7-2:策謀
一応ですが、異界への扉の正当な続編はコルトの森の隠者という題名で書いています。
こちらの異界への扉の7章からはどちらかというとサブのお話になってしまっています。
書いていて、失敗した?逆にすれば良かった?って思っているのは内緒です!
ご指摘いただいた文を訂正いたしました。ご指摘ありがとうございます。
VRMMORPG盤異界への扉へとログインしたユーパンドラは、相変わらずの視界の映像処理に顔をしかめました。
VRの技術が日進月歩に進んでいるとはいえ、まだまだ現実と疑うほどの映像を実現させるには難しい。そして、異界での記憶と良く似た映像であるため違和感が一層強く感じられるのかもと自己分析をしていました。
「まぁこれは慣れるしかないんでしょうけどね」
そんな事を思っていると、ユーパンドラがログインした事をメッセージで知ったギルドメンバーから早くもメッセージが飛んできました。
”ユパさん、ソロモンの洞窟クエストいきませんか~今盾1、マジ2、弓1、回復1で後1名なんです”
”あ~ごめん、ちょっと用事があるんで参加できません”
”了解!”
ユーパンドラはこの頭の中で響くような会話も慣れないなっと思いながら、急ぎ足でギルドホームへと向かいます。
ギルドホームへと入ると、そこにはダイブツ、健一郎、颯太といったメンバーがテーブルで何かを話していました。そして、ユーパンドラに対して手を上げて挨拶をしてきます。
「ユパさんこんこん~」
「こんばんわ~」
「こんばんわ~」
「こんばんわ、三人とも早いね、こっちは仕事終わってやっとこINできたわ、後でコヒナもくるよ」
テーブルの空いた席に座りながら、机の上に並べられたお菓子の山に視線を向けました。
「相変わらずお菓子山盛りだね」
「そりゃ~こっちではどんんだけ食べても太らんから」
健一郎がそう答えると、3人は苦笑を浮かべました。
「まぁ確かに、ただ味が今ひとつわかんないのが難点だよな」
「でも、食べてるって気分だけでも違う!」
「まぁ確かに」
「だな」
それぞれ感想を言いながらもテーブルの上のお菓子へと手を伸ばします。
「そういえば、禁煙は駄目だったんだっけ?」
ダイブツが颯太を見ると、颯太は手元にタバコを取り出して火を着けました。
「うん、こっちでタバコ吸って、リアルでは我慢って思ったんだが無理だった。根本的に吸いたいって気持ちは変わらないですから」
「まぁ吸い溜めは出来ないってことだな」
「っていうか余計吸いたくなるって感じです?」
「「「駄目じゃん!」」」
そんな取りとめも無い事を話しながら、時間を潰していると元推定淑女のギルドマスターであるトモカがギルドホームの扉を潜って部屋へと入ってきました。
「お、ようやくご登場ですね」
「ごめん~~お待たせしちゃった?」
「しちゃいました!」
おどけて声色を換えて返事を返す颯太の声に皆が吹き出しながらも、トモカが席に座るのと同時に表情を一変して真剣な顔に変わります。
「一応ですが、これ以上の入室は不可に設定しました」
「さて、それでは会議を始めますか」
全員が手元に何かしらの資料を再現します。このゲームにおいてはリアルでPDFにて取り込んだ資料をVR内でメモとして再現する機能があり、これによってわざわざメニュー画面やアイコン操作をして攻略wikiなどを参照しなくても済むように設計されています。
「で、今現在異世界へ渡っていると思われる人数は把握できましたか?」
「そうだね、それぞれに誤差はあるだろうけどまず200名程ではないかって事だね」
「へぇ、健一郎さんそれはどの程度正確なの?」
「各鯖における各種族のトップランカー上位において辞めそうにも無いのにVRMMOに来ていない、更にはMMOの方にもいなくなった人の合計だよ、最初は更にその内の何割って感じで人数を削ろうかと思ったけど、トップランカーじゃない人があっちに行ってる可能性もあるからそのまんまの数字にしました」
「なるほど、理解は出来る算出方法かな?」
「でも、少なすぎない?あたし達が向こうに行ってた人数と帰って来た人数を考えると少ない気がする」
