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開けてビックリである!玉手箱の方が良かったかもしれない

暑くなったり、寒くなったりで体調管理が難しい……

風邪引きそう……

(……え~と?)


 何か最近予想外な事が多い気がする……等と、思わず思考停止してしまう彼。

 不埒(ふらち)な連中から奪還した袋。その袋の溶かして出来た隙間から見えた『中身』――それは確かに、予想通り『生き物』で『子供』であった……しかし、一つだけ違っていた。出て来たのは『モンスター』では無く――


「~~! ~~!」

(……()?)


――そう、『人』の『子供』であった。猿轡をされた上に、身体ごと手足を縛られたイモ虫状態で袋の中に入れられている。


(――――腕の1本か2本、溶かしておくべきだったよ)


 怒りメーターどころか、殺意メーター急上昇中な彼。連中の言っていた『楽して儲ける』の意味は『人身売買』だったのかと、虫唾が走る思いでいっぱいである。自分の代わりに天誅を加えてくれと、連中を追いかけていったクマに願いを託す。

 しかし、今はこの子を助ける方が先だと縛っている縄を溶かす。一本の縄でグルグル巻きにしていたおかげで、一箇所を溶かすだけですぐに解けた。


「――?! ――!!」


 縄が緩んだ事に気づいた子供は、身体を揺すって縄を解くと、そのまま袋からも出てくる――出てきた所でスライムな彼に鉢合わせする。


「? ――!!」


 驚きのあまり、四つん這いの体勢から後ろに尻餅をつく。そのまま手足をばたつかせて後ずさりして行く。


(予想通りのリアクション……わかっていたけど、ちょっと悲しい……)


 助けた相手に怖がられる……スライムなんだから仕方ないとはいえ、心にちょっとクる。

 内心、溜め息をつきながら子供をジッと見ていると、何時の間にか子供も後ずさるのを止めて、ペタンと座り込んでこっちを見つめている。


(? 逃げないの?……ん? んん??)


 お互いに見つめ合っている中、スライムな彼は暗視能力が有るので、月明かりが僅かにしか差し込まない夜の森でも相手の顔が良く見えるので気づいた。

――その子の耳が尖っている事に。


(……もしかして、あの子ってファンタジーな世界でお馴染みの『エルフ』?)


 そういえば、転生する時『エルフや獣人とか異種族が居て』と、お願いしていた事をスッカリ忘れていたな~、と今更ながら思い出す彼であった。

 ならば、おそらくこの子はエルフで間違い無いであろう。まさかこんな所でエルフに出会えるとは、正直運が良いと言えるだろう……何せ自分スライムなのだから……


(じゃあ、あの侵入不可能な場所の奥ってエルフの村落が在るのかな?……もしかしてこの森ってエルフの領域? 人間がこの森に来ないのってソレが理由?)


 それなら色々と納得出来る彼であった。ついでにこの森の恵みが豊かなのもソレが理由な気がする。

 まあ、実際に奥へと行く事が出来無いので、確かめる術は無いから推測止まりだが……


(今はそれよりもこの子だよね……)


 エルフの子は、相変わらず座り込んだまま彼を見ている。ジッと、と言うよりもキョトンとしている感じで。

 このまま見つめ合っていても仕方が無いし、何よりもここは侵入不可能エリアの外――モンスターがやって来てしまうのだから、早くこの子を家に帰さないと危ない。


(だけどボクは喋れないし……何とか伝わってくれると良いけど)


 言葉がダメならジェスチャーだ! とばかりに身体を上に伸ばしては森の奥へ向けて倒す。それを何度も繰り返して必死に『アッチ、アッチ』とアピールして――


「……?……!!」


――何回目かで、子供が顔をそちらに向けると、ハッとした表情になって慌てて立ち上がると駆けて行ってしまった。


(気をつけてね~)


 その子が見えなくなるまで見送ると、彼は手近な木を登り始める。


(前世の皆、今日ボクはエルフに会えたよ~、それじゃ、オヤスミ~~)


 元の世界の『家族』達に心の中で会話しながら、彼は眠りにつく。




   *   *   *


(――――ん~? ちょっと寝過ぎちゃったかな?)


 起きてみれば日は既に高い所まで登り、朝と言うにはやや遅い時間であった。昨夜は色々と有り過ぎて寝る時間が遅かったので、その分起きるのも遅くなってしまった様である。


(まあ良いよね。今日も良い天気だし)


 そうして、彼は視線を森に巡らす。

 森に差し込む木漏れ日に映える紅葉した木々――美味しそうに実っている果実――小さいながらも懸命に花をつける草花――森を散策する子供――木々の間を飛び回る小鳥達――


(――って! ちょっと待って?! 今、何か変なの混ざってなかった?!)


 彼はもう一度視線を森に巡らす。

 森に差し込む木漏れ日に映える紅葉した木々――美味しそうに実っている果実――小さいながらも懸命に花をつける草花――森を散策する子供――


(――そこ! それ! 子供?!)


 それは見紛う事無く、昨夜助けたエルフの子供だった。明らかに『侵入不可能ライン』よりコッチ側で、辺りをキョロキョロと見回している。


(……何で居るの? 何で来たの?)


