長50センチ程の巨大な蝉。
(――弱者の常套戦術。『他力本願』!!)
放ったのは溶解液では無く治癒液。本来ならば当たったところで傷一つつかない。
しかし、蝉に命中してキッカリ三秒後――
「――ミ~~~~~~~ン!!!!!!!」
――発せられる轟音。と言うか、もはや衝撃波。周辺の木々の枝が揺さぶられ、葉っぱが落ちて綺麗な紅葉のシャワーを見せる。
そして、当の蝉は何事も無く、おしっこをしながら飛び去っていく。
……後に残されたのは、気絶した人間が三人。
耳が無いおかげで、そこまで深刻なダメージを受けてないスライムが一体。
そして、巻き添えを食ったモンスター達――木の枝から落っこちたトカゲが二体。巨大蛇が一体。ひっくり返ってピクピクしてる蟻二体。果実をのどに詰まらせて、もがき苦しんでるクマ一体。その他小動物多数……
(……みんな、ゴメンなさい……君達の犠牲はムダにしないよ……)
お約束なセリフを心の中でつぶやきながら、木を滑り降りて地面に降りる。そして、倒れている三人組へとにじり寄る。
――――スライム制裁中――――
(――こんなもんかな……?)
小一時間程掛けて、彼は作業を終えた。目の前に横たわっている彼等は色々な意味でアブナイ姿になっている。
装備は全て消化され、服と靴は虫食いみたいに所々溶かされてる。眉毛は無し。髪はそれぞれモヒカン、落ち武者、河童ヘアー。そして――指を数本。
(昔の盗人は、手を切断されたらしいよ――ソレに比べれば、マシだよね)
心の中で冷酷に言い放ち、彼は移動する。そろそろ、あの子がやって来る時間なので、あの子の為にもこの連中から距離を取っておく。
程良く距離を取った所で足音が聞こえてくる。
(――ああ、やっと来たんだ……)
内心で呟いて、彼は視線を向ける。こちらに向かって駆けてくるエルフの女の子と――その背後へ。
* * *
(~~♪)
その女の子――エルリナは、その日もウキウキしていた。
……と言うのも、最近とても面白い『友達』に出会ったからである。出会ったキッカケは、不幸と幸運が入り混じった出来事と言えた。
――十日程前の事である。
その日の夜、エルリナは部屋を抜け出していた。理由はある花を見たかったからである。
その花は、ある特定の時期にしか咲かず、しかも咲くのは夜の限られた時間のみ。一度見逃せば、次の機会はまた次の年となるので、是非とも見たかったのである。
しかし、その花の生息地は村からかなり離れている上に、時刻が夜となれば危険度も増す。故に、その花は成人になるまで見られない『掟』となっている。
(みんな、いった……ん、ついていく……)
……ところが、どうしても見たかったエルリナは、コッソリと皆の後を尾けようとしたのである。
部屋を抜け出し、物陰から出発する皆を見届けた後、時間を置いて後を尾けていった。暗い夜の森ではあるが、行き先の方角は知っていたし、何かあれば大声を上げれば、先を行く皆が気づいてくれる……そう考えていた。
(……ん?)
村を出たすぐ後の事だった。木の根につまづかない様にゆっくり歩いていると、何か物音がした気がして振り向こうとして――捕まってしまった。
何が何だかわからなかった。気がつけば不安定に揺れる袋の中に入れられていて、口だけで無く身体も縛られているので、声を出せず身動きも出来なかった。しばらくして揺れが収まり、その後に聞こえた声で自分が人間に誘拐された事に気がついた。
(――! やだ……たすけ、よばないと……でも、こえ、だせない……からだも……どうしよう? かあさま……おばあさま……!)
助けを呼ぶことも出来ず、ただ震えている事しか出来ずにいると、急に悲鳴が聞こえてきて自分が入れられている袋が地面に落とされた。痛みに身体をよじっていると、突然に縛っていた縄が緩んだので、必死に身体を動かして縄を解き、袋の中から這いずり出た所で――初めて出会った。
「? ――!!」
出会い頭に鉢合わせたものだから、驚きのあまり、四つん這いの体勢から後ろに尻餅をつき、そのまま手足をばたつかせて後ずさる。
月明かりが僅かにしか差し込んでいないが、それでも特徴的なシルエットから、目の前に居るのが『スライム』だとわかった。
そのスライムはこちらに襲いかかろうと――
(……ん?)
――しない。それどころか身動き一つせず、ただジッとしていた。
(……おそわ、ない?……うごかない?……どうして……?)
思わず、後ずさるのを止めて座り込んでしまう。
村の大人達の話だと、対峙したモンスターは基本、何かしらの行動を起こすものらしい。それはモンスター毎に違うが、スライムもモンスターである以上、逃げるなり襲うなりする筈なのだが、このスライムは何もしない。
そうして、頭の中が疑問符でイッパイになった時――遂に、スライムが動きを見せた……見せたのだが……
(……なに? スライム、なにしてるの……?)
