プロローグである!物語はまだ始まらない
初の長編です。完結出来るよう頑張りたいです。
頭の中のモノを文にするのが難しい……毎日投稿してる人、スゴすぎです。
「やあ、初めまして」
かけられた声に、彼は顔を上げてそちらを向く。しかし、そこには人は居らず、それどころか生き物すら居ない。ただ、光る球体が浮いているだけだった。
直径30センチ程の球体。それほど強い光をはなっているわけでは無いので、視界に入れていても眩しくない。
「……初めまして?」
語尾が上がってしまうのは、仕方ないだろう。何せ、本当にコレが喋ったのか、コレが自分に声を掛けてきたのか分からず、とりあえず返事をしただけなのだから。
しかし、光球は少し瞬くと、言葉を返してくる。
「へえ、ちゃんとした受け答えが出来るんだ。今回のは随分と強いらしいね」
感心した声である。流石に彼も会話が成立する以上、最初に自分に声を掛けてきたのは、この光球だと納得せざるを得ない。どうやって声を出しているのかと疑問に思いながら、彼は質問する。
「――誰?」
「その質問に答える前に、まずは、ココの説明からだね。周りを見てごらん」
質問に質問を返された形だけど、言われるままに彼は周りを見る。
――そして、あまりの光景に声が口から漏れる。
「…………え?」
―――言でいえば白、それも真っ白、前後上下左右全て白。自分と光球を除けば何も無い完全な白い世界が、ただただ広がっている。
「……ココは?」
「まあ、相談所みたいなトコかな?」
思わずつぶやいた言葉に光球が答えてくれる……存在を忘れていた為、少しビクッとしつつも彼は光球に話しかける。
「相談所って、何を相談するための?」
「来世だよ?」
「……じゃあ、やっぱりボクは死んじゃったんだ」
あっさりとした返答に、しかし彼もあっさり返す。そんな彼に光球は感心した様な声で話しを続ける。
「自分の死を覚えているんだ。普通はショックとかで覚えて無い人が多いんだけどね。君は自分の死に納得しているってトコかな?」
「んん? まあ、そんなカンジかな? 否定はしないよ」
苦笑いしながら光球に答える。光球も顔が無いので分かり辛いけど。笑っている様な雰囲気である。
「さて、私が誰なのかだったよね? 管理者だよ」
「管理者?」
「そう、世界の管理者」
「へ~。そうなんだ」
またもや、あっさりと告げられる答えに、彼もあっさり返す。この状況にもう慣れている所を見れば、結構大物と言える。
「うん。まあ、神とか天使とかでも合ってるかな? 人より上位存在なことには変わりないしね」
「じゃあ、管理者さん。まとめると、ここは死後の世界で、僕の来世を相談する場所で間違い無い?」
彼の言葉に、光球、と言うか管理者が嬉しそうな声で答える。
「そうそう。輪廻転生ってヤツだよ。話が早くて助かるよ」
「じゃあ、次はどんな生き物に生まれ変わるの? 確かそれで、合ってるよね?」
「……ホント、話が早くて助かるよ……最近は、転生って聞くと、どっかのアニメやゲームの世界に能力を付けて送れって言う人が多くてね……ハァ」
一転して、疲れたような声で管理者が言う……哀愁が漂ってるのは気のせいだろうか?
「えーと……なんか、ごめんなさい」
「いや、君が謝る事じゃ無いからね。気にしなくて良いよ」
「う~ん……じゃあ、お言葉に甘えて。それで、何に生まれ変わるの?」
少し暗くなった空気を晴らす様に、彼は話しを続ける。管理者もそれに答える。
「いや、さっきも言ったけど、ここは相談所だから。君は来世をある程度選べるんだよ」
「えっ! 良いの!」
思いがけない管理者の答えに、彼はかなり驚く。完全に予想外とも言えるのだから、無理もないが。
「うん。君は強いからね。その権利が有るんだ」
「強いって………何が?」
「『魂』だよ」
管理者の言葉に、彼は首をかしげて半信半疑な表情で答える。
「そうなのかな? そんな実感無いけど?」
「まあ、仕方ないよ。魔法の無い世界で魔力を持っていても分からない様に、君の居た世界にはそれを知る技術が存在しなかったんだからね」
「なるほどね~。ついでに聞くけど、『魂』が強いから選べるってことは、普通の人は?」
せっかくの機会なので、聞きたいことは全部聞いてみようと、彼は質問を続ける。管理者も澱み無く答えてくれる。
「普通の人達は完全ランダムだね。そっちの方まで一々やってたら時間がいくら有っても足りないしね」
「それもそうだね。でも何で魂が強い人だと選べるの?」
「『魂』が強い『モノ』は、何かしら大きいコトを起こしてくれるんだよ。善悪関係無くね。それは、世界にとっては良い事なんだよ。世界が停滞するのを防いでくれるからね。でも、そんな存在が虫とか小物に転生するのは勿体無いから、転生先を選べるようにしてあるんだよ」
ふむふむ、と頷きながら彼は話を聞く。世界の秘密の一端を知った事でちょっと感動したりもしている。
