エピローグ
小さな会議室で、数人の人影が顔を突き合わせるように話し込んでいました。
そして、部屋に備え付けられたモニターには、文字の羅列が次々に映し出されています。
「それで、今まで調べてきたデーターはとりあえず生きてるのか?」
「いや、ユパの言うマナを此方へと引き入れるソース部分がまったく意味をなしていない。実際記憶を基に再現してみたがまったく発動しなかった」
「それって魔法がもう発動できないってこと?」
「ああ、そう考えて貰っても間違いはない」
大柄の男はそう言うと手元にある資料をそれぞれの手元へと配っていきます。
それは、以前に確かに効力が確認されたプログラムを印刷したものだ。しかし、途中のマーカー部分が明らかに意味のないダミープログラムに書き換わっている。
「確かに、これではただ循環するだけで何ら意味がないな。しかも一定カウント以降はフリーズするだろうな」
ユーパンドラは一通りプログラム目を通したあとそう発言する。
「ユパの作ったプログラムは保護機能を組み込んでたのではないの?」
「ああ、一応プログラム自体は残ってるよ、ただ残念ながらこのプログラムは起動する事は無かった。言語自体の問題なのか、マナの問題なのかすら判断がつかない」
「ってことはあっちの世界と繋ぐパイプが完全に切れた?」
トモカは誰もが思い浮かべながらも言葉にできなかった事を告げます。そして、その言葉にユーパンドラは頭を抱えました。
「まったく手掛かりがなくなったか!これは前以上に苦戦するぞ!」
「ですね、以前のプログラムもすべてを理解したわけではなく、ただ法則をまねていただけですから。あらたに言語を起こすにしても、あちらの世界へどうやって干渉すれば良いのかすら検討が付きません」
コヒナの言葉に一同が頷く。そして、会話が止み会議室の中に沈黙が漂う中、突然に会議室の扉が開きました。
「社長!またこんな所で遊んでるんですか!あと5分で会議の時間です!」
いつの間にかユーパンドラの秘書のような位置づけへと変更されていた木下がすごい勢いで飛び込んできました。その勢いに押されながらもユーパンドラは必死に弁解をしますが、一向に聞き入れられる気配がありません。
「企画会議に社長不在などありえません!それに先日のアップデート後の報告も行われるんですから」
「いや、俺が聞いてもチンプンカンプンだし、部長に任せておけば・・・」
「駄目です!部長の案はいつもオーソドックスすぎて盛り上がりに欠けるんです!今までも社長が企画したイベントの方が盛り上がったじゃないですか!」
さすがに、木下に対しそれは自分じゃないと言っても聞き入れられるはずもなく、ユーパンドラは企画会議へと連行されていくのでした。
他の面々は呆れた顔でその様子を眺めていましたが、漸く静かになった部屋の中で改めて今の状況の異常さを痛感していました。
「いやぁ、それにしてもアナザーの社長がいつの間にかユパさんになってるから驚いたぞ」
「ああ、ユパさんから連絡貰った時も何言ってんだ?なんかの工作か?って疑ったもんな」
「うんうん、集めた資料ネット上にぶちまけてアナザーを倒産に追い込もうとしていた時だもんね」
「ええ、あの時は焦りました。計画を知っているだけにまず何とかして中止しないとって」
「だね、あれは焦ったって」
皆の意見にコヒナとトモカが顔を見合わせて苦笑を浮かべます。
「ユパさん達が無事に帰還出来るかどうかも一応警戒してたからね、連絡貰った時無理やり言わされてるのかっとか結構警戒したからな」
「だってさ、アナザー社長がユパさんになってるなんて誰が信じるよ?馬鹿言うんじゃないって思うぜ普通」
「だね、敵の大将がいつのまにか味方になってるって感じだしね」