……そのスライムは奇妙な……イヤ、明らかに変な動きをし始めた。身体を空に向かってウニョ~ンと伸ばしては倒す、また伸ばしては倒す、を繰り返し行っている……回を重ねる毎に必死になっていってる様に見えるのは気の所為だろうか……
エルリナはその突如の奇行に驚きながら、スライムが身体を倒している方向に視線を向ける……最も、な~んにも居ないが……
(……? なに、したいの?……アッチ、もりのおく……むら?!)
その先に何が在るのかを思いだしてハッとする。自分が部屋を抜け出してここに居る事を……
エルリナは慌てて立ち上がると村に向かって駆け出す。
――幸いな事に、無事に村へとたどり着けた。自分の部屋のベッドに入り、シーツとマクラから漂うお日様の香りに、ようやく自分が安全な場所に居ると実感出来た事で、眠気を催す。
眠くなってきた頭で、エルリナは先程の奇妙なスライムを思い出す。
……結局、あのスライムは何だったのか? 襲う事も逃げる事もしない変なスライム。あの場にはエルリナとスライムしか居なかったのだから、どんな行動を取っても邪魔するモノ等居ないのに――
(――あれ?……だれも、いない?……にんげんも、ほかのモンスターも?……じゃあ、エルを、たすけてくれたの、だれ?)
良く良く考えてみればオカシイ。あの時に聞こえた人間達の悲鳴と、急に緩んだ縄。人間達を撃退した者と縄を解いてくれた者が居るはずなのに、あの場に居たのは自分以外には、あのスライムだけ――
(――スライム、たすけてくれた?……モンスター、なのに?)
消去法で考えれば答えはそうなるが、普通に考えればそんな事有り得ない。モンスターである以前に『知能』を持たないスライムがそんな事出来る筈が無いのだから……
(……わかんない……また、あした……に……)
良い加減、眠気に抗えなくなったエルリナは、考えるのを止めて眠りについた。
――明けて翌日。エルリナは昨夜の場所に来ていた。当然、例のスライムを見つける為である。コッソリと村を抜け出し、はるばるやって来たもののスライムは居なかった。辺りを探そうとして――物音がした。
そちらに行ってみると果実が落ちていたので、視線を上に向けると――
(――! いた……きのうの、スライム)
木の枝に居るスライム。昨夜は暗くてわからなかったが、普通のスライムでは無く『紅』い色をしていて、とても綺麗に見えた。
手を振ってアピールしても何も動きを見せないので、どうしようかと考え始めた時、スライムは器用に木の表皮を滑り降りて地面に降り立った。
すぐに近づいてみるが、スライムは何もしてこない。試しに指で突っついてみたり、手でペタペタと触ってみたり、手を突っ込んでみたりしたが手は何とも無い――消化しようとしない。
(……やっぱり、へん……このスライム……スライムだけど、スライムじゃないみたい……)
次は持っていた果実をスライムにあげてみた――すると、スライムは身体を蠢かせて果実をこちらに返してきた。もう一回、同じ事をしてみると、やはりスライムも同じく返してくる。
もう一度、今度は果実をあげた後、場所を移動してみる――それでも、スライムは果実を正確にこちらに返してくる。
(……なんで、たべないの?……おなか、いっぱい……?)
思わずジッと見つめる……そうしている内に、意地でも食べさせようという気持ちが湧き上がってくる。
「――! ――?! ――!!」
――気がつけば、日が赤く染まるまでエルリナはスライムと『遊んで』いた。走り回るエルリナに対して、スライムは身体を変化させて果実を放り投げてくるといった技を見せたものだから、時間を忘れてはしゃいでしまっていた。
その後、家に帰ったエルリナは終始笑顔が絶えなかった。家族から「何か良い事が有ったの?」と聞かれる程に。
――――それから、毎日スライムの所へコッソリと遊びに行っていた。
元々、エルリナは内向的な性格の上に喋るのも苦手なので、村で他の子供達と遊ぶのが――周囲のペースに合わせるのが苦痛と感じる事が多かった。
……しかし、この『友達』は違った。常にエルリナのペースに合わせた行動を取るし――スライムはそんなに速く動けないし――言葉を交わさなくても――スライムに口は無いし――エルリナの言いたい事がわかっているかの様な行動を取る。
――故に、エルリナは今日も『友達』のところへ向かう。
いつもの様に村を抜け出して、スライムがいつも居る場所までやって来る。視界の先にスライムを見つけて、駆け寄ろうとして――
「――!」
――急に、誰かに腕を掴まれた。思わずそちらに目を向けるよりも先に目に入ったモノ……
「……えっ?」
……それは、無数の矢を受けてハリネズミになった、自分の『友達』の姿だった……
ご愛読有難うございました。
本日のモンスター図鑑
――――巨大蝉(ヒュージホルン)――――
体長50センチ程のセミ。普通のセミと違い春夏秋冬どの季節にも居て、寿命も一年近くある。普段は鳴かずに、木から木へ飛び移っては樹液を吸っているが、何かしらの『攻撃』を受けると超特大の鳴き声を発し、周囲の生物を気絶させる。
至近距離で聞いた場合、最悪ショック死する。
ちなみに、色々な『亜種』が存在して鳴き声がそれぞれ違う。