「で、話を戻して、そろそろ君の来世を選んでもらうよ。まずは、この中からね」
管理者がそう言うと、何も無い所から一冊の本が現れる。かなり分厚く、電話帳と同じぐらいの厚さである。とりあえず手に取ってから、彼は管理者に尋ねる。
「何これ?」
「転生可能な生物の一覧表だよ。まず、それを選んでからその後、転生先の場所や環境を、希望に沿って決めていくんだよ。だから、好きなのを選んで」
とりあえず、地面に座り、言われるままに本を開いて、彼は最初のページを見る。
「……………………………」
無言のまま、ページをめくる。またページをめくる。ページをめくる。ページをめくる。ページをめくる。めくってめくってめくってめくって、全体の三分の一程めくってから、本をパタンと閉じる。
そして大きく息を吸い――
「異議ありっ!!!」
――どっかのピンチに巻き込まれる弁護士以上の声を張り上げた。
「なんで、『アマガエル』や『ヒキガエル』とかスタートが両生類なの!! しかも、その後は『魚類』『昆虫』と続いてるし!! さっき、『魂』が強い存在は虫とか小物に転生するのは勿体無いって言ってたよね!! あれは何?! 嘘だったの?! それとも何?! イジメ?! これはイジメなの?!! て言うか! 説明文や挿絵とか親切設計な分、余計にムカツクんだけど!!!」
地面をバンバン叩きながら、彼は叫び続ける。そんなヒートアップする彼に管理者は慌てて弁解する。
「イヤイヤイヤイヤ! そうじゃ無いから!! ちゃんと理由が有るから! 落ち着いて!!」
管理者の必死の言葉に彼は、ぜ~は~ぜ~は~と、荒くなっていた息を整える。そして、視線で問いかける。「どういうこったコラ!」という感じで。
「理由は簡単なんだよ。君の居た世界は衰退してるんだよ」
「…………は?」
予想を三歩どころか、十歩ぐらい外れた答えに、彼の怒りが一瞬で消える。そんな彼に管理者はすまなそうに告げる。
「君の居た世界は少しづつ終わりに近づいていってるんだよ。後数百年で少なくとも人類は全滅かな?」
「……嘘だよね?」
「残念ながら本当だよ。テレビのニュースでやってなかったかい? 世界規模で出産率が減少してるって。人だけじゃ無く動物もね」
そういえばそんな事を聞いたような、と記憶の片隅に引っかかるが、まさか、そんな事になってるとは夢にも思わず、彼はただ愕然とする。
「それとね。転生するのは、君だけじゃ無いよね? 普通の『魂』の人達はランダムで転生する。だから、『人間』に転生する人だっているよね? 確かに君は来世を選べるけど、それはどの列に並ぶのかを選ぶ事で、列に並ぶ順番まで選べないんだよ。ちゃんと最後尾に並ぶ事になる」
「……じゃあ、この本に『人間』とかが載ってないのは……」
「そう。もう列は締め切り。今から並んでも君の番が来る前に絶滅。他の載ってない生き物についても同じ理由」
生まれる子供が少なければ、転生する枠も少なくなる。しかも増えること無く減り続けるのみ。当然、列に並べる人も少ない。実に単純な答えである。
本の内容が『両生類』から始まり、『魚類』『昆虫』と続くのは、産卵数が多いからなのだろう。つまり、出産率が下がっても、もともと多く生むのだから影響が出るのに時間が掛かる分、絶滅するのにも時間が掛かる。
「……どうにかならないの?」
「ゴメンね。コレばかりはどうにも出来ないんだよ」
「……タイミングが悪かったって事なのかな?」
溜め息をつきながら、彼は再び本を開く。他に選択肢が無いなら、せめて少しでもマシなのを選ぼうと、それぞれの生物の説明文に目を通す。
――サケ、数千の卵を産むが、大人になるのはひと握り。
――フナ、数万の卵を産むが、大人になるのはひと握り。
――マンボウ、数億の卵を産むが、大人になるのはひと握り。
(………………………………)
折れそうになる心をなんとか奮い立たせる……しかし、全体の半分程を超えたところで、『ミジンコ』のページが出て来た時には、流石に心の中で涙が流れるのを止めることは出来なかった。
(これなら、ランダムに転生させてもらった方が良い気がしてきた……)
もはや、惰性でページをめくっていると、突然、彼の手が止まる。と言うか、固まる。
数秒、そのまま固まっていると、突然再起動して管理者へ問いかける。
「あのさ」
「うん? 何?」
「これって……?」
彼の持っている本。今、開かれているページ。説明文も挿絵も無く、ただ大きな文字がひとつだけ
――――『異世界』―――――
「ああ、見つけちゃったんだ」
「これって……つまり、そういう事?」
「うん、そう。『異世界』への転生」
一瞬ポカ~ンとしてしまうが、すぐに気を取り直して、彼は管理者に聞く。
「そんな事出来るの? と言うか、良いの?」
「今なら、出来るよ。だから問題無いよ」