「他鯖の人もいたし、そう考えても無難な数じゃない?トップランカー100位までみんな消えたらそれこそ騒ぎになるって」
「そうだけどさ~」
トモカが不満げな表情を浮かべて何かを考えている中、健一郎はそれぞれINしなくなったランカーの名前を読み上げていきました。
「結構知らない人が多いですね」
「他鯖込みだからそんなもんじゃない?」
「ですね」
「あと、掲示板の書き込みは消されてましたね」
「運営への問合せは?」
「返答無しです」
ダイブツの質問にユーパンドラが答えました。
「しかし、あまり突っ込んだ問合せもしずらいですよね、ドラマじゃないけど存在抹消とか」
「嫌ですねぇ、そんな事しませんよ?」
そして、颯太さん心配そうに感想を述べたとき、思いもしない声が部屋に響きました。
慌ててみんなが一斉に声のした方向を見ると、にこやかな表情でいかにもキャリアウーマンといった姿の女性が立っていました。
「まいったな、まさか本当に関係者が来るとはね」
「あら、ユーパンドラさんはわたしが来る事は予想されていたのですか?」
「まぁ期待はしていました。そうでないとわざわざこんな相手の手のひらの上で会議なんかしませんよ」
集まっているメンバーの反応でユーパンドラの言葉が真実だと感じた女性は、苦笑を浮かべます。
「どうやらわたしは誘い込まれたようですね?」
「否定はしません、来てくれる事を祈っていましたから。失礼ですが佐光さんではないですね?」
「佐光ですか?いえ、違います。私達の社員やアルバイターの中に佐光という者はいませんが?」
怪訝そうな顔をするその女性に、溜息をつく一同です。
「まぁ貴方の言葉を信じるならですがね、ところでそろそろお名前をお聞きしても?」
「あら、これは申し遅れました、株式会社アナザー異界への扉運営グループ第二課課長木下と申します。ちなみにこの姿はほぼリアルのままです」
そう告げて深々と自慢?の豊かな胸を強調してお辞儀する様子は、実に油断なら無い感じがしました。はっきり言ってこの自分の容姿を把握していて、しかもそれを有効に活用しながら自分の思い通りに話を進めるタイプです。このタイプの女性は自意識過剰な男が引っかかってボロボロにされるか、それともちょっとあれな男がいいように振り回される感じですね。
「あ、あかんわ、苦手なタイプだ」
思わずダイブツがボソリと呟きました。そして、その言葉を聞いた木下はすっと視線を上げてダイブツを見つめます。
その瞬間、ダイブツは背中に氷を放り込まれた気がして思わず身震いしました。
「ダイブツさんはどんなタイプがお好みですか?」
「え、え~~っと」
微妙な雰囲気になりそうな感じがしたユーパンドラが慌てたように声を挟みます。
「ところで、木下さんはわざわざここに来られたという事は何か用事があるのですね?」
「ええ、掲示板に書かれていた内容に興味を持ちまして、それでみなさんの会話ログを確認した所少々お話を伺ったほうが良いと判断させていただきました」
ユーパンドラの問いかけに、チラッとダイブツに視線を流した後、木下はユーパンドラへと視線を戻しました。
「ふ~ん、一応立入り禁止のエリアに入れるくらいだから運営っぽいけど、ちょっとそれだけだとあたしら信じられないんだよね~」
今まで黙って木下を観察していたトモカが唐突にそう告げます。そして、その言葉に他のメンバーも頷きました。
「っというと?わたしがハッカーとでも?」
「いや、さっき言った佐光って人もそれくらい出来そうだからね。貴方を信用するならアナザー社員じゃない、それでいて異常な能力を持った相手です」
「貴方だってあたしらのログ確認をしてるんだから、そこらは調べてるんでしょ?」
木下とユーパンドラ達はお互いに妥協はしない意思を示し睨み合いになります。そして、しばらくして木下が溜息を吐きました。
「それで、信用できないわたしにどうしろと?」
「そうですね、リアルにおいてアナザー社内で話をさせていただきたい。もちろん貴方がアナザーの人だと納得できるように社内を見学等させて頂いてからですが」
そう告げるユーパンドラに対し、木下はその提案を渋々了承をしたのでした。