皆の会話を聞きながら、コヒナは顔を引き攣らせていました。確かにみんなの話に間違いは無いです。でも、もしアナザーが倒産でもした日には自分達の個人補償も考えればまさに自殺ものです。
あとで解った事ですが、銀行の借り入れ保証など考えれば考えるほどあの時よく計画を中止できたと胸をなでおろしました。
なにしろ、突然の事にユパを含めアナザー訪問組が右往左往している間に危うく予定連絡時間を超過してしまい、コジロウ達が救出活動を開始、別名アナザー崩壊シナリオを発動させる寸前まで行っていたのでした。
トモカの携帯に、トモカの両親から名古屋ならではの某有名な御饅頭購入依頼の電話がなければそれこそ誰も時間を気にしなかったと思われます。
「あ、でも段々とアカウント数が減ってきてるの、このまま何もしないとアナザー倒産したっておかしくないんです。ハッキリ言ってユパも私も毎日胃が痛いです。ほんとに胃潰瘍になってもおかしくないくらいに」
深刻な表情で告げるコヒナに対し、他の面々も顔を顰めました。
「ちなみにどっかの会社に売却って出来ないのか?」
「うん、業界内でそんな話が出来るほど親しい会社が無いっていうか私達が面識なんてあるはずないから」
「そっか、そうだよね、もともとこの業界にいて付き合いが多いって訳じゃないし、ましてやアナザーの現状ですら把握出来てないんでしょ?」
「うん、ユパさんが頑張ってくれてるんだけどね」
トモカの言葉にコヒナは頷きます。
しかし、ユーパンドラが中心となって動いていた異世界よりの仲間救出作戦はこの事により大きな停滞を迎えていました。
「山口ってのの言葉を信じるならもう手遅れなんだろうがな」
コヒナの表情から推察したかのタイミングでコジロウがボソッと呟きました。そして、その言葉が今ここにいる面々へと重く染み込んでいきます。
「悔しいね、結局私達は何も出来ずに終わるんでしょうか・・・」
思わず毀れたコヒナの言葉に皆が一斉に視線を向けます。そして、何も答える事無く有る者は上を向き。また有る者は目を閉じて考え込みます。そして、誰もその言葉へ答えることができませんでした。
「とにかく、ユパの考えたプログラム言語がまったく役に立たなくなってるのは確実だ。新たな取っ掛かりを見つけるにしても時間は掛かるだろうね。肝心のユパが獲られちまったから今日は解散にしよう」
トモカの言葉に全員が頷きそれぞれに会議室を後にしていきました。
トモカは、帰り際にアナザーのビルを振り返りその姿を睨み付けました。
「絶対にあたしたちは諦めないから」
そしてみんながいる駐車場へと歩いて行きました。
◆◆◆◆
その10年後、アナザーはあらたなVR技術を取り込んだ異界への扉大型アップデートを発表した。
そして、その世界はまさに生きているかのようなNPC達、よりリアルな五感など、一気にVRMMOの世界を発展させ、世界に驚愕を与えました。
しかし、その発表後たった半年でアナザーの社長一族、主要開発メンバーなど多くの者達が行方不明となり、アナザーは出資銀行の傘下へと吸収される事となりました。
この事件は某国情報部に拉致された、政府が安全の為匿っている、など様々な噂を呼び、なかには異世界へと旅立ったなどといった声も聞こえてきたと言います。
ただ、彼らの行方を探す警察の調書の中に、行方不明になる数日前、彼らと一緒に銀色に輝く犬を連れた少女が歩いていたっとする証言が載せられていました。
えっと、お金持ちになってうはうはのユパさんとか、出世して大喜びの木下さんとか、色々と書きたい事はいっぱいあったのですけど、すべて没です!w
なんかイメージというか、文章というか、ぜんぜん浮かんでこなくて・・・
みんな苦労している所しか思い浮かびません^^;
遅くなりましたけど異界への扉はこれで一応完結です。
あとは・・・コルトの方を進めねば・・・




