7-3:虎穴に入らずんば
「うわ!さすがにでかいな」
「うん、大きいね~」
「儲けてそうですね」
ユーパンドラは目の前にあるビルを見てそんな感想を述べました。そして、コヒナとトモカも同様に感想を述べていきます。
「どうせならコジロウも連れてきたかったな、この3人だと攻撃力が圧倒的に足らんな」
ユーパンドラは事前にネットで会社の写真などを調べてはいたが、若干、本音をいうと相当怖気づいてはいましたが、自分以外は女性2名の為いっさい表情には表すことはありません。
「まぁしかたないって、さっさと行こう」
トモカはそう言うとさっさとビルの入り口に向かって歩いていってしまう。
基本的に女性の方が物怖じしないんだよなぁ
ユーパンドラはそんな事を思いながら、慌てて先頭に立ち自動ドアをくぐったのだった。
「異界への扉運営グループ第二課課長木下さんをお願いします。1時でお約束させていただいてます」
「少々お待ちください」
受付の女性は卓上画面を操作し、すぐにユーパンドラへと視線を移した。
「そちらのB2番の面談ルームでお待ちください」
そう指示をすると、右の通路へと視線を向けました。ユーパンドラ達は、その廊下へと進みB2と書かれた扉の部屋の中へとはいり、その広さに驚いたのでした。
「うわ、アナザーの人間何人くるんだ?」
「一人って事は絶対なさそうだね」
「そうですね」
椅子に座り、部屋の中を見回していると、早々に面談ルームの扉が開き木下と、更に3名の人が部屋へと入ってきた。
「初めましてでいいかな?それとも先日ぶりのほうがいい?」
ユーパンドラ達にそう声を掛ける木下を見て、トモカとコヒナが内心で舌打ちをし呪いの声を吐いていました。
((モゲロ!))
わざわざ胸を強調させながらとしか思えないゆっくりとした動作で、胸ポケットから名刺入れを取り出した木下は、ユーパンドラ達へと名刺を差し出しました。
「改めて、異界への扉運営グループ第二課課長木下です」
「ユーパンドラです」「トモカです」「コヒナです」
3人が順番に名前を名乗っていく。しかし、アナザーの木下を除くメンバーは怪訝な顔でユーパンドラ達へと視線を向けるます。
「ふ~ん、本名は聞かせてくれないのかな?」
「あえて、リアルの名前を名乗る必要が感じられませんね。それより他のお三方は?」
ユーパンドラが視線を向けると、それぞれが名乗りを上げます。
「異界への扉改善グループの水野です」
「改善グループの大竹です」
「クレーム室の寺田です」
「彼らは初期での異界への扉制作メンバーよ、貴方たちが訴える奇怪な現象を検証するために呼んだの」
そう言う木下を見ながら、ユーパンドラは奇怪な現象との言葉に違和感を感じていました。
「単刀直入にお聞きしますが、アナザーでは今回の騒動を把握されていますか?」
ユーパンドラの問いに木下他4人が顔を見合わせました。
「そうね、嘘を言っても仕方がありません。アナザーは貴方たちが言うような異世界トリップなどという現象を確認していません。またそんな事が起きるなど信じていません」
木下の言葉にトモカ達の視線が自然と厳しい物に変わりました。
しかし、木下はその視線を請けながらも慌てることなく説明を続けました。
「勘違いしないでほしいのだけど、だからと言って貴方達の言動を重視はしてるのよ?ただ、私達が懸念しているのはVR技術によるプログラムの不具合、または個人差による何らかの同調障害などが起きたのではないかと考えているの」
その後の説明で、アナザー側においてVR技術の進展に伴い発生している処理情報急増による脳負担の増加。微弱なノイズなどによって起きる脳障害の可能性、他様々な医学的説明を受けました。そして、脳科学自体が進歩したとはいえまだ未知数な所が多い分野だという事も。
それによって彼らは私達がVR機器との接続において発生したトラブルであろうと推測を立てたようだった。この為、原因を突き詰めるためにもアナザーのみならず医療法人VR推進協会における検査に協力してほしいとの依頼を提示してきました。
「まだVR自体の歴史が浅いです。この為、今後も様々な事が発生すると思われます。ただ、その原因をしっかりと突き止め、より医療や教育など様々な事柄へと展開していく、この事を見越して民間へのVRを普及したと言っても過言じゃありません。その為、貴方たちにもぜひ協力をお願いしたいの」