 木の上で、無い頭を捻りながら考えていると、その子はテクテクとさらに『侵入不可能ライン』から離れる方向に歩いて行ってしまう。


(あ~、モンスターに遭ったら大変だし。とにかくまたあの子を帰さないと……何か気を引くモノ無いかな? 早くしないとあの子が行っちゃう)


 とは言うものの、今彼が居るのは木の枝なので果実ぐらいしか無い。しょうがないので、取り込んだ果実をワザと落としてみる。


「――?」


 落とした果実の音に気がついた子供は、トテテテと小走りでやって来ると果実を拾い上げる。

 そして、そのまま顔を上にあげて――視線が合う。


「……! ――!! ――!!」


 彼を見つけた途端、ピョンピョン飛び跳ねながら両手を大きく振り始める……まるで、自分の存在をアピールする様に。


(……目的はボクですか…………うん、何とな~くそんな気はしてたんだよね。想定の範囲内なんだけどね……でも言わせて――何で?!)


 無い首を傾げながらも、ビミョ~に涙目になりつつある子供の表情に負けて、彼は地面に滑り降りる。

 そして、その子は手の届く距離まで近づくとしゃがみこんでジッと見つめてくる。


(こうやって日の明かりの下で見ると、このおと……イヤ、女の子だね。キレイな顔してるよね~)


 肩の辺りでキチンと切り揃えられた髪は、染めたのとは違う自然色な緑色なら、こちらを見つめてくる大きな瞳も緑色。小振りな鼻にキレイなピンク色の唇。将来は美人になるであろうその顔は、耳が尖っていなければエルフとはわからなかっただろう。

 着ているのは、身体にフィットした長袖の上着に、下はスパッツの様にやはり身体にフィットしたハーフパンツ。

 森の中でヒラヒラした服は、そこらの草木に引っ掛かるのでその為の服装なのだろう。


「…………」


 女の子はしばらくの間、純真無垢な瞳でジッと見つめていると、右手を伸ばして指先で彼の身体をツンツンと突っつき始めた――実際はスライムな身体(ゆえ)にズボズボと突き刺さっているが。


(お~い。ボクだから良かったものを……普通のスライムなら溶かされちゃうよ?)


 彼の呆れを他所に女の子は、今度は手のひらで彼の身体をペタペタと触り始める――やっぱり、スライムな身体(ゆえ)にベチャベチャと音を立てているが。

 それが終わると、今度は直接身体の中に手を突っ込んでくる始末である。


(ちょっとちょっと! 危ないから、二重の意味で!)


 彼は慌てて自分の『核』を身体の奥の方へ動かす。女の子の方は引っこ抜いた手をしばらく見ていると、また彼の事をジッと見つめる。


(……好奇心旺盛なのは良いけどさぁ……もうちょっと色々と考えようよ……)


 内心で溜め息をついていると、女の子は左手に持っていた果実を彼の体の上に乗せる。


(イヤ、あげるよソレ)


 身体を操作して、乗っていた果実を女の子の方へと転がす。しかし、女の子はまた果実を彼の体の上に乗せる。


(返却~)


 彼も、また身体を操作して、乗っていた果実を女の子の方へと転がす。


「…………」


 女の子は少し考えた後、果実を彼の体の上に乗せた後に彼の周囲を回って反対側に移動する。


(リリース)


 彼も果実を女の子が居る方に転がす。


「…………」

(…………)


 無言で見つめ合う一人と一匹……何故か、緊迫感が漂い始める。


「――! ――?! ――!!」

(うわ?! ソコだ! おっと?!)


――これよりしばらくの間、意味も意義も何も無~い攻防戦が繰り広げられるのであった。




   *   *   *


(……何夢中になっちゃってんだよ、ボクは……)


 距離を取って逃げ回る女の子に対して、遠距離攻撃の要領で果実を放り投げるといった荒技を披露してまで、彼女に付き合っていた彼は、何時の間にか日の光が赤みを帯びてる事に気づく……夢中になり過ぎである。

 まあ、彼のすぐ隣で座っている女の子が、多少息が上がっていても満足気な笑顔を見せているので、まあ良いかと思えてしまうが……


「……?! ――!」


――と、急に女の子が空を見上げてから、立ち上がって駆け出す。向かう先は森の奥、『侵入不可能ライン』。


(……やっと、帰ってくれた……これで、二度と来てくれなければ良いんだけど……)


……途中で振り返って、手を振っていった事から、間違い無く明日も来るだろう……


(……ホント、どうしよう……?)


 どんだけ悩んでも答えは出そうに無いので、取り敢えず今日はロクに食事を摂っていないので、手近の木に登り実っている青い果実を取り込みながら、再度考える。


(う~ん。ボクが居るからあの子は来る……かと言ってボクが姿を消せば、あの様子だとボクを探し回る……それは危ないから却下……何とか追い返す……会話も出来ないのに?……うう~ん。手荒な手段になるけど……でも、ソレをやったらボクはこの森に居られなくなる……ううう~ん……)


――結局、彼は眠りにつくまで考え抜いた結果――


(……結局、なるようにしかならないよね。前世の皆、オヤスミ……)


 元の世界の『家族』達に心の中で会話しながら、彼は眠りにつく。

ご愛読有難うございました。


新しいモンスターが出ていないので、本日のモンスター図鑑はお休みです。

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