「……? 今ならって?」
彼の疑問に、管理者は「少し、話を戻すけど」と言って先を続ける。
「君の居た世界は衰退してる。じゃあ、減った魂はどこへ行くのか?――答えは別の世界へ。今なら君をその流れに乗せて、別の世界へ送れるんだよ」
「ホントに! じゃあ、魔法の有る世界に生まれることも出来るの?!」
「うん。可能だよ」
その言葉に興奮する彼。気分はハイテンション。思わず小躍りしてしまう――
――管理者の言葉の続きを聞くまで。
「問題がいくつか有るけどね」
「……え? 何それ? どんな問題?」
「一つ目はね、『魂』が強い『モノ』を同じ世界に転生させるのでは無く、『異世界』に送ると前世の記憶を持ったままになることが有る」
……一つ目からして、結構デカイ問題を告げられる。
「何でそうなっちゃうの?」
「『異世界』に送るって事は、向こうの輪廻の輪に割り込む様なものだからね。普通の『魂』ならそれでも真っ白に出来る。でも強い『魂』だと記憶や知識の一部が残ってしまう――例えるなら、洗濯中の洗濯機に途中で洗い物を放り込んだら、しつこいヨゴレはこびりついたまま、みたいな?」
「流石にその例えは無いんじゃない!! イヤ! わかり易いけどさ!!」
彼のツッコミを華麗にスルーして、管理者は続ける。
「二つ目は、そのページに書かれている事」
「……?『異世界』でしょ?」
「そう、『異世界』。それだけ――『異世界』でどこに何に転生するかは選べない」
二つ目も結構デカイ問題である……イヤ、一つ目の問題と合わせるとかなり深刻な問題になる。人間で無く、モンスター等に転生。しかも人であった時の記憶が有る……想像してみると、かなりイヤである
「ちなみに、前に『異世界』に転生希望した人は、近未来な世界で生物兵器になってたよ」
(…………)
「それと、アッチで変なのに生まれたからって、すぐ自殺してもダメだよ。ある程度の年月を生きた『生物』じゃないと、ココには来れないからね。もしそんな事をしたら普通に輪廻の輪に入れられるから。そうなれば転生先はランダム。記憶なんかも真っ白にされてね」
(………………ボクにどうしろと?)
考える。考えて考えて考えてみて、答えが決まってる事に思わず溜め息をつく。
「『異世界』でお願い……この世界の人枠埋まっちゃってるし……『異世界』で自分の運に賭けてみるよ」
「うん、そうだよね。そうするよね――それじゃ、どの『異世界』にする?」
少し考えた後、彼は希望を伝える。
「…………やっぱり、魔法の有るファンタジーな世界で――「文明レベルは?」――王道だけど、中世のヨーロッパみたいな――「それ以外に希望は?」――エルフや獣人とか異種族が居て――「ふんふん」あっ、普通の人でも簡単な魔法は使える、魔法が一般的な感じで――「なるほど」――後はおまかせします」
こんなもんか、と希望を伝え終えるとしばらくの間、無言になる管理者。暇になった彼は適当に本のページをめくり、時間を潰す。
――数分後。管理者がようやく口を開く。
「お待たせ。該当する世界を検索完了。その中でも、比較的安全そうなのを、ピックアップして決定したよ」
「どんな世界なの?」
「ごめんね。それは教えられないんだ。アッチで自分で調べてね。代わりに、コレあげるよ」
管理者からホタルの様な小さい光が放たれ、彼の身体に当たると吸い込まれる様に消える。
「――? 今のは何?」
「『言語理解能力』だよ。前世の記憶を持ったままだと、アッチの世界で言葉を覚えるのに苦労するからね」
「あっ、ナルホドね。ありがとう!!」
英語を覚えるのが苦手だった自分には最高の贈り物だと、彼は内心大喜びである。
「注意として、知性の低い生物だと通用しないよ」
「どう言う意味?」
「動物の鳴き声なんかは翻訳されない。あくまで、『言葉』や『言語』として成立してないとダメって事」
動物好きな彼にとっては、ちょっと残念でもあるが、まあ仕方ないかと納得する。
「さて、これで全て終了。後は君をアッチの世界の輪廻の輪に送るだけ」
「うん。色々とありがとう」
「いやいや、これは私の役目だからね。別に礼なんて言わなくてもいいよ…………異世界に転生して人族に転生する確率って5%未満だし……」
最後の方は声が小さくて、良く聞き取れなかったけど、まあ気にする事も無いか、と華麗にスルー。
そして、彼の身体が徐々に薄くなっていく。同時に強い眠気が襲いかかってくる。
「いってらっしゃい。次の生に幸あらんことを」
「うん……じゃあね……」
眠りに落ちる前の最後の会話に、彼は笑顔を浮かべて答える。そして目を閉じる。
――――どうか、人に生まれる事を願って――――
* * *
とある世界。とある時間。とある場所。新たな生命が生まれ――――
(はああああああぁぁぁぁぁ??!!!!)
――――声なき心の叫びを張り上げていた。
ご愛読有難うございました。