木下が話せば話すほどユーパンドラは自分の心の中に失望感が広がっていく事に気が付いた。
「ちょっと!それって」
「トモカさん」
トモカが声を上げた時、すぐにユーパンドラがその言葉の先を制しました。
トモカはユーパンドラの視線をうけ、不承不承口を閉じます。
そして、ユーパンドラはこのままではと思い最低でも聞き出したいこと、把握したかった事を口にするのだった。
「そちらのお話は分かりました。その事に対して議論する前にまず確認したい事が有ります。異界への扉参加ユーザーの中においてキャラクター名 遥、キュアリー、きゅまぁなどの人物特定及び所在を把握されていますか?また、その者達と連絡は取れていますか?」
3人の名前を出したとき、木下はその名前に対し何らかの反応を一切行わず、まるで初めて聞くような態度を取りました。しかし、それ以外の者、特に寺田は一瞬他のメンバーに対し問いかけるように視線をめぐらします。そして、それをユーパンドラは視界の片隅で確認していました。
「ふむ、どうやら確認は取られているようですね。それで、彼らの所在は確認出来ましたか?」
「勘違いされては困ります。私達は特に各ユーザーの所在を確認するつもりはありませんし、何らかの法的に問題が発生しないかぎり個人の特定はいたしません」
木下の言葉に、ユーパンドラは笑顔を浮かべながら答えます。
「法的に問題が発生しない限りですね」
そう告げるユーパンドラに対し、木下は今までの表情を改め、厳しい眼差しを向けました。
「法的な問題がどこかにあると?」
「そうですね、すでに発覚している特定ユーザーにおける脳障害発生情報の隠蔽、これなんかどうですか?」
ユーパンドラの言葉に木下の表情が更に厳しくなります。
「起こっているかも解らない物に対し報告などできません。その為、調査を開始したところです」
「ほう、起こっているかも解らないと、我々を少々馬鹿にしていませんかな?私はこちらに戻ってすぐVR法を真っ先に確認させていただきました、何が言いたいかお分かりだと思いますが?」
木下はただ黙ってユーパンドラを睨み付けていました。そして、何度か何かを言おうとしては止めを繰り返します。しかし、どう話せば良いのかを思いつかない用です。
すると、そこに新たに50歳代の男が扉を軽くノックして入ってきました。
「歓談中失礼」
そういうとユーパンドラ達の方へと歩いてきて、名刺を差し出してきます。
「アナザー代表取締役 山口と言います。この度はわざわざ名古屋まで来ていただきありがとうございます」
笑顔を浮かべながら挨拶をする山口に対し、ユーパンドラも笑顔を返しながら名刺を受取りました。
「う~ん、社長さんですか、こちらこそ宜しくお願いします。名前はお聞きになっていたと思いますが、再度お伝えした方が良いですか?」
ユーパンドラの言葉に、山口は笑顔で答えます。
「ユーパンドラ君でよかったかな?君は少々話を飛ばしすぎる。交渉ごとは焦ってはいけない」
「ほう、流石は代表と名がつくだけに交渉と言いますか。ただ、貴方に切れる札はそう多くはなさそうですが?」
「ふむ、その意図をお聞きしても?」
今度は逆にユーパンドラが笑顔で聞き返しました。
「あなた方のIDを抹消、今までのログの消去、貴方方の協力いかんによってやりようは、という事ですよ」
笑顔でそう答える山口に対し、笑顔を消し睨み付けるユーパンドラと、その後ろで同様に怒り心頭のトモカ、コヒナであった。そして、その様子をまったくの無表情で眺めているアナザー社員達、そんな状況で時間が数分過ぎたかといった時、唐突にユーパンドラが笑い出しました。
「いやぁ、参りましたね、貴方本当にアナザーの代表者ですか?」
諦めたような、又は呆れたような、微妙な表情でユーパンドラは山口を見ました。そして、一冊のノートを取り出しました。
「アナザー代表、山口 芳樹 年齢42歳、帝都大学工学部情報工学科を卒業後1年でアナザーを立ち上げる。VR技術開発に対し天才的な発想と、新たな言語ゲールを開発、VR技術の進展に大いに貢献する。その後、アナザーをわずか5年で上場を果たす。その後VRを念頭においたMMORPG異界への扉を発売、その3年後にVR版異界への扉の制作発表、発表後僅か2年でVR版異界への扉のβテストを開始する。いやぁまさに天才ですね」
「わざわざ私の経歴を説明して頂かなくても構わないのだがね」
「ああ、失礼しました。お聞きしたいところは別の所でしてね、貴方誰です?」
「「「「は?」」」」
周りで聞いていたトモカやアナザー社員達が一斉に声を上げました。しかし、山口は笑顔を浮かべたままで何も答えることはしません。
「帝都大学の卒業者名簿、ここに山口芳樹の名前が確かにあります」
ユーパンドラはそう言ってノートから取り出した名簿のコピーを山口へと見せる。そして、更に一枚のカラーコピーされた紙を開いて周りに見えるようにして開いた。
「これは、貴方が4年生の時の写真です。この右端に写っているのが貴方で間違いないですよね?」
「君は何が言いたいのかね、ましてや君がどうやってそれを手に入れたのかはしらないが、明らかに個人情報保護違反だな」
「木下さん、この写真を見て何か気が付きませんか?」
ユーパンドラは山口を無視して、木下にカラーコピーを見せながら尋ねます。しかし、木下は何に気が付けば良いのか、更には何を言っていいのかわからず困惑した表情を浮かべました。
「本人の若いころの写真に見えるけど、何かが解るのこれで?」
トモカも事前に何も聞いていなかったため、戸惑いながらユーパンドラに問いかけました。
「トモカさんでも気が付きませんか、はぁ、遥かならすぐに気が付いたでしょうに」
ユーパンドラはワザとらしく溜息を吐きます。
「遥かなら?」
「ええ、この写真を見て、この山口を見てすぐに気が付き言うでしょうね」
ユーパンドラへとみんなの視線が集まります。そして、山口の視線も鋭くなりました。
「なんって?」
トモカの問いにユーパンドラが真剣な顔で告げました。
「童貞だ!っと」
「「「「はぁ?」」」」
あまりの答えに皆が一斉に声をあげます。そして、山口へと視線を向けると、明らかに頬がピクピクと動いています。
「そして、さらに気が付くでしょう、マザコンだと!」
究極の真実を告げたかのようにユーパンドラが胸を張ります。そして、山口へともうこれ以上ないかのように勝ち誇った笑みを向けました。
「君は、馬鹿かね?」
必死に怒りを抑えるかのように笑顔をひくつかせながら山口がユーパンドラへと告げました。しかし、それでもユーパンドラは笑顔を浮かべたまま山口へと更なる追撃を続けました。
「ふむ、まだ言い逃れをするようですね」
自信満々に話すユーパンドラに対し、トモカやコヒナの視線も段々と冷たくなっていく気がします。しかし、それすらユーパンドラは気にすることがありませんでした。
「それでは、貴方がなぜマザコンなのかという点についてですが、失礼ですがあなたのお母さんのお名前をお聞きしても良いですか?」
「君にそんな事をいう必要はない」
冷淡に話を打ち切る山口に対し、ユーパンドラは更に問いかけました。
「そうですか、まあ大事なお母様ですからね、このような事に巻き込みたくないのでしょうね。それで、失礼ですが山口さんはどちらでお生まれで?」
「茶番はもう結構だ、時間の無駄だったな、君たちのIDは削除させていただこう」
そう告げて席を立とうとする山口に対し、ユーパンドラが告げます。
「あ、貴方をお生みになった山口小枝子さんですが、幼少のころに負った怪我で子供は産めないはずなんですよ。その再治療した医師に確認しているんで間違いありません」
部屋を出て行こうとしていた山口は、その言葉に動きを止め、ゆっくりとユーパンドラへと振り向きました。
「君は何を言ってるんだね、これ以上馬鹿な話は」
「それとですね、もう一つお尋ねしたいのですが、渡来神ってなんでしょう?」
「「「「?」」」」
周りの者達が一斉にユーパンドラへと視線を向ける。すると、ユーパンドラが不思議な笑みを浮かべて爆弾を投下したのだった。
「さっきから貴方のステータスで種族が渡来神になってるんですが?」
帰還後を切り離して本編を完結にしようか思案中です。
ただ、やり方が今一つ解らなくて躊躇してたり・・・
失敗して消えたりするのが怖いのです><
それよりこっちを完結に持って行く方が健全?なのでしょうか・